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 グラント・モリソンの月刊バットマン第三弾。今回はヒーロークラブの会合で起こった殺人事件と、バットマン・アンド・サン直接の続編である3人の偽バットマンについての物語が描かれる。そしてどうやら双方の裏にはブラックグローブという悪の秘密結社が関わっているようで…。

 まずは前半のヒーロークラブのお話。50年代のバットマンコミックから色々引っ張ってきたものらしく、その元ネタはおまけとして本書の最後に収録されている。こちらは総じてとっつきやすい素直に楽しめる作品。

 孤島という隔絶された空間で起きる殺人事件。「そして誰もいなくなった」を筆頭としたミステリーの王道といえるジャンルにモリソンはバットマンとロビン、そしてバットマンにインスパイアされた世界各国のC級ヒーローたちを放り込む。謎解きという面ではありふれてはいるものの、とにかくアイデアがおもしろいのでぐいぐい読まされる。
 またアートも非常に良い。安穏としていた時代である50年代のヒーローたちの中に現れる殺伐とした現代のバットマン。その異質・異様な雰囲気が巧みに表現されている。モリソンのテクニカルな演出やコマ割りも多少分かりにくい部分もあったものの上手く機能していた。

 そして後半の、前作から続く3人の偽バットマンのお話。モリソンの癖の強さが全面に発揮された趣向。
 
 現実と幻想。生と死。過去と未来。催眠と瞑想。目まぐるしく様々な世界が行き来する。モリソンの真骨頂とも言える魔術的で意味深なライティング。夢幻のようにこれまでの伏線は回収され、さらなる謎が散りばめられていく。ブラックグローブとは何者なのか?

 「お前はもうすぐ死ぬ」

 バットマンに何が起こるのか? 未来に何が待っているのか? その未来ではダミアンがバットマンになるのだろうか? 万華鏡のように色んな面が移り変わり、世界は混迷を深める。…盛り上げるぜグラント・モリソン!

 ただ、やっぱり私はモリソンとはあんまり相性良くないかもなぁ。もう一つぐっと来ない。幻想の描き手としてアラン・ムーアと比べてしまっている部分もあるのかも。
 モリソンはムーアと同様魔術師を名乗っているだけあって、ムーアと同じく色んな所から設定やらモチーフを借りてくるのは得意にしている。ただムーアとモリソンの決定的な違いは、ムーアはヒーローやら切り裂きジャックやらクトゥルフやら借りたものを完膚なきまでに自らの世界に沿って作り変え、利用しつくしてしまう所で。あくまで象徴主義的な範囲に留まっているモリソンは独自のサーガを作り出す魔術師という点で、今の所物足りない部分は感じないでもなかったり。

 まあでも何だかんだ言って、モリソンのライティングに今ひとつ馴染めないのは浦沢直樹に原因がある気がしないでもない。だってさ、ここ最近ずっと浦沢直樹の作品では、壮大かつ意味深に黒幕を引っ張って引っ張って結末に進むにつれてあれ?…みたいなのが繰り返されてきたわけじゃないですか。
 そういう意味で、浦沢作品と共通点のあるモリソンのライティングには事前に免疫みたいなのが反応しちゃってんじゃないかなと。R.I.P.には、そんな浦沢作品の負の遺産をぶち壊してくれる第一部のエンディングを期待してます。しかしまだまだ引っ張られるんじゃないかという予感。

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[投稿:2012-05-16 23:41:13] [修正:2012-05-17 11:00:53]