「とろっち」さんのページ

総レビュー数: 300レビュー(全て表示) 最終投稿: 2009年10月09日

ドラクエが好きな方、特にファミコン時代から慣れ親しんでいるような方には必読の一冊。

ゲーム黎明期。 後にドラクエのプロデューサーとなる千田幸信が、堀井雄二、中村光一という
2つの輝く才能と出会い、今や国民的ゲームとも言うべき「ドラゴンクエスト」ができるまでの努力と苦悩、
波乱万丈な道程を、ドキュメンタリータッチで描いた作品です。


当時はアクションやシューティングゲーム全盛期。 まだ日本に一般向けのRPGがなかった時代。
時代の先を読んだ千田氏がドラクエの企画を立ち上げたときも、業界は元より社内での反応すら、
「だってRPGはマニアのゲームだよ!? 売れないんじゃない!?」

運命の糸に導かれるようにして結集した最高のスタッフ (作中では鳥山明の出番が少なめですが)。
しかし日本初の大衆向けRPGの制作はやはりハードルが高く、頭を悩ませ、試行錯誤を繰り返します。
いかにわかりやすく、それでいて面白くできるか。
ドラクエの容量は512キロビット(=64キロバイト)。 今なら写メ一枚分にも満たないぐらい。
容量の都合上カタカナは20文字しか使えず、メイン楽曲も8曲のみ。
それでもあんな凄いものが出来てしまうんですよね。 人間の想像力は無限大です。
ゲームに限らずとも現在では当たり前のように享受しているような物事やアイディアでも、
最初に誰かが考え、創意工夫して作り上げたんだな、と思い知らされます。

もちろんトラブルや揉め事だって起こります。
すぎやまこういち氏の起用を巡る中村光一のトラブル等は有名なところかもしれません。
(実際には千田氏が起用を渋っていたという話もあるみたいですが。)

それもこれも、良いゲームを作ろうという強い思い、こだわりがぶつかり合ったゆえのもの。
「わたしの夢はただひとつ! 世界一のゲームソフトをつくることです!!」
「ぼくは……売る側の都合で、遊んでくれる子供たちの期待を裏切るようなことはしたくありません」
熱いなあ。
数多くの似たようなゲームが氾濫する中で、ドラクエがここまで生き残り、こんなにも成功できた理由。
この漫画を読めばきっとわかります。

そして、ついに完成。
全身全霊で締めの作業に打ち込んだスタッフ陣、そしてそれを見守ったこの漫画の読者をも、
すぎやまこういちが奏でる「広野を行く」(フィールドの曲)が暖かく包み込んで祝福してくれます。


子供の頃に何度となく読み返し、手放して一番後悔したかもしれない作品です。
絶版になるとは思わなかったので…。
先日運良く再度手に入れる機会があり、即購入。 もう手放すことはないでしょう。
改訂版もあるようですが、影の貢献者とも言うべき鳥嶋氏(マシリト)が大人の事情で出てこなかったり、
他にも内容が大幅カットされているらしいので、読むなら是非とも初版本を読んでほしいです。

良いものを作ろうとする熱い気持ち、面白いものを世に広めようとするワクワク感、
そして新しいものを生み出そうとする少年のような夢や冒険心。
そういうものがこの作品にはたっぷり詰まっています。 お薦め。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2010-11-29 01:22:34] [修正:2010-11-30 02:19:51] [このレビューのURL]

美少女漫画で 「バキ」 をやったらこうなったッッ!!!

とは言うものの単なるパクリではなく、良い意味でのオマージュと言うか、
うまく土台にして作品を作り上げている感じ。
もう女の子だろうが何だろうが容赦なくボッコボコです。

美少女漫画なのにヒロインは安達哲の「バカ姉弟」のお姉ちゃんみたい(でも女子高生殺し屋)ですし、
多重人格暗殺者、通り魔殺人狂の天才少女、邪眼使い、米大統領付シークレットサービス、サイボーグ、
ゾンビ使い、猫男、運命を操るボクサー、などなど本当にいろんなもんが出てきますが、
このバカバカしささえ楽しめれば結構ちゃんとした格闘漫画やってます。
バカ臭いほどのB級エンタテインメントに溢れた作品。 もちろん褒め言葉です。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-11-29 01:10:22] [修正:2010-11-29 01:10:50] [このレビューのURL]

8点 屍鬼

この作品で一番すごいと思ったのが、「小野不由美のホラー小説を藤崎竜が漫画化する」という発想。
ギャグ色が強くてある意味奇抜な絵柄の藤崎竜は、ホラーにミスマッチ、だと思ったんですけどね。

この作品の漫画としての面白さは、やはりその画力によるところが大きいです。
彼の絵は、造形美が上手いとかそういうのとは違う種類の上手さで、
他の漫画の言葉を借りると、世間一般に言われている上手さの 「斜め上を行く」 上手さ。
ポップでありながらホラー。 彼にしか描けないと思います。

封神演義のときは全体的に白っぽい印象でしたが、今回は黒の使い方が特に秀逸。
展開の都合上どうしても夜の場面が多くなってしまいますが、濃淡を上手く使い、
雰囲気を損なうことなく登場人物を鮮明に描けているのがすごいです。
それにより、原作では文字のみで表現されていた不気味さが視覚的に体感できるようになっています。
小説を漫画化する上での最大の特長ですね。

小説のコミカライズに抵抗のある方もいると思いますが、個人的には面白ければ何でもありです。
小説を書いた人が漫画も自分で描くならまだしも、別の人が介在しているわけで、
全く同じものができるはずもないし、全く同じものを作る必要もないんじゃないかな、と。

この人が絡むとどうしてもコミカルな部分が増えてしまうのは否めないですが、
この作品ではそれが好転しているのではないでしょうか。
重々しく陰惨な雰囲気だった原作が、全く別の雰囲気のホラーに生まれ変わりました。 今後も期待。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2010-11-22 00:51:09] [修正:2010-11-22 00:51:49] [このレビューのURL]

なぜ青年誌なのかがわからないオムニバス形式の連作集。

設定はとても魅力的ですし、ストーリーもいかにも典型的なものばかりですが安心して読めます。
だけど必要以上にコメディ色を強くするのはいかがなものか。
せっかくの良い話をギャグでごまかしているように感じてしまいました。

冒頭でも書きましたが、なぜ青年誌? っていうのが読んでまず抱いた感想。
題材的にも内容的にも少年誌向けの気がします。

内容はベタすぎたので(個人的にベタは嫌いではないですけど)、意外性が欲しかったです。
絵柄も、少年誌でラブコメをやるのには向いていても、青年誌でちょっと良い話をやるのには
あまり適していないんじゃないかなと思います。

悪い作品ではないんですが、青年誌の作品としての評価はこのぐらいになっちゃいますね。
人にはそれぞれ輝ける場所があるわけで、少なくともこの作者にとってこのジャンルは違う気がします。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-11-22 00:43:52] [修正:2010-11-22 00:43:52] [このレビューのURL]

5点 海月姫

いま笑いの神が降りていると評判の東村アキコ氏の話題作。
講談社漫画賞を受賞した作品ということで、全く前情報を仕入れずに読んでみました。

話の根幹は典型的な少女漫画。
冴えない女の子がイケメン男子に見初められ、ちょっとメイクアップ、ドレスアップされると、
あらまぁ美しい女性に大変身、しかもそのイケメン男子は金持ちの名家で性格も良好、なんていう、
典型的どころか絶滅寸前かもしれないシンデレラストーリーです。

ただ、東村氏の作品は、ストーリーというよりはキャラの濃さが特徴的。
この作品も濃いーキャラが暴れまわるドタバタコメディで面白いですよ。 ですが……。
またこれ系の話ですか。 本当に最近増えましたね、おたくネタを前面に押し出した作品。
個人的には食傷気味なのですが、漫画賞を受賞していることから考えても、もうこのジャンルが
立派な市民権を得たということなのかも。
この手の話が苦手な人でなければ、十分に楽しめる良質のコメディだと思います。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-11-19 01:35:03] [修正:2010-11-19 01:38:36] [このレビューのURL]

5点 ES

ESと名付けられたその存在は、他人の脳と容易に同調し、瞬時に記憶を書き換えることが可能。
その能力を駆使すれば造作もなく人の心を操ることができてしまう。
しかし、ESが同調できない人間(=空気の読めない人?)も少しながらいて、その人たちが
ESの暴走を食い止めるために奮闘する、というお話。

作者の持ち味である、乾燥してサバサバした空気感、冷たく淡々とした中での控えめな温かさ、
こういうものが遺憾なく発揮されていて、雰囲気がとても好きな作品です。
ただテーマが大きすぎて上手くまとまらず、無理やり力技で押さえ込んだよう印象も受けました。

もともと話作りはうまい作者なのですが、初の青年誌ということで力みすぎたのでしょうか。
大きなテーマの割にどこか小ぢんまりとした話になってしまったような気がします。
期待しすぎたのかもしれないですが、設定が良かっただけに、面白くなりそうな要素を秘めながら
今か今かと待っているうちに不完全燃焼で終わってしまった感じです。
この辺は読む人によって随分感じ方が違ってくるでしょうね。
あと、そこまでグロい描写はなかったと思いますが、人がバタバタ殺されるので苦手な方はご注意。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-11-19 01:23:27] [修正:2010-11-19 01:23:27] [このレビューのURL]

かなりぶっ飛んだ無茶設定のコメディです。
登場人物の心情心理も、話の展開も、リアリティとはかけ離れているかもしれません。

でもそれがまた面白いんです。
無茶設定をシチュエーションコメディとして見事に楽しく調理しています。

こんな話は映画でもドラマでもなかなかできませんし、小説だと面白みが半減してしまいます。
漫画というメディアの強みを活かした作品ですね。
似たような作品がたくさんある中で、作者の力量が窺い知れる良作です。

この作品の良いところは、シュールなギャグが連発される中でも、全体が暖かさで包まれているところ。
それは主人公の父(母?)としての暖かさでしょうし、さらに言えば作者の各登場人物に対する愛情、
作品そのものに対する愛情なのでしょう。
読んでいても、作者同様に登場人物に対して暖かい目で見守ってあげたくなります。
自分が今まで7点を付けた中では、もしかしたらこの作品が一番好きかもしれません。
コメディとして細かい部分を気にせずに楽しめれば、とてもお薦めな作品です。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-11-12 22:17:09] [修正:2010-11-12 22:17:09] [このレビューのURL]

潤の笑顔が素敵すぎるハートフルコメディ。

少女漫画ながら恋愛パートの比重はそれほど大きくなく、どちらかと言えばコメディ色の強い作品。
ところどころに入る小ネタがかなり楽しいです。
作品のテンポがとても良くて嫌味もなく、素直に楽しめます。
登場人物の顔の区別がつかないことが難点ですが、絵は発展途上ということで。

残念だったのが店長のキャラ。
店長が不在の間に主役3人でうまくバランス良くまとまってしまったから、入り込めるスペースがなく、
存在感が薄くなってしまったんでしょう(作者も気にしていたみたいです)。

あと、客が店内にいるのに内輪ではしゃぎすぎな気がします。 これは読んでいて若干気になりました。
接客業としては致命的な描写ですが、リアルに描きすぎると漫画として成立しなくなってしまうので、
その辺のバランスが難しいところではありますね。

この作品の魅力は潤のキャラがすべて。
今まで読んできた全ての漫画のヒロインの中でも、自分の中で相当好感度高いです。
彼女の底抜けな明るさ、芯の強さ、そしてポジティブさは読んでいて本当に気持ちいいです。
癒しとかとは少し違いますが、ちょっとだけ気持ちがほっこりしてくるような作品だと思います。
タイトルに偽り無し、ですね。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-11-12 22:09:07] [修正:2010-11-12 22:09:07] [このレビューのURL]

人間が壊れていく。 身体も、心も。
「あたしはもうすぐ使いものにならなくなる もっと長くもつかと思ってたけど……意外と早かったなあ」
全身を作り変えるほどの整形手術で美貌を手に入れたトップモデルが、
手術後の激しい後遺症とストレスに悩まされ、蝕まれて、落ちていく様を描いた作品。

平然とした中で進行していく狂気。 ちょっとした歯車のズレ。 少しずつ、確実に忍び寄る崩壊の時。
こういう話を描けば、この作者の感性に勝てる人っていないんじゃないでしょうか。
暗い話でありながら暗さを感じさせず、辛い話でありながら辛さを感じさせず、
痛くないナイフで身体をえぐり取られていくような感覚。

りりこは自分が破滅に向かって歩き続けていることを知っています。
自分が期間限定なのを知っています。

ただ、これを悲劇の話だとは感じませんでした。 むしろりりこの強さに唸らされました。
その強さは、男性では決して持ち得ない、女性ならではの強さ。
限界が目前に迫り、りりこはさらに美しく輝きます。
「りりこがいちばんキレイだったのって、この頃だったかもしんないって思うんです」

そんな中、りりことは違う世界に生きる特別な存在、吉川こずえを出すことで、
りりこという存在がさらに際立って見えてくるから凄いです。
「人間なんて皮一枚剥げば、血と肉の塊なのに」
その皮一枚が本当に若くて美しく、自分への自信が全く揺るがない、吉川こずえ。
そうではなかった、りりこ。

一般人と対極のところにりりこは存在し、あんな風にはなりたくないと思い、
でも一方で、心のどこかで共感、羨望してしまう、そういうものをりりこは持っているのでしょう。

りりこの脆さ、りりこの弱さ、りりこの逞しさ、りりこの美しさ。
りりこの強さ。

誰もりりこにはなれないのかもしれないし、誰でもりりこになり得るのかもしれません。


未完終了ということにはなっていますが、一応の話の決着はついています。
どこか含みを持たせるような終わり方ではあるものの、こういうのもありかな、と思わせてくれます。

タイトルはかの有名な曲から取ったのでしょうが、元々の意味は「すべり台」であり、
「狼狽」「混乱」の意味も併せ持つとのこと。
人間が転げ落ちていく様を表すのにこれほど適した言葉も無いのかもしれませんね。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2010-11-04 01:37:32] [修正:2010-11-04 01:37:32] [このレビューのURL]

全体を通して考えると、面白かったです。
雰囲気も良いですし、島の全体像を図示してくれるので、わかりやすく読めます。

ただ確かにオチは弱いと思います。
このパターンのオチは小説で使う分にはいいと思いますが、漫画にはそぐわない気がします。
というのも、文字だけで状況や感情等を全て判断する小説と異なり、漫画は絵でも判断するわけです。
特に漫画はちょっと表情を誇張して描いた方がインパクトが出ますし。

そういうことで、登場人物の目の描写や細かい表情などから感情を推察しながら読み進めていくと、
途中までのあの展開は何だったのか、ということになってしまいます。
拍子抜けというか、脱力感が生じてしまった感じ。

それ以外は十分に楽しめるサスペンスアクションです。 短くまとまっているのも好印象。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-11-04 01:26:57] [修正:2010-11-04 01:28:14] [このレビューのURL]