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6点 prism

 普段あんまり百合を読む機会ってないのだけれども、ツイッターのTL上で評判が良かったのでついつい買ってしまった漫画。ぱっと思いつく印象的な百合は、志村貴子「青い花」や中村明日美子の短編くらいという百合初心者未満の戯言と思って読んでやってください。

 とりあえず読んでみて思ったのは、ちょっと驚くくらい全く抵抗感がないなってことで。まあでもそれは当たり前なのかもしれない。結局自分の性とは異なるわけだから、男同士がいちゃいちゃしてるのに幻想は抱けなくても、女の子同士がいちゃいちゃしてるのに幻想は抱ける。実際、百合ってジャンルはBLと比べるとかなり男が占める割合は大きいんだろうと思うし。

 高校に入学した恵は、今度こそ絶対いい恋をするんだ!!と決意していた。彼女は小五の夏休み、海で出会った子との初恋が忘れられず、なかなか恋が出来ないでいた。そんな恵だが、入学式でその初恋相手、光と奇跡的に再会を果たす。ただし光は男の子ではなく、綺麗な女の子だった…。

 「放浪息子」や「きのう何食べた」のようにマイノリティの苦しみも作中に盛り込む方向性ではなく、どうやら「青い花」のように繊細な女の子同士の感情や関係性の変化を中心に描く作品になるようだ。女の子同士の付き合い(百合ップルと言うらしい笑)が露見しても、そんなに拒否反応も起こさずに皆さん理解してくれているみたいだし。
 
 物語自体に目立つ部分はそんなにない。光と恵がお互いを好きになって、付き合うことになり、イチャイチャしたりする…そんな取り立てて特筆することもないお話がこの一巻では瑞々しく語られていく。
 ただし、東山翔は物語の語り口がべらぼうに上手い。女の子同士の魅力的な会話に、ここぞという時の透明感のあるナレーション、恵と光の心の距離感の変化を繊細かつスピーディーに魅せる構成、細かい視線や表情で心情を語る描写力、全てがありふれたお話をきらきらに変える。

 また決して画力が高いわけではないんだけど、すごくイチャイチャが官能的。ここらはやはりエロ方面でも活躍している作家ゆえか、匠の仕事です。
 胸を描くのが上手い作家(鶴田謙二とか)やお尻を描くのが上手い作家(桂正和とか)はそれなりにいるけど、ここまでキスを描くのが上手い作家は記憶にないなぁ。植芝理一や森薫のようなフェティッシュなエロさでもなく、高浜寛の切ない大人のエロさでもなく、心をぎゅっと掴まれる官能的なエロさ。これは見る価値はある。

 これをきっかけに百合に耽溺するつもりはないけれど、十二分に満足させてもらった。全然一般の方でも大丈夫だと思う。けっこうゆっくり連載しているみたいなので、今くらいのテンポでさくさく進んでくれるのを期待してます。百合にちょっと興味がある方は特におすすめ。
 しかし結局百合って何なんだろう、とちょっと気になってる私は実は百合にはまりかけている気がしないでもない。

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[投稿:2012-04-25 00:55:19] [修正:2012-04-25 00:55:35]