「景清」さんのページ

総レビュー数: 62レビュー(全て表示) 最終投稿: 2005年10月17日

 帰省旅行の際に立ち寄ったJR岡山駅の本屋で「岡山県倉敷市を舞台にした青春応援ストーリー」「倉敷市観光キャンペーン採用作品!!」と妙に地元にプッシュされていたので、汽車旅行のお供になればと興味をひかれて2巻まで購入した。

 倉敷市のある瀬戸内という地域は、どうも昔からたびたびこういう青春モノの舞台になることが多く、たとえば大林宣彦監督は広島県の尾道を舞台にした青春映画を好んで撮ったし、近年ではアニメの「かみちゅ!」などの例もある。本作もそういう系譜の作品であるらしく、瀬戸内海の車窓の風景を眺めつつ楽しむには最適ではないかと思ったわけだったのだが。

 結論から言うと、特に倉敷が舞台である必然性は感じられなかった。

 本作は、倉敷市内の共学高校を舞台に様々な少年少女たちの主として放課後の日常ライフを描いたオムニバスストーリー集であり、登場人物は毎回異なる。物語は基本的に男女のほのかな甘酸っぱい恋バナか女子同士の微百合な友情話かのどちらかで、まぁ毒にもならず薬にはちょっとなる、という当たり障りの無い話が続く。
 絵柄は今風の肩の力を抜いたラフな雰囲気で、地方都市が舞台だからといって変に力を入れて背景描写なんかに注力している感は特に無い。キャラクターデザインは近年のジブリアニメ風味というか貞本義行風味というか、過剰な萌などは抑えられて自然体が意識されたものとなっており、背景演出とはよくマッチしている。作画表現に関して一部特筆すべき部分があるならば、第3話における海水面を海中から捉えたシーンなど、瀬戸内らしく水に関する描写にはこれはと思う部分もあるにはある。

 今風の肩の力の抜けたキャラ達がいかにもな友情話や恋愛話を演じるわけだが、内容がこのようにあまりにも当たり障りなく普遍すぎて、結局舞台が北海道の函館だろうが神奈川県の鎌倉だろうが愛媛県の宇和島だろうが成立する感は否めない。自分は倉敷市民でも岡山県民でもないので本作の倉敷描写がどれだけ忠実なのかはよく分からないが、背景描写の全般的な淡白さもあって本作を片手に倉敷市内を巡礼してやろうという気は起きなかった。
 というよりなぜキャラを標準語で喋らせる?多少注釈は増えようが、ここは方言を使うべきだろう。作者は方言女子の魅力を知らんのだろーか。
 あと、これは需要は少ないだろうが、もそっと男子高生同士のボンクラ青春ストーリーも入れるべきだろう。

 作品単体で見ればこんな具合にやや辛辣になってしまう部分があるが、本作のこの力の抜け具合はそう悪い点ばかりでは無いのかも知れない。
 例えば地元を巻き込んでブームを起こした成功例としては埼玉県の鷲宮町でおなじみの『らきすた』が有名だが、あれだって鷲宮町が舞台である必然性など希薄だった事だろう。
 本作がもし何らかのきっかけでアニメ化を果たし、しかも京都アニメーションなどの優秀なスタジオが制作を担った暁には、原作のこの淡白さを最大限に活かして凄まじいアレンジを施して映像化、新規獲得のファンが聖地巡礼だと大挙して倉敷に押しかけ地元は嬉しい悲鳴……そんな遠大な計画が本作を観光キャンペーンに採用した地元の商工会議所の中で描かれてそうで、何やら複雑な気分になってしまった。

 やや微妙な作品ではあったが、肩の力を抜いて楽しめるので汽車の長旅における暇潰しの役目は果たしてくれた。しかしいくら旅先で金銭感覚が麻痺していたとはいえ、単行本のこのボリュームで一冊税込672円はどうかと思う。

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[投稿:2011-08-18 00:00:06] [修正:2011-08-18 00:00:06] [このレビューのURL]