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エンキ・ビラルの「モンスター」が今月刊行ということで、同作者のもう一つの代表作「ニコポル三部作」について。

ちょっと前の邦訳本の例に漏れず、当たり前のように三部全て絶版中。私も残念なことにこの第一部しか持っていない。

徹底された管理国家となった未来のパリの上空に、神々の集団が乗るピラミッド型飛行船が大量の燃料を求めて滞在していた。
そんな騒然とした雰囲気の中、街の中に一つの冷凍ポットが落ちて来る。中には冷凍保存された男、ニコポルが入っていた。しかし落下の衝撃で彼の片足はとれてしまう。そこに現れたのは神々のはぐれ者、ホルス。ホルスはニコポルに鉄の義足をあてがい、彼の中に乗り移るのだった。彼らはそれぞれの目的のために手を組むことになって…。

全て読んだわけではないからあまりストーリーの解説めいたことは出来ないけれど、あまりそちらに言及する必要のある作品ではない気はする。
ファシズムや管理国家への嫌悪感、手前勝手な理屈で上から干渉してくる神々など、寓意らしきものを探せばたくさん見つかりはする。見つかりはするが、それだけという感じでそこまで傑出した物語とは思えない。少なくともこの第一部だけ見れば。

やっぱり不死者のカーニバルの魅力はもはや芸術と言える絵。この人はただでさえ上手い上にすごく手間暇かけてペイントする人なので、絵を眺めるだけで飽きない。
ブレードランナーの着想の元となったとも言われる退廃的で汚れたアンダーワールドと先行きの暗い未来都市にはもう惚れますわ。かの荒木飛呂彦のスタンドのモデルとなったらしき登場人物もちらほら。

独創的な町並み、キャラクターの造形などこの人の描く世界は本当に素晴らしい。絵が気に入った方には兎にも角にもおすすめしたい。鮮烈なイマジネーションを存分に楽しめる。
しかしビラル、メビウス、クレシーとBD作家の色彩はどうしてこんなに圧倒的なのか。見易さはともかくとして、カラーに特化しているアメコミと比べても相当に違う。作家性の強さはもちろんあるだろうが、芸術の国なのかね、やっぱり。

絶版中とはいえそれほど高騰はしてないんで十分買える範囲だと思う。じゃあ何で私が買ってないのかというとやはり絵は気に入っていても話はあまり気になっていないからだったりする。そんな作品。
ちなみにページ数は値段の割りに破格に少ないけれど、その分原書サイズで大きい(アメコミよりも)のと密度の分だと信じよう。

絶版だからなぁなんて思う人は今月に刊行されるモンスターが良いかも。こちらはアメコミサイズで少し小さめになっているけど、その分充実したページ数とさらにおまけとかなりお得な感じ。
これがお得に思える自分が既に怖い気もするけどね。そんな理性は無視して買う価値がメビウスと並ぶBDの巨匠の作品にはある。

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[投稿:2011-11-11 00:36:11] [修正:2011-11-11 00:39:07]