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谷口ジローの私小説的漫画の傑作。犬を飼ったことのある人にとってはたまらない。

彼は妻と二人暮らし。子どもはいない。彼らはタムという年老いた犬を飼っている。
「犬を飼う」はタムの最後の一年を描く物語。日に日に年老い、体が弱っていくタム。彼らはタムのことを考えて色々と尽力してサポートするが、死へ近づくのは止められない。そしてとうとう避けられない日がやってくる。タムとの暮らしは2人に何を残したのか。
「そして…猫を飼う」からの3編はタムの死後、彼らが猫を飼うことになったきっかけ、その後の日常が描かれる。ペットを飼うことで得られるもの、苦労もある一方そのかけがえのない喜びが語られていく。
「約束の地」は前者2つと話が一変、家族がいるもののヒマラヤへどうしても惹きつけられる男の物語。

谷口ジローはバンド・デシネに大きく影響を受けた作家ということはよく言われる。その影響だろうか、一コマあたりが濃く、あまり遊びのコマが見られない。「犬を飼う」ではその緊迫感が話の密度を上げるのに一役買っている。

この犬を飼う、私にとってはたまらない話だった。というのも私が子どもの頃に家でも犬を飼っていて、その最期はどちらかというと何もしてやれなかったような後悔があったから。谷口ジローとその奥さんはまるで自分の親を介護するように、タムの世話をする。その心労のために会話も少なくなったりする。タムは家庭に良かれ悪しかれ影響を及ぼす家族の一員なのだ。
心打たれる名編だが、自分の過去のペットに対してかなり忸怩たる思いになった。でもここまでする覚悟がなければ動物を飼うべきではないのだろう。

で、そんな多少暗い気分を吹き飛ばしてくれたのが「そして…猫を飼う」からの3編。
ここには動物と共に暮らすことの喜びが詰まっている。世話をする苦労を超えるものがある。その中の「三人の日々」はあまり猫は関わってこないのだけど、その記憶をを思い出すときに確実にその傍らに猫達はいると思う。ペットってそんな存在だよね。

「約束の地」は山、何といっても山。神々の山嶺でも存分に見られる、山の迫力、魔力は圧巻だった。写実的に上手い作家なのはもちろんだけど、それだけではこうはいかない。

秀作ぞろいの谷口ジロー作品だが、これもまた良い作品。図書館で借りたものだけど、これは買って手元においていきたい。
そして何だかんだいつかまた動物を飼いたくなったのだった。自分以外の世話も出来るようになったと思えた時に。

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[投稿:2011-10-21 00:22:43] [修正:2011-10-21 00:28:50]