「景清」さんのページ
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7点 俺物語!!
「少女マンガの大革命!」という宣伝文句が示すように、西郷どんのようなゴツい男子が表紙を飾るというあまりにも斬新過ぎる装丁で世の漫画読みの注目を集め、しかもその西郷どんが主人公で王子様役となり美少女と恋に落ちるというこれまた少女マンガとしては革命的過ぎる内容で話題となった作品であるが、いざ読んでみると過度にネタに走ることもない地に足の着いた”少女マンガ”であった。
王子様役がクールなイケメンではなくゴツくて不器用な西郷どんという設定は確かに少女マンガにおいては斬新だったかもしれないが、しかし読む前に本作の話題を知って当初感じたのは「でもそういう非モテと美少女の恋って、ワリと世間のラブコメ漫画ではよく見かける設定だよなー」というそう言ってしまえばそれまでのものだった。これまで読んできたラブコメ作品の多くは(いずれも非少女マンガ)、”何の変哲もない”(が顔はそこそこイケメンな)男主人公が些細なきっかけで美少女たちに惚れられまくる…みたいな作品が多かったため、ブサメン男子x美少女という本作『俺物語!!』の設定にそういう一般誌ラブコメに近いイメージを勝手に抱いていたのである。
が、いざ読んでみるとそんな当初のイメージはいとも簡単に覆された。主人公の剛田猛男は決して単なるブサメンではなく、見てくれを超えた凄まじくいい漢だったのである、男も惚れる的な。そして、表紙の買いやすさにも助けられ本作に接したこと、ただラブコメと言っても少女マンガと一般誌ではかなり異なるものだということを改めて思い知った。
昔から少女マンガにおいて最も好まれる題材が男女の恋愛を描いたラブコメディで、反面昔の少年マンガにおいては恋愛など添え物に過ぎずスポーツ、ギャグ、バトルなどのジャンルこそがメインであった。(一応少女マンガにもそれらはあったが)
ところが70年代末~80年代初頭にかけて高橋留美子やあだち充、まつもと泉らの活躍により少年マンガにおいても美少女メインのラブコメが人気ジャンルとなっていき、それら美少女への偏愛を萌えなどの形で昇華した作品群が今や一大ジャンルを築くに至ったのは周知の通りである。
上でも述べた通り、主に男性読者をターゲットとする一般誌のラブコメマンガではできる限り主人公の男を多くの男性読者が自己を投影しやすくするために特徴のない平凡なキャラにする傾向にある。その結果往々にしてとりたてて特徴のない少年が何故か家庭的な幼馴染や才色兼備のお嬢様、氷の瞳のクールビューティーなんかに惚れられまくるみたいなシチュエーションが成立するわけだが、少女マンガにおいてはそうではない。
少女マンガにおける恋のお相手の男性キャラはあくまでも”王子様”的な要素が必要である。優しさ、強さ、財力、高潔さ、そしてイケメン。男からすれば「都合いいなぁ」と感じるが、男向けラブコメの都合良さを考えれば文句は言えまい。
さて、本作の主人公の剛田猛男である。まるでゴリラのような逞しい肉体を誇り強さは申し分ない(野生の猪と取っ組み合いができる)、ヒロインを思いやる優しさも備えている。しかし、とにかく女心を解せぬ不器用さは見ていて歯がゆくもあり、家は別に金持ちでもない普通の庶民、そして何より、容姿が…顔がっ………!!
だが、猛男はその精神の高潔さにおいて紛れもなく王子様であった。それこそが本作をなんやかんやで素敵な少女マンガたらしめている理由である。
猛男は非常に男らしい漢で同性の男子からの人気は抜群だが、顔が災いして女子との恋は実ったことはなく、好きになった女子はみんな友達のイケメン砂川の事を好きになってしまうというジレンマを抱えていた。しかし、見たところそんな己の境遇をやっかんだり「どうせ俺なんて…」と卑屈な態度をとるそぶりがまるで無いのである。
たとえば『ああ女神さまっ』の主人公の森里螢一が背の低さにコンプレックスがあり女性にモテないことを当初かなり僻んでいたように、もてない男は大なり小なり「俺がモテないのはどう考えてもお前らリア充が悪い!」というルサンチマンを世間に対して抱くものだが、猛男にはそんなカッコ悪さがまるで無いのだ。好きな女がみんな友達になびいてしまうという現実もそんなものだと割りきっており、それどころか友人の恋が実るよう心の底からの協力を惜しまない。(当のイケメン友人砂川は自分に流れてきた女子からの告白を全て断っているが、その理由がまた泣ける…)
ところがそんな猛男にも遂に春がきた。電車で痴漢に絡まれていた美少女、凛子ちゃんを助けたことがきっかけで誤解を挟みつつも恋人同士になるわけだが、いざ恋人ができたら猪突猛進、全く照れも卑屈さも無しに堂々と「好きだ!」と心中何度も何度も叫ぶ猛男。なんという潔さだろう。同じ『俺物語』でも『あごなしゲン』ではエラい違いだ。
そんな猛男のブレない高潔さがよくあらわれているのが2巻の柔道戦のエピソードであろう。彼女が出来たことをライバルに「彼女つくってチャラけてる奴に負けねえかんな!」(何か泣きたくなる…)となじられようとも、全く動じることなく堂々と
「彼女はいいぞ」
これこそ、一般誌のラブコメ男主人公にはほとんど真似できない猛男の高潔さ、王子の風格なのである。火事の現場から見事に脱出を果たし泣きじゃくる凛子を胸に抱きながらの
二度とおまえを
泣かせはしないと
誓う
…こういうモノローグを照れずに違和感なく挿入できている点でもやはり少女マンガなのである。
主人公の容姿ゆえに革命的と評されることも多い作品だが、土台はしっかり少女マンガしており、普段この手のジャンルは苦手な人にとっても間口広く受け入れられやすのも大きな魅力だろう。そして、今後似たようなコンセプトの作品が出ればかならず「ああ俺物語みたいなヤツね」と未来永劫評されかねないくらいオンリーワンの作品でもある。
ちなみに原作者は断じて猛男はブサメンでは無いと主張しており、ヒロインの凛子もどうやらもともと西郷どんのような逞しい漢がタイプだっったらしい…。
この作品、断じて世のもてない男性に安易なカタルシスを与え救済する作品では無いのである。
自分はというと、とても猛男のような格好いい漢にはなれそうにはないのが悲しいところである。
ナイスレビュー: 1 票
[投稿:2013-04-07 23:17:48] [修正:2013-04-08 20:32:43]
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