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8点 Sunny

もう何かたまらんなあと思う。
どこまで進化するんだよ松本大洋。

親元で暮らせない子供達のための施設「星の子学園」。そこに生きる子供たちを描く物語。

松本大洋自身、かつてこういう施設で暮らしていたそうで、だからこそデビュー当初から温めていた作品だったらしい。でも自分の中の体験となかなか折り合いがつかなくて、ようやく40代になった今描くべき物語と感じて執筆に至ったと。
まさにこの作品は松本大洋の少年期への落とし前なのだ。

学校に来る子どもは彼らにとって2種類に分かれる。「施設の子」と「家の子」だ。施設に暮らす彼らは決して不幸ではない。施設の運営する人々は優しいし、ここではみんなが家族だ。

でも、それでも決して割り切れないものがある。家の子を認めたくなかったり、どうしても羨ましく思ってしまったり、施設にいる自分を認めたくなかったり、色んなやつの色んな思いがひしひしと伝わってくる。
彼らの思いを体現するのがSunnyだ。Sunnyとは星の子学園の敷地内にある今は使われない廃車。どうしようもなくなった時彼らはここに来る。彼らはSunnyで旅に出る。何とも切なくてたまらない夢。これこそが本当のファンタジーなのかもしれない。

ピンポン以降、松本大洋は革新的な表現技法や二つとない物語でたくさんの傑作を生み出してきた。
でもこのSunnyには装飾が全くない。松本大洋らしさはあっても平々凡々な物語。でもだからこそ松本大洋の核が見えてくる。いつも彼の作品の根底にあったのは心の奥底に訴えかけてくる力。今までにないほどそれははっきりとしていて強い力を持っている。
本当に泣ける、というのはこういうことだ。

また絵柄は少し変化した。過去の情景を思い出しているような、少しぼやけてかすれた叙情的な絵。日本の作家でここまで多彩な線やトーンに頼らない黒を突き詰めているのはこの人くらいじゃないかな。
いつまで松本大洋は進化し続けるのだろう。止まらないからこそ彼やくらもちふさこはここ数十年漫画界のトップを走ってきた。本当にすごいよ。

めちゃくちゃ切なくて愛おしい少年達、彼らはどこへ向かうのか。
松本大洋の新たなる代表作の誕生、見逃すのはもったいない。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2011-10-03 00:35:15] [修正:2011-10-03 01:09:54]