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9点 WOMBS

 白井弓子といえば、天顕祭が同人作品として初めて文化メディア庁芸術祭マンガ部門で奨励賞を受賞したことで有名になりました。天顕祭を読んだ時は、やろうとしていることはすごくおもしろそうなのに漫画としてこなれてないなぁなんて印象を持っていて。独特の絵柄と壮大な作品の構想に、語り口や見せ方が追いついてないというか。もちろんプロの第三者の目線が入らない同人作品ゆえということもあったのだろうけれど。

 そんな白井弓子の商業誌初の連載作品がこのWOMBS(ウームズ)。訳すると、子宮たち、という妊婦SF。

 碧王星という地球とは異なる惑星。漂流した末にたどり着き、星を開拓した第一次移民(ファースト)と第二次移民(セカンド)の間で激しい戦争が繰り広げられている。セカンドは、ニーバスという異生物を子宮に移植することで“飛ぶ”力・転送能力を得た女性だけの転送兵部隊を利用することによって軍事力で優るファーストに対抗しようとするのだった。

 子宮が物語に関わってくるSFやファンタジーというのは決して珍しいわけではなくて。例えばお馴染みの人工子宮もの。もしくはこのWOMBSのように、“無”から“有”を生み出す器官として異世界とのゲートとして利用されるもの。
 ベルセルクのクシャーンやトロールのくだりなんて印象的だろうが、子宮は特に後者の場合、SFやファンタジーにおいてどちらかというと抑圧・利用される象徴であって女性の強さを感じさせるものではなかったように思う。漫画小説問わず、子宮を食い破って化け物が生まれる場面をこれまで数多く見てきた。
 しかし白井弓子は子宮を戦う理由に変える。異生物を子宮の中に移植するというグロテスクな行為…しかし、彼女らは女性であっても、いや女性だからこそ、国や家族のために戦うのだ。
 

 またWOMBSの舞台である軍隊。これまた女性が認められない場所、というか細やかな気配りや優しさ等の女性らしさが排除された組織。
 そんな軍隊において、女性だからこそ戦える転送兵を描くことで、この作品はジェンダーSFの側面まで帯びてくる。日本ほど女性が戦うフィクションの多い国もないだろうけれど、この作品ほど女性が戦う説得力を持つ作品はないだろう。だからこそ圧倒的に感じるのは、女性の強さだ。

 本当に欲張りに感じるくらい盛りだくさんな要素があって。転送兵が異世界の座標にアクセスする所なんて、電脳空間ではないにしても確実にサイバーパンクなわけだし。でもそれらが生まれたのは一つの設定からなんだよなぁ。だからこそ複雑な世界設定も自分の中で確実に消化できるし、その消化する作業が楽しい。
 これは結局、異世界ものを描くのに一番理想的な、世界を語ることが物語を語ることになっているということで。結果、この世界の構造とそこに住む人間が薄皮を剥ぐように少しずつ、しかしとてもクリアに見えてくる。天顕祭に比べると驚くほどに語り口が進化している。

 ということで、大絶賛。SF好きなら読まないと損くらいの作品だと思う(とか言って私も読んだの最近だけれど)。知らない世界と知らない物語を読める喜び。最高にセンス・オブ・ワンダーに満ちた傑作です。

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[投稿:2012-05-19 23:54:58] [修正:2012-05-20 11:10:35]