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 真造圭伍はこの森山中教習所がデビュー作で、しかも22歳でこれだけのものを描いちゃうんだから恐れ入る。この先もっとすごい漫画を生み出していくのだろうか。

 とはいってもストーリー自体は本当にシンプルな物語。ひょんなことから非公認教習所に通うことになった大学生、佐藤清高くんのひと夏の恋と友情を描く、それだけだ。しかし真造圭伍はそれだけの話をここまでおもしろく語れてしまう。つくづく新人とは思えない。

 何というか、もう物語を語るセンスがずば抜けていると思った。語る所とあえて語らない所の選び方が絶妙、またその語り口も素晴らしいの一言で。清高くんにしろその友達の驫木くんにしろ、背景に色んなものを抱えてるんだろうな、って匂わせるシーンもそこらかしこにあって。でもそれはあくまでバックボーンに留め、絶妙な間と表情で語らせる技量にはほとほとため息が出た。
 いくつかの見開きでは、ふきだしを使わずに名前とかぎかっこで登場人物の会話を描くなんてこともしていたのだけれども。こんなこと、下手にやっちゃったら途端に話がうそ臭くなってしまうと思う。でもこの作品では驚くほどすっと心に入ってくる。

 基本的には、ヤクザの件のような本当に漫画的な漫画で。その一方で、水風船の遊びからの拷問シーンや清高くんのヤケ酒なんて、笑ってしまうほど滑稽で、でも尋常じゃないほど人間臭さを感じさせる。そうかと思えば清高くんの元彼女さんの食事やラストの急ブレーキの場面ように、とことん笑える場面もあったりして。やっぱりそこらかしこに強烈に作者のセンスを感じた。

  「なーに、ノスタルジーにひたってんのよ?」

 気付いたら私までそんな思いにひたっていたのは、自分の中にも同じような物語があったからだ。真造圭伍は、誰もが心の片隅にひっそりとしまっているものを、おもしろい物語に仕上げることが出来る。そういう人が私は好きで、でもそういう人はなかなかいない。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2012-02-13 00:14:49] [修正:2012-02-13 00:26:14]