「boo」さんのページ

総レビュー数: 258レビュー(全て表示) 最終投稿: 2007年06月29日

6点 prism

 普段あんまり百合を読む機会ってないのだけれども、ツイッターのTL上で評判が良かったのでついつい買ってしまった漫画。ぱっと思いつく印象的な百合は、志村貴子「青い花」や中村明日美子の短編くらいという百合初心者未満の戯言と思って読んでやってください。

 とりあえず読んでみて思ったのは、ちょっと驚くくらい全く抵抗感がないなってことで。まあでもそれは当たり前なのかもしれない。結局自分の性とは異なるわけだから、男同士がいちゃいちゃしてるのに幻想は抱けなくても、女の子同士がいちゃいちゃしてるのに幻想は抱ける。実際、百合ってジャンルはBLと比べるとかなり男が占める割合は大きいんだろうと思うし。

 高校に入学した恵は、今度こそ絶対いい恋をするんだ!!と決意していた。彼女は小五の夏休み、海で出会った子との初恋が忘れられず、なかなか恋が出来ないでいた。そんな恵だが、入学式でその初恋相手、光と奇跡的に再会を果たす。ただし光は男の子ではなく、綺麗な女の子だった…。

 「放浪息子」や「きのう何食べた」のようにマイノリティの苦しみも作中に盛り込む方向性ではなく、どうやら「青い花」のように繊細な女の子同士の感情や関係性の変化を中心に描く作品になるようだ。女の子同士の付き合い(百合ップルと言うらしい笑)が露見しても、そんなに拒否反応も起こさずに皆さん理解してくれているみたいだし。
 
 物語自体に目立つ部分はそんなにない。光と恵がお互いを好きになって、付き合うことになり、イチャイチャしたりする…そんな取り立てて特筆することもないお話がこの一巻では瑞々しく語られていく。
 ただし、東山翔は物語の語り口がべらぼうに上手い。女の子同士の魅力的な会話に、ここぞという時の透明感のあるナレーション、恵と光の心の距離感の変化を繊細かつスピーディーに魅せる構成、細かい視線や表情で心情を語る描写力、全てがありふれたお話をきらきらに変える。

 また決して画力が高いわけではないんだけど、すごくイチャイチャが官能的。ここらはやはりエロ方面でも活躍している作家ゆえか、匠の仕事です。
 胸を描くのが上手い作家(鶴田謙二とか)やお尻を描くのが上手い作家(桂正和とか)はそれなりにいるけど、ここまでキスを描くのが上手い作家は記憶にないなぁ。植芝理一や森薫のようなフェティッシュなエロさでもなく、高浜寛の切ない大人のエロさでもなく、心をぎゅっと掴まれる官能的なエロさ。これは見る価値はある。

 これをきっかけに百合に耽溺するつもりはないけれど、十二分に満足させてもらった。全然一般の方でも大丈夫だと思う。けっこうゆっくり連載しているみたいなので、今くらいのテンポでさくさく進んでくれるのを期待してます。百合にちょっと興味がある方は特におすすめ。
 しかし結局百合って何なんだろう、とちょっと気になってる私は実は百合にはまりかけている気がしないでもない。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2012-04-25 00:55:19] [修正:2012-04-25 00:55:35] [このレビューのURL]

 今ゾンビものにちょっと興味がある中で、何となく読んでみようかと手に取ってみた。
 古泉作品は今まで読んだことがなくて、主にアックスあたりで連載している漫画家だったかなくらいに認識していたのだけれども。うーん、これは強烈だなぁ…。

 SEXをすると感染してしまうゾンビウイルスが蔓延している世の中。ニートのゾンビウイルス発症者の青年の青春とその最期までを描く作品ということで。

 まあ正直な所、相当に不愉快な漫画だった。まず粗筋を見ればすぐに分かると思うのだけれど、このゾンビウイルスというのがAIDSのことを示しているのは間違いないわけで。これは大丈夫なのか?と。これ本当にエイズに感染している人やその近親者が読んだらけっこう洒落にならないんじゃないかと思う。だってゾンビ扱いだよ?

 またもう一つきついのは、出てくるキャラクターの多くの主人公への“無関心さ”。親友の心配を装っての主人公の妹にちょっと良いところを見せたい感じとか、熱心に相談に乗ってくれている看護婦さんの表と裏の態度の違いとか、妹の兄思いのようでいて実は全くの自己陶酔だったりとか…。最終的にゾンビになってしまうくだりを含め、あまりに誰もが主人公をもはや心の中では半分死んだように扱っていて、心から彼の気持ちを慮ろうとはしない。彼が死んでも世界は全く変わらないんだぜ、という事実だからこその冷静な残酷さはちょっと吐き気がするくらい毒が強すぎた。
 その無関心さがまた淡々と描写されていくのがきつくてね。ウシジマくんなんかだと、もう少し人間への捨てきれない希望だったり哀れみだったりが垣間見えるんだけれども。この作品では当然の行為だからこそ裏切りにも背信にも何にも特別な演出やらは用意されない。表では当たり障り無く接し、裏ではひたすら淡々と無関心を貫く登場人物たち。むしろもう少し躊躇なり罪悪感なり持ってくれよ…とこちらまで巻き込まれて嫌ぁな気分になるのだった。

 ただそういう無関心さがその範囲はともかく、どの人間の心にも存在しているのは事実ではあって。ここまでそれを純粋に描いてしまえる作者の異才はすごいとは思うし、エイズも含めた不愉快な部分も了解した上で古泉智浩はこの漫画を作っているのだろう。ゾンビとニートを使って社会のある一面を描こうとしているのだろう。それは分かる、分かるけどさ…。
 痛い所をつかれたとしても、あくまで少しでも前向きになれる漫画を読みたいんだよなぁ。個人的に、これをエンタメと捉えることは出来なかった。だって人間にはやっぱり少しでも希望はもっていたいし。

 父親の存在が唯一の前向きなものなのだろうか。でもやはりそれだけでは救われないし、この嫌ぁな感じは全く払拭されないのだけれど。職人技的に不愉快な漫画でした。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2012-04-23 11:01:10] [修正:2012-04-23 11:05:15] [このレビューのURL]

 ヤマシタトモコの短編はおもしろい。少ないページ数の中でぱっと惹きつけて、クスっと笑わせて、ばっさりと終わる。短い時間でもしっかり楽しませてくれて、なおかつ後に引きずらない。私が短編漫画に求めていることが過不足なく揃っている気がする。

 そんなヤマシタトモコのピリっとした鋭さは、このミラーボール・フラッシング・マジックでも存分に発揮されていた。

 特に表題作の「ミラーボール・フラッシング・マジック」が秀逸。一つのミラーボールを巡る連作ものなのだけれども、まさにミラーボールのようにギラっと光っては回転し、新たな面に光が当てられていく。その一瞬の光がとにかく強烈で、でも一瞬後には何も残らない。そのくらいスピード感のある鮮烈な読み心地。
 またオチが素晴らしくくだらなくてねぇ。そして手法的にも巧いのに、巧い!とは言いたくない絶妙にしょぼい雰囲気が良い感じ。素敵な奇跡の話でした。

 これに限らず、コメディカルな話に関してはさすが今ノリに乗ってるヤマシタトモコという感じで。「エボニーオリーブ」なんて、女3人のぐだぐだなガールズトークがこうまでおもしろい物語に仕上がってしまうんだからお見事というしかない。
 対して、愛とか恋とか女とか、そっち系をメインにした話は正直あまり乗りきれなかったりして。どんどん一人称の語りで物語が進んでいくので、登場人物に興味もなく共感も出来なかった自分にとってはなかなかに厳しいものがあった。

 またヤマシタトモコがこの短編集で描く女性はいつもにまして、生々しいので気持ち悪いと感じる人もいるかもしれない。女教師のわき毛を妄想する話があったり、描かれる身体が微妙にたるんでいたり、乳に静脈が浮かんでいたり…。私はそんな微妙にフェティッシュな感じがけっこう気に入っているのだけれども。

 「ドントクライ、ガール」と比べると、テイストが色々なので正直好き嫌いが分かれると思う。私自身、短編によってかなり印象が違うし。
 ただ何といっても、後に引きずらないので気軽に読めて楽しめるのがありがたい。意外にそんな漫画は少ないものだよね。また新しい短編集を出してくれたるのを楽しみにしてます。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2012-04-17 01:25:37] [修正:2012-04-17 01:25:37] [このレビューのURL]

 タイトル通りラーズが復活するまでの物語なのだけれども。つまり、この作品の少し前にラーズは死んでたらしい。そこらへんの簡単な経緯はイントロダクションで説明されている。
 死んでいたラーズさんが一応復活したんだけど、血縁関係のある身体じゃないと肉体が徐々に朽ちていくと。だから娘のタリアとバットマンの息子であるダミアンの肉体を頂戴してやるぜ、バットマン側はもちろんそんなことはやらせないぜ、みたいな話。

 とりあえず思うのは、クロスオーバーだからかもしれないけど、全体的に話が全く落ち着かないというかピースがぴたっとはまる感覚がないってことで。バットマン、ロビン、ナイトウィング、ダミアン、センセイ、と色々な人物が絡んで絡んで絡んで、結局ここに着地かい!みたいな。
 薄いドラマが並列して進んでいくだけで、話が絡み合う醍醐味もなく、捻った展開があるわけでもなく、ただただ何となく落ち着きそうなところに着地したなという印象だった。何というかね、複数の物語が折り重なって最後に驚きの結末につながる…とかそういうのを期待してたのよ私は。そもそもセンセイは必要だったのか?

 話はすごくテンポよく進むんだけどね。スピード感があるというより、あんまり人間ドラマが感じられないまま話がぶっ飛んでいくなと。群像劇というにはあまりに一人一人の物語に深みが感じられなかった。
 かなり“父と子”の物語というのはプッシュされていたので、そこに注目して読んでいたのだけれども。まずバットマンからして大して父親としての姿を見せていないわけで。台詞で語るでもなく、行間で心情を表現しているわけでもなく、そもそもバットマンはダミアンの父親としての意識があるのだろうかと問い詰めたく思った。色んな父と子の関係性が出てくるんだけど、全体的にバットマン同様物語が薄い。

 そんな中、ティムとディックだけは良かったよなぁ。ラザラス・ピットで死んだ両親を蘇らせたいと葛藤する心情はよく理解できるし、ディックのバッツファミリーの長兄的な立ち居地もうまくハマっていたと思う。というかブルースよりディックの方が良い父親じゃねぇか、などと二人のやり取りにはぐっと来た。
 またクロスオーバーの醍醐味であろう、色んな登場人物が派手に活躍するのは素直におもしろかった。ロビンが活躍する作品はあまり邦訳されてないので、なかなかに新鮮味があって楽しい。

 けっこうくさしてしまったのだけど、完成度や物語のおもしろさではなく、たくさんのキャラクターの活躍やアクションを求めるならば決して悪い作品ではないと思う。ただ私が期待してたのはそうじゃなかったんだよなぁ。

追記
・エピローグで簡単に説明されている、バットマンがラーズをアーカムに送り込んだくだりは色々と酷いw
・ジェイソンは復活後どんな感じの扱いなのか気になる

ナイスレビュー: 0

[投稿:2012-04-15 21:16:24] [修正:2012-04-15 22:06:19] [このレビューのURL]

 ぱっと見て思うのは、これ本当に参加している漫画家が豪華だよなぁってことで。しかも単純に人気があるとかではなくて、面子を見れば分かると思うのだけれど、何と言うか少し通な漫画好きが好みそうな方々。これは目を惹かれる。
 
 この「長嶋有漫画化計画」はその名の通り、長嶋有の作品を様々な漫画家たちが漫画化しようという企画。萩尾望都というレジェンドを始めとして、人気作家から新人まで色んな漫画家が参加している。
 こういう企画ものに関しては意図はおもしろいと感じても、単体でみるとあんまりなぁ…という経験が多かったので期待しすぎないように、と思って読んでいたのだけれども。そんな舐めた考えは完璧に覆されてしまった。これは素晴らしいんじゃないか?

 小説であるものを漫画にする時、そこには何か意味がなければいけないはずで。長嶋有はこの作品集に編集として参加したそうだけれど、この企画の意義にはすごくこだわっていたのだと思う。だからだろうか、全ての作品から小説をただ単純に漫画に置き換えるのではなく、あくまで漫画としてしか表現できないものを作り出そうという意図が感じられる。長嶋有と漫画家がガチンコでぶつかり合って、共に新しい作品を作り出そうという気持ちが感じられる。
 多分この作品集にすごく読み応えがあるのは、そういう理由からだ。長嶋有の小説のおもしろさはそのままに、漫画としてのおもしろさも、担当している漫画家の個性も、全てが上手くブレンドされている。うん、漫画にしてくれて良かった。そして読者にそう思わせることが出来れば、この企画は成功なのだ。

 特にお気に入りの作品について少し。

 「猛スピードで母は」
 島田虎之介担当。長嶋有のデビュー作で、こちらは私も読んだことがあった。島田虎之介は物語る人、とよく言われる。物語るというのは、読者に何かを伝えられるということだ。羽海野チカのようにポエムを使う人もいるかもしれない。対してシマトラの作品では決して言葉数は多くない。でも読み込んでいくと、その空白は、誰にも増して雄弁に語る。時間はかかっても、それだけの価値のある漫画体験をさせてくれる。
 この作品において、小学生の慎から見る母はどれも微妙に異なる。母親であり、恋する女であり、格好良い女性でもある。シマトラは言葉に出さない。でもそんな母親に少しだけ戸惑う慎の気持ちはひしひしと伝わってくる、そして映画と見紛う猛スピードのラストシーンには、色んなことに揺れていても“強く”生きている母親の姿があり、そんな母親に憧れつつも自立を決意する慎がいる。これは確かに森嶋有の小説であり、シマトラの漫画でもあった。

 「噛みながら」
 よしもとよしとも担当。この人を参加させたのは森嶋有一番のファインプレイだった。何といっても漫画を発表したのは約8年ぶりらしい。ついでに「ねたあとに」で挿絵を担当してた高野文子もお願いしたかったが、それは高望みだね。青い車以来、久々にこの方の漫画を読んだのだけれど、やっぱり完成度とキレの良さに痺れます。
 どうしても変えられない自分を「まぁいいや。それがあたしだ。」と認められるようになった頼子。変えられることと変えられないこと、そしてその二つを見極める知恵を知りたい、というのはスローターハウス5や恥辱を読んでからずっと私の頭の中に巣くってる思いで。またそれが自分を知るってことなのか?なんて考えてもいて。だから頼子をちょっとだけ羨ましく感じつつも、心から彼女に喝采してしまったし、そんな自分の青さと作品がかなり共鳴しちゃったのか、少し気恥ずかしくなりつつも、かなりぐっと来た。よしともさん、もっと漫画描いて欲しいです…。

 ここで詳しくは書かないけれど、他に印象的なものとして、萩尾望都やカラスヤサトシ、小玉ユキ、衿沢世衣子あたりの作品も好きだった。また新人枠のウラモトユウコにはちょっとびっくり。描線が素敵ですごく好みだし、小説の再構成も上手い。自身の単行本が出たら読んでみたい気持ちになった。
 ただ読んだ人に好きな漫画を聞いた時、どれが返ってきてもおかしくないくらい全般的にレベルの高い作品揃いだったと思う。厚いし、値段は普通の漫画に比べて高めだけれど、読み応えのある作品を求めてる人にはぜひおすすめ。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2012-04-15 21:15:46] [修正:2012-04-15 21:27:34] [このレビューのURL]

 つくづく早すぎた企画だなぁと思う…。これが刊行されたのが2005年というから、後のユーロマンガもそうだけれども、飛鳥新社の日本へのバンドデシネ普及の貢献は大きい。ありがたいです。

 JAPONは日本の作家8名、フランスの作家9名が手がけるアンソロジーコミック。日本からは松本大洋や谷口ジロー、高浜寛と海外でも知られるグローバルな個性を持つ漫画家が中心に選ばれている。フランスの作家もギベールやスクイテン&ペータース、クレシー、スファールと現在日本でも名が知れてきた作家がそろっている。
 ただ作品は何でもありというわけではなく、「日本」をテーマとしているのがポイント。日本の作家は自分が暮らしてきた日本という国をそれぞれのやり方で、フランスの作家はそれぞれ別の地方に一週間滞在してもらい、その地を舞台に漫画を描く。

 正直な話、個別の作品としてめちゃくちゃ優れている作品というのは多くない。特にフランス作家は絵に力を抜きすぎじゃないか?笑と感じるし、漫画家は古き良き日本的なのを前に押し出しすぎてあまり新鮮さはない。五十嵐大介とかはそれが当たり前かもしれないけどさ、もうちょいこう来たか!という日本も見たかった。
 ただそうそうたる面々ではあるので、彼らの新たな一面を見れるという点ではすごくおもしろい。BD作家はかなり日本を風刺した作品が多くて興味深いです。クレシーの“神々”とか笑うしかない。

 個人的なJAPONの一番の収穫は、高浜寛という作家を知れたこと。当ブログでもちょいちょい紹介してますが、JAPONを読んで速攻買いあさったくらいにこんな人がいたのか!と衝撃を受けた作家さん。

 最近だとスクイテンがそうですが、日本でも邦訳が進んでいるBD作家の作品も多いので話の種に読んでおくのも悪くないかと。今の所、絶版とはいえ安価ですが、これから先プレ値がつくとも限らないので早めに買っておくことをおすすめします。
 これから先に邦訳がされる作家も多分いるだろうしね。BDに興味がある人には間違いないはず。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2012-04-15 21:23:19] [修正:2012-04-15 21:23:19] [このレビューのURL]

 バットマンの息子・ダミアンが登場するこのバットマン・アンド・サン。本編に加え、ダミアンの元ネタである「サン・オブ・デーモン」も収録されています。こちらの出来はあまりよろしいのは言えないのだけれども、興味深くはあるし、小プロのサービス精神はありがたい。

 アンディ・キュバートの精緻で見やすいアートとは対照的に、モリソンのライティングはすごく居心地が悪い。シンプルな物語だったWE3とは異なり、モリソンが“癖の強い作家”であることがよく分かった。

 一つには、明確なヴィランが登場しないというのがあって。事件が起こり、それを解決するためにバットマンが調査、最終的に犯人を見つけてやっつけるというバットマンコミックの基本構造、これに全く当てはまらない。
 バットマン・アンド・サンで描かれるのは、母親に殺人術を仕込まれた我がままなクソガキ・ダミアンと、ダミアンの登場によって揺れるバットマンやロビン、そしてアルフレッドの姿だ。父親としてのブルース、ダミアンという実子の登場に不安を覚える養子のティム。親と子を軸にバットマンファミリーの人間関係の軋轢を描く…これは今までになかったおもしろみである気はする。まだこの作品だけでは判断できないのだけれども。

 ダミアンが一端退場した後は、バットマンの衣装を着たモンスター警官の謎を巡る物語に話が移る。中途半端な所で話が切れるので、この作品だけでは(以下略)。そしてまた3人の精霊(警官)が出てきたのは、クリスマスキャロルのあれかな? やっぱりアメリカではメジャーな題材なのかもしれない。
 さらに最終章はダミアンがバットマンになっている未来の物語。この作品(以下略)。

 どんなシリーズものでもTPB単位では一端ある程度話を区切ってくれるのが一般的だと思うのだけれども。バットマン・アンド・サンは全体の一部分にすぎない趣き。消化不良感が尋常じゃない。
 この作品だけでは全く評価のしようがないよなぁ。今までに見たことのないバットマンコミックのスタイルであることは確かなので、この先どんどん盛り上がっていくことは期待してます。ゆえに、今の所なかなかおすすめしにくい気もしないでもない。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2012-04-13 00:52:29] [修正:2012-04-13 00:52:29] [このレビューのURL]

 高橋葉介といえば、怪奇幻想系の作家として有名な御方。なかなか触れる機会がなかったのだけれど、夜姫さまの新装版刊行を機に手に取ってみた。

 内容は、10人の暗黒お姫様による幻想譚。まるで絵巻物のような妖しく奇妙な話が綴られていく。

 本当に高橋葉介の絵と物語は素晴らしい。夜姫さまにおいて描かれるのは、粋を尽くした妖美・妖艶だ。文字通り、妖(あやかし)の美しさであり艶めかしさだ。やばいと分かっていても逃れられない魔の魅力だ。気付いたら読んでいる私まで深淵に吸い込まれているように、目が離せなかった。
 いやぁ、すごいよな。だって生首は確かに盗みたくなるほど美しいし、内臓は本当に美味しそうだもん。それを為さしめているのは断じて猟奇趣味などではなくて、高橋葉介の絵の魔力なのだ。

 特に個人的に惹かれたのは「猫姫さま」「闇姫さま」。「闇姫さま」なんて親にも友人にも虐げられている女の子の話なんだけどね。エログロで、ロリで、残酷で、でもやっぱり何とも素敵で美しい。これを素敵と感じちゃう辺りが物語を読む人間の残虐な業だな、と思いつつもおもしろいのだからしょうがない。
 また「夜姫さま」は小女性を描いた作品として、高野文子の「田辺のつる」を引き合いに出したくなるくらい素晴らしかった。やっぱり老いても永遠に女の子なんだなぁ。高橋葉介の筆致だと最後がほぼホラーになっちゃっているのだけれど、引き出しの広さがよく分かった。

 漫画では怪奇幻想系の気に入っている描き手があまりいなかったので、今さらながら出会えて本当に良かったと思う。次に手を出すとしたらやはり夢幻紳士だろうか。夢野久作や乱歩が好きな人などは特におすすめ。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2012-04-10 01:44:27] [修正:2012-04-10 01:51:12] [このレビューのURL]

 変な作品だし変な作家だよなぁ、とつくづく思う。水木しげるやいましろたかしを思い起こさせる絵柄に星真一や藤子・F・不二雄を髣髴とさせる読み心地。そのような作風は生まれてくる時代を間違ったような気もするけれど、その一方で少し新しい感じもして、しかし島田虎之介のようにレトロモダンとまでは言い切れない。

 この作品は、そんな異才・笠辺哲のデビュー作である短編集。本当に変で、そして本当におもしろい。短編好きの私としても、たまらない作品だった。
 
 事故って船ごとアパートに突っ込んできた宇宙人とそこに居合わせた子ども、未来予知装置を開発した博士と実験台になった記者、タイムトンネルになっているロッカーを使って未来過去貿易する男たち、というようなSFチックなお話を中心に、少しずれた現代のお話まで多彩な物語が収録されている。
 紹介してみようと書き出して困ったのは、簡潔なストーリーを見ても全くこの作品のおもしろさが伝わらないってことで。だから買って読め!…ではあんまりなのでもう少し頑張ってみる。

 「まっ、色々と教訓がありそうだけど、よくわかんない話だね」

 この短編集に対する印象を上手く表している作中の台詞だ。ほとんど漫画の中には、その作家の主張なり価値観なりが透けて見えてくる。しかし笠辺哲の作品には全くそんなものは感じられない。
 要はこの人、とことんおもしろい漫画を作ろうとしているわけで。少しだけグロくて、少しだけコミカルで、少しだけSFで、そしてひたすらにブラックで先の読めない漫画。そんな漫画は最高におもしろいでしょ? ある意味で笠辺哲は広い漫画界でも最上級のエンターテイナーだ。だってこんなに純粋におもしろい漫画を作ろうとしている人はいないもん。

 どの短編も悪趣味で、ひたすらにくだらなくて。でも笠辺哲の飄々とした雰囲気にくるまれると、それこそがおもしろいし中毒になっちゃうんだよなぁ。
 というか、エログロとか悪趣味とかくだらなさとか、そういうものがやっぱりエンタメの一つの本質なんだろうと思う。それをここまで実感させてくれる漫画家はなかなかいないし、だからこそ笠辺哲は本物なのだ。

 短編好きにはもちろん、漫画をとにかく楽しみたい人はぜひ。かなり広く受け入れられる素地はあると思うのだけれど、そんなに売れてなさそうなのはやっぱり変な漫画家ゆえか。手に取ってみれば後悔はしないはず。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2012-04-04 23:09:21] [修正:2012-04-04 23:11:03] [このレビューのURL]

 京都のとある路地にある、若い芸術家たちが集う長屋を舞台にしたオムニバス形式の恋愛もの。

 good!アフタヌーンで恋愛ものをやるってのがまず珍しいなと思うわけで。アフタ系列は基本的に読者は男性を想定しているだろうし、男向けのラブストーリーを描く作家がそもそも少ないので当然ではあるのだけれども。何故少ないのかというと、女性に比べると男は恋愛関係のどろどろが苦手、というのが恐らくあって。だってさ、多分そのどろどろこそがおもしろみなのに、それがひたする面倒くさいだもん。
 決して恋愛ものが苦手なのではなくて、恋愛漫画にありがちなどろどろが苦手なんだよなぁ。そんな私だから、高浜寛の凪渡りやくらもちふさこの天然コケッコー、など恋愛ものとしては多くの少女漫画とは一線を画したものを好んできた。映画や小説だとそんなことはないし、漫画にももっとアダルトな恋愛ものが多くても良いよなぁなんて思っていたりもして。

 路地恋花はgood!アフタヌーンで連載していることからも分かるように、私のようにどろどろな恋愛ものが苦手な方でも問題なく読める。というのも、基本的にこの漫画では恋する側と恋される側の2人しか登場しない。多分恋愛もののどろどろな煩雑さというのは、恋愛に付随してくる人間関係の面倒くささだ。そういう面倒くささがないだけで、こんなにさっくりと読みやすくなるのか!というのは中々新鮮な驚きだった。

 この漫画が読みやすい、というのはそれだけではなくて。何というか、恋愛をした時に直面する自らの内面のどろどろとかね、そういう読み手が引きずられてダウナーな気分になりかねない感情は全く描かれない。みんな基本的に幸せに生きてるし、それなりに成功してもいる。何気にここまで悪い意味でなく、一貫してライトに恋愛を描くという発想はあんまりなかったと思う。
 そういうどろどろに比重を置かない代わりに、長屋暮らしの芸術家達の技術や生活は丁寧に描かれるし、所々ユーモアを挟みつつも一ひねりした物語が綴られていく。京都のふんわりとした雰囲気は魅力的だし、絵もそつがなくて読みやすい。

 めちゃくちゃ良い!と絶賛するつもりはないのだけれど、それは別に作者自身も望んでないんじゃないかな。心を強く揺さぶることは決してないけれど、マイナスの感情を抱かせることも決してなくて、ひたすらに軽くて軽くて少しだけ温かい読み心地。そういう漫画を麻生みことは描きたいのだろうし、その試みは確実に成功している。そしてそんな漫画は実は決して多くはないのだ。
 
 良い意味で時間をつぶしたいと思った時や疲れている時におすすめしたい漫画。プラスにもマイナスにも心を揺さぶられたくない時ってけっこうあるもんだし、需要は少なくないと思う。ただし、そのライトさと引き換えに一度読めば満足しちゃう感じはあるのだけれど…そういう漫画です。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2012-04-01 01:01:31] [修正:2012-04-01 01:01:31] [このレビューのURL]