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星の王子さまといえば言わずと知れたフランス児童文学の名作。私も小学校の頃何度も何度も繰り返し読んでいた。この星の王子さまやミヒャエル・エンデのモモ、はてしない物語なんかがこの頃の私のお気に入りの海外小説だったことを思い出して、少し懐かしくなる。

数年前に日本では版権が切れたということで、色んな出版社から星の王子さまが訳者やタイトルを微妙に変えて刊行されている。そんな中に漫画もいくつかあったのだけれども、残念ながら質が高い作品とは言えなかった。
今回のバンドデシネ版はどうかというと、そもそもまだフランスでは版権が切れていないわけで、絵も話も考え抜かれ、練り上げられた上での刊行、まさに原作者の遺族も認める世界で唯一の公式コミックというのにふさわしい仕上がりとなっている。

BD化の執筆を任されたジョアン・スファールはバンド・デシネ界でも若手のホープの一人で、映画監督もこなす人。
私は「JAPON」で彼の日本を風刺した奇妙な短編を読んだ時は、正直そんなに印象に残っていなかった。で、今回改めて彼の作品に触れてみて…おい、JAPONの時は本気出してなかったな笑。というかスクイテンもだけれど、白黒だと普段カラーで絵を描いている作家の真髄は見れないのかもしれない。

スファールが描く王子さまはサン=テグジュペリの挿絵に見られる細身で儚げな王子さまとは一風違う。目は大きく見開かれ、活発で好奇心豊かな男の子。
王子さまが訪れる様々な星の住人もスファールの解釈によって読むまでは想像もしえなかった奇妙な姿に描かれる。でもそれらは決して突飛ではなくて、彼が考え抜いた結果出来上がったもの。だから最初は驚いても、その後は深く納得するしかないのだ。

よくよく考えてみると、フランス生まれの星の王子さまがフランスのアーティスティックな、そして絵本よりの感性を持ったBD作家によって描かれる、とこれ以上のものはないわけで。
実際出来上がったものを見れば、最高の作品だと理解できるだろう。ジョアン・スファールの仕事は素晴らしいし、何より相性がぴったりだった。

ちなみに私が星の王子さまを読んだのは小学校の時以来10年ぶりくらいになる。
当時私は少し不思議なファンタジーとして、この作品を読んでいたのだけど、大人になってみると180度変わってしまったことに気付かされる。以前私は王子さまの、子どもの側にいた。でも今の私は大事なものを失ってしまった者であって、王子さまが奇妙に思う“大人”の一員になってしまった。
しかしその物語は今も昔も私の胸を打ち、別れの場面では涙がこぼれる。ひしひしと伝わってくるのは“つながり”の大切さ。

子どもが強く惹きつけられる世界を持ち、大人が無視することができない声がある。今だからこそ、星の王子さまが名作とされる理由が理解できる。

「ものは心で見る。肝心なことは目では見えない」

キツネの言葉は昔読んだものとはほんの少しだけ変わって、でも同じくらい私の心に突き刺さる。

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[投稿:2011-12-01 01:39:04] [修正:2011-12-02 21:00:11]