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 これはすごい。ケンタウロスなのに、気付けば彼らに笑い涙しそうなのがすごい。ケンタウロスなのに…。

 ま、ケンタウロスって時点で大体の人はまともな漫画は期待してないじゃないかと思うわけで。だってケンタウロスですよ。これ以上ないクラスの色物ですよ。半人半馬ですよ。
 実際最初の話はそんな期待にしっかりと応えてくれる。会社員として働くケンタウロス、健太郎。もはやだって名前があれでしょ、笑わざるをえないでしょ。そんなこんなで良くこれだけ尽きないなと感心するような質の高いケンタウロスネタが続いて最高に盛り上がる。

 でもこれだけだったらこの漫画ってないようで、実はけっこうある一発ネタの漫画の範疇にすぎないのだけれども。いわゆるテルマエ・ロマエや聖おにいさんのような斜め上の発想とその鮮度をどれだけ保てるのか、という話になってくる。
 そう考えているとまた全然勘違いしていたことに気付かされてしまうわけで。要はえすとえむは本当にケンタウロスを現代社会に放り込みたかったのだ。現代社会に生きるケンタウロスを描きたかったのだ。健太郎の話から生まれる笑いというのは多分、それらの副次的な要素にすぎなかった。

 前半の健太郎シリーズが終了した後、笑いは控えめになる。読者が慣れてしまったということもあるのだけれど、多分慣れさせられてしまったのだ。もはやここはケンタウロスが実際に人間と共に働いている社会。
 異物ではなくて、異分子となったケンタウロスは急にピエロではなくて社会のマイノリティの様相を帯びてくる。ギャグではもうありえない。「Papa told me」のように、都会で寂しく生きる人々の気持ちを繊細に描いていく。彼らの生き様に、友情に魅せられ、涙する。

 でも読み終わってはっと気付く。ケンタウロスだよ!?半人半馬だよ!?…いや、なかなかない経験ですよこれは。ケンタウロス漫画と聞いて想像していたものがいつの間にか変質し、違うものになっていく。すごい才能のような、でも才能を全力でどぶに投げ捨てているような。でもとんでもない漫画であることは間違いない。

 ちなみにBL部分は時に“友情”部分が気になることもあるけれど、表立ってはいないので別に気にならないレベル。苦手な人でも大丈夫だと思います。
 色物なのか、そうではないのか、でも結局やっぱり色物だよなと思いつつ。これは一読をおすすめしたい漫画。ケンタウロスのとりこになるやもしれない。一応1巻完結のようだけれど、また別に描いてるようで、続きも出そうではあるのかな?出オチでは確実にないので、続刊がいつかでることを期待してます。

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[投稿:2011-12-11 00:48:52] [修正:2011-12-11 00:48:52]