「景清」さんのページ

総レビュー数: 62レビュー(全て表示) 最終投稿: 2005年10月17日

[ネタバレあり]

80年代と共に在った漫画。
主人公はアンドロイドで脇役も変人ばかり、世界征服を企むマッドサイエンティストやら美少女幽霊やらも巻き込んで平穏な学園生活は上を下への大騒動……という体裁の、いかにも80年代的な学園ギャグ漫画だが、そういう奇妙な設定のワリには全体を通じて事件らしい事件がほとんど起こっていない事に驚かされる。
まず主人公のアンドロイド「R・田中一郎」が最後までとぼけた役どころに終始してさしたる成長を見せなかったのをはじめ(ロボットだしね)、美少女キャラが多数登場するにも関わらずラブコメ的雰囲気は薄く、キャラはリアルに歳をとり(留年したRを除いてメインのサブキャラ達が連載中になんと卒業!)、その後も何事も無かったかのようにOBとしてひょっこり学園に顔を出したりする。
そもそも主人公一行の所属していた部活が「光画部」、つまり写真サークルなどという影薄い文系サークルであった事が象徴的で、一所懸命な体育会系とは違ったゆる〜いアプローチで様々な行事ごとに介入しては場をかき乱す姿が何とも馬鹿馬鹿しく、かつリアルだった。
作者は70〜80年代のアニメブームの渦中からこの業界に入ったオタク世代の長兄のような人なので、東宝特撮などのマニアックなギャグを(ゆるくさりげなくしかし濃く)封入しており、それがまたこの作品に奇妙な陰影を結果的に与えているように思う。
最終回付近では、Rを作ったご町内の天才科学者成原博士が世界征服の手始めに学校を占拠し、まるで大阪万博のパビリオンのような秘密基地を建造する。博士の危険な野望を阻止すべく春風高校光画部のOB・現役、その他彼らに関わった様々な奴らが力を合わせて戦う最終章は、あくまでギャグであり、かつ緊張感のかけらも無いゆるい雰囲気の中行われたが、それが却って何事も無かったけれども何故か無性に楽しかった狂騒の学生時代の終わりを痛切に感じさせて見事だった。秘密基地の中枢である太陽の塔もどきが崩壊していく様を見るにつけ、高校最後の学園祭が今終わろうとしている時にも似た無常観を感じたものである。
しかしエピローグで、OBとなってしまったメインキャラ達がそんな儚さを吹き飛ばすように現役のハイキングだか撮影旅行だかに同行し、変わらぬ間抜けっぷりを見せ付けて物語は終わる。最後までゆるくドラマティックさに欠けた、しかし確実な時の流れを掬い取って見せたこの漫画らしい最終回だった。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2006-01-14 00:29:17] [修正:2006-01-14 00:29:17] [このレビューのURL]