「景清」さんのページ
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8点 闇金ウシジマくん
不快である。実に不快な傑作である、
これまでも闇金を描いたマンガは多く、特に「ナニワ金融道」や「ミナミの帝王」などが有名だが、同じ闇金マンガでもこの「闇金ウシジマくん」は前者などとはかなり趣を異にするマンガだ。
まず、「ナニワ〜」と「ミナミ〜」はタイトルが示すように大阪が舞台となっており、いかにもな関西弁が乱れ飛びエゲツなくともどこか憎めない雰囲気があった。主人公達も人情を解する心があり、「ナニワ〜」の灰原は慣れぬ闇金業に苦闘する傍らで顧客である多重債務者の借金返済プランを考えてやったりもするし、「ミナミ〜」の萬田は善人では無いものの時折ブラックジャック的な活躍で金にはびこる悪人どもを成敗したりもする。読者がカタルシスを味わったり共感したりする余地があったのだ。
それに比べてこの「ウシジマくん」は、とにかく渇いている。人も街も殺風景で即物的、カタルシスなどあったものではない。
舞台は現代の東京、いわゆる下流格差云々が注目され始めた紛れも無い現代だ。獲るか獲られるかと問われれば躊躇せず獲るほうを選ぶ、と豪語する闇金のウシジマの行動には一切の迷いも人情も無い。そして獲られる者達にせよパチスロ依存症だのニートだのヒモだの…と、一様に情け無く溶解したような連中ばかりである。しかしながらそんな腐った連中であれやはりその末路は哀れに活写されているものだから更に始末が悪い。
このように非常に不快な話が多いのだが、一方で我々読者は本作を読んでまた安心する部分もあったはずだ。上記のように闇金に破滅させられる奴らの多くは世間的にも”下流”な、どこか別世界に思える人間達であり、「世の中下には下がいるもんだ」と思ったりもしただろう。どーせ俺は闇金のお世話になんかならねーよ、と。
しかし、現在ビッグコミックスピリッツ誌上で連載中の長編「サラリーマン編」は、そんな我々の”普通である安心”すら破壊してみせる。同誌のメイン読者層である20〜40代のサラリーマン層を仕事始めの毎週月曜日に暗鬱のどん底へ叩き込み、現代の閉塞感すら浮かび上がらせるイヤなイヤなイヤなこの物語は、しかし困った事にマンガとしてあまりに面白いものだから始末に悪すぎる。
全くもって不快な傑作である。
ナイスレビュー: 6 票
[投稿:2008-04-08 22:32:49] [修正:2008-04-08 22:32:49] [このレビューのURL]
8点 バビル2世
いわゆる”超能力バトル漫画”の古典であり、後の「ジョジョの奇妙な冒険」などにも影響を与えたであろう作品だが、未だに根強いファンを持ち、古典として眠らせておくにはあまりにも洗練されており面白すぎる漫画である。
まずこの作品が生まれた背景には70年代初頭の超能力ブームがある。横山光輝は60年代にも「伊賀の影丸」などの忍者漫画で傍目には超能力にしか見えない忍術を駆使する異能者たちのバトルを描いているが、バビル2世はその変形であると言え、そしてその影響は現在にまで連なる巨大なものとなった。
まずそれまでの超人ヒーロー(ウルトラマンや石森作品など)が人外のものに変身したり特殊なコスチュームを身にまとっていたのに対して、”超能力の覚醒者”という設定を持つ超人はまるで普段着のまま超人的バトルを行う事が可能となった。”超能力”という得体の知れないエネルギーを操る以上、何かしら変身する必要も無ければ体をムキムキに鍛え上げる必要も無く、どこにでもいそうな普段着の少年が、しかし絶大なエネルギーを行使して悪と戦うのである。バビル2世の主人公、浩一はまさしくそんなヒーロー像の原型にして最も無駄の少ない完成形だろう。それは新しい格好よさだったのだ。
注目すべきは、主人公のバビル2世がそのように普段着のまま己の使命のままに淡々と悪と戦うヒーローだったのに対し、悪役のヨミ(バビル2世と同種の力を持つ覚醒者)が如何にも感情豊かで人間味があり、多くの部下にも慕われる大人物だった点である。バビル2世のお供はコンピューター制御された冷徹な機械要塞バビルの塔と、”3つのしもべ”と呼ばれる能力の異なる3体のロボット兵器(ロデム、ロプロス、ポセイドン)だが、お察しの通り血の通った仲間がいないのである。一応日本の公安組織と共闘したりもするが、それらすら永続的な絆ではありえない。超能力者として覚醒した際にはあっさりと両親やガールフレンドの元を去っている。3つのしもべはそれぞれ忠実で頼りになる存在だが、物語後半でヨミがパワーアップして彼もまた3つのしもべを操る能力を得てしまったために絶対的な仲間ではなくなってしまった。かようにバビル2世は孤独なヒーローであり、そしてそんな孤独すら宿命としてたやすく受け入れる恐るべき少年であった。時にはヨミ以上にバビル2世の方が(見た目あどけない普通の少年である分)そのエゲツなさに恐ろしさを覚えすらしたものである。
冷徹非情な正義vs情感豊かな邪悪。
このお互いあい通じるものがありつつも決して相容れない二つの純粋で強大なエネルギーがぶつかり合うドラマは、そこに余計な内面描写などがくどく介入する事の無いぶん神話的なスケールさえ帯びており、横山光輝の得意とする知略謀略渦巻く頭脳戦をシンプルながらダイナミックかつスピーディーに描ききる作風と合わせて、今読んでも無茶苦茶面白く新鮮で、敵やメカのデザインなども洗練されている。この作品以降も同種の能力バトル漫画は多く存在するが、「ジョジョ」と同じように本作は誰にもまねが出来ない、まさしく作者である横山光輝にしか描けない傑作である。
ナイスレビュー: 5 票
[投稿:2007-07-14 02:03:53] [修正:2007-07-14 02:03:53] [このレビューのURL]
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