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 ディケンズのクリスマスキャロルをモチーフにしたということで、他のバットマンものとはかなり趣が違う。実はジェフ・ローブもハロウィンスペシャルで同様のことをやっているので、アメリカではわりとメジャーな手法ではあるのかもしれない。

 クリスマスキャロルといえば超有名な古典なので、大体の方が大まかなストーリーは知っていると思う。傲慢、冷酷、強欲、愛や慈悲に欠けた男スクルージの前に、過去現在未来の3人の精霊が現れ、改心したスクルージは自分と未来を変えようと決意するのであった…。というあれです。
 私も子どもの頃に読んだことはあって、ただけっこう前のことなので内容は忘れかけていたのだけれども。ノエルを読めば読むほどにああ、こんな話だったな、と思い出していった。要はモチーフというか、基本プロットはほぼクリスマスキャロルそのままってことで。

 読んでいて巧いな!って思ったのは過去の精霊であるキャットウーマンの章。バットマンオリジナルコミックを読んだ人は分かると思うのだけれど、ミラーのDKRがバットマンを変えたというのは決して大げさな言葉じゃなくて。ペンギンが傘で空を飛んでたり、スーパーマンがヘリに吊るされて滝にうたれたりという時代があったわけです。そしてそのオリジナルコミックの中には確かにキャットウーマンとバットマンが仲良く追いかけっこしていた話もあった。マスク以外の服と武器をとりあげ、バットマンを猛獣に追いかけさせるという衝撃の話が。
 「昔は違った。昔のあなたはこうじゃなかった。」…ゴールデンエイジへの郷愁と現在の重苦しいバットマンコミックへの複雑な気持ちを感じさせる、なかなかにぐっとくるお話だった。

 ただ現在と未来の章に関しては、うーむ…。
 ベルメホの、色んなバットマンコミックがあって良いと言う言葉にはもろ手を挙げて賛成するし。クリスマスキャロルを意識してか、バットマンやゴードン、アルフレッドといったキャラクターのイメージがかなり他作品と乖離しちゃってるのも構わない。ただし、そうであるべき確たる理由が感じられればってことで。個人的にはあまりクリスマスキャロルにバットマンをそのまま当てはめる意図を読み取れなかった。ゴッサムという街であっても、ボブやブルースでさえも幸せになりうるのかもしれない。しかし違和感のせいかバットマンのお話としてすっと心に入ってこない。
 
 ベルメホのアートには全く文句のつけようがない。この人のペイントは、写実的でありながらも、陰影のつけ方や光の取り入れ方絶妙で、何とも言えない魅力的な雰囲気を醸し出す。絵が濃いので多少好みは別れるかもしれないけれど、本当に素晴らしい。

 多少疑問に思う点もあるけれども、バットマンの可能性を感じさせる良作だった。値段もアメコミにしては控えめなので興味がある人はぜひ。

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[投稿:2012-03-27 18:59:15] [修正:2012-03-27 18:59:15]