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 真性死にたがり屋かつマゾヒストの弁護士の元に、彼を好きなゲイのヤクザが姪っ子をつれて訪れる。何やらやばい事情があって姪っ子をかくまってくれということで…。

 なかなかに入り込むのが難しい作品だった。ストーリーがまとまってるとかまとまってないとか、キャククターがしっかり描かれているとか描かれてないとかそういう部分ではなくて、読んでいるこちらの視点が定まらないというかね。うーん…。

 ヤマシタトモコ作品のおもしろみというのは、とにかくキャラウターが立ってるってことに加えて、そのキャラクターたちの絡みでキャラ同士の繊細な関係性、もしくはキャラ同士のぶっとんだ化学反応を見せてくれるということにある。
 死にたがり屋の弁護士や、弁護士に恋するゲイのヤクザ。さらにはそのヤクザに恋する極道筋の社長の息子。とかその他もろもろの濃すぎるほどのキャラクターたちがこの漫画には登場するし、あらすじから想像されるようなけっこうバイオレンスな作風だ。でも自身が後書きで『私にとっての「キャラ萌え漫画」でした。』と語っているように、やっぱりそのおもしろさというのはいつものヤマシタトモコと変わらない。

 でもこのシリアスで暴力的っていうのと、いつものヤマシタトモコのおもしろみというのは著しく食い合わせが悪かったんじゃないかと思うわけで。だってさ、個人的にヤクザがキャラ萌えにつながるというのが今一理解しがたいことは置いておいても、実際かくまわれている姪っ子の父親なんて借金のために殺されてしまってるんだぜ?

 そういうけっこうなハードさがあってのキャラ萌えというのは、私としてはちょっとすんなりとは飲み込みずらいなぁと。シリアスなストーリー展開の中でちょいちょいヤマシタトモコの「萌え」が挿入されるもんだから、どこを見ていいのか分からなくなってくる。
 女子高生に生きる意味を問うおっさん連中なんて構図はこれぞヤマシタトモコなんて素晴らしさなんだけどねぇ。実際部分部分でぐっと来る場面がけっこうあったわけで。ただそれだけに、個人的には惜しい漫画という印象だった。

 結局ヤマシタトモコには核となる作風があって、どんな設定の作品でもそれは変わらないんだろうと思う。羅川真里茂みたいに。そういう意味では器用に作風を変えていく中村明日美子や吉田秋生とは異なるってことで、今作に関しては上手く作風と作品構成がハマらなかった感じ。

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[投稿:2012-06-30 14:01:49] [修正:2012-06-30 14:01:49]