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総レビュー数: 258レビュー(全て表示) 最終投稿: 2007年06月29日

宮崎駿の漫画史に残るであろう名作ファンタジー。何度も何度も読み返した漫画だが、この作品にはそれだけ深く、多面的な魅力を持っている。

・純粋なファンタジーとしてのおもしろさ
ファンタジーの王道ともいえる世界の謎を解き明かしていく物語。この点でナウシカは他の同ジャンルの漫画のどれよりも傑出している。腐海の意味、人類の成り立ち、謎が新たな謎を呼び、最終的に驚くべき真実にたどり着く。わくわくするしかないでしょう。
魔法的なそういう意味でのファンタジックな世界ではないにしろ世界の仕組みにこれ程興味を惹かれた物語はなかった。うまく構築されているというだけでなく、それが直接宮崎駿の思想を表現するものであることは奇跡的ですらあるように思う。

・独創的な世界観
飛行機、腐海、虫、食べ物、服装など細部に至るまで工夫された宮崎駿の造形物たち。創造力がすごすぎる。精密な絵も相まってナウシカ独特の世界観を創りあげています。美しいものと醜いものが同居するナウシカの世界、気づけば魅力的な物語の中に入り込んでしまう。

・メッセージ性の強さ
映画版のメインテーマだった環境との共生は原作では序盤で軽く触れられるのみに留まる。そもそも映画版での環境が環境の外に人間があるという認識だったのに対し、原作での環境とは私達人間が生命の輪の中に組み込まれたものになっている。腐海やオームの成り立ちも含めた人間の干渉込みでそれもまた環境だよという大きな意味で捉えられている時点で共生という言葉が成立しない。私達もその一部なんだから。
原作でのメインテーマは宮崎駿の思想論・生命論だろうか。連載が長期に渡ったためか途中よく分からない所もあるためラスト付近について考えてみる。

ナウシカは作中の多くの場面で葛藤する。
ナウシカは墓所の主への言葉のように清濁合わせ持つ世界、闇の中に光のある世界を肯定し、墓所の主のような、神聖皇帝のような一つのルールを押し通すようなやり方を否定する。しかしナウシカは彼らを否定するために結局多くの兵士や墓所の主を殺し、自分のルールを押し通してしまう。この矛盾のためにナウシカを嫌う人もいるだろう。しかし考え、葛藤し、矛盾を受け入れながら生きて行く姿勢が大事だと私は思う(ここは銃夢にも共通する所)。
作中でナウシカが唯一の神を否定し、一枚の葉や一匹の虫にも神は宿っているというように多くの価値観を受け入れた生き方が示唆されているのかもしれない。

宮崎駿の生命についての考え方も興味深い。
神聖皇帝は治世の最初は名君だったものの、政治のために利用した神に彼自身が囚われることになる。ただ生きることに意味が見出せなくなり、神によって命に価値を与えられることになってしまうのだ。墓所の主も同様、次世代の清浄さに耐えうる人間のつなぎとしてのみ今の人類に意味を見出している。しかしナウシカはただ生きるというだけで価値があるのだという。例え組み替えられたり、造られた命であっても生きてきたことに意味があり、変化し続けていくのだと。

神や墓所の主のような他者によって自分の命に価値を与えられるのではなく、自分で生きる意味を見出すこと。多くの価値観を受け入れること。言うのは簡単ですが、弱く流されやすい人間にとっては非常に難しいことです。だからこそ強く、全てを受容する優しさを持つナウシカは聖母なのだと思います。

人間の卵をナウシカがどう考えて壊したかということは気になる所。生命と考えてなかったのか、それとも人間が生存するためとはいえ違うものに変質することが生きることと思えなかったのか…。ここらへんは宮崎駿の「生きる」とはどういうことなのかという考えを見れておもしろい。最終的に人間をどう変化させるつもりだったかは明かして欲しかった。音楽と詩を愛するニュータイプの人間の素材に今の人間を使うという感じなのか?…

母神のようなナウシカにはなれずともその生き方に価値を見出すことはできます。最後に少しだけ衣が青くなったジィ達のように少しでも近づくことは出来るはずです。

長くなりましたが、もちろんこれは私の解釈です。読む人によって思う所が異なり、読むたびに新しい発見がある風の谷のナウシカは時の審判に耐え、後に長く残る作品だと思います。
欠点といえば難解、かつマルクス主義や哲学的な知識が散りばめられていて非常に読みにくく、疲れること。また漫画的な演出はいまひとつかもしれない。
紙質とインクの悪さなど違う部分で気になる面もありつつもそれらを補って余りありすぎる魅力がある作品です。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-08-03 02:38:09] [修正:2011-08-04 16:00:02] [このレビューのURL]

BASARAや7SEEDSなどある意味えげつないストーリーが特徴の田村由美の冒険ファンタジー。
童話のような田村先生らしからぬ可愛らしい世界観がちょっとな…と思っていたので食わず嫌いしていた作品です。正直話が重過ぎる7SEEDSの息抜きで書いてるんじゃないかと思ってました。
田村先生、すいません。おもしろかったです。息抜きとして書いている部分もあるのかもしれませんが、いい具合に力が抜けていて気軽に楽しめる作品に仕上がっています。

魔法のねずみにさらわれてしまった息子をパイ・ヤンがとらじと共に追い求める物語です。パイ・ヤンはネズミとの戦争における英雄、しかし彼が人間的には未熟であったために彼の家族はばらばらになってしまいます。冒険やとらじとの交流を通して彼が夫として父として成長し、家族の絆を取り戻していくのがこの作品のテーマでしょうか。
本作品の魅力は読めば笑って、温かい気持ちになれること。田村先生の描くキャラクターは本当に魅力的ですね。
パイ・ヤンのあまりに融通のきかない生真面目さにはいつも笑わせてもらってます。猫の習性に毎回おおげさに驚くパイ・ヤン、あまりにも物を知らなくてハムスターにまで馬鹿にされるパイ・ヤン、かなり天然なパイ・ヤン…もう大好きです(笑)。決めるべき所は決めてくれるので一安心。
もう1人の主人公、とらじはめちゃくちゃ可愛いです。お馬鹿で、多少うざがりつつもパイ・ヤンが大好きなとらじは本当に彼の息子みたい。
教授や各種mixを代表とした脇役陣もくせがありすぎるくらいでよろしいです。個人的には教授と魚mixがお気に入り。笑いすぎて困る。

加速度的におもしろくなっていくので1巻だけでなくもう少し読んでみるといいかもしれません。どうせしょーもない内容だろ?っと馬鹿にしているみなさん、もったいないのでぜひどうぞ。
良質な大人向けのおとぎ話が楽しめます。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-08-02 21:21:20] [修正:2011-08-02 23:36:01] [このレビューのURL]

貧乏に喘いでいた仏物専寺の坊主雲心はある日思いついた。そうだ、お金がないなら学校を始めればいいんだ!
「50単位で悟りだ!」募集をかけて集まってきたのは個性豊かすぎる生徒達だった…

禅寺ぶっせんを舞台にしたとんでも仏教コメディ。何この色物すぎる設定?と思うかもしれません。だまされたと思って読んでみてください。するともうあなたはぶっせんの虜です。

これだけ笑わせてもらった漫画は久しぶりだった。
ぶっせんの面々を中心に出てくる人物の愛すべきアホさがもう大好き。現実にいそうでいない個性的なやつらばっかりで楽しくなります。少なくはない登場人物が幾重に絡んで笑いをとっていくさまは、まさに喜劇を見ているようです。
各話の終わりでしっかり落として笑わせてくれるのはまさにギャグ漫画のそれです。単体として見ても十分におもしろい。しかし実はジョーや三条の話に代表される青春を描いた物語でもあって、各話でみるとギャグ漫画、全体でみると青春漫画という二重構造になっているんですね。だからこそ少なくはない登場人物たちを多くはない巻数でより魅力的に描写できているし、それがまたコメディパートをおもしろくする好循環となっています。
最後は地味に脇で進めてきた話がぶっせんの卒業式に結実する。本当にコメディか?ってくらい泣いてしまった。どんなに楽しいこともいつかは終わってしまうこの寂しさは今日から俺は!を読んだ人は分かると思います。冷静に考えるとどちらかというとバッドエンドのはずなのにこの清清しさというか希望に満ちている感じは何故だろうw
レオなどコマの裏での小ネタも充実しているので探してみると楽しいです。

設定といい絵柄といいパッと見て買おうとはしないかもしれない。でも紛れもない名作なんです!読まなきゃ損!
このおもしろさを人に宣伝したい気持ちもあれば自分の中の宝物にしときたい気持ちもあるという…そんな漫画です。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-07-15 23:56:04] [修正:2011-08-01 19:46:34] [このレビューのURL]

お嬢様なのに何故かアパートの大家である少女ジゼルはある日何でも屋を始めようと思い立つ。お嬢様ゆえか世間知らず、でも好奇心いっぱいでまっすぐなジゼルは家賃滞納を理由に仕事を手伝わされるエリックを始めとしたアパートの住人を巻き込みながら危なっかしくも活躍していくというストーリー。

序盤ではミステリアスな美少女という印象だったジゼルだが全くそんなことはなくて実はただの冒険好きのお転婆なお嬢様ということがすぐに明らかになっていく。お嬢様の遊びといった感じなので仕事にも関わらず平気で自分の感情で横道にそれたり依頼と異なった行動をしてしまうのですが、そのまっすぐな行動が意外にうまくいったりたまには失敗することだってあります。
何といってもジゼルのころころ変わる表情が魅力的です。ジゼルは何でも屋の仕事を通して色んな人に出会い、色んな体験をしていく。お嬢様のジゼルにとってはどんな仕事や体験でも新鮮な経験で、新しいことを得ていく彼女の喜怒哀楽を見ているのはとても楽しい。それは運動の後の飯をはおいしいといった些細なことだったりするのだが…19世紀ヨーロッパお嬢様版よつばとというと分かりやすいかもしれない。

絵は新人にしては破格の上手さ。その画風とエマと同様のヨーロッパという舞台なのでよく森薫と比べられて、時にバッシングまで受けてるのは気の毒に感じます。短編集ではそんなに似ているように感じないのでなおさらね。たまにバランスがおかしかったりトーンが気になったりする部分はありますが、精密で美しい絵を描ける作者だしまだ伸びしろはあると思うのでこれからも楽しみですね。
2巻では絵はさらに良くなって、ストーリーにも深みが出てきた。今後の課題はじいさんの描き方(笑)。短編でも感じたことですが、ばあさんに比べると下手に感じるので頑張って欲しい。

よつばと!の四葉やそれ町の歩鳥と同様ジゼルという人物を好きになれないと恐らく楽しめないであろう作品。その性格上仕方ないとはいえ、依頼と真逆のことをしたり自分の思うよう勝手なことをしてしまうキャラを微笑ましいと見るか苛立たしく思ってしまうか…
私は純粋で好奇心たっぷりなジゼルが大好きだけど、こればっかりは好み次第だと思う。話の途中で脈絡なく突然「子どもの前で煙草を吸うのはやめろ!」と怒鳴った所などいくつか違和感のあるシーンは私でさえあったので。
ただ、作者もここは分かっているようで2巻ではジゼルが仕事へのプロ意識のなさを指摘される場面が出てきます。へこみながらも彼女なりに何でも屋として努力する所は愛らしいです。とはいえあまり固い人間になってもあれなので魅力が損なわれないようなジゼルの成長を気長に見守っていけたらいいなと思います。

多少の欠点はあってもそれを十分に補う美しい絵と個性豊かな人物が登場する愉快な話は魅力的です。本屋で見たときに表紙とタイトルに惹かれるのは必至なのでぜひジャケ買いしちゃってください。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-07-13 18:20:59] [修正:2011-08-01 19:29:04] [このレビューのURL]

あまりにも自分の一部になりすぎて客観的にはとても見れない作品。直接関係ない語りもあるし、非常に長いので不快な方は飛ばしてくだされ。

「原始の生命は濃厚な有機物のスープから生まれた。新しいものは常に混沌から生まれる。」どこかで見て(火の鳥か?)心に残った言葉。まさにディスコミのことのようです。
民俗学・哲学・宗教・オールド玩具などへの愛に満ちた書き込みと世界観、恋愛を上記の要素を絡めてある意味回りくどく表現するストーリーが特徴の個性的すぎる作品。摩訶不思議恋愛漫画とよく紹介されます。

私が読んだのは小学校低学年の頃。この頃姉の本棚に入っていたディスコミやスラムダンク、ジョジョ、るろ剣、赤僕などから私の漫画ライフは始まった。うん、いい漫画ばかり。
そんな良漫画の中に異彩を放つディスコミには強烈な衝撃を受けた。他の漫画と異質も異質で、意味が分からない所もたくさんあったのにとにかく夢中になって読んだ。何しろあまりにも変態的(エロではないよ)なのでイケないものを読んでいるような背徳感というかそういうドキドキがあって、そういう意味でも思い出深い作品です。
今の私を考えるに、漫画の嗜好から服など装飾的なセンスまで色んな所が血肉になっています。良かったのか悪かったのか分からないけれども、ディスコミに出会わなかったら今の自分はないでしょう。小さいうちに出会えたことに感謝。

少し内容紹介。ディスコミは導入編、冥界編、学園編、内宇宙編に分かれている。
導入編…主人公の戸川とその彼氏松笛の紹介も兼ねた2人を中心としたエピソード群。戸川と松笛が付き合うことになったきっかけやその少しアブノーマルな日常が語られる。歓喜天などの密教や神話を絡めた幻想的な話が多い。松笛の不思議さと戸川の松笛の謎を解きたいという気持ちが押し出されて、謎の彼氏Xとでもいえるような仕上がりになっている。こちらは人間じゃないかもしれないくらい謎ですが…。導入編ではまだ絵が荒いものの、独特の美しい絵と話が印象的です。

冥界編…謎の2人組に冥界に落とされた松笛を助けるために戸川も冥界に飛び立つ。冥界編はディスコミの中でもかなり異質で、長期間自分の内面世界と向き合う真摯な話となっている。「なぜ人は人を好きになるのか」、ディスコミ全編でのテーマでもあるこのテーマに冥界編では真っ向から取り組んでおり、独創的だが重い展開が続きます。
自分の内面を追求することは辛く、先の見えない作業ゆえに人は壁にぶち当たる。その時「あきらめをもたらす者」を象徴してか、戦闘シーンも読み応えがあるものに。この結末はとても良かった。名編です。

学園編…前後編に分かれる。冥界編とは打って変わってとにかくコミカル。個性的なギャグが冴え渡っている。前期後期共に何か悩みを持つ男女が松笛と戸川に解決を求めてきて、オカルティックな道具や解釈で彼らを悩みから解放していくという筋立ては共通している。冥界編で分かりにくいと読者に言われたことから学園編では自分が分かる話しか書かないようにしたそうで非常に読みやすい。この学園編、特に11巻はディスコミの中でも屈指の作品群。
前期学園編でのテーマは性的倒錯だろうか。変に思えるかもしれないが、恐らく真面目に取り組んでるので意外に興味深い。後期学園編のげに尊きは彼女のふくらみからは霊感少年少女を鍵としたシリアスなテーマ性を持った作品となっており、絵柄も一変する。Dr.Strangeloveさんと同意だが、特に天使が朝来るは傑作。夢の扉も良かった。

内宇宙編…前半はエロい。とにかくエロい。直接的なエロさはあまりないにも関わらず下手なエロ漫画よりよっぽど。性を通して自分の心と世界を描いている章ですが、危ないネタがいっぱいで真に変態的な話が多いのでここで引いちゃう人も多いかも。そろそろ読者も自分も分からないような話を書いていいかな」ということで、読者が置いてけぼりになりがちな内宇宙編ではあるけれど考えさせられるのは確かです。
後半は前期学園編や導入編が混ざったような話になる。各エピソードの主役が話を盛り上げ、戸川と松笛は脇役といってもいいくらいの位置づけに。けっこう異常な話のはずなのに全く気にならない。もはや倒錯的な恋愛を当然のように肯定し、憧れさえもたせてしまう変態植芝には脱帽です。でも少しは自分の中にそんな面があるはずだよね。

大好きな作品ですが、決して万人向けではないことは断言しておきます。映画で例えるなら、ショーシャンクの空にのように万人が認める名作ではありません。パルプ・フィクションのような中毒性はあるものの好き嫌いが分かれる名作です。
私のレビューで上の方にランクインしてしまいますが、こんな得点をとる作品じゃないだのと他人の評価に文句をつける方が現れないことを祈っています。当然ですが、自分の価値観は必ずしも一般的な価値観ではありません。一元的な見方をしてしまう人には合わないだろうなと思いつつもそんな人にこそディスコミュニケーション(相互不理解)を読み込んでくれたらいいなと思うのです。
この美しいまでの混沌、とにかくご一読あれ。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-07-20 02:18:36] [修正:2011-08-01 15:34:37] [このレビューのURL]

あまりにも反響が大きすぎて本編には収録できなかったそう。
どんな反響だよ?w
学園編前期は主に性的倒錯について扱っている。しかしあまりにも度が過ぎた2作品がディスコミ学園編としてまとめられたというわけ。

幼女プレイ・ショタあたりがかなり露骨に描かれるので恐らく嫌いな人はアウト。本編に収録された作品が真面目に、真摯にテーマに向き合って書かれたのに対し、こちらの作品は作者の趣味があからさまに出過ぎて結果はちゃめちゃなギャグ色の強いキワモノに仕上がっている。
正直嫌いじゃないです。けっこう笑わせてもらったのでこの点数で。
ディスコミ読者でも植芝理一の変態っぷりを楽しめる自信がある人はどうぞ。

学園編読んで思ったこと。性行為が生殖を目的とするものだったら人間のほとんどは変態ということになる。でも大概はコミュニケーションの手段や快楽のために行われるわけで、なら他人に迷惑かけなければ何をやっても別に構わないんじゃないかな。異性愛だろうが同性愛だろうが変態プレイだろうが子が出来るということを除けば大して変わらない気がしてくるのが怖い。
こんなしょーもないことを書いてしまう辺りやはり植芝理一に毒されているのかな…。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-07-20 02:29:27] [修正:2011-08-01 08:12:46] [このレビューのURL]

主人公、椿明のクラスに謎の転校生卜部美琴がやってきた。彼女は仲良くしようとするクラスメートを拒絶し、全く馴染もうとしない上に授業中に急に笑い出すなどの奇行もあってクラスから変人のレッテルを貼られていた。ある日放課後に居眠りしていた卜部を起こした椿は机に残された卜部のよだれをなめてしまう。その後原因不明の高熱を発して寝込んだ椿の家に訪ねてきた卜部は自分のよだれが原因の禁断症状であると説明し、自分のよだれをなめさせる。するとすぐに具合は良くなったものの動揺する椿に卜部は言い放った、「ただの、恋の病よ」。付き合うことになった2人はこれからどうなっていくのか…。

正直最初見たとき植芝理一は日和ったなと思った。 最大の特徴だった変態さは影をひそめ(一般的には十分変態的ではあるけど)、偏執的な書き込みも少ない。でもすいません、やっぱりおもしろいです。
よだれで感情が伝わるというのはディスコミの涙を飲む行為やよだれを交換する話が元ネタだろうか。そういうフェティシズムを感じさせる要素を散りばめつつもやってるのは純粋なラブコメ。うん、意外です。今までの色んな意味でごちゃごちゃしていた作風(褒め言葉ね)をあえてシンプルに、分かりやすくした作品に挑戦しているのかもしれない。絵も意識的にか夢使いの頃より素朴で野暮ったくなっている。
中学生の頃に誰しもが感じるように、女の子は男の子にとっていろんな意味で謎の存在だ。初めてお付き合いした女の子なんて宇宙人のように感じたのを覚えている。その気持ちをすごく拡大していったら卜部みたいな女の子になるのだろう。巻が進むにつれ少しずつ卜部の素顔は明らかになっていくが、どこまでいっても謎は残る。女の子だから。
この人のラブコメはやはり自分にはぴったりだ。今まで名作と呼ばれるラブコメですら大抵は気恥ずかしくて読めなかった私でも、謎の彼女Xはにやにやしながら楽しく読んでいる。だって猫耳つけてベーコン食べる女の子なんて可愛すぎるじゃないですか!!

ディスコミや夢使いに比べると私のお気に入り度は低いけどそれでも十分に楽しめる作品。読み手を激しく選ぶ他作品に比べて謎の彼女Xはまだ一般向けで薦めやすいし、植芝作品の入門書としては良いだろう。それでも限られた人しか好まなさそうではあるが、意外と定番のラブコメが苦手な人が読んでみるといいかもしれない。
何だかんだで植芝理一はおもしろいなぁ。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-07-19 01:22:39] [修正:2011-08-01 02:02:28] [このレビューのURL]

父母妹そして作者の一家4人がみんな漫画家という自らの特殊な家庭を描いた大島永遠のエッセイ漫画。

本当かよ!?と疑ってしまうくらい世にも奇妙な家族ですね。こんな家族は日本中探しても大島さん一家だけじゃないだろうか。父が「バツ&テリー」を描いた少年漫画家の大島やすいち、母がレディコミ漫画家、妹は4コマ漫画家ということでまさに事実は小説より奇なりを地でいくエッセイです。

しかし今の所は淡々とひとりひとり家族を紹介しているだけの漫画にしか思えず、その題材の特殊さを活かせてるとは言い難い。身内話に終始されてもこちらとしてはそれが読みたいわけではないし、何がおもしろいのかが分からなかった。題材をうまくエッセイとして昇華できてないからなのか、私にはこの漫画の方向性が見えません。
ママはテンパリストやダーリンは外国人など成功したエッセイ漫画はどこが自作品の強みなのかを分かった上でおもしろおかしく描いている。まんがかぞくの一家全員が漫画家という強みがおもしろさに繋がったシーンというのがまだ1巻にも関わらず皆無に近いのはそれだけで致命傷だし、ネタが先細るであろうこれから先が不安だなぁ。

久々に毒にも薬にもならない作品を読んだなという感想です。眺めるように見てました。唯一印象に残ったのは作者の師匠である里中満智子の仕事部屋に当時の大物漫画家が勢ぞろいするシーン。あれには驚いた。
題材が興味深すぎるだけに、ただの私小説みたいな作品に仕上がってしまったのは残念。絵も話も私の中ではまさに4点でした。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-08-01 00:06:42] [修正:2011-08-01 00:39:38] [このレビューのURL]

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