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総レビュー数: 258レビュー(全て表示) 最終投稿: 2007年06月29日

 4巻で完結してしまいましたねぇ。前にレビューした時にはけっこう批判的なことを適当に書き散らしたような記憶があるので、完結によせてちょっと整理した上でもう一回書き直しておきたいなと。

 「星を継ぐもの」というタイトルさえついてはいるものの、実際に星野之宣がやっているのはJ・P・ホーガンの星を継ぐものを含む3部作を再構成したコミカライズ。ちょっと間が空いて発表された3部作の続編である「内なる宇宙」は含まれていないと思う(これは読んでないので自信はない)。

 古いSFというのもあってかこのシリーズには矛盾点や少々科学的考証がおかしい部分が多々あるのだけど、そういう所を星野之宣は上手く再構成してさらに物語の流れをスムーズに追いやすくしてくれている。ここはさすがベテランの腕の見せ所ということで、ちょっと驚くくらいに読みやすい。
 ただスムーズに流れが追えると言うのは原作の楽しさと矛盾する点でもあるわけで。特に「星を継ぐもの」「ガニメデの優しい巨人」で最高にわくわくさせてもらった私としてはちょっと残念な気がするんだよなあ…。要はこの2作におけるチャーリーの謎、そして人類の起源を解き明かしていくミステリーのおもしろさというのは実際に自分がディスカッションに参加しているようなわくわく感なのだ。こうでもないああでもないと言いながら議論しあうからこそ、議論が紛糾した場面でここぞとばかりにハントが発想を飛躍させる場面は最高に痛快だし、ダンチェッカーがシニカルに論理を進めていく姿は奥深い。またガニメアンのデザインは秀逸なのだけれども、ガニメアンとの交流の場面が大部分端折られているために、“善き人々”である彼らの姿が少々薄っぺらく感じてしまうなんてこともあった。物語がスムーズに追えるというのは一方で、原作が持つセンス・オブ・ワンダーを損ねてしまっている。

 かといって主に4巻部分における「巨人たちの星」パートだってけっこう扱いはおざなりだよなあ…。この巻は論理を深めていく物語であった前二作と打って変わってハントのロマンスだったりスパイアクションまであったりして、また違ったおもしろさのある作品なのだけれども。このコミカライズにおいて、星野之宣はここらのパートはどうでも良いよとばかりにすっ飛ばしていくので、その分と物語としては駆け足かつ薄味さが際立っていたように思う。

 また身も蓋もないことを言ってしまうと、あんまりホーガンの作品を映像化する意義を感じないんだよね。ホーガンSFのセンス・オブ・ワンダーはあくまで物語に感じるもので、読み取れる世界観自体はかなり無機質なものだから。そういう意味では星野之宣とホーガンは似ているとは思うのだけれども、似ているからこそ星を継ぐものの世界は私の想像を超えるものではなかった。
 例えばヴァンスやオールディスみたいな、色彩豊かに異世界を描き出すSFこそを漫画で読んでみたいな。貴志祐介の新世界よりの漫画化が期待はずれだっただけに(アニメは1話だけ見たけど中々良さそう)、市川春子あたりがこの手のSFを漫画化してくれないかななんて妄想しているのだけれどどうだろう。

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[投稿:2011-11-19 23:44:07] [修正:2012-10-14 17:11:19] [このレビューのURL]

 結婚式・葬式等の人生における節目を描く6編の短編集。

 書店員さんのツイッターで話題沸騰ということなのだけれども、それは何となく分かる気もする。そのくらい新人とは思えないほど漫画の描き方ががこなれている。見やすくも精緻な絵、洗練された構図とコマ割り、台詞なしに心情を浮かび上がらせる表情と間…物語自体は落ち着いていても漫画を読みなれている人ほどおっ!と思っちゃうようなセンスむんむんな雰囲気。もはや「新人」という枕詞が鼻につくくらい上手い。

 人生の節目を描いた漫画というと、えすとえむの「このたびは」を思い出す。ただ「このたびは」がそうであったように、この作品が私達の人生の一瞬を切り取っているかというと、それにしてはちょっとドラマチックにすぎるよな笑。こんなシチュエーションにしろ超常現象にしろ中々普通の人生では起こりえそうもないもの。そういう意味で、別にこの作品集の舞台が人生の節目である必要性は薄いように思ったりもする。
 じゃあこの作品の肝は何かというと、全編通してとにかく独特の視点がおもしろかった。どの短編にしろ、読み始めの内は登場人物の関係性や思いがぼかされたまま話が進むので、こちらとしてはわりともやもやした気分なのだけれども…。そんなもやもやがやがて鮮烈に解きほぐされる瞬間が訪れる。物語の景色がすっと開けて、登場人物たちの思いが一気にこちらにのしかかって来る。そんな一瞬に込められた熱量は半端じゃない。そして余韻までじっくり味あわせてくれるあたりこの作者は本当に隙がない。

 なんて書いたらすごく絶賛みたいになったけど、個人的にめちゃくちゃハマりきれたかというとそうでもなくて…。というか少なくとも巷で言われているほど涙腺は刺激されなかった。自分が何かしらの作品で泣く時は、大まかに分けると登場人物に共感して泣くか、作品から自分の思い出を喚起されて泣くかのどちらかだと思う。この作品において、登場人物に共感するには状況があまりに特殊すぎたし、自分の思い出からは遠すぎた。スーパーナチュラルな現象は置いておいても、自分には初恋をウン十年も引っ張り続ける気持ちは今ひとつぴんと来ないなぁと。

 あんまりエッジの効いた作風ではないのだけれど、この一瞬に込められた思いの熱量というのは読んでみる価値はあるように思う。熱量ぐわぁって感じではなくて、限られた熱をテクニックで最大限効率的にレーザービームみたいに圧縮してる印象。長編になったらどんな漫画を描くんだろうというのも少し楽しみ。

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[投稿:2012-09-23 01:09:42] [修正:2012-09-23 01:09:42] [このレビューのURL]

 高畠エナガがどのような経歴の方なのかがあんまりはっきりしないのだけれど、どうやらWEBや同人誌を中心に活躍をしてきた人のようで。九井諒子がそうであったように、そういう所からこれからは新しい才能がたくさん出てくるのかもしれない。

 青年とアンドロイド、亜人と妖精、人に変身する猫又たちと下宿人、天使と悪魔…違うものたちが心を通わせる異種交流譚4編が収録された短編集。

 異種交流譚、さらには人間とアンドロイドの恋愛だと聞いては、SF好きの心がくすぐられないわけはないぜ!…なんて思ってましたが、正直SFとしては評価しがたい作品だったりする。友情にしろ恋愛にしろ、この手の異種交流譚では“違い”を乗り越える姿こそに魅せられる。だからこそ姿だけでなく、何がどう違い、それをどう乗り越えるのかを作中で見せて欲しかったのだ。
 例えば、表題作「Latin」における青年とアンドロイドのラテン。ラテンはそもそも人間と変わらない感情を持っていて、温かみだってあるし、涙だって自然に流す。見た目以外は人と遜色ない存在。その時点で、果たしてラテンがアンドロイドである意味はあるのだろうか、と思ってしまうわけで。そういう意味では、似た物語であり、さらには人と機械の違いを深くえぐった岡崎二郎の「マイ・フェア・アンドロイド」とは全く趣が違った。
 
 

 要は表題作「Latin」に限らず、違うもの同士の理解や交流がテーマになっているにも関わらず、多くの短編では両者が違うものである意義が薄いわけで。別に人とアンドロイドじゃなくとも、天使と悪魔じゃなくとも話は成り立っちゃう。だからこそ、どうしてもSF的な読み心地や感動は物足りない。また物語としても傑出しているとは言いがたい。

 結局何が良いかって、キャラクターの表情が抜群に良い。とにかくよく笑ってよく泣く。とにかく心の内をさらけ出す。物語が凡庸でも、その直情さには心が打たれてしまうのだ。
 デビュー作ということもあって、絵も話も荒削り。でも、その荒削りな勢いがこの短編集にはよく似合っている。一方で、さすがに天使と悪魔のお話「reversi」までいくと、心情を全て一人で語りまくる芸のなさに辟易したのも事実なのだけれども。ここらへんの語り口の稚拙さからも分かるように、最近のニューウェーブ系の漫画家さんとは良くも悪くも一線を画す方なのだと思う。

 ちょっと感じたのは、高畠エナガのSFやファンタジーの源流は、スレイヤーズに代表されるような少し前のライトノベルから来てるんじゃないかってことで。この古臭いエルフやら魔法やらのばたばたな雰囲気は、昔姉の本棚で触れたものにそっくりだ。
 ただ決して懐古趣味が新しく感じられるわけではなく、高畠エナガは絵柄も含め上手く現代風にリファインしようとしているのは伝わってくる。だからこそ「猫又荘の食卓」のように違うことが切なくも温かい物語だって作り出すことが出来るのだ。

 絵柄と表情にはとにかく力があってほとほと感嘆しました。これにおもしろい物語を作る力と語り口が身につけばどんな傑作を生み出すことができるのだろう。次の作品を楽しみに待っています。

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[投稿:2012-05-08 20:33:22] [修正:2012-05-08 21:46:15] [このレビューのURL]

 つくづく早すぎた企画だなぁと思う…。これが刊行されたのが2005年というから、後のユーロマンガもそうだけれども、飛鳥新社の日本へのバンドデシネ普及の貢献は大きい。ありがたいです。

 JAPONは日本の作家8名、フランスの作家9名が手がけるアンソロジーコミック。日本からは松本大洋や谷口ジロー、高浜寛と海外でも知られるグローバルな個性を持つ漫画家が中心に選ばれている。フランスの作家もギベールやスクイテン&ペータース、クレシー、スファールと現在日本でも名が知れてきた作家がそろっている。
 ただ作品は何でもありというわけではなく、「日本」をテーマとしているのがポイント。日本の作家は自分が暮らしてきた日本という国をそれぞれのやり方で、フランスの作家はそれぞれ別の地方に一週間滞在してもらい、その地を舞台に漫画を描く。

 正直な話、個別の作品としてめちゃくちゃ優れている作品というのは多くない。特にフランス作家は絵に力を抜きすぎじゃないか?笑と感じるし、漫画家は古き良き日本的なのを前に押し出しすぎてあまり新鮮さはない。五十嵐大介とかはそれが当たり前かもしれないけどさ、もうちょいこう来たか!という日本も見たかった。
 ただそうそうたる面々ではあるので、彼らの新たな一面を見れるという点ではすごくおもしろい。BD作家はかなり日本を風刺した作品が多くて興味深いです。クレシーの“神々”とか笑うしかない。

 個人的なJAPONの一番の収穫は、高浜寛という作家を知れたこと。当ブログでもちょいちょい紹介してますが、JAPONを読んで速攻買いあさったくらいにこんな人がいたのか!と衝撃を受けた作家さん。

 最近だとスクイテンがそうですが、日本でも邦訳が進んでいるBD作家の作品も多いので話の種に読んでおくのも悪くないかと。今の所、絶版とはいえ安価ですが、これから先プレ値がつくとも限らないので早めに買っておくことをおすすめします。
 これから先に邦訳がされる作家も多分いるだろうしね。BDに興味がある人には間違いないはず。

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[投稿:2012-04-15 21:23:19] [修正:2012-04-15 21:23:19] [このレビューのURL]

 バットマンの息子・ダミアンが登場するこのバットマン・アンド・サン。本編に加え、ダミアンの元ネタである「サン・オブ・デーモン」も収録されています。こちらの出来はあまりよろしいのは言えないのだけれども、興味深くはあるし、小プロのサービス精神はありがたい。

 アンディ・キュバートの精緻で見やすいアートとは対照的に、モリソンのライティングはすごく居心地が悪い。シンプルな物語だったWE3とは異なり、モリソンが“癖の強い作家”であることがよく分かった。

 一つには、明確なヴィランが登場しないというのがあって。事件が起こり、それを解決するためにバットマンが調査、最終的に犯人を見つけてやっつけるというバットマンコミックの基本構造、これに全く当てはまらない。
 バットマン・アンド・サンで描かれるのは、母親に殺人術を仕込まれた我がままなクソガキ・ダミアンと、ダミアンの登場によって揺れるバットマンやロビン、そしてアルフレッドの姿だ。父親としてのブルース、ダミアンという実子の登場に不安を覚える養子のティム。親と子を軸にバットマンファミリーの人間関係の軋轢を描く…これは今までになかったおもしろみである気はする。まだこの作品だけでは判断できないのだけれども。

 ダミアンが一端退場した後は、バットマンの衣装を着たモンスター警官の謎を巡る物語に話が移る。中途半端な所で話が切れるので、この作品だけでは(以下略)。そしてまた3人の精霊(警官)が出てきたのは、クリスマスキャロルのあれかな? やっぱりアメリカではメジャーな題材なのかもしれない。
 さらに最終章はダミアンがバットマンになっている未来の物語。この作品(以下略)。

 どんなシリーズものでもTPB単位では一端ある程度話を区切ってくれるのが一般的だと思うのだけれども。バットマン・アンド・サンは全体の一部分にすぎない趣き。消化不良感が尋常じゃない。
 この作品だけでは全く評価のしようがないよなぁ。今までに見たことのないバットマンコミックのスタイルであることは確かなので、この先どんどん盛り上がっていくことは期待してます。ゆえに、今の所なかなかおすすめしにくい気もしないでもない。

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[投稿:2012-04-13 00:52:29] [修正:2012-04-13 00:52:29] [このレビューのURL]

 京都のとある路地にある、若い芸術家たちが集う長屋を舞台にしたオムニバス形式の恋愛もの。

 good!アフタヌーンで恋愛ものをやるってのがまず珍しいなと思うわけで。アフタ系列は基本的に読者は男性を想定しているだろうし、男向けのラブストーリーを描く作家がそもそも少ないので当然ではあるのだけれども。何故少ないのかというと、女性に比べると男は恋愛関係のどろどろが苦手、というのが恐らくあって。だってさ、多分そのどろどろこそがおもしろみなのに、それがひたする面倒くさいだもん。
 決して恋愛ものが苦手なのではなくて、恋愛漫画にありがちなどろどろが苦手なんだよなぁ。そんな私だから、高浜寛の凪渡りやくらもちふさこの天然コケッコー、など恋愛ものとしては多くの少女漫画とは一線を画したものを好んできた。映画や小説だとそんなことはないし、漫画にももっとアダルトな恋愛ものが多くても良いよなぁなんて思っていたりもして。

 路地恋花はgood!アフタヌーンで連載していることからも分かるように、私のようにどろどろな恋愛ものが苦手な方でも問題なく読める。というのも、基本的にこの漫画では恋する側と恋される側の2人しか登場しない。多分恋愛もののどろどろな煩雑さというのは、恋愛に付随してくる人間関係の面倒くささだ。そういう面倒くささがないだけで、こんなにさっくりと読みやすくなるのか!というのは中々新鮮な驚きだった。

 この漫画が読みやすい、というのはそれだけではなくて。何というか、恋愛をした時に直面する自らの内面のどろどろとかね、そういう読み手が引きずられてダウナーな気分になりかねない感情は全く描かれない。みんな基本的に幸せに生きてるし、それなりに成功してもいる。何気にここまで悪い意味でなく、一貫してライトに恋愛を描くという発想はあんまりなかったと思う。
 そういうどろどろに比重を置かない代わりに、長屋暮らしの芸術家達の技術や生活は丁寧に描かれるし、所々ユーモアを挟みつつも一ひねりした物語が綴られていく。京都のふんわりとした雰囲気は魅力的だし、絵もそつがなくて読みやすい。

 めちゃくちゃ良い!と絶賛するつもりはないのだけれど、それは別に作者自身も望んでないんじゃないかな。心を強く揺さぶることは決してないけれど、マイナスの感情を抱かせることも決してなくて、ひたすらに軽くて軽くて少しだけ温かい読み心地。そういう漫画を麻生みことは描きたいのだろうし、その試みは確実に成功している。そしてそんな漫画は実は決して多くはないのだ。
 
 良い意味で時間をつぶしたいと思った時や疲れている時におすすめしたい漫画。プラスにもマイナスにも心を揺さぶられたくない時ってけっこうあるもんだし、需要は少なくないと思う。ただし、そのライトさと引き換えに一度読めば満足しちゃう感じはあるのだけれど…そういう漫画です。

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[投稿:2012-04-01 01:01:31] [修正:2012-04-01 01:01:31] [このレビューのURL]

 “庭”をテーマとした5短編から成る作品集。まあ庭があまり関係なかったり、庭じゃなくても成り立ちそうな話もあったりする。

 「鮮烈な才能」とか「この才能に出会えたことが幸せ」とかITANの尋常じゃない押しっぷりとハードルの上げ方にはちょっとびっくりするわけですが。結果去年かなり話題になった作品の一つとなったので、そう誇大な広告でもなかったのかもしれないけどさ。
 しかしこの漫画って決して“新しく”はないぞ、って思った。むしろ結構な既視感があったりもする。要は花の24年組や高野文子あたりを今風に焼きなおしたんだなってことで、それらを読んできた方ならこの感じは分かると思う。しかも形は違えど似たようなことを市川春子や西村ツチカが先にやっちゃってる。

 もちろん構図や見せ方は素晴らしいものがあって。また「五月の庭」での偽善とエゴイズムの境目とか、表題作「地上はポケットの中の庭」における生きることの意味、「まばたきはそれから」で描かれる生きる目的の見えないもやもや感(こちらは色んな作品で見るけど)とか、そういう言葉に出来ない、答えの出ない感情を切り取れるのは才能のある方じゃないと出来ない。

 ただ問題はやっぱり、この感じはどっかで読んだぞってことで。「五月の庭」が市川春子の「虫と歌」をどうしても想起させちゃうのはもう運が悪かっただけかもしれないけれど、読む側として雑念が入ってしまうのはどうしようもない。また構図や話の作り方にしろ、裏側に高野文子や大島弓子あたりがどうしても見えちゃうのだ。で、まあさすがにここらへんのレジェンダリーな方達と比べると分が悪い。

 もちろん前述の市川春子や西村ツチカにしても、同じことは言えるのだけれども。ただ彼らに関してはその土台の上に紛うことなき彼らの個性がドン!とあるのに対して、田中相はまだそうではなかったのかなと。
 ということであまり入り込めなかったのだけれど、才能がある方というのは間違いない。むしろこれから先が楽しみな作家さん。

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[投稿:2012-01-31 22:01:49] [修正:2012-01-31 23:13:30] [このレビューのURL]

 魔王を倒したその後の勇者と国々は?、人間に滅ぼされた魔王の正体とは?、ケンタウロスや天使、竜などの想像上の生物が現実にいたらどうなる?…九井諒子の現実と虚構を織り交ぜた奇妙で温かい短編集。

 えすとえむの作品といい邦訳されたシビルウォーといい、フィクションの世界を現実的に突き詰めて考える、という手法は最近の漫画のちょっとした流行かもしれない。元々ファンタジーの世界が現実世界のメタファーであることは珍しくないけれど、それをさらに強く押し出しているという点でこれらはなかなかに興味深い。
 
 作者の九井諒子は、WEB上や同人誌上で短編を発表し続けてきた人らしい。この短編集もそれらに修正を加えた上でまとめられたものということ。
 まだプロとなって日が浅いせいか、漫画の描き方がこなれていない印象を受ける。WEBにアップされている絵や短編の中でも力の入っているカットを見ると、画力はそれなりに高いはず。でも一つの作品としては、バランスが悪くて調和してないように思える。ただ漫画を描くのに慣れていった時に、絵柄の多彩さも含め、すごく楽しみな作家さんであることは間違いない。

 様々な短編が収録されている作品だけれど、私が一番気に入っているのはやはり表題作の「竜の学校は山の上」。よく練りこまれた世界観、竜の必要性、そして部長の「世の中にはな、二つのものしかない…」の台詞、希望を感じさせてくれる良い短編だった。
 ただ虚構が現実を侵食出来ていた作品は個人的にはこれだけかなぁ。どれも発想はおもしろいのだけれども、詰めがもう少し。特に馬人と猿人の短編「現代神話」は惜しかった。

 ただ「現代神話」に関しては、どうもえすとえむのはたらけ!ケンタウロスと無意識に比べてしまった部分があってあまり公正に見れなかった気が…。何で人とケンタウロスが結婚しうるのよ、とかケンタウロスはあの服だと一人で着れないよな、とか細かいリアリティが足りなかったためか物語に入り込めず。
 でもこの手の作品はいかにフィクションを現実に押し上げれるかが勝負なわけで、やはり惜しい。明らかにこの短編集は寓話として描かれている作品群だけれど、そのリアリティも示唆するものも私がおもしろいと感じたのは「竜の学校は山の上」くらいだった。

 でも寓話って本当に描くの難しい気がする。最近甥っ子に「泣いた赤鬼」を読んであげた時につくづくそう思った(泣いたよ…)。シンプルに、でもシンプルだからこそ寓話というのは大きなものが込められる。でも込め方が上手なのと込められたものが大人の鑑賞に堪えうるかというとそれはまた別の話で。
 この作品集は良い寓話になりうる原石がいっぱい詰まっている。まだそれらのほとんどは原石に過ぎないかもしれないけれど、これから先磨かれていったらどうなるかを楽しみにしています。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-12-25 22:29:20] [修正:2011-12-25 22:30:45] [このレビューのURL]

始まったときからなんとなく見てきた作品なんだけど安定しておもしろい。最近のジャンプにありがちな主人公が急激な勢いで上手くなったり、必殺技くりだしたりな漫画じゃなくて安心した。最近合宿や練習のシーンが多くて地味に感じるけど、きちんと努力する姿勢を描いてくれているのはうれしい。打ち切り危惧していたけど乗り切ったようでよかった。今のところまだ良作のレベルなのでこのあとつきぬけるようなら点数も上がるだろう。今のジャンプではネウロ、ワンピースに続いて楽しみにしている作品。
 

ナイスレビュー: 1

[投稿:2007-07-01 21:25:47] [修正:2011-10-27 18:01:13] [このレビューのURL]

至る所にジョジョの匂いがする能力バトル漫画。それに少しミステリーを加えたところが少し新鮮。

三巻くらいまでは頭脳戦の要素が強かったのだがどんどんただのバトルになっていった。個人的には三巻くらいまでが好きだったかな。主人公は熱血漢で、一部では友達を助けるために旅をし、戦っていくというまさに少年漫画な展開なのだがそこに適度な絶望と謎をちりばめることで奥行きを出している。二部からは舞台が世界に広がっており、まだ結末は見えてこない。

原作者がついている漫画なのだが、それが短所ともなっている。構成が今のところとても上手くまとまっていて良いのだが、盛り上がりとか勢いがいまひとつ感じられない。安心して楽しめる漫画だが、何か突き抜けるものをこのあとに期待している。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2007-07-17 22:44:57] [修正:2011-10-27 18:00:48] [このレビューのURL]

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