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10点 ピンポン

私の中ではスポーツ漫画の比類なき名作として君臨している作品。色んな意味で2つとない作品と断言できる。
ネタバレ成分大なので未読の方は注意するようお願いします。

・主題に則った無駄の無いストーリー
表のテーマはヒーロー。主人公ペコの再生が描かれる。
ドラゴン戦での頭上を鳥が飛んでいくシーンが示すようにヒーローとは他の凡百の者たちの上の空を高く飛んで飛翔し、違う景色を見せてくれる存在。
作中屈指の名シーンであるドラゴンがトイレにこもる場面でドラゴンは自問自答する。誰のために、何のために卓球をするのか、必死に練習して勝ち続けることに意味はあるのか…。ペコはドラゴンを彼の見る景色まで連れて行く。そこでは意味はなくなり、残るのは卓球をすることの純粋な喜びと楽しさだけ。
だからこその「怯える暇などない。怯える必要などないのだ!」「此処はいい。」というドラゴンの満たされた思い。一巻分にも満たない長くはない試合にスラムダンクの山王戦をも越える圧倒的な密度の感情と叫びがつめられている。
裏のテーマはヒーローではない凡人達。
松本大洋は敗北者に優しい。とはいっても努力はいつか報われるなんて見当違いなことを言うわけじゃない。試合に負けて落ち込む孔文革をコーチは諭す。全てを費やした上で挫折したとしても、それでも人生は長く、いつだってスタートラインに立てるのだよと。
ピンポンに凡人はたくさん登場する。アクマや孔文革はもちろん、究極的にはドラゴンさえそうかもしれない。現実的に天才は一握りで、大多数は凡人だろうし私も後者だろう。ピンポンの最後のスマイルとドラゴンの会話からすると松本大洋が本当に書きたかったのは凡庸の救済だったのかもしれない。彼らがみんな居場所を見つけられたのは本当に嬉しかったし、コーチの台詞には私も救われたように思う。

・松本大洋のぶっとんだセンス
擬音といい台詞といいこの人のセンスは荒木飛呂彦並みにぶっとんでる。
字体や擬音の置き方が場面場面で独創的すぎるくらいなのに、雰囲気を表すのに最適なものとしか思えない。実際に見ると分かるが凄すぎる。
アクマ、ピンポン、ペコ、ドラゴン、登場人物の全てに名言があるように思えるくらいこの人の言葉選びと会話は印象的なものが多い。特にドラゴン戦はその全てがもうね…。

・熱く、まるで映画のように洗練された試合
松本大洋の個性的なド迫力の絵と擬音による効果音で描かれる試合はドラマチックでありながらもめちゃくちゃ熱い。そして絶妙なタイミングで挟まれる静の場面。激しく動を描いてきた中でのこの間と雰囲気にはぐっとくる。この人の描く表情は言葉以上に雄弁に語るなあ。

濃密な物語とそれを表現しきる松本大洋の世界観。
完全さと勢いを合わせ持ち、これだけ好みの作風となると文句なしの満点。最高です。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-07-26 00:58:54] [修正:2011-07-27 03:56:21]