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高浜寛の第一作品集。

高浜寛は相当に異端な作家だと思う。ガロ出身というだけでもそうかもしれない。さらに最新作のトゥー・エスプレッソはフランスのカステルマン社に依頼されての作品で、フランスから日本に逆輸入されるという珍しい刊行のされ方をしていたりもする。海外では比較的知名度の高い日本人漫画家、にも関わらず日本での知名度は漫画好きの中でもあまり高くない。
かくいう私もJAPON(日本8名、仏9名の漫画家がそれぞれの日本を描いたアンソロジー)で初めて読んだわけで、あまりに露出が少なすぎやしないかい。ちなみにJAPONを読んだ後すぐに高浜寛の作品を買いあさったくらいにはこのJAPONの短編は衝撃的だった。

イエローバックスは高浜寛の第一作品集で、“滑稽”をテーマとした短編集ということ。滑稽というと笑える作品なのか?というとそんなことはない。
この作品における滑稽というのは生きている証のようなものだ。機械的に生きているならずれなんて生じないし、可笑しなことにはならない。飾る余裕がないほどに必死で生きているからこそ“滑稽”であり、そんな登場人物たちを笑えるはずもない。切なくて、哀しくて、ただただ彼らが愛おしくなる。

ここには色んな滑稽さがある。年老いてからの恋愛話を皮切りに綴られる八つの物語。心がほっこりしたり、気の毒に思ったり、ぎゅっと心が締め付けられたり、ひたすら応援したくなったり…。
高浜寛は他の作家の追随を許さないほど滑稽を描くのが上手い。そしてそれは今後の作品でも彼女の底に常に流れているように思う。だからこそ高浜寛のラブストーリーは他とは絶対的に違う。ここしかない一瞬を切り取っているというか、生きている感じがするのだ。

画力に関しては、初期作品群ということで、どうしても今よりは粗い。特に巻末の書き下ろしと比べると顕著に分かる。ただこの頃の絵も独自の味があって好きなんだよなぁ。というかそれを狙って粗くしている部分もあるからけっこう分かりにくいのだけれども。
光の取り入れ方はこの頃から巧みなので、初めて読んだ人は恐らく絵を見て驚くだろう。モノクロに思えないこの洒脱で叙情的な雰囲気に呑まれ、そしてそれだけではないことに気付く。

私が特に気に入っている話は老人の恋を描いた「最後の女たち」と恋人同士の心中ごっこ「あそこに、美しい二つの太陽」。
「最後の女たち」は勇気だよ、ほろっときます。だって老人達がこんなに美しくてかっこいいんだから。冒頭のこの作品を見れば高浜寛がお洒落だけではないってことが分かる。お洒落だけど中身も他にないものが詰まっていることが分かる。
「あそこに、美しい二つの太陽」は傑作。滑稽、そして悲哀。堪能しました。

ということで高浜寛は全力でおすすめ。
彼女の今度の新連載はエロ雑誌でやるらしい。そんな状況になる意味が分からない、まじで。天才かは知らないけれど、これは二つとない才能だろうに…。読もう、いや読んであげてください。後悔はしないはず。

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[投稿:2011-11-16 01:32:39] [修正:2011-11-18 00:24:35]