「とろっち」さんのページ

総レビュー数: 300レビュー(全て表示) 最終投稿: 2009年10月09日

少年漫画(たまに少女漫画)の大御所が描く、大人向けの短編集。

人生の渋みを感じさせるようなほろ苦い味わい。
輝かしい時代を通り過ぎたあとの、郷愁、寂寥、悔恨。
そんな中で光る、ほんのちょっぴりのファンタジー、そしてほんのちょっぴりの幸せ。
どこか切なく、どこか懐かしい。
みんな昔は子供だったことを思い出させてくれる、ノスタルジックな作品集です。

収録の全7編すべてが珠玉の出来映えです。
刺激を求める方にはぬるく感じるかもしれませんが、個人的には外れなし。
読後感が素晴らしく、読み終わった後すぐに2周目に突入してしまいました。
久しぶりに良いものを読んだ気分。面白かったです。
お薦めです。ただしあだち充ファンの大人限定で。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-07-21 21:04:05] [修正:2010-07-21 21:05:09] [このレビューのURL]

歴史が動くとき、その裏側に常に陸奥圓明流あり。
陸奥圓明流の千年にわたる歴史を描いた、修羅の門の外伝的作品です。

源平合戦に始まり幕末・明治に至るまで、さらにはアメリカ西部劇にまで話は広がりますが、
史実に陸奥をうまく溶け込ませる手腕は素晴らしいです。
大きな歴史のうねりを体感でき、歴史上の有名な人物との絡みもこれでもかっていうくらいにあって、
臨場感、迫力、歴史の重み、それらを違和感なく存分に見せてくれます。
こういうのは正に漫画ならではの醍醐味。

修羅の門ではバトルを突き詰めていますが、こちらではバトルは作品に彩りを添える程度のもので、
非常に魅力的な登場人物と、彼らが織り成す熱い熱いドラマがとにかく秀逸。
自分の好きなように歴史の中で遊びたい、との作者の言葉どおりの作品です。
オムニバス形式なので話によって多少の差はあるものの、日本史に疎い自分でもとても楽しめました。
もっとも、疎いからこそ妙なあら探しなどせず、素直に楽しめたのかもしれないですが。
特にこだわりなくフィクションとして楽しめる人にはお薦めです。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-05-26 20:19:55] [修正:2010-05-26 23:57:14] [このレビューのURL]

9点 銭ゲバ

黒い。醜い。泥臭い。だけどこれも1つの真実。
1人の男のとある信念を、見事なまでに徹底して描ききった傑作。
これを読むと、今の少年漫画が平和なものにしか見えなくなるかもしれません。
それほどに圧倒的な破壊力を秘めた作品です。

人の生命より、人の心より、銭を追い求める風太郎。
自分以外のすべてを蹴散らし、傍目から見れば大出世とも思える場所まで登りつめます。
だが、銭か貯まれば貯まるほど、彼の孤独感は増していきます。焦燥感が募っていきます。
そして彼の下した決断とは…。

「銭で買えないものはない」「銭こそが正義」という、言わば有史以来のテーマ。
しかしそれを極限まで突き詰めてみると、この作品のようにならざるを得ないということでしょうか。
痛々しく、激しく、狂おしいまでの人間の本性。
信念に純粋すぎるが故の苦悩。

作中の「人間の幸福について」の原稿用紙の上での展開に、そしてそのあと彼がとった行動に、
この物語のすべてが集約されているのかもしれません。
ラストに至るまでのあまりの凄まじさ。
ぜひ一度は読んでおきたい傑作だと思います。

編集者たちは読者である少年たちに何を伝えたかったのか。
当時の少年たちはこの作品を読んで何を感じたのか。
とりあえず、読んだあと心に何かが確実に刻み付けられることでしょう。
それが良いものかどうかはわかりませんが。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-04-25 20:31:29] [修正:2010-04-27 02:29:47] [このレビューのURL]

これでもかっていうぐらいに王道でありながら、他の作品とは明らかに一線を画した存在感。
溢れんばかりの新鮮さ、瑞々しさ、爽やかさ。
ストーリー、絵柄、登場人物の個性、醸し出す雰囲気、すべてが高いレベルにあると思いますが、
爽子のキャラクターがこの作品をさらなる高みへと引き上げています。
そのピュアホワイトっぷり、頑張りっぷりがいじらしくて、本当に応援したくなります。

ちょっとしたエピソード、ちょっとした心理描写をも、丁寧に、繊細に、紡いでいったこの作品。
読んでいてこそばゆくなるような展開やセリフも、またそれがクセになってきます。
何だかベタ褒めですがしょうがない。この作品、大好きです。

前半の頃の突き抜けるような面白さをまた期待します。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-03-28 17:46:07] [修正:2010-03-28 18:16:57] [このレビューのURL]

難しいテーマですが、不器用でドライながらも、ほのかに温かくて優しい物語です。
そういう空気を醸し出しているのはダイキチの漢っぷり。格好いいです。

第1部はダイキチ視点での子育て奮闘記、
第2部は主にりんの視点で、高校生としての等身大の思い、悩みが描かれています。

第1部の続きをもっと見てみたかったのが正直な感想です。
が、反対意見や批判が多く出ることが予測できたにもかかわらず、
敢えて新しいステップへと進んだ作者と関係者の決断には、ただただ敬意を表したいです。

第1部が面白すぎただけに、好きだった人は慣れるまで時間がかかるかもしれませんが、
第2部だって捨てたものではないです。
と思っていたら、第2部もどんどん面白くなってきました。
作者が本当に描きたかったのは、もしかしたらこっちだったのかも。
年月が過ぎてもテーマは同じ。単純な恋愛ものにはしてほしくないです。

家族を持つとはどういうことか。親子とは。2人の生活は。将来は。
ダイキチは、りんは、どういう答えを出すのか。そもそも答えなんてあるのか。
温かく見守っていきたい作品です。

作者がこの作品のゴールをどこに設定しているかにもよりますが、
いつ第3部に飛ぶかわからないので、そういう意味でも目が離せない作品です。

とりあえず購読に当たって致命的な欠点があります。高い!
1冊979円(税込)はいくらなんでもやりすぎでしょ。
知らずに3冊まとめてレジに持っていったとき(2937円)は、
レジのお姉さんの打ち間違いかと本気で思いました。
確かにすごくいい紙とか使ってるんですけどね。1巻から愛蔵版みたいにしなくてもいいのに。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-03-07 21:44:23] [修正:2010-03-10 22:17:21] [このレビューのURL]

恋愛要素をあまり詰め込まず、既存の少女漫画のイメージとはちょっと違う印象。
「友情・努力・勝利」の言葉とかがよく似合いそうです。
負けて悔しい、勝ちたい、もっと強くなりたい。
そういう気持ちを前面に押し出した、爽やかさ、熱さが魅力です。

メリハリの付け方がうまくて、とても丁寧な描写ながらテンポも良く、
大ゴマの使い方が非常に効果的なので、ここぞという場面での力強さが引き立ちます。
綺麗で細やかな絵柄と共存した荒々しさ、力強さ、骨太さ。
この作品を推す人は、このギャップに惹かれるのかもしれません。
こういうところが男性にも読みやすいんでしょうね。

読んでいて面白さが熱くこみ上げてくる作品です。

ただ敢えて言うならば、登場人物が皆いい人で、毒が足りない気がします。
爽やかすぎるのもいいですが、もっと波乱があってもいいかも。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-02-25 21:55:00] [修正:2010-02-25 22:39:46] [このレビューのURL]

どんなテーマで描いていても、結局はいつもの川原漫画。
多すぎる文字、同じような登場人物、緊張感のなさ、ものすごくマイペースな作風。
合わない人は何を読んでもダメでしょうね。
でも好きな人にとってはどの作品でも外れがありません。
何の変哲もないようなストーリーに思えても、
作者の手にかかるとどうしてこんなに面白くなるんだろうと思えるぐらいに。

そんな川原作品の中で個人的に一番好きなのがこの表題作。

「夢見たものは 夢見たものは 銀のロマンティック …そしてまぶしくて まぶしくて もう何も見えない」

笑いあり、涙ありの内容が、いつも通りのほのぼのとした独特のテンポで展開されます。
コメディの中に綺麗に織り交ぜられた優しさ、爽快感、哀愁。
見事としか言いようがありませんです。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-02-20 21:14:36] [修正:2010-02-20 21:16:44] [このレビューのURL]

この作品はまさにタイトル通り、一人の女子大生が神戸で暮らしている生活そのものです。
大学でのこと、友達と買い物に行ったこと、家族とのやり取り、ふらっと街を散歩したこと。
誰もが経験するような日常の出来事を、誇張するでもなく、劇的に描くでもなく、
ありのままに描いています。

スピード感もなく、娯楽性にも乏しいこの作品。勢いで読めないので、
共感できない場合は拷問に近いかもしれません。
自分も2巻までは「読んで失敗したかな」などと思っていました。
その分、共感できれば自分の心の奥底までどんどん染み込み、溶け込んでいきます。

トーンも定規も使わない画風は、飾らず、素朴で、柔らかくて、どこか純粋で。
主人公である辰木桂のキャラクターをそのまま表現しているかのようです。
登場人物の存在感など、キャラが立っているとかのレベルを超え、作中で生きていると感じられるほど。

震災から3年後に開始したこの作品。
特に作品前半では、街並みにも人々の心にもその爪痕が色濃く残っています。
そんな神戸を舞台に、大学の授業、民族問題、友達との恋愛話、障害者、サークル活動、家族とのこと、
すべてごちゃ混ぜにして、桂の(部分的に林浩の)視点を通して等身大で描かれています。
生と死から目を背けず、良いことも悪いことも含めた現実に真っ向から向き合って。
等身大だからこそ、ありのままだからこそ、楽しいことも、辛いことも、こんなにも心に響いてきます。

居心地の良さ、ほんのり温かい雰囲気、ほのぼのとした日常。
押し付けがましくなく、控えめながら、神戸の魅力を存分に感じさせてくれます。
読んでいる人まで「神戸在住」な気分にさせてくれます。

震災から15年。今日、神戸の街に思いを馳せて。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2010-01-17 17:20:39] [修正:2010-01-17 17:20:39] [このレビューのURL]

暖かくて透明感があって、どこか儚げなこの作品の空気がとても好きです。

とりあえず泣けます。
泣かせてやろうとする意図が垣間見えるのですが、それでも泣けます。
場の見せ方、盛り上げ方は見事と言うしかないです。

ストーリー的には厳しい展開が続きますが、登場人物の芯の強さと、全体を包み込む優しい雰囲気に心打たれます。
作者が愛情を惜しみなく注いで丁寧に描きあげた物語です。

ただ、一つだけ違和感が。別に近未来の話にしなくても良かったのでは。
読み切りからの流れなのかもしれませんが、近未来感が全く伝わってこなかったので…。
「現代劇のSF」という舞台ならば満点だったかも。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2009-11-16 01:10:31] [修正:2009-11-16 01:10:31] [このレビューのURL]

非常に面白いです。
話の展開が正直マンガだなとツッコミたくなるところも多々ありますが、面白いのでそれもありかと。

この作品の面白さは主人公のキャラに尽きます。
キョーコちゃんはよく笑い、よく泣き、よく怒り、よくヘコみ、よく呪います。
天真爛漫でひたむきで、困難に懸命に立ち向かっていく様は、見ていてとても爽快です。
ただ明るいだけでなく、怨霊モードや過去のトラウマ等、心の闇の部分もあり、
そのギャップもうまく表現されています。
読んでいてとにかく応援したくなります。

明るく楽しい話でサクサク読めますが、締めるところはきっちり締めており、そのバランス感覚が絶妙です。
誰にでも安心してお薦めできる作品です。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2009-10-12 16:50:20] [修正:2009-10-12 16:50:20] [このレビューのURL]