「景清」さんのページ

[ネタバレあり]

 以前、数年間だけではあった群馬県にほど近い北埼玉の某所に住んでいたことがある。当時はたいして意識することもなかったが、夏はうだるように暑く一転冬は吹雪に沈み、自転車に乗れば常に強烈な向かい風、食卓につけば味噌汁の代わりにすいとんが供され、そして、謎の「焼きまんじゅう」の看板…。今思えば、自分たちは知らず知らずのうちにグンマの洗礼にさらされていたのだ。

 近年、アニメや漫画とのコラボレーションによる町おこしの試みが地方自治体の間で盛んになっている。埼玉県鷲宮町の『らき☆すた』や茨城大洗町の『ガールズアンドパンツァー』のような華々しい成功例もあれば、千葉県鴨川市の『輪廻のラグランジュ』や岡山県倉敷市の『めくりめくる』のように大して話題にもならずに忘れ去られる事例も多い。(群馬県も地味に『日常』や『魔法少女まどか・マギカ』の舞台になっていたりもした。)
 勿論、作品を通じて特色ある地方文化の魅力が発信され、地域活性化につながるならばそれに越したことはない。
 が、以前『めくりめくる』をやや批判的にレビューした時から気になっていたのだが、これらの地方自治体と漫画・アニメ作品が公式のコラボを行う際に感じるあの歯が浮くような違和感。地域の文化的厚みや歴史性を軽視し、垢抜けた美少女やイケメンを絵になるような風景にねじ込み、機械的に土地の名物をささっと紹介すればそれでよしとするあの安易さ。生活と切り離された絵面。観光誘致が目的の一つである以上致し方ない部分はあるにせよ、これら地域コラボ作品がその地域にほんとうの意味で根ざした作品となる事は稀である。

 そういう経緯もあり、この『お前はまだグンマを知らない』にはかなり期待していた。
 まず表紙がいい。通常この類の作品のキービジュアルは地方の絵になる風景(いわゆる聖地)を背景に美少女などを配置するパターンが多いのだが、本作の場合は、恐怖と驚愕に顔を引きつらせる男子高校生…!
 本編の方も表紙のイメージを裏切ることはなく、チバ県からグンマ県に引っ越してきた平凡な男子高校生が、面白おかしく(過激でバイオレンスに)誇張されたグンマ文化の洗礼にさらされ始終顔をひきつらせまくる内容となっている。

曰くグンマ県民以外が焼きまんじゅうを食うとなんやかんやで死に至る。
曰くグンマ県民は戦車砲がぶっ放される自衛隊演習地で花見をする。
曰くグンマ県民とトチギ県民は戦争状態にある。
曰くグンマ県民は赤城おろしへの抵抗を通し大腿部が異形へと膨れ上がる etc

 いずれも、実在の群馬県の地域的な特色を問答無用に拡大解釈しネタ化させたものばかりで、そこには一般的な町おこしコラボ作品に目立つ、土地の生活から切り離された”風景”への執着は微塵もなく、かわりにバカさの中にも一端の地域の真実がかいま見える。
(作中のキャラがゃたらヤンキーじみた連中ばかりなのもそういう不都合(?)な真実の一端だったりする。)

 普通だったら、地元がこんな具合にネタ化されたら地元の人達はバカにしやがってと怒ったりもするかもしれないが、どうも群馬県民はそうでもないようだ。
 群馬県はご存知のようにネット上では「秘境グンマー」などとさんざんネタ県としていじられており、それが本作のような作品の成立背景ともなっているワケだが、群馬県民は怒るどころか県公認で藤岡弘を隊長に迎えた「群馬探検隊」を企画するなど、このグンマームーブメントを地域振興に活かそうとしているようである。そもそも作者の井田ヒロトも高崎在住のれっきとした群馬県民で、本作からも一周回った郷土愛が感じられるところもよい。
(同じネット上の県ネタでも「修羅の国 福岡」は色々シャレになっておらず地元も困惑しているようである。)

 地域ネタ作品のコンセプトとしては共感できる所も多い本作だったが、では漫画作品単体としての評価となると、残念ながら個人的には苦しい部分が多かった。
 グンマネタをハイテンションに演出することを心がけるあまり全体的にコマ割や作画が過剰演出に走りがちな反面、セリフ回しが説明口調でテンポは悪く総じて読みやすいとは言い難い。
 誇張されたグンマネタも、水沢うどんを立体機動よろしくぶん回す安直な『進撃の巨人』パロディなど滑っているとしか思えない寒い奴も多く、全体的に勢い任せ、ネタの洗練が足りていない印象を受けることが悔やまれる。

 それでも色々と変な可能性を感じる作品ではあるので、今後の作者の成長次第によっては繭を破っておカイコ様が飛び立つような奇跡が拝める日もくるかもしれない。心にググッと、グンマ県…!

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[投稿:2014-09-04 23:49:35] [修正:2014-09-11 22:00:11]