「景清」さんのページ

12/6/29 得点修正(7→8) 加筆あり

 週刊少年チャンピオンに連載中の主に10代の少女(時々少年)を主人公にしたオムニバス形式の短篇集で、一部の話を除き各編同士の物語の連続性は基本的に無い。最近のチャンピオンのショート漫画には『侵略!イカ娘』などかなりヒットする作品も出現するなどなかなか目の離せない作品が多かったが、本作も少女少年の短篇集というよくある形式にも関わらず非常に独特の味わいを持ち読者の心をざわざわとざわつかせる作品に仕上がっており、各所で話題になっているのも素直に頷ける。

 作者の阿部共美はチャンピオンに掲載された読切の『破壊症候群』がデビュー作だが、これも人並み外れた怪力を持つ少女が悪を成敗するというありふれたスラップスティックコメディの形態をとりながらも、癖の強いキャラクターデザイン、ハイテンションすぎる会話劇、少女の破壊衝動など随所に覗かせるブラックな変態性などの逸脱っぷりがとても印象的だった。そしてそんな作者の持ち味は本誌本格連載となった本作でも失われること無く…どころかますますパワーアップを果たしていたのである。
 
 少女や少年の揺れる心模様を描いたオムニバスストーリー集といえば得てして恋や友情、親や世間との関係性の葛藤などを描いたものになると相場は決まっているが、とても本作はそんな枠組みでは括りきれない。確かに物語の根底にあるのはそういった普遍的テーマかもしれないが、物語の狂言回しを務めるキャラたちの多くはテンション高すぎるか思い込み激しすぎる人達ばかりで、“等身大”とかそういう言葉とは程遠い思考と行動を突っ走る。
 一例を挙げると第一話の主人公である恥ずかしがり屋を直したい女の子は、矯正手段としてバニーガール姿で「うひょひょひょひょ」と夜道を飛び回ったりする。他にも女性の裸に飽きたらず薄皮一枚下の内蔵を見てみたいと言う男や、人一倍怖がりなくせに同時に人一倍怖いもの見たさでずるずると恐怖の深みにはまっていく少女、「世界は悪に満ちている」と思い込みいい年して定職にもつかず魔法少女のコスプレで町中をパトロール(というか徘徊)する女、など癖の強すぎる人達が現れては消え消えては現れ、その結果全体的には様々に提示される「心模様の万華鏡」とでも呼ぶべき幻惑的な美しさとつかみ所のない危うさが併存する作品になっている。
 尚、そういう極端すぎる人達を扱った作品以外にも、ボーイッシュな少女と気弱な少年の話「夏がはじまる」など比較的普通の人達が主体の話もあるが、共通しているのは決して順風満帆には終わらない心ざわつかせるストーリーテリングだ。結末にどんでん返しのまま投げっぱなしになる話が多く、“余韻”と一言で済ますにはあまりに不穏な空気作りがとてもうまい。

 キャラクターデザインは非常に記号的。他作品と比べても瞳が際立って大きく描かれ肌は透き通るように白く、体はちょっとつまむとそのままぷちっとちぎれてしまいそうなくらい可愛い。しかし記号的であるはずのその描線は昼間っから公園のベンチで弁当を喰うおっさんなど時折残酷なレベルでリアルな瞬間を捉える事があり、透き通るような白は何かの表紙にどす黒い漆黒へと容易に転じ、ぷちっとちぎれそうな柔らかい造形の下には血液と内蔵にまみれたグロテスクさが顔をのぞかせそうになる瞬間も描かれる。そんな見た目の可愛らしさの裏に潜むものを作者は描くことを心得ているのである。(新房昭之監督のアニメ作品に通じるセンスを感じる)

 おかしい話、悲しい話、可愛らしい話、不気味な話、様々なままならぬ人達が七転八倒する万華鏡、総じてその読後感は白黒つかないまさに「灰色」。そしてその灰色を拡大してみると、そこには交互に明滅する無数の際立つ白と黒が……。

 現在の連載を追う限り二巻以降もそのクオリティは保証(というかむしろ向上中)なので今後も期待が持てる一作である。作者の感性は非常に独特なものがあるが果たしてこういう際立った感性が今後も時と共に維持されていくかどうかは現時点ではわからないので、“今”しか描かれ得ない作品である危険性も否定出来ない。ぜひリアルタイムで追いかけたい作品だ。

------------以下加筆-----------------------------------------

やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい

絶対普通じゃない絶対普通じゃない絶対普通じゃない絶対普通じゃない
絶対普通じゃない絶対普通じゃない絶対普通じゃない絶対普通じゃない
絶対普通じゃない絶対普通じゃない絶対普通じゃない絶対読むべしぜった

ナイスレビュー: 1

[投稿:2012-04-01 00:43:49] [修正:2012-06-29 01:00:32]