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さて、同人でも有名だった冬目先生の代表作である今作ですが、この閉鎖的で叙情的な雰囲気をどこまでプラス材料として感じられるかで評価が決まってしまいそうですよね。
あまりにも完成された雰囲気とそれに相まった画。
これを携えて今作では閉鎖的で破滅的な物語を描いていますが、正直自分には「独りよがりな雰囲気漫画」といった印象をうけました。

こういう独りよがりで発展性のないストーリーは同人で売れた作家さんに多くみられる傾向だと思いますが、やはり近年の同人の力というのは大きいようで、そこで活躍すれば熱狂的なファンを多く引っさげてプロデビューできます。
そこでは「独りよがり」は短所などではなく作者の独自性・世界観を表す長所なわけで、「独りよがり」と言うのは決して悪い意味ではなく「マニアックな」という意味に変わります。
それ故に万人受けしなくなりそうですが、コアなファンから徐々に普及し話題となり、今作のように映画化され一般にも広く受け入れられるわけです。
(冬目さんに限らず、羽海野先生やおがき先生、高河先生などもそう)

もはや文学といってもよいレベルの作品。
あまりに文学的すぎてむしろ小説でやれば良かったのにとも思いますが、冬目さんの画と雰囲気が「和」の心地を存分に発揮しているので一概にそうは言えないかも。
ただ、漫画として描くには起伏がなさすぎる気がします。
若干のミステリ調が読むのを助けてくれましたが、この淡々とした発展性のない緩やかな時間の流れにいささかの飽きを感じてしまう人もいるでしょう。

「羊の群れに紛れた狼はさみしい牙で己の身を裂く」
このプロローグの解釈の仕方も面白いです。
一見して一砂と千砂が狼に、羊の群れとは八重樫や水無瀬といった高城をとりまく人たちのように思えます。吸血鬼にならないため、周囲から遠ざかるけど、血に飢えて苦しむ。まさにプロローグ通りの狼ですが、するとタイトルの「羊のうた」はそんな二人に、高城に近づきたくても近付けない、八重樫や水無瀬、江田や風見といった人たちの嘆きを表すことになります。
あるいは7巻で千砂が「わたし達は牙を持って生まれた羊なのよ」と言っているように、羊とは一砂と千砂で、狼こそ八重樫らなのかもしれません。
彼らの優しさが、二人を傷つけているのだから。そしてまた、彼ら自身も傷ついています。

主役の二人か、脇役のキャラ達か、誰に感情移入できるかで、「羊のうた」の意味は変わってくるでしょう。
タイトルの由来である中原中也の「山羊の歌」なども参考にしてみると面白いです。

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[投稿:2010-11-04 02:27:53] [修正:2010-11-15 03:12:40]