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 今ゾンビものにちょっと興味がある中で、何となく読んでみようかと手に取ってみた。
 古泉作品は今まで読んだことがなくて、主にアックスあたりで連載している漫画家だったかなくらいに認識していたのだけれども。うーん、これは強烈だなぁ…。

 SEXをすると感染してしまうゾンビウイルスが蔓延している世の中。ニートのゾンビウイルス発症者の青年の青春とその最期までを描く作品ということで。

 まあ正直な所、相当に不愉快な漫画だった。まず粗筋を見ればすぐに分かると思うのだけれど、このゾンビウイルスというのがAIDSのことを示しているのは間違いないわけで。これは大丈夫なのか?と。これ本当にエイズに感染している人やその近親者が読んだらけっこう洒落にならないんじゃないかと思う。だってゾンビ扱いだよ?

 またもう一つきついのは、出てくるキャラクターの多くの主人公への“無関心さ”。親友の心配を装っての主人公の妹にちょっと良いところを見せたい感じとか、熱心に相談に乗ってくれている看護婦さんの表と裏の態度の違いとか、妹の兄思いのようでいて実は全くの自己陶酔だったりとか…。最終的にゾンビになってしまうくだりを含め、あまりに誰もが主人公をもはや心の中では半分死んだように扱っていて、心から彼の気持ちを慮ろうとはしない。彼が死んでも世界は全く変わらないんだぜ、という事実だからこその冷静な残酷さはちょっと吐き気がするくらい毒が強すぎた。
 その無関心さがまた淡々と描写されていくのがきつくてね。ウシジマくんなんかだと、もう少し人間への捨てきれない希望だったり哀れみだったりが垣間見えるんだけれども。この作品では当然の行為だからこそ裏切りにも背信にも何にも特別な演出やらは用意されない。表では当たり障り無く接し、裏ではひたすら淡々と無関心を貫く登場人物たち。むしろもう少し躊躇なり罪悪感なり持ってくれよ…とこちらまで巻き込まれて嫌ぁな気分になるのだった。

 ただそういう無関心さがその範囲はともかく、どの人間の心にも存在しているのは事実ではあって。ここまでそれを純粋に描いてしまえる作者の異才はすごいとは思うし、エイズも含めた不愉快な部分も了解した上で古泉智浩はこの漫画を作っているのだろう。ゾンビとニートを使って社会のある一面を描こうとしているのだろう。それは分かる、分かるけどさ…。
 痛い所をつかれたとしても、あくまで少しでも前向きになれる漫画を読みたいんだよなぁ。個人的に、これをエンタメと捉えることは出来なかった。だって人間にはやっぱり少しでも希望はもっていたいし。

 父親の存在が唯一の前向きなものなのだろうか。でもやはりそれだけでは救われないし、この嫌ぁな感じは全く払拭されないのだけれど。職人技的に不愉快な漫画でした。

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[投稿:2012-04-23 11:01:10] [修正:2012-04-23 11:05:15]