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7点 ボーン

 ボーンほど邦訳アメコミで、アメリカでの評価と日本での知名度がこんなに乖離してる作品はないんじゃなかろうか。ハーベイ賞、アイズナー賞に毎年のように輝いている1990年代を代表するシリーズなのにも関わらず。実際アメコミ作家でも、お気に入りの作品としてボーンの名前は挙げる人は少なくない。
 
 アメリカで1巻が出たのが1995年だから、3年と比較的短い期間で邦訳が決定されたのは出版社の意気込みと自信の表れだったのだろう。でも売れなかった…らしい。既にアメリカでは9巻で完結しているのに、邦訳は第一部にあたる3巻まででストップしている。残念至極。
 多分タイミングも悪かったんだろうなぁ。日本のアメコミが下火になり始めていた時期だし。しかしあまり現在でも話題にならない所を見ると、アンカルやモンスターのように邦訳が再開される可能性は低いと思わざるを得ない。うーむ…。

 「ボーン」はその名の通り、白くて丸い、つるつるしたカートゥーン調のキャラクター、ボーンという種族の3人を中心とした物語。
 その中の一人、フォニーが故郷の村でみんなを怒らせるひどい事件を起こして村を追い出される所から物語は始まる。そして彼の従兄弟である、フォーンとスマイリーも彼を心配して一緒に旅に出るのだった。しかしイナゴの大群、ラットモンスターとの遭遇など色んな出来事が重なって3人は離れ離れになって…。

 優れた子ども向けのファンタジーというのは大人が読んでも楽しいものだ。指輪物語やはてしない物語、精霊の守り人のような、ボーンはそんなそうそうたるファンタジーの一つと言っても良いと思う。
 常識と勇気のあるフォーンの報われない恋と冒険を心から応援し、“脳なし”スマイリーのとんでもない行動に笑い、計算高く強欲なフォニーのしょーもない企みはもちろん失敗に終わる。そして何より3人がたどり着いた谷を巡る謎に胸を躍らされ、世界を救う壮大な冒険は幕を開ける。ボーンを楽しむのに年齢は何の障害ももたらさない。小学生でもおじいさんであっても胸がわくわくするはずだ。

 ジェフ・スミスのアートも素晴らしい。白と黒のはっきりとした色調とボーンを描く気持ちのいいペンのタッチは何度見ても惚れ惚れする。普段アメコミと聞いて想像するようなリアリティ重視なものではなくて、スヌーピーのようなカートゥーン路線なので漫画読みでも馴染みやすいだろうし、個人的にも大好きです。
 ボーンやラットモンスターも始めとしたデザインも、性格も個性的な面々なので、それだけでも楽しい。特に“愚かな”ラットモンスターが私のお気に入りなのだけれども笑。

 唯一残念なのは最初に述べたとおり、第一部である3巻までで邦訳が止まっていること。さらなる冒険が幕を開け、一番わくわくが高まっている所ですよ…。まじ勘弁してくれ。
 これは原書買って読むしかないなー。英語も比較的易しいだろうし、白黒だから値段も安いし。でも彩色されたバージョンも完結後に刊行されていて、そっちの評判も良い感じなのですよ。悩むわ。

 邦訳ストップということさえ覚悟してもらえれば、おもしろさは保証します。だからこそ残酷とも言う。でも今からでも遅くないから読んで、何かしらのアクションを少しでも多くの人が起こせば可能性はあるかもしれない。海外マンガが現在盛り上がっているタイミングでもあるし。

 ということで、ぜひともこの愉快痛快なファンタジーを読んでみて下さいな。私は既に大ファンになってしまった所です。

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[投稿:2011-12-18 01:28:10] [修正:2011-12-18 01:28:10]