「佐々木裕健」さんのページ

総レビュー数: 58レビュー(全て表示) 最終投稿: 2007年06月12日

『寄生獣』との比較して評価の低い意見が目立つが、決してそんなことは無い。

『寄生獣』も含めた岩木作品の特徴は、型にはまらないが計算されつくした丁寧なストーリー展開にあるわけであり、そういう意味ではこの作品も、他の作品に全く劣ることの無い、名作と言える。

『寄生獣』はそもそも100万部単位でヒットしたこと自体がイレギュラーなのである。少なくとも作者本人は、『風子〜』の時と同じように、自分のペースで書きたい物語を書いただけであり、こんなに大ヒットするなんて本人にとっても意外だったことであろう。
たまたま一般受けする要素(感動とか泣きとか息詰まるバトルとか)がちりばめられていたために、あのようなビッグタイトルになったわけであり、本来ならば「知る人ぞ知る、個性的な名作」だったのである。

『七夕の国』は『寄生獣』と似たテーマを扱っておきながら、メジャーになる路線からずれたストーリー展開をしており、そういうのを期待していた読者にとっては肩透かしを喰らったかもしれない。しかし、それをもって評価を下げるのは、実は筋違いなのである。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2007-06-13 06:05:45] [修正:2007-06-13 06:05:45] [このレビューのURL]

この作品が『寄生獣』の前に書かれた作品であることに驚く人が多いみたいだが、私は逆に、ものすごく納得いった。

可愛い女子高生が喫茶店でウエイトレスのバイトをしており、そこでおこる日常のあれこれ、というあらすじだが、これだけ聞くとものすごくゆるくお軽い、萌え漫画のような気さえしてくる。しかし全然違うことは、実際読んで見れば一発でわかる。

登場人物一人一人が現実で生きているかのように意思を持って動き、その結果何かちょっとした(時には犯罪沙汰の話も出てくるが)出来事をまとめていく、ストーリーの定型パターンにキャラを載せるということは極力しないという誠実さをもって描かれている。

『寄生獣』でも、作品内で起こる出来事のスケールが大きくなっただけで、こういった地に足のついた誠実さという点では共通である。入れ物が変わっただけで、中身が変わったわけではないのである。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2007-06-12 21:26:22] [修正:2007-06-12 21:26:22] [このレビューのURL]

10点 MONSTER

この作品に限らず浦沢作品は、バランス感覚が絶妙である。

意表をついても、奇を衒うことはしない。個性的であっても、メジャーなところは外さない。

手塚治虫がその無尽蔵のエネルギーを全力で放出し続けたのに対し、浦沢直樹は限られたエネルギーを計算、コントロールし、戦略を考え、有効な集中することによって、天才と渡り合おうとしているように感じる。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2007-06-12 21:08:50] [修正:2007-06-12 21:08:50] [このレビューのURL]

9点 蟲師

「蟲」の存在は単なるファンタジーではなく、現実に存在する「理性や科学だけでは理解しきれない何か」を象徴しており、それゆえに、この作品の持つ空気自体が、現実と非現実の挟間のような、独特のものをかもし出している。

これと似た世界観に『もののけ姫』があるが、これは大変動きの大きい話であるが『蟲師』はこれほど動きは無い。にも関わらず面白く退屈しない。静かなのに退屈しない物語。これは狙ってできるものではない。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2007-06-12 21:00:40] [修正:2007-06-12 21:00:40] [このレビューのURL]

「もてない男の恋愛」を近未来の世界と融合させ、今までの恋愛ものからは取りこぼされてしまったものを上手にすくい上げている。

作者の力量、経験の不足から、物語が進むにつれむちゃくちゃになってきたが、それでもこの作品で描こうとしていたこと自体が極めて今日的、それでいて誰も正面から手をつけてこなかった題材であり、未熟な状態で生まれてしまったことが惜しまれる。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2007-06-12 20:22:20] [修正:2007-06-12 20:22:20] [このレビューのURL]

10点 石の花

第二次世界大戦中のユーゴスラビアという、マニアックかつ複雑な国を舞台にすることは、面白い漫画を描く描かない以前の段階での苦労が山積みであったことであろう。

それでもなお、そのテーマに真正面から取り組んだ結果、単なる反戦という次元を大きく超越した、人間や社会に根源的に潜む悪を描写し、格闘する段階にまで達した、極めて普遍性の高い物語に仕上がっている。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2007-06-12 18:35:04] [修正:2007-06-12 18:35:04] [このレビューのURL]

某オタキングの言うように私も、この作品を「少年漫画の王道の限界に到達した作品」と位置づける。

元気いっぱいの男の子が絶対に曲がらない正義の心を持って、悪をやっつけていく。

この単純な絵空事を、リアルに感動できるまでギリギリに突き詰めていけばこうなるのだろう。これ以上は、「正義とは何か、悪とは何か?」という域に入ってしまい、勧善懲悪が成り立たなくなってしまい、青年漫画の域に入ってしまうからである。


私にとって、多分これを越える王道の少年漫画は二度と出てこないと感じている。

たとえば《ワンピース》は今一番勢いがあるが、それでも「戦闘が冗長」といった批判がある。《うしおととら》には戦闘も含めて冗長が一切無く、これ以上短くても長くても良くないというバランスが取れている。
また、数多くのレビュアーが指摘している通りに、最後の決戦の際に、それまでに出会った仲間たちが全員加勢する、死んでしまったものはあの世からかけつける。これを超える展開が過去にも未来にも存在するだろうか?

ナイスレビュー: 1

[投稿:2007-06-12 17:54:34] [修正:2007-06-12 17:54:34] [このレビューのURL]

露骨な性描写が気持ち悪い。(無ければよい、と言うのではなく、描き方が生理的に合わなかった。あんなにモロでなくても、表現はできるだろうに。作者の趣味だから仕方は無いけど。)

それさえなければ本当に非の打ち所の無い作品である。

登場人物全てが理性的なところ、狂っているところをもっており、しかもその「狂っているところ」こそが、単なる個性を越えて、今の日本社会の「豊かなんだけどどこか壊れている」といった感じを上手に反映させている。

この作品全体からは、どこにでもいる「善人」に対する強烈な怒りを感じる。もちろんこの場合の「善人」は、

表面は問題の無いように取り繕い、肝心の臭いものにはふたをし、他人に対しても自分自身に対しても嘘をつきながらだましだまし生きていて、しかもそのことさえも認めようとしない「善人」である。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2007-06-12 15:49:17] [修正:2007-06-12 15:49:17] [このレビューのURL]

10点 青い花

[ネタバレあり]

レズ、百合というジャンルは閉鎖的な作品が多い。

「同性愛者がマイノリティに属している」「まだまだ社会に受け入れられる価値観になっていない」という事実、現実的な問題をバッサリ切り落とし、背徳的な快楽、二人だけの閉じた幸福というおいしいところだけを表現する、現実逃避的な作品ばかりである。

したがって、そういう世界観を無条件で楽しめる人、好きな人、はまり込んでいる人以外の人にもお勧めできる作品はほとんど存在しない。



『青い花』はその唯一(に近い)の例外である。

友達に同性愛を告白する際「気持ち悪いと思わないで。」と泣き崩れるシーンは、ただの百合もので終わらないという作者の姿勢の象徴とも言える。

もちろん、ただ厳しい現実を描いたからすばらしいというのではない。

登場人物一人一人の丁寧かつリアルな描写、幸福も不幸も全てをやさしく包み込む世界は、極めて上質なエンターテイメントである。美化しているところも含めて。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2007-06-12 15:15:29] [修正:2007-06-12 15:15:29] [このレビューのURL]

一歩間違えればオナニー漫画といわれてもおかしくないほど、作者の趣味が丸出しにされている。

受け付けない人には受け付けられない世界観だろうけど、楽しませるところは楽しませてくれるという点で、現代版「悲劇」として十分に成り立っている作品。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2007-06-21 23:46:42] [修正:2007-06-21 23:46:42] [このレビューのURL]

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