「景清」さんのページ
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8点 火ノ丸相撲
スポーツや格闘技の世界では、世間では無名に近い新人が“怪物”としての才能を急速に開花させ、実力あるベテラン勢を次々に打ち破って一躍トップランナーに名乗り出るような番狂わせがしばしば発生する。先の大相撲9月場所における新入幕力士の逸ノ城の大関横綱を次々に破った大活躍などまさにそれであった。
ただ逸ノ城の活躍が話題になったとは言え、相撲そのものの人気は昭和の時代や若貴ブームの頃と比べると確実に下がっており、特に若い世代の支持を広く集めるのはなかなか難しいジャンルである。少年漫画の世界ならばなおのこと。
過去、ジャンプにおいては、小畑健による『力人伝説』に、つの丸による『ごっちゃんです!!』と、実力のある作家によって相撲漫画が試みられた事があり、いずれも水準以上の内容を持った佳作ではあったが、大きな人気を得るには至らず早々にジャンプシステムの土俵からはじき出されていった。(『大相撲刑事』のように悪い意味で妙に記憶に残る作品もあった。)
近年では少年チャンピオンで『バチバチ』が好評を博し、続編と合わせて5年もの長期連載となったが、それでも『弱虫ペダル』みたいに世間一般で話題になるほどの大人気を得るには至らず、残念ながら知る人ぞ知る隠れた傑作で終わってしまった。
その『バチバチ』がきっかけで相撲に興味を持ち、国技館の焼き鳥の旨さを知ることができた人間として、本作『火ノ丸相撲』がよりによって相撲漫画の鬼門とも言うべきジャンプで連載が始まった時は、嬉しさ反面強い不安を覚えたものだ。自分は応援するけど、多分子供たちや女性読者の人気は得られないだろうなぁ…と。
第1話読了後、そんな不安感はかなり後退していた。なんらかの宿命を抱えた新入生が廃部寸前の相撲部にフラッと現れ、相撲部の苦境を救うべくその秘めたる実力を噛ませ犬のチンピラ相手に存分に披露するという導入の筋書きは、はっきり言って非常にありきたり。しかし、奇をてらわず基本を守り、その表現の地力の並々ならぬ高さを見せつける完成度は、“没個性のありきたり”を“王道的な横綱相撲”へと昇華させるだけの強度が感じられたのである。作者が少年誌初連載の新人である事を忘れさせるほどに。
まだ連載が始まって日の浅い本作だが、現時点でその存在感は怪物的と言ってよい。相撲漫画が今どき受けるのかという当初の不安をよそに、『ONEPIECE』に代表される横綱級の人気作品が層厚くうごめくジャンプという過酷な土俵で、並み居る強豪作品相手に一歩も退かず堂々たる取り組みを魅せ続けており、男性ファンはもちろん女性ファンもそれなりに獲得している様子である。これには驚く一方で、とてもとても嬉しかった。
本作が、相撲という一見少年誌読者には不人気なジャンルを扱いながらも人気を獲得できたのにはいくつか理由がある。そしてそれは結果的に相撲の魅力の再発掘にも繋がっていたように思われてならない。
相撲は、ふんどしを締めたデブが押し合いへし合いとビジュアルの面で損をしている部分があるのは事実だが、シンプルなルール、短時間決着による展開の早さ、力と技と心理戦を併せ持った単純ながら奥深い攻防、と意外にバトル漫画映えする要素に富んでいたのだ。本作は相撲という競技の良さを活かすよう、試合展開は大ゴマを多用する迫力の画力を駆使する一方でモノローグによる心理描写も怠らず、そして無駄にダラダラと取り組みを長引かせない思い切りの良さで、とても高密度でテンポの良い作品となっている。
この相撲というおもいっきり男臭い世界を舞台に、体格には恵まれずとも不屈の闘志とたゆまぬ努力で己を高め続けた主人公の潮火ノ丸の存在感を軸として、周囲の人間たちが次第に感化されて行くという構図は、これぞ「友情・努力・勝利」のジャンプイズムの高らかな再提示でもあった。そして、体格というハンデを背負った火ノ丸が、それでも勝利を貪欲に求め、横綱という頂を目指そうとするその強烈な反骨の精神。
「相撲の神様?そんなもんワシがぶん投げてやるわ!」
「何を笑っていやがる」
不人気ジャンルで敢えて勝負に出た点も含め、近年のモードに真っ向から立ち向かうような覚悟ある反骨の姿勢に、一度ジャンプを離れた往年の読者も喝采を贈っているのであろう。
あと、往年のジャンプらしい男臭さを全面に出す一方で、実は本作はかなり女性ファンの存在も意識した作品になっている気がする。作者の川田は女性人気の高かった藤巻忠俊の『黒子のバスケ』にもアシスタントとして関わった過去があるので、女性ファンの存在は無論意識したはずだ。
鬼神の如き強さと歳相応の少年らしいあどけなさを兼ね備えた火ノ丸もそうだが、ガラの悪いチンピラだったくせに火ノ丸に感化されて以降強烈にデレた佑真(しかも意外と几帳面な性格で料理上手…)とか、あざとい、実にあざとい。
相撲というのはビジュアル的に損をしている部分も多いが、ほぼ全裸で体格の良い男同士が組んずほぐれつ、という絵面は筋肉フェチの女性には結構くるものがあるかもしれない。
こういう女性ファンの存在は男性読者から疎ましく思われる事も多いが、黒バス、テニプリは言うに及ばず、スラダン、キャプ翼、古くは『アストロ球団』の昔からジャンプのスポーツ漫画は女性ファンに支えられてきた面があるのは間違いないのだ。
そんなある種の女性ファンの分身と言えるのが、本作に登場する数少ない女性キャラの一人、相撲雑誌記者、筋肉フェチで(変態)淑女の名塚さんだ。
「カワイイですねぇ~みんな初々しくて。高校生サイコー!タマラン!!」ハァハァ
(キャラの呼び名がユーマとかチヒロとかミツキとかケイとか妙に可愛かったり、関係者に筋肉フェチの女性がいたりとか、某水泳アニメを意識してるんだろうか。)
本作は女性キャラの数は今のところそう多くはないものの、上述の名塚さんに佑真の妹でゲス系ヒロイン(そしてブラコン)のレイナ、と可愛くはないがどれもいい味が出ている。相撲漫画に女はいらないという意見もあるが、むしろこういう男臭い世界だからこそ女性キャラの存在は大切にしたい。
『キャプテン翼』がサッカーを、『スラムダンク』がバスケを、『アイシールド21』がアメフトをそれぞれ盛り上げていったように、ジャンプのスポーツ系作品はそれまで大人気とは言いがたかった競技にスポットライトを当てて成功する事がままある。本作がきっかけになって相撲が盛り上がってくれたらそれにまさる喜びはない。この火ノ丸という怪物が今後どれだけジャンプ場所の番付を駆け上がっていくか、大きな期待を持って見守りたい。
ナイスレビュー: 3 票
[投稿:2014-10-05 03:10:15] [修正:2014-10-06 22:47:03]
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