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 高野文子のB級センス大爆発!、なかっけぇ漫画。

 まあそもそも高野文子といえばセンスの塊みたいな人です。漫画家の中で天才を一人選ぶとしたら多分私はこの人を選ぶ。
 そんな人が全力を傾注して超B級なスパイものをやるとなると、超イカした冒険活劇になるのは至極自然なことで、絵に見はまり過ぎて最初はストーリーがさっぱり頭に入らないのも至極当たり前なわけ。

 お金持ちのお嬢さんのメイドをしていたラッキー嬢はちょっとした悪ふざけでメイドを首になってしまう。ひょんなこんなでデパートを巡る陰謀に巻き込まれた彼女は“一見ただのかわいいデパートガール。しかしその実体は―――極秘文書受け渡しの任務を受けた勇敢な一少女特派員”になってしまうのだった。

 捻くれている好みだろうか、私はB級というよりB級愛に溢れた作品が好きなのだ。B級という言葉は人によって捉え方が様々かもしれないけれど、私にとっては独特の“チープさ”。そのチープさを巧く自分の作風に取り入れたものって波長が合えば何ともたまらない魅力がある。
 例えばプラネット・テラー in グラインドハウス(だって義足がマシンガンだし)や血界戦線(だって世界救いまくるし)とかね、もう大好きです。で、このラッキー嬢ちゃんのあたらしい仕事もそんな作品の一つ。

 ストーリー見れば分かるでしょ。めっちゃチープですよ。夢と希望のデパートで繰り広げられる一国の命運を握るお話ですよ。悪の親玉も、王子さまも、機知に満ちた会話と駆け引きも、可愛くて素敵な女の子も、ハッピーエンドも、何だってデパートのように品揃えが良くてかつ大安売りなんですよ。
 要はもう高野文子の好きなもん全部詰め込んだってことで。で、そんな漫画が私は大好きってことで。

 そんな魅力的なお話を盛りたてるのはやはり魅力的な高野文子の絵。高野文子はわりかしシンプルな絵だけれど、その線はついつい見惚れてしまう程素敵で、絵の見せ方という点で追髄出来る人はいない。この作品において、高野文子のペンはいつにも増して縦横無尽に動き回る。
 ラッキー嬢は縦にも横にも自由自在に走り、止まり、落ち、踊り、飛び跳ねる。読むうちに時間の感覚が狂ってくる。他の漫画家が3速くらいしかギアを切り替えれないところを高野文子は13速くらい切り替えることができるのだ。映画のようなスピード感があるのに、でも確実に漫画なんだよなぁ。高野先生は化け物ですか?

 ラッキー嬢ちゃんのあたらしい仕事を好きな人となら、私は一緒に楽しく飲み明かせる気がする。趣味の映画や漫画の話をぜひぜひしたい。そんな漫画。
 高野文子本人はこれを失敗作と言ったそうだけど、私は大好きです。高野作品でも一際異彩を放つこの漫画、好みに合うかもと思った方はぜひぜひ。

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[投稿:2012-01-05 23:14:31] [修正:2012-01-06 00:01:54]