「souldriver」さんのページ

総レビュー数: 110レビュー(全て表示) 最終投稿: 2007年06月21日

ずっと気になってた作者さんだったけど、やっと1作読めた。いや、スゴイわ、この人。
次から次へと目をそらしたくなるような光景が突きつけられて、でもイマイチ現実感が湧かないのが正直なところなんだけど、これって決して架空の出来事じゃなくて全部実際に日本で起こってるんだよね。そう思うととてもフィクションだと笑い飛ばす気分にはなれない。
確かに今の世の中で一番欠乏してるのは、周りに流されず「悪いことは悪い!」と言うことができるシンプルな価値観なのかもしれない。でも、そんな強靭な精神を持つことは生やさしいことじゃない。
そんなもどかしさまで作中で表現しているのは本当に見事だ。

小学生編の途中まではほぼ文句なしだったんだけど、ただ終盤のアレはさすがにやりすぎじゃないかなーと。
一読者がこんなこと言うのは少し気が引けるけど、キーチたちがもう少し成長した後でああいう行動に出たんだったらもっと納得できる結末になってたんじゃないかと思う。

ともかく、久々にガツンとくる作品だった。もうちょっと時間が経てば感想も変わるかもしれないけど、ここは今の興奮をそのままに、ってことで。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2007-09-22 23:21:30] [修正:2007-09-22 23:21:30] [このレビューのURL]

セリフや動きの多いものだけが良い作品ではないと思う。
ここ最近の展開には「静」の中にある深い精神世界、動かないことによる動きや駆け引きが意識的に描かれており、非常に惹き付けられるものがある。
おそらく小次郎をあえて聾唖にしたのも、こういった世界が描きたかったからだと考えている。

絵は言うまでも無くハイクオリティ。これまでの漫画の手法にこだわらない自由な表現方法によって人物たちが生き生きと描き出されており、物語に一層の緊張感を持たせている。
また「強さ」という一元的な観点でしか物事を見ることができていない、という点は同意できるが、逆にその一点をこれほどストイックに深く掘り下げて描いている作品は近年あまり見ない。
それが「単純だ」と捉えられてしまうのは今の時流なのかもしれないが、ぜひこのスタイルは貫き通して欲しい。

パラパラと読んでしまえばそれで終わりだが、注意深く読んでいると見るべき点はいくつも浮かび上がってくる。
噛めば噛むほど味が出る、ではないが、ちゃんと噛まないと本当の味が分からない。

07.09.10追記:
26巻を読んでかなりガッカリ。詳しい内容はネタバレなので省略するけど、せっかく心理描写の良さがじわじわと出てきたと思ってたのに、あの無茶な戦いはちょっと…。1点マイナス。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2007-06-21 20:21:35] [修正:2007-09-10 15:25:55] [このレビューのURL]

これぞ土田節の真骨頂!
バカで、カッコつけで、臆病で、貧乏で、どうしようもなく不器用だけど、とてつもなく人間味溢れる愛すべき人物たちの生き様がぎっしり詰め込まれた秀作揃い。
特に「キャット空中一旦停止」がおもしろかった。
自殺を覚悟した人間が最後に見る走馬灯が、彼の置かれた状況とは裏腹にコミカルに、楽観的に描かれるのがなんともおかしい。しかし結末でグッと現実に引き戻される。
生と死の間の極限の状況をとことんシリアスに描ける一方で、ここまでユニークに表現することもできるのは、やっぱり作者の人間観の土台に卓越したものが備わってるからだと思う。
表題作でベンツのエンブレムばかりを盗むオッサンを見たときは思わず「それ何てカイジ?」と思ったけど…。

落ち込むことがあっても、これを読めば生きる活力が湧いてくる。土田世紀入門にもうってつけの一冊。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2007-08-22 13:03:08] [修正:2007-08-22 13:03:08] [このレビューのURL]

あくまで「銃夢」の正統な続編になるので前作を読んでることが楽しむための前提になるけど、まさに期待を裏切らない出来。

まず格段に絵が上手くなった。デジタル加工のおかげで線がすごくすっきりしたのに昔と変わらない熱さが感じられるのはすごい。
やけに男ぎったキャラとか無駄に熱いノリも受け継がれててうれしい。この人間感溢れる描写と無機質なSFの世界観のミスマッチがたまらない。戦闘のスピード感も相変わらず抜群で、十分前作に匹敵するテンションの高さ。特にカエルラのカッコ良さは一見の価値あり。

難点をいえば、やたらSF用語が出てくるがゆえの説明文字の多さ。一回目は軽く読み飛ばしてストーリーだけを追って、二回目以降で噛み砕くのが吉。
また前作に比べて人物の心理描写や世界観の説明を丁寧に描こうという意図が見受けられる。それ自体は悪いことではないが、ややガリィの葛藤の描写がくどいのと、展開がスローなので月刊ペースの現状のまま最後まできちんと描ききれるかどうかちょっと不安。

ともかく今一番続きが楽しみな作品の一つ。
SF世界が好きな人は前作から通してドバッと読んじゃって下さい。
(07.07.18加筆)

ナイスレビュー: 1

[投稿:2007-07-05 22:34:47] [修正:2007-07-19 04:47:08] [このレビューのURL]

8点 リアル

登場人物の発する言葉の一つ一つが読者の今までの人生に問いかけてくるようで、読んでるうちにだんだん沈んだ気持ちになっていくのは僕だけだろうか。
障害者スポーツにスポットを当ててはいるが、ただ「がんばってる様子」を描くだけの偽善や自己満足に終わることはなく、現実と直面する各人物の容赦ない心理描写が印象的。

障害をものともせず戦い続ける戸川、現実から逃げ続けながら自分の居場所を必死で探す高橋、そして健常者として彼らの生き様を目にしつつ自らも現実の中でもがき続ける野宮。
三歩進んで二歩下がり、少しずつ前に向かっていくそれぞれの様子はまさにリアルで、ご都合主義なドラマの表現の域を超えて心に訴えかけてくるものがある。

読むたびに暗くなってしまうが、最後には「自分もがんばろう」という気持ちにさせてくれる。スラムダンクの成功に満足することなく、とことんまで踏み込んだ絶望と希望の人間像を見せ続けてくれる井上先生に拍手!

ナイスレビュー: 0

[投稿:2007-07-18 20:16:03] [修正:2007-07-18 20:16:03] [このレビューのURL]

独自のSF世界を舞台に繰り広げられる、自分のルーツを探求するサイボーグの主人公、ガリィのあてどもない旅。

コロコロと主人公の置かれる立場が変わり、その都度違ったエンターテイメント性を見せながら徐々に物語の核心に近づけていく手法にはマンネリを感じなかった。
ときに繊細に、ときに大胆に描かれる絵には魂が宿っている感じがする。戦闘時のスピード感は抜群。
また人物描写がかなり濃いめで戸惑ったが、慣れるとサイボーグを含め実に人間味のあるキャラクターばかり。ただのアクションものに留まらない魅力を放っている。
少々無茶な設定や時代を感じさせる展開がところどころに見られたが、話も広がりすぎず結末に向けてきれいに収束しており、後味は良かった。

好みが分かれるだろうとは思うが、とにかく濃密な空気に満ちている作品。
絵がOKなら一読の価値あり。

07.07.16追記:
改めて読み返してみると、かなりの深読みができる内容だったことに気付く。エンターテイメントの本質を保ちながらここまで哲学的にも洗練された世界観が描けるのはすごいね。1点プラス。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2007-06-23 01:39:57] [修正:2007-07-16 14:59:30] [このレビューのURL]

画太郎ワールド全開!
最初は「今回はちょっとマシかな?」と思わせておいて、だんだん堕ちていき最後には完全にクソと化すいつもの手口の中でも、これは秀逸なクソさ。
野球のルールを徹底的に無視した展開、必要以上にコピーを使いまくるやる気のなさ、意味不明な登場人物、意味不明な番外編、強引すぎる結末。すべてがとことん狂ってるとしか言いようがない。だが、それがいい!

まさにクソマンガ(というよりクソ漫画家)という名が相応しいが、意図的にクソにしてるので好きな人は最高、合わない人にはゴミ以下。
極端に好みが二分するのはまず間違いない。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2007-07-07 15:35:18] [修正:2007-07-07 15:35:18] [このレビューのURL]

8点 編集王

マンガ業界の現実を、その世界に身を置く人間の視点から痛烈に描き出すというアプローチは面白い。
少し誇大ではないかと思える表現も多いけど、漫画家の中でもいささかはみ出し者的な存在の土田先生ならではの問題意識の高さと、マンガへの情熱が伝わってくる。

目線をずらせば明らかに実在する漫画家や業界体質への批判にも見えるが、ただの批判で終わることなく問題点をきちんと見据えているのが評価できる。人間描写も相変わらず秀逸。一見カッコ悪いことをカッコ良く見せてしまうのがすごい。
またあからさまな自虐ネタ(マンガ業界を批判的に描くこと自体が自虐ではあるけど)も滑稽でグッド。

話が長引くにつれて間延び感がすることや結局キャラが立ち切らない人物が多いのは難点だが、それを補って余りある内容の濃さ。
マンガ好きを自負するならぜひ読んでほしい。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2007-07-06 23:23:55] [修正:2007-07-06 23:23:55] [このレビューのURL]

高橋ツトムの死生観、ここに極まれり。他のスカイハイシリーズと違った観点で描かれてはいるが、集大成と言って良い出来。

怨念、宿命、転生…。いかにもホラーものにありがちなキーワードが散りばめられてるけど、そこに「カルマ」という鍵が与えられることによって物語の軸がしっかりと定められ、ただのホラーの域を超えたリアリティーがある。
かなり仏教概念の影響が色濃く出ているが、主人公がもともと宗教に無関心な少女なので、読んでる側も無理なくこの世界に入っていけた。小難しいことは抜きにしても、結末に到るまでのドラマチックな展開は見事。
また震えるような迫力の怨霊描写がすごい。決してホラー的な「怖さ」を感じさせる部類の絵ではないけど、力強くがっちりと絡みつくようなタッチが強く印象に残る。

程よい長さに収まっているので中だるみもなく、内容が濃い。良質中編漫画。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2007-07-03 23:21:57] [修正:2007-07-03 23:21:57] [このレビューのURL]

8点 レベルE

着眼点や発想の面白さは言うまでもなく、王子を筆頭にキャラクターもそれぞれ最高に魅力的。作者の変人ぶりがフルに発揮されている作品。
かなり非現実的な設定なのにもかかわらず現実とのリンクがものすごく上手くいってる。また構成も良く、シリアスかと思ったらオチはコメディー、というやり方には何度騙されたことか。それでも許せてしまう「発想の斜め上をいく」茶目っ気がこの作品にはある。

とにかくやりたいことが無駄なく納められており、他の長編のだれっぷりを見るともう「短編だけ描いてください」な気分。
たった3冊でこれほどの満足感を与えてくれた漫画は他にない。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2007-06-26 00:02:48] [修正:2007-06-26 00:02:48] [このレビューのURL]