「boo」さんのページ

帯に書かれている通り、DKRのフランク・ミラーが贈る“男泣き必須の伝説的名作”。

泣く、と言っても色々ある。人が死んだ時、別れる時、夢が叶った時、などなど色んな場面で人は泣く。
このデアデビル:ボーンアゲインは男泣き必須の名作と言われる。それは大人の男の生き様に涙するということだ。これってかなり凄いことじゃないか?

デアデビルはマーヴル社のヒーローの一人、放射能によって視力を失った代わりに触覚や嗅覚などの超人的感覚を得たその名の通り恐れを知らない男。デアデビルの素顔はニューヨークのヘルズキッチンに住む弁護士、マッド・マードックだ。
しかしかつての恋人カレンが薬物欲しさにデアデビルが誰なのかを明かしてしまう。デアデビルの正体がマードックだと知った宿敵キングピンはマードックから仕事を、金を、友人を、そして終にはデアデビルを、精神の平衡すら奪ってしまい…。

ボーンアゲインは再生、復活を意味する。そう、ボーンアゲインはデアデビルの失墜と再生を描いた物語。
これを読めばヒーローが何故コスチュームを着て、顔を隠すのかが嫌でも分かる。ヒーロー自身は、デアデビルは恐れを知らない男かもしれない。でもマッド・マードックはそうではない。彼には彼の生活があり、大事な人がいるのだから。そしてデアデビルはマードックありきのものだ。
キングピンはマードックから全てを奪う。本当に全てを。しかし完全に折れ、絶望してもなお彼は…。

何故ここまで熱くなれるのか。それはデアデビルではなくマードック、そして新聞記者のユーリックやカレンも共にどん底から這い上がる物語であるからだ。ヒーローが立ち上がるんじゃない、マードックや彼らが力を振り絞って立ち上がる。ただの人間だからこそ、ぶちのめされてぶちのめされて、絶望の果てにもう一度…という姿に勇気をもらえる。
そう、恥ずかしげもなく言うと勇気をもらえるのよ。かつて少年漫画を読んでいた時のように。でもこれは“大人”が読んで勇気をもらえる物語。男の物語。

最後の方は様相が変わって、デアデビル復活直後の話になるわけだけど、こちらは焦点がぼやけ気味でちょっと残念だったりする。ダークナイト・リターンズのように個人の正義は国家の正義と衝突するという話ならば、最終的に戦うのはキャップになる気がするんだけど…。
ただ悪い話というわけではなくて、普通に楽しめはする。再生までの話で十分お釣りが来るので無問題。

今の所邦訳されたデアデビルの話はこれと、マーヴルクロス収録のラブ・アンド・ウォーのみ。こちらもミラー担当の(アートはマツケリーではないけど)傑作なのでまた別に紹介したい。ちなみにデアデビル入門にはボーンアゲインの方が分かりやすいのでおすすめです。
エレクトラも含めてミラーのデアデビル関連はぜひ邦訳を進めて欲しいな。

結局気に入るかどうかはストーリー云々じゃなくて、フランク・ミラーの男の美学が肌に合うかどうかだろう。ただこの人はハードボイルドを書かせると随一な方なので、好きな人には間違いない。
熱くなりたい、勇気をもらいたい大人の男は今すぐ読もう。男泣きしたい人には言うまでもない。熱く涙するという稀な、そして最高に気持ちの良い体験が出来るはず。

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[投稿:2011-11-08 20:18:48] [修正:2011-11-09 00:06:06]