「クランベリー」さんのページ

総レビュー数: 37レビュー(全て表示) 最終投稿: 2010年09月12日

中村明日美子の耽美な傑作。

もう深くて暗くて重くて、書きたいことはいくらでもあるんだけど、それをどこまでも書いていくとこのサイトの字数制限(あるのかな?)に引っ掛かってしまうかもしれないのでやめときます。
以下、軽くネタバレありますのでご注意ください。

とにかくこの作品は耽美的。
皆さんのレビューにも必ずこの言葉が出てくるし、中村明日美子さん自身が「耽美」と、それと最も相性の良い言葉の一つである「退廃」とを念頭に置いてこの作品を描いたであろうことは想像に難くない。
中村明日美子さんは体調不良で一時期断筆していたことがあって、その時の心情も作品に取り込まれているのかな、とも思ったけど、この作品の1巻は休む前に出ているので考え過ぎかもしれない。

「耽美」以外では、藤乃朱の醸し出す「艶美」=黒と、コヨミちゃんの純真無垢な「健康美」=白との対比が印象的で面白かった。
作者は女の持ち得る美を二つに分けて、それぞれに惹かれていく男の様を描きたかったのかも。
でも正直その部分に関しては作者は描き足りなかったんじゃないかなとも思う。
不満を感じるほどでもないけど、この作者ならオセロのように黒白を引っくり返すぐらいのことは平気でやると思っていたので、最後までコヨミちゃんが純真無垢の白のままだったのは意外だったし拍子抜けした。
辻さんの役回りが中途半端だったのかな。もっとコヨミちゃんに溺れてくれれば。

溝呂木先生のキャラはとても良かった。その堕ちっぷりも含めて。平成の時代に明治の文豪のようなキャラを持ってきて、しかもそれが見事に成立しているところに作者の世界観の奥の深さを感じる。
この作品はサイコサスペンスという一応の骨格はあるんだけれども、結局は作者の思い描く美意識を享受し、共有し、美に耽る作品なのかもしれないな。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2012-06-30 21:09:29] [修正:2012-06-30 21:16:22] [このレビューのURL]

おもろい。

製本屋、銀細工職人、画家、小説家、蝋燭屋、花屋、布小物屋、万華鏡屋、美容師、靴屋、などなど、京都のとある路地の長屋に集まる若手の作家や職人を題材にした恋物語。
オムニバスなんだけど各登場人物がそれぞれの話でつながってるという今はやりの形式。

何かもうあったかーい。
どのお話も派手ではないんだけどよく出来ていて、読んだ後に気持ちがほっこりする。
登場人物がみんな京言葉(たまに大阪弁とか東京弁の人もいるけど)ってのもどこか奥ゆかしくて風情があってすごくいいかもしれない。でもそれはうちの実家が京都だから私が個人的にそう感じるだけかもしれへんけど。

肩肘張らないで自然体で読めてすごくあったかくなれる作品。こんな長屋いいな。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-12-10 20:32:28] [修正:2011-12-10 20:32:28] [このレビューのURL]

サエコさんっていう到底ヒロインとは思えないような性格の女性に盲目的に恋をするショコラティエの兄ちゃんが主人公で、心情的にちっとも応援してあげる気にならないんだけど、でもそれでも面白い。

普通の少女漫画みたいに本音と本音のぶつかり合いっていうのじゃなくて、駆け引きとかズルさとかそういうのを前面に押し出して話が進むから、見ていて続きが気になってしょうがない。

キャラもみんなクセがあるんだけど、そんな中で唯一まともな薫子さんにはぜひ幸せになってほしいな。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-04-02 20:32:29] [修正:2011-04-02 20:32:29] [このレビューのURL]

もう泣くわ泣くわ。

明らかに泣かせようとする魂胆が見え見えなんだけど、実際にそれで泣けてしまうからすごい。
私もまだこんな良い涙流せるんだ、って嬉しくなったw

空気がすごく素敵だな。
全4+1巻と短いけど、これだけ泣いてほっこりできるだけでも、この漫画には価値があると思った。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2010-09-24 19:56:12] [修正:2010-09-24 19:56:12] [このレビューのURL]

懐かしいなあ。
私は中学から女子高だったので、この漫画をまさにあるあるネタとして読んでました。
うちの学校はそんなに校則が厳しくなかったので、クラスのロッカーの中に漫画が山積みになっていて(授業中に読まなければOK)、この漫画もあったなあ。

オジサン向けの雑誌の漫画なのに、女の子が読んでも面白いのはすごい。(うちらがオッサンくさいだけ・・・?)
友達なんか引っくり返ってこの漫画のキャラみたいにパンツ丸出しにしながらゲラゲラ笑い転げてたなあ。

久しぶりに続きを読んでみたいけど、もう出ないかな?

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-09-12 17:07:39] [修正:2010-09-12 17:07:39] [このレビューのURL]

ARIAはファンタジー世界という舞台だからこそ、あのゆったりした世界観も「ここはこういう世界なんだなー」って割り切って楽しむことができたんだと思ってましたが、あれをそのまま日本の高校に持ち込んでも物語が成立するのがすごい。

学校生活を舞台にしている以上、そこには確かな時間の流れがあって、その時その瞬間を楽しんでいる彼らがとても微笑ましい。
高校生の主人公が内面的に成長していく姿と併せて、変わらない世界の美しさと少しずつ変わっていく日常の楽しさとを素敵に描いた作品。
そんな時の流れにいつか終わりが来てしまう寂しさを感じてしまうのは、私がもう大人になってしまったからかな。

デフォルメ絵は確かにかわいいんだけど、最初の頃は連発しすぎてちょっと読みづらかったかも。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2017-03-26 22:16:51] [修正:2017-03-26 22:16:51] [このレビューのURL]

東村アキコ版「まんが道」。のはずだけど全然違う。
先生、先生、とにかく先生。
作者の半生を描いたというよりは、「先生と私」をこれでもかっていうくらい濃密に描いた作品。

先生の猛烈に破天荒な人柄と、作者の「当時のバカな私」っぷりがとっても楽しく、一方で、ところどころで出てくる「現在の私」から先生へのメッセージが後悔や自責の念に溢れたほろ苦い味わいがあって、途中までは本当に面白かった。

ただ世間での評価は割と賛否両論で、手放しで絶賛する人が多数を占める中、「あんなにお世話になった先生をあっさり見捨てるなんてクズすぎる」みたいな意見も一定数あるようで。
確かに最終巻を読んでいてちょっと醒めた部分はありました。
だって先生に対する懺悔や後悔というよりは、自分自身への言い訳にしか感じられなかったから。
「なんであの時○○しなかったんだろう…」ではなく、「あの時○○しなかったのは××だったからしょうがない」っていう。全編そんな感じ。

でも冷静になって考えてみると、「あんなにお世話になった先生」も、「それをあっさり見捨てるクズな私」も、作者の目を通して描かれた世界観の中の登場人物なんですよね。
細かいところをいろいろとぼやかして、作者自身の好感度を上げつつお話を終わらせることも十分可能だっただろうに、敢えてそれをしないで作者のありのままを先生にぶつけたお話。
美談にはせず、尊敬とか悔恨とか思慕とか葛藤とか郷愁とか慙愧とか、作者のいろいろな気持ちをごちゃ混ぜにして出来上がった文字どおり作者の自伝的なお話。
これを読んで作者のことを悪く思う人はいても、先生のことを悪く思う人はいない。
そう考えたら、私はこのお話がとても好きになりました。

「先生と私」を読者に向けて面白おかしく描いた1巻から4巻。
「私の気持ち」を先生に向けて誠実に描いた最終巻。
思えば最終巻が読みづらかったのも当然なのかもしれないですね。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2016-05-14 22:50:22] [修正:2016-05-14 22:50:22] [このレビューのURL]

7点

不思議な口紅を塗って相手とキスすればその人と顔が入れ替わる。

主人公が自らの容姿から抱く激しい劣等感と、そこからくる「醜い自分を捨てて美しい誰かに成り代わる」という異常なまでの執念。実際に他人の顔と人生を盗み取ることで葛藤に苛まれるギャップ。
その辺りの描写がとにかく生々しく、ギラギラとした危うさが作品全体から強烈に伝わってきて、読んでいて強く引き付けられます。
天才女優と謳われた母親から受け継いだ演技力をその執念により昇華させ、その天才的な演技力が単に舞台女優というだけでなく他人の人生を演じることにも繋がっていたりして、描き方が本当に上手い。

「顔が入れ替わる」という古典的で使い古されたネタをベースにしたお話なんだけど、じゃあ現実的に相手の顔を奪い取ったら上手く事が運ぶかというととてもそんなはずはなく、そんな突拍子もないお話にどうやってリアリティを肉付けしていくか。これは本当によくできてるなーと思います。

でも最近はお話の方向性が変わってきました。
奪った顔のおかげでようやく光り輝く舞台に辿り着けた主人公と、そんな主人公の嘘を暴くべく暗躍するもう一人の主人公とも呼べる人物。
なんか妙にサスペンスじみてきてこういう展開も嫌いじゃないけど、当初の頃の主人公のなりふり構わない強烈な執念に引き込まれた身としては、もっと主人公の成り上がり(と転落?)を見てみたいなというのが正直なところ。
ただやっぱりこのお話がどういう風に終わりを迎えるのか、それは見逃せない!

<追記>
口紅って消耗品ですよね。母親の形見の口紅は一本しか無いみたいだけど、毎日使ってたらすぐ使い切っちゃうはず。口紅が無くなったらこの漫画はどうなっちゃうんでしょうね。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2015-05-21 01:09:05] [修正:2015-05-29 23:50:28] [このレビューのURL]

美容整形の技術が著しく発達して、誰もが見た目の若さや美しさを思うがままに手に入れられるようになった世界を舞台にした短編集。

今の日本で整形手術を受けたことのある人はあんまり多くないと思うけど、それには恐らくパッと思いつく理由が3つあって、1つは手術を受けること自体が後ろめたいっていう世間体の問題、1つは手術失敗とか後遺症が心配っていう技術的な問題、それからもう1つは価格的な問題。
私は正直、整形手術を受けようと思ったことはこれまでないけど、でもこれらの問題が解決されてて、しかも周りのほとんどの人が手術を受けていたら、私だって受けてみようかなって思うもの。

自分で好きな顔を選ぶことができ、容姿に関係なく他人に評価してもらえる社会。
でも一方で、同級生たちの顔の見分けがつかず、見た目の年齢や性別さえも作り替えられた社会。

容姿を自由に選ぶことができても、それで容姿の悩みが減ったかと言えばそうじゃなくて。

他の方も挙げているけど、作中の言葉が印象的。
「キレイなだけじゃダメなの。 だからせめて、キレイにならないとダメなの。」
じゃあ、そこまでして綺麗になってどうするの?
そんなほろ苦いお話。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2014-09-28 01:33:10] [修正:2014-09-28 01:34:38] [このレビューのURL]

7点 千と万

「よつばと」のよつばちゃんが中学生になったら……的な感じの作品。
もちろんよつばちゃんとこのヒロインの詩万ちゃんとでは性格が全然違うんだけど、でも作品の全体的な雰囲気としてはやっぱり「よつばと」っぽいかな。

他の方も書いているとおり、エピソードがいちいち中学生っぽくて可愛い。
思春期真っ盛りで反抗期にも片足を踏み入れた年頃の詩万ちゃん。お父さんのすること為すことにいちいちイラッとしたりなんかして。本当に多感な時期なんですよね。コロコロと変わる表情なんかも含めてその辺りがすごく上手く描写されているなと思う。
志村貴子さんの作品みたいな特殊な思春期のお話じゃなくても、普通の子の普通の思春期の何気ないお話でも、見せ方が上手いからとっても面白い。読んでいて全く嫌な気持ちにならないのも高評価。

詩万ちゃんが可愛いな。でも一番可愛いのは那由ちゃんだったり。お父さんが25歳の時に詩万ちゃんが生まれたと仮定しても、いま詩万ちゃんは中一(13歳)なのでお父さんは38歳、その妹の那由ちゃんもやっぱり現在の私よりだいぶ年上だろな。それであの可愛さはずるい。秘訣を教えてほしい。

こういうの読んでると自分の中学生の頃とか思い出しちゃったりして本当に身につまされますよね。
お父さんお母さん、あの頃はいろいろとごめんねー。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2014-07-21 21:39:00] [修正:2014-07-21 21:39:00] [このレビューのURL]