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 岩岡ヒサエは土星マンションが初めてだったのだけれど、これは好きだった。
 完結後に一気読みしちゃって、連載中にゆっくり読んでいきたかったなぁとちょっと後悔したりして。本当はもっとかみ締めるように読んだ方が良いような、そんな作品。

 人々は地球に住むことを許されず、地球を囲う上中下層に分かたれたリングシステムで暮らすようになっていた。リングの下層住民ミツは、事故で亡くなった父親と同じく、リングの窓拭きとして働くようになって…。

 いわゆるラリー・ニーヴンのリングワールドの世界。一応SFということにはなるのだけれど、土星マンションで描かれるのはあくまでリングに生きる人々だ。隣家の住人、窓拭きの組合の仲間たち、ミツが依頼を受ける上層の住人たち…ミツの世界は少しずつ広がっていく。

 優しいSF人情劇。みんなまっすぐなんだよなぁ。捻くれた真でさえも、まっすぐに捻くれていて。また数少ない悪人(この言い方もしたくないけど)にだって、感じるのは嫌悪ではなく人間の業に対する痛々しさだ。良いお話が良いお話としてすっと入ってくる素晴らしさを存分に味わった。
 岩岡ヒサエが描くリングで囲まれた世界にはブレがない。多分この人、自分の頭の中には確実にその世界が存在しているのだ。それを覗いて絵にしているんじゃないか、とさえ思ったりして。またフリーハンドで構築された世界は物語に対して感じる印象と同じく、素朴で優しい。絵と物語がぴったりと調和している。

 そんなユートピアのような世界でも、時は動いていく。窓拭きを辞める人もいれば、新しく入ってくる人もいる。永遠じゃないからこそ、よりこの世界とここに住む人々が愛おしかった。
 土星マンションで一貫して描かれ続けるのは、人のつながりの大切さだ。ミツを通してつながってつながってつながった絆は、ラストに結集される。仁さんだけではなく、みんなが叫んでいるのだ。
 
 「どこにいたって、一人きりになんてさせねーからな。」

 シンプルで、でも人が忘れやすいもの。それが素直に心に染み入ってくるのは良い作品ですよ。リングシステムであっても、確かに人間は生きていた。SF好きにもそうじゃない人にも、おすすめ。

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[投稿:2012-03-27 18:58:29] [修正:2012-03-27 18:58:29]