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 機械のような演奏をすることで知られていた元天才ピアノ少年が、自由奔放な天才美少女ヴァイオリニストに出会う。そしてもう一度演奏家達の世界へ!…というボーイ・ミーツ・ガールもの。

 まあ上手い。超絶上手い。めちゃくちゃ上手い。前作「さよならフットボール」からさらに進化して、新川直司は盛り上げる技術に関してはもう今の漫画界でも随一くらいのレベルに達してんじゃないかくらいに思った次第。
 だってもはやこの人、話を盛り上げるのに大した物語を必要としてないわけで。例えば、かつて主人公・有馬がコンクールに出場していた時に彼の影に隠れていたライバル二人のお話。当時有馬が全く自分達のことを見ていなかったこと…この単純な“思い”だけで、新川直司はいきなり登場した二人の演奏を下手な漫画のクライマックスくらいの勢いで盛り上げてしまえる。しかもたった三話でだぜ? とんでもない。

 ぱらっとページをめくってみるだけで、執拗に過去のフラッシュバックやモノローグが何度も挿入されているし、視点は一人称で進んだりまた複数の視点が同時進行したりところころと変わるのが分かる。そして何よりもすごいのは、それだけ凝りに凝ってかつスピーディーに技術を詰め込んでいるのに至極読みやすいんだよなぁ。だから上がって上がりきったキメの場面ではぞわっと鳥肌がたってしまう。

 また明らかなボーイ・ミーツ・ガールものなのに、少年とヒロインがあんまり恋愛の方に進まなさそうというのはおもしろい所。多分二人は恋愛とは違う所でつながっていくのだろう。「君は君だよ」というヒロインの台詞で救われた少年の思いは分かる。じゃあヒロインの少年への思いは何なのだろう…。
 主人公の過去へのトラウマとか、ヒロインの病気とか、幼馴染との関係性とか鉄板な設定を詰め込んでいる一方で、「四月は君の嘘」という意味深なタイトルや闊達さに似合わずヒロインの謎めいた雰囲気はミステリーとしても中々におもしろくなりそうな気配。だって未だにヒロインが何故こんなに主人公にこだわるのか分からないのだ。読ませるなぁ。

 ただ今の所、まだ技術的には凝りに凝ってる作者が物語の方にその気持ちを傾けられるかはよく分からない。大した物語がなくとも瞬間的には沸騰させてしまえる人だけになおさら不安な気がしないでもなくて。しかし物語が上手く折り重なって、そこに新川直司の技術が乗ってくればどんなにカタルシスが得られるのか…楽しみに待ってます。

追記
・「君は君だよ」の“君”って何だよとか多少意地悪な突っ込みもしたくなる部分も多いのだけれど、そこはあくまで少年漫画だからしょうがないとも思う。
・そういう意味では自分探しものとしてやっぱりモテキのあくまで前向きでしかもはっきりとしたラストは秀逸だったよなぁと今さら。

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[投稿:2012-06-11 00:38:22] [修正:2012-06-15 00:43:59]