「景清」さんのページ

総レビュー数: 62レビュー(全て表示) 最終投稿: 2005年10月17日

吉田戦車の歪んだヘタウマな描線が紡ぐ極上の不条理4コマギャグ漫画。
しかし、「不条理だから何をやっても許される」といった甘えはこの漫画には存在しない。かわうそくんと森の仲間達の描写はともかく、話の舞台は日本の日常風景であることが多く、学校や職場、一般家庭といった市井の人々の生活空間が確かにそこに存在し、そこで交わされる会話だけを(話から切り離して)抽出してみるとそんなに不自然な感じは実はあまりしない。

例えば田舎から上京してきた大学生、「斉藤さん」を巡る一連の物語を見てみよう。美人のアパート管理人さん(既婚)に励まされながら勉学に励む小心者な苦学生の斉藤さん。無事に合格した後に、実家の母にへこまされたり浪費が祟って家賃が払えなかったり、ブルーになってギターを弾いたり、調子に乗って体育会系の部活に入ったり失恋したりして最後には無事就職する。
こうして見るとどっかで見たような青春コメディだが、それを不条理たらしめているのは斉藤さんが体つきはリアルなくせに顔だけ締まりの無い田舎者の面構えの、不気味な人面カブトムシであると言う点であり、そして周囲も全くその事を疑問にすら思っていないという点である。そのくせ、彼の送る大学生活には得体の知れぬ冴えないリアリティーが悶々と充満している。

 この「不条理」と「条理」のあわい、バランス感覚が絶妙すぎるのだ。圧倒的にねじくれまがったギャグの論理を、市井の人々の織り成す妙に日常的な生活模様が不気味に補完している話が多い。
 この作品に描かれた日常の風景が完全に過去のものとなる前に読んでおきたい漫画ですね。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2005-10-18 20:51:56] [修正:2005-10-18 20:51:56] [このレビューのURL]

 ラブコメ無しの美少女ギャグ漫画、というと「あずまんが大王」などが連想されるが、本作はそれらの作品群とは対極にあるような作品。のっぺりとした間の取り方やズレたやりとりなどでは無く、考え抜かれた奇妙なシチュエーションの畳み掛けるような絨毯爆撃で読者を爆笑の渦に叩き込む。
 一応主人公の鬼丸美輝や、メイド服スタイルのライバル看板娘の神無月めぐみなど美少女キャラ主体のキャラ構成ではあるが、一般的な意味での萌え要素はあまり期待できず、エゲつないこと極まりない看板娘対決、それを更に囲い込むかのように配置された素敵だがどこかぶっ飛んだ町民達の喧騒に包まれた日常生活が描かれる。
 この漫画が良いと思えるのは、とにかく読者傾向を問わず楽しめる懐の広さ。戦隊ネタなどのマニアックなギャグもあるにはあるが、基本的にドタバタ騒ぎを基調としたギャグは読み手を問わず楽しめるものばかり。時々思い出したようにセリフ無しのサイレントギャグ話などが挿入される辺りからも、その地力の高さがうかがえる。ただ笑えるばかりでなく、時にはジーンとさせられるちょっといい話があるのも良い。
 砂場で転んだときに口に含んだ砂鉄の味を思い出すような、多くの人に読んでもらいたい漫画です。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2005-10-17 20:25:09] [修正:2005-10-17 20:25:09] [このレビューのURL]