「景清」さんのページ

総レビュー数: 62レビュー(全て表示) 最終投稿: 2005年10月17日

 自分が週刊少年チャンピオンを定期購読するきっかけとなった、個人的にも思い入れの深い作品。チャンピオン漫画らしいアクの強さと少年漫画の王道的魅力が良いバランスで融合し、娯楽作として非常に読み応えのある作品に仕上がっている。

 名門校獅子堂学園に転校してきた主人公の白鷺杜夢は、中学生ながら並外れた知性と度胸そして運気を備えた天性のギャンブラーだった。消息を絶った父の行方、そして奪われた一族の秘宝を追って陰謀渦巻く学園に流れ着いた彼を待ち受ける命がけのギャンブル対決また対決!果たして杜夢の運命やいかに!?
 ストーリーラインはこのように古典的とも言えるほど王道であり、脇役のキャラ造形にしても主人公に憧れる非力なメガネ君、意味もなくバラが舞い散る高慢なヒロインお嬢様、一目見て悪役だと分かる分かりやすい悪役教師…ジツに分かりやすい。当然倒した敵は仲間になり、物語後半からはトーナメント戦が待っている。ジツに分かりやすい。分かりやすいがそこはやはりチャンピオン作品の宿業という奴で、「やり過ぎだろ?」と読者が驚愕するアクの強さに満ち満ちている。自分がチャンピオンに本格的に目覚めちゃったのもこの毒気のなせる業だったのかもしらん。

 毒気のその一は少年誌の限界ギリギリとも言えるエロ描写である。作画担当の山根和俊は集英社在籍時代は正直鳴かず飛ばずだったが、本作ではまさに水を得た闘魚のように欲望のままにペンを走らせまくっているのがビリビリ伝わってきて無性に嬉しい。主人公とギャンブル勝負を交える主なライバルたちの多くはいずれもグラマラスな美女たちばかりで、そんな彼女たちが熾烈なギャンブル勝負の中で色々エロひどい目にあってオトされる様を楽しむのが本作の見所の一つと言える。あ、エロとは言っても性行為そのものとかが描かれるわけでは無いソフトコアエロスなので、そこは安心して欲しい。

 毒気その二はエクストリーム極まるギャンブル勝負の数々。ゲームそのものはブラックジャックやビリヤード、麻雀やポーカーなどありふれた題材ばかりだが、そこに本作ならではの変則ルールや無茶苦茶なペナルティ(脱衣とか電気イスとか!!)が加えられることでとんでもない超展開の数々が実現する運びとなってしまった。そもそも主人公の白鷺杜夢が連載初期のブラックジャック勝負で「この指を賭ける」と躊躇なく自分の指をチェーンソーでぶった切らせたあたりから作品が謎のエクストリーム魔次元に引きずり込まれていったのだろう、まぁその後指は無事に繋がったが。ちょっと考えると日本のしかも中学校校内でこんな変態的ギャンブル勝負が公然と行われている時点でおかしいんだが、試合展開の熱さやトリックの鮮やかさのおかげでそんな事はもうどうでもよくなってしまう。これこそ視点誘導(ディレクション)の典型例と言える。
 なお、作中で死人が出たりすることはないのでそこは安心して欲しい。

 毒気その三は、乱れ散るオヤジキャラ達のほとばしる濃厚さである。本作の売りは上に挙げたセクシーな美女達、ということに表向きはなっており、単行本の表紙を飾るのも基本は美女たちばかりである。(主人公が初めて表紙を飾ったのは何と最終巻だった)
 しかしそれはあくまで表向きの話。本作を読んでいると、作者が美女たちに負けず劣らず気合を入れて、濃厚なオヤジキャラ達を描いていることにいずれ読者は気づくこととなる。
 本作には、実に多種多様な属性に彩られた素敵なオヤジキャラ達が多数登場し、物語に彩りを添えてくれる。一見かませ犬の中ボスキャラに見えて実は最強のラスボスとなった悪魔のような外見を持つ狂気のギャンブル教師“阿鼻谷”(アビダニ)を筆頭に、

・愛する妻のパンツを常時携帯し悪い娘にはキン◯バスターでお仕置きをする米国海兵隊員。
・一見温厚な紳士だがヘリを乗りこなしバズーカ砲を携える妙齢の黒執事。
・ギョロ目と出っ歯、狒々のような相貌の香港映画から飛び出たようなギャンブル老師。
・「私立ジャスティス学園」のラスボスそっくりな筋骨隆々の学園長。
・恰幅がよく、いかにも喰えなそうな面構えをしたイタリアマフィアの大物。
・ふんどしとサラシ姿が異常に似合う着流しの博徒。
・アメリカ合衆国大統領。

 ここはまさにオヤジの惑星と言ってよかろう。中でも特筆すべきキャラが、「デブ」「ハゲ」「下品」の3重苦を背負わされたゴキブリのような醜悪オヤジである不良ハスラーの五木島(ゴキジマ)だろう。普通に考えたら好きになる要素など皆無のこの人物、しかし作中では飛んだりはねたり目を潤ませたり「ドキッ」とときめいた、しまいにゃ半裸で緊縛されたり、と妙に愛されており、作品終盤ではほとんどマスコットのような存在になってしまった。バキ風に言うなら「毒が裏返った」というんだろうか。可愛くって仕方がない。
 この醜くも美しいオヤジ達があんなことやこんなことをしてくれるのである。あなたの知らない世界の扉が、今、まさに…。大丈夫、病気じゃないんだよ。だから安心して欲しい。

 本作のエクストリームっぷりはこのように書いていてキリが無いほどあり、作者も編集もノリノリで作品を転がしていた様が手に取るように伝わってきてとても楽しかった。しかしながら無論欠点もある。
 欠点としては、まず女性キャラが多い割には外見上の個性があまり感じられない点がある。一応の売りのはずなのに、女性キャラが等しく服装と髪型くらいしか違いがなく体型が似通っている(どいつも「中学生に見えなーい」)のはちょっと問題だろう。これは作画担当の嗜好の問題だろうか。
 それともう一つ。本作の魅力の一つは王道的ストーリー展開のはずだったが、敵としては強かった美女たちが仲間になった途端にお色気担当以外に価値のない役立たずになってしまうのもいただけない。特にマジシャンの月夜野さんの仲間になった後の扱いの不憫など、「器用貧乏」という言葉が頭を過ぎって痛々しかった。結局一番役に立った仲間が、最初期から主人公のの側にいたキノコ頭のメガネ君だったというある意味超展開には頭を抱えてしまうが、まぁ、それすら作品の味として納得させてしまう謎のパワーが本作にはあった。

 掲載誌がチャンピオンであったがために世間一般の知名度は高くないが、逆にチャンピオンであるからこその異様な魅力に溢れており、そんな濃さと少年漫画の王道的魅力が高いレベルで組み合わさってしかも安定したテンションを最後まで維持できているので全体的な完成度はかなり高い。正統派の娯楽作としても楽しめるが、ネタ漫画としても一級品で一粒で二度美味しい。巻数も19巻と長すぎず短すぎずなので、露骨なお色気描写とかに抵抗がなければ皆様も一度手にとってみる事をお勧めしたい。完(アヴィッ)!

ナイスレビュー: 3

[投稿:2011-06-26 03:26:46] [修正:2011-06-26 03:59:16] [このレビューのURL]

 女学生1000人を誇る全寮制のお嬢様学校が共学化、やってきた男子はたったの5人!果たしてそこは男共にとって天国か、地獄か。
 のっけからいかにも学園ハーレム物的な物語設定だが、結果はまさかというかやはりというかの地獄であった。
 伝統と格式ある名門(元)お嬢様学校の私立八光学園に入学した5人の冴えない男子一期生。「童貞なんか4月中に捨てられる」とアレコレムフフな夢と希望に胸ふくらませていた彼らを待ち受けていたのは女子総勢からのガン無視といういじめのような仕打ち。ハーレム築城の夢などまさに砂上の楼閣で、ショーウインドウの前でよだれを垂らし続けることしか出来ないこの地獄のようなシチュエーションにもはや我慢も限界、遂に女子風呂覗きという最悪の実力行使に打って出る男子一同だったが学校の風紀を裏から取り仕切る裏生徒会に覗きの現場を押さえられてしまい…?

 周りが女子だらけの元女子高に男子が放り込まれるというシチュエーション、そして学校内で異様に権限の強い裏生徒会の存在し、更にそこの裏生徒会長がカラスを使役する能力者であったとか、初期設定だけ見るといちいちよくも悪くもラノベっぽい。だがそこはやはり平本アキラというべきだろうか、『アゴなしゲン』の初期から相当変わったとはいえ独特の濃い絵柄は随所で健在で、それによって描かれるおかしうてやがて哀しい駄目男共の悲喜こもごもが珍妙な味わいとなって作品を支えている。
 このように下支えするダメンズ達を文字通りヒールで蹂躙する裏生徒会の女性陣もそれぞれ凶悪な魅力を発散しており、中でも1巻でいろんな意味で露出の多かった裏生徒会副会長のドS女王っぷりは特に素晴らしい。学校内に監獄型の矯正施設が存在し、もれなくドS女子高生看守に思う存分いじめていただけますというシチュエーションの歪みっぷりに負けず劣らず作中の男性読者向けのサービスシーンもアングル、状況ともにかなりマニアック。そんな逆境の中でますます輝きを増していく男子共の阿呆エナジースパイラルー…いろいろな意味でありきたりの学園コメディには満足できない皆様方も楽しめる作品になっていると思う。
 一方で主人公の少年だけはそんな異常な状況の中でもメインヒロインらしい同級生の女の子と密かに関係を育もうとしており、どうやらストーリーの縦軸自体は意外とマトモなものになりそうだ。尤も彼らの縁を取り持ったきっかけは何と大相撲の話題だったりとやはり一筋縄では行っていないけど、個人的にはツボである。

 なお、本作は各話のサブタイトルが著名な映画や漫画作品のパロディが使われており、「四つ葉と!」にはサイダーを吹いた。

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[投稿:2011-06-12 15:09:15] [修正:2011-06-12 15:20:59] [このレビューのURL]