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 ようやくの完結! 後はこの調子で呼出し一の続きもぜひ!

 ビルから飛び降りた謎の女「朱」。彼女とつながりのあった作家・溝呂木は事情聴取のため警察に呼び出される。そんな彼の前に現れたのは朱の双子を名乗る、彼女に瓜二つの女「三木桜」だった…。

 中村明日美子が描くサイコ・サスペンス。とは言っても1巻時点ではあんまりサスペンスやミステリー的な魅力は感じられなくて…。何といっても作品を彩る要素が派手すぎた。
 瓜二つの美少女を巡る謎。初老の渋い作家。罪の匂い。退廃的な愛。中村明日美子は痴人の愛のナオミのような魔性の女、ファムファタールを具現化しようとしているのだと思った。自分のものにするためならどこまで堕ちてしまっても構わないといったような女を。彼女の描く圧倒的な白と黒の魅力にはそれを可能にする力があったわけで、サスペンスなど脇になってしまうくらいウツボラの美少女たちは耽美だった。精神の不均衡を伺わせるような病的な瞳には気付けば吸い込まれてしまっていた。

 しかし完結巻である2巻では一転して、サスペンス性が強くなる。一読では頭の中がこんがらがってしまう複雑なプロット。説明は最低限なので自分で考えていく謎解きの楽しさはもちろん、謎を解いていくことが謎の女や溝呂木たちの素顔を明らかにしていく仕組みなのがおもしろい。
 しかしここで気付いたのは、ファムファタールを描くこととサスペンスとしての物語のおもしろさは決して両立しないということで。魔性の女とは心の内が読めないからこそ魔性なのだ。複雑な謎がどんどん解かれていく内に彼女達は底を見せ始める。耽美は少しずつ薄れていき、魔性の女はただの女に近づいていく。

 そして虚飾が剥かれて剥かれて剥かれた後に残ったもの。それはむき出しの作家の業の深さであり、女の業の深さだった。
 何よりも才能を欲しながらも才能の枯渇に脅えるもの。どんなことをしてでも愛を求めるもの。その二つの業がせめぎあう様にはもう圧倒されるしかなかった。そして遺された二つのものには心を抉られるしかなかった。

 これは作家でありなおかつ女であるからこそ描けたのだろう。しかも一時期にしろ筆を折っていた中村明日美子の影を裏にひしひしと感じないわけにはいかなくて。作るものの落ち込む深淵の深さを一端にでも覗いたように思えて鳥肌がたった。

 復帰後に初めて読んだのがウツボラの2巻なのだけれども、やっぱり中村明日美子はすごい! 文句なしの傑作。もちろんおすすめ。

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[投稿:2012-05-25 23:18:49] [修正:2012-05-26 16:32:55]