「ジブリ好き!」さんのページ

(2010年10月、レビュー全改変、他作品のネタバレも含むので注意)

「なるたる」なんて柔らかいタイトルと、明るい1巻の表紙から、いったい誰がこんな残酷な物語を想像できたでしょうか。
あるいは、アニメから入った人は、いかにも子供向けな感じのほのぼのなOPに騙されたことでしょう。
今では予備知識なしに手を出してはいけない鬱漫画の代名詞です。

淡々としたテンポなのに、重い。
暗く残酷な展開と、何気ない日常のシーンの温かさ。
天真爛漫な主人公・シイナと、その周りの殻や闇をもった子供たち。
こうした対極的な要素が調和して、より残酷な運命が生まれていきます。

いわゆるセカイ系という分類に入るので、その筆頭である最終兵器彼女やEVAと似たラストを迎えますが、その本質は全く異なります。
EVAの旧劇場版でのラストでは、シンジとアスカが残りましたが、他の人間は「補完」という死とはまた違った状態になります。
一方こちらは全滅ですので、サイカノ寄りのラストと言えますが、サイカノでは人が死に絶えた地球から「船」で脱出し「二人だけの」世界に入って終わります。それに比べてこの作品は、嫌いなら作りなおせば良いという思想の下、人類の再生が行われます(アルゲマイネ原野さんがおっしゃるように、涅の「命は代替がきくから命たりえる」という言葉が肝でしょう)。
EVAの(人の心の隙間を埋め完全となるための)人類補完、サイカノのキミとボク「だけ」の世界、そしてなるたるの、「珠たる子」として選ばれた涅と秕の二人の乙姫が地球の脳神経として地球の代わりに行う破壊と再生。
三者とも、似てるようで違うラストです。
面白いのは、人類を再び生むという点でなるたるが一番アダムとイヴの役割を果たしているはずなのに、生き残った二人はイヴとイヴ。EVAもサイカノも男と女が生き残るのに、決定的に違います。

また、EVAや他のファンタジーと異なるのが、主人公が少女であること。
そしてそれ故に、圧倒的に無力であることです。
行動的で正義感もあるシイナは、竜の子の事件に積極的に関わっていくけれど、シイナの力で竜の子を止めたり、何かが解決したりはしません。
シイナを守ろうとする周りの手によって事態に変動は起きますが、そのたび自分の無力を味わい、救いのない方向へ進む…。貝塚ひろ子の回など特徴的です。
追い詰められた人間のとってしまう行動、それが悲しいくらい響き渡る。
貝塚の絶望と最後のシイナの絶望。スケールの大小の差はあれど、根は同じ。
悪いのは自分なのか世界なのか?いじめの原因はいじめられる側にあるのか、いじめる側にあるのか?
盲目的にマスコミの情報を受け取ってしまった人々によるデビルマンのようなラストシーンも含め、竜の子がもたらす悲劇だけでなく日常の闇・人間の闇も強く描かれます。


秀逸な伏線の数々と独特の魅力で、憑かれたように読み耽りました。
キャッチコピーは「未来に贈るメルヘン」
まさにshinpe-さんのおっしゃる通りで、僕は現代の新しいメルヘンの形として、この作品を高く評価させていただきます。

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[投稿:2009-12-15 02:45:22] [修正:2010-10-17 02:25:58]