「チーズカバオ」さんのページ

総レビュー数: 75レビュー(全て表示) 最終投稿: 2017年07月23日

作者名の「冬目景」という字面が良く馴染む雰囲気の漫画。
乾き、寒さ、切なさといった感覚を、画のタッチやシナリオ、台詞の間の取り方等で巧みに表現していると思う。

本作を含めた彼女の作品は、安い言い方をすると「雰囲気マンガ」に分類できるのかもしれないが、
繊細な情景を描写するセンスや、叙情面の表現力の高さは芸術的で、巷に溢れる「雰囲気だけのマンガ」とは明らかに一線を画する。
特に黒鉄や羊のうたといった彼女の初期作品では、それらの面が遺憾なく発揮されているので、是非読んでみてほしい。

「黒鉄・改」を含めた最近の作品も勿論悪くないのだが、冬目景の根底にある感性や魅力を知る上では、彼女の初期作品群は必読の書である。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2020-06-23 08:35:32] [修正:2020-06-24 20:06:07] [このレビューのURL]

漫画というメディアを超えたという概念が最もしっくりくる漫画である。

藤子・F・不二雄が語ったSFの意味合いは最近になって広く知れ渡り、多くの人が「なるほど」と思っただろう。
しかし、「なるほど」という感想が軽く出てくるのは、ドラえもんという作品に対する感覚が日本人の心に深く根を張っている現代だからである。
少なくとも、ドラえもんが発表された当初では、ドラえもんの作風は明らかに異質であったと思われる。


ドラえもんが発表されたのは1969年だが、実際に国民的作品として定着し出したのは1979年のアニメ版がヒットしてからである。
そして、ドラえもんが国民に定着する以前のSFの意味は当然「サイエンスフィクション」であり、日本でも漫画やアニメにおいて数多の歴史的な名作が生み出されている。

そういった名作は、手塚治虫を筆頭に松本零士や石ノ森章太郎、永井豪や石川賢など数多の偉人によって生み出され、日本におけるSF漫画の型を創り上げた。
しかし、それらの作品にはある意味で共通した性質があると思う。
それは「作者の(オタク的な意味での)学や教養の高さにより描かれた、ケレン味重視の高度な妄想である。」ということだ。
当然、サイエンスフィクションの概念としてはそれが正解であるし、そこを高めることがSFの本懐と言える。

たがしかし、多くの漫画家がその方向性の中で、より高みを目指す時代の中で、藤子・F・不二雄は敢えてその流れから外れ、自分だけのSF=「少し不思議」の道を行った。
無論、藤子・F・不二雄も他の漫画家のような王道SFも描けるのだが、敢えてサイエンスフィクションの概念に捕われず、
誰しもに通ずる普遍的な感覚を作品の核として、独自のSFに落とし込んでいったのである。
そしてその代表作がドラえもんだ。


今でこそ国民の精神に浸透しきっている本作であるが、先述の通り、ドラえもんが今のポジションを確立するまでには10年以上の時間を要した。発表当初は、あくまでサイエンスフィクション全盛の時代であり、ドラえもんは数ある児童漫画の1つとしての扱いだった。
だが、「少し不思議」なSFの概念は、見る者の心に確実に根付いていき、長い時間をかけて国民の感覚の中に当然のように居着いていったのである。

そして一度根ざした普遍的な「藤子・F・不二雄のSF」は、時代が変わっても、ドラえもんを通して新たな世代にも受け継がれていく。
漫画やアニメにおける和製サイエンスフィクションの存在感が弱くなってしまった現在でも、それは変わらない。


決して変わることのない普遍の「少し不思議」な感覚そのものがドラえもんであり、漫画というメディアを超えて概念そのものとなった本作には、10点以外の点数など有り得ない。

ナイスレビュー: 3

[投稿:2020-05-13 17:38:52] [修正:2020-05-13 18:02:11] [このレビューのURL]

内藤泰弘という漫画家は、他の漫画家へのアシスタント経験が無く、脱サラ後に我流で実力を身につけていった人物である。

トライガンマキシマムの中盤以降から覚醒したかのように技術が洗練されていったが、それ以前はセンスと勢い任せの荒削りな作風であったと思う。
特にこの短編集に関してはプロデビュー以前の初期同人作品が中心となるため、技術面や話運びに拙さがあることは否めない。

だが、技術こそ今と比べると歴然の差があるものの、作品の本質的な根っこはこの頃から驚くほどに変わっていない。
同人誌時代を含めると30年近く漫画を描き続けているのに、この作者の創作に対するスタンスや精神は全くブレていないのだ。
本作を読み、サムスピを読み、トライガンを読み、ガングレイヴをプレイし、アッセンブルボーグで遊び、血界戦線を読み、再び本作を読むことで、その事実をしみじみ実感できる。

自分の好きなことを貫き通し、それで飯を食い、業界も力を貸してくれるという、漫画家の中でも稀有な強運の持ち主である内藤泰弘がいかに幸せな存在であるか。
そしてこの人が創る作品が、どれほど多くの人間に幸せを与えてくれているかを改めて認識する上で、この短編集は非常に重要な役割を果たしていると思う。

しかし、こんなディープな作品集を一般的な書店にも流通するように出版してくれたハルタコミックは最高である。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2020-04-15 21:29:05] [修正:2020-04-17 06:23:32] [このレビューのURL]

中盤以降、隔週誌でありながら月イチ連載で同じような話をチマチマやっていたので、連載の後半には大して真面目に読まなくなっていた。

最近、コミックスで一気に読み直したが、4巻まではかなり良かった。6巻までも楽しめた。しかし7巻以降はやはり連載時と同じ印象に落ち着いてしまう。
この作者のモチベーションが続くのは、せいぜい単行本5巻くらいまでなんだろうと改めて感じた。

とは言え、超飽きっぽい冬目景にしては、これほどの長期連載を投げ出さず完結させてくれたこと自体に謎の感動はあると思う。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2020-02-26 06:38:13] [修正:2020-02-26 06:40:29] [このレビューのURL]

正直、1章は微妙(作者がガチガチのギャグ漫画家であることを考えれば、むしろ戸塚作品としては正しい内容ではあるが)。
2章、特にメモリア魔法陣からは爆発的に面白くなる。
疾走感が半端じゃなく、ガンガン漫画史上最高のテンポの良さで話が展開する。

読了の最大の障壁であった「どこにも売っていない」問題も、電子書籍が講談社から出ているため解決されているし、続編も始まっているので、まだ手にとっていない人は一読の価値はあると思う。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2019-11-16 05:55:07] [修正:2019-11-16 05:55:07] [このレビューのURL]

丁寧に練られたストーリー構成の中で、少年少女にも届きやすいよう丁寧に描かれるテーマ性が素晴らしい。
作者の人格が滲み出ていると思う。
道徳的観点で言えば、寄生獣並に子供に読ませたい名作である。

惜しむらくは、アニメの完結に追われる形で半ば強引に纏められたラスト数話の展開の早さか。
アニメ版を見るからに、初期プロットではもう少し丁寧に描かれていたであろうことが予想される。
そこに至るまでが過不足無かったため、最後の駆け足的展開のバランスの悪さが本当に惜しい。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2019-11-16 05:43:22] [修正:2019-11-16 05:43:22] [このレビューのURL]

この作者の気難しさや妙なこだわり、多岐に渡るオタクとしての知識と教養、そしてナチュラルに中二な感性が見事に作品に反映されている。

テーマや描写はかなり陰鬱としていて当時のジャンプ漫画らしからぬ要素が多数見られたが、それでもやはり作者のこだわりや少年漫画家としての意地で、最後までジャンプ作品らしさを保っていたことが素晴らしい。
また、剣心が見いだした「答」は他のジャンプ漫画の主人公の先を行ったと思う。

ちなみに、この作品で個人的に一番すごいと思うポイントは、「情景の描き方」だと思う。なんというか、この漫画の中の人々は確実に生きていて、意思をもって生活を営んでいるような空気感があるような気がする。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2019-08-22 20:52:30] [修正:2019-08-22 20:53:46] [このレビューのURL]

作者の描きたいものに対して、作者のスキルが圧倒的に追い付いていない感じがする。でも妙に魅力はある。
尚、技術が伴うのはマキシマムの後半からの模様。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2019-08-17 15:46:39] [修正:2019-08-17 15:46:39] [このレビューのURL]

10点 血界戦線

アニメ版の大ヒットがきっかけでかなり幅広い層に名が知れ渡った感があるが、実際のところ、この作品の面白さの本質は結構ディープなオタクでないとわからないのではないだろうか。
とは言え、原画展を開催できるほどファンの間口を広げつつ、熱意のある読者層を獲得出来ているので、作品のバランスは昔より良くなっていると思われる。
トライガンの頃より良くも悪くも洗練されているが、根っこは呆れるくらい何も変わっていないので、トライガンを読んでいた読者にこそ手にとってもらいたい作品である(トライガンの発行部数から考えると、血界を読んでいない内藤作品既読者は相当いるはずである)。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2019-08-08 20:05:34] [修正:2019-08-08 20:05:34] [このレビューのURL]

[ネタバレあり]

待たせ過ぎの新章開幕。
しかし10年経って冷めた熱を呼び戻すには、ちょっと威力の足りない導入にも感じる。
確かにバレットの若い頃の話は重要なエピソードだが、タイミング的には2章と彩光少年の間とか、最悪でもゼロクロと4章の間くらいで発表できれば良かったと思われる。
とはいえ、念願の完結編を拝めそうなのは嬉しい限り。

読者も作者も歳を食ってしまった感はあるが、10年間の空白を埋められるほど熱くなることに期待して7点献上!

ナイスレビュー: 0

[投稿:2019-06-20 19:18:53] [修正:2019-06-20 19:20:43] [このレビューのURL]