「とろっち」さんのページ

総レビュー数: 300レビュー(全て表示) 最終投稿: 2009年10月09日

少女漫画の1つの頂点であり到達点。

幽霊になった男。 夢の中で出会った少女。
夢に囚われた青年が、無限の時空を航行するがごとく、現と虚とを行き来する。
自分が少女の夢を見ているのか、それとも自分は少女が見ている夢の登場人物にすぎないのか。
どこまでが夢なのか。 どちらの世界が現で、どちらが虚なのか。
現と虚。 ただし彼にとってそれはさほど大したことではないのかもしれない。

透明感のある水彩画のようなモノクロページと、異常な程の質感を表現した油絵のようなカラーページ。
耽美的とも思えてしまう驚異的な筆致がミステリアスなストーリーと溶け合って生まれた夢幻の世界。

これぞまさに芸術の域。


これは本来なら文句無しに10点をつけるべき作品なんだろうなと思わされます。
そのぐらいにこの作品のレベルは凡百の作品と比べて突出しています。
主人公の内省とその考証が作品の核ですが、ほぼそれだけでこれほどの作品ができるとは。
作者の構想力と自己表現力が恐ろしく優れているのでしょう。 手放しで賞賛せざるを得ないです。

しかしながら苦渋の選択で9点に留めました。
なぜかと言えば、漫画においてもう1つ大切なこと、「読み手に伝える」という観点において、
残念ながらこの作品にはそれが欠けている(或いは最初から度外視している)と感じてしまったので。
その部分で-1。 もう好みの問題だと思ってください。 この作品が圧倒的に凄いことは断言できます。

思えば、この作者は唯一無二の作り手ではあるものの、それと同じレベルの語り手にまでは
なり得なかったということなのかもしれません。
それもまた往々にして芸術なる哉。 真の芸術は理解の高みにあるということなのでしょうか。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2011-01-25 00:56:51] [修正:2011-01-25 01:16:12] [このレビューのURL]

エヴァの世界観を上手く使ったお遊び作品。
こういうの嫌いではないです。

確かにファンブックの域を出るものではないですし、
エヴァである必要性はどこにもない、と言ってしまっては身も蓋もないですけどね。
でも妙なところで本編とちゃんとリンクしていたりして、それなりに上手くできてるな、という印象。
漫画としてもそこそこ面白いです。

すごく良く言えば、「ほのぼの」が感じられるエヴァ、ですかね。
一部のキャラ(特にレイとゲンドウ)の性格が大幅改変されてラブコメ仕様になってますので、
それを許せる人向け。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-01-25 00:48:18] [修正:2011-01-25 01:14:47] [このレビューのURL]

4点 屍姫

バトルとホラーが良い具合で融合した勢いのある作品、でした。 今は五里霧中。

最初のうちはかなり雰囲気も良く単純明快な割に細部が凝っていて、面白かったですよ。
ただ、ストーリー上の大きな分岐点を越えたあたりから、話は盛り上がっているはずなのに
読んでるこちらはどんどん盛り下がっていく不思議な感覚。
バトル漫画なのに強さの基準がさっぱり分からないのは結構致命傷かと思われます。
登場人物をたくさん増やしながらもうまく制御できていないため、誰が誰やらよく分からないのも残念。

「屍姫」の設定の根幹である、「人間<屍」の強さの原則と、「未練ある女性のみ(=姫)」、というのは
まあそんなもんかと思って読めたのですが、むしろこの作品の一番のポイントとも言える
「女の子たちがわざわざ学校の制服で戦う」意味が全くわからないです。
なんて真面目にツッコミを入れても自分が悲しくなるだけなので止めときます。
でも超ミニスカートでどんなアングルでハイキックをしてもオーバーヘッドキックをしても、
どこまでも頑なに決してパンツを見せない作者の信念は凄い。
気合いを入れる箇所が間違っている気がしますが凄い。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-01-21 00:56:22] [修正:2011-01-21 00:58:01] [このレビューのURL]

6点 SARU

猿です。

それはハルマンタと呼ばれ、トラロックと呼ばれ、トゥニアクルクと呼ばれ、ドゥナエー、内臓を晒す者、
ハヌマーン、トート、ヘルメス、そして斉天大聖孫悟空と呼ばれる存在。
世界のあらゆる秩序を左右するほどの力を持った存在。
世界を滅ぼす力を持った存在。
恐怖の大王。 アンゴルモア。 黒魔術。 コンキスタドール。

形而上的な存在に対するこの作者の考察と描写力は相変わらず図抜けています。
その迫力におののき、その表現力に感服し、その雰囲気に酔いしれる作品。

一方でストーリー的には詰めが甘い印象も受けました。
壮大なスケール感と引き込まれるような序盤の展開は素晴らしかったんですけどね。
何なんだろう、不完全燃焼な感じです。
2巻できれいに終わらせるために無理矢理まとめすぎたのかもしれません。
もっと長く自由に描けていたら大傑作になっていた可能性ありです。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-01-21 00:51:19] [修正:2011-01-21 00:51:19] [このレビューのURL]

言うなれば、「君に届け」を変人だらけにしたような感じ。
そんな風に感じるのは自分だけかも。 いや、でもこっちもなかなか面白いですよ。

友達が欲しくてたまらない人、友達なんて全く必要ないと思っている人、
自然に誰とでも友達になれる人、こういう人たちが織り成すドタバタ要素の混じったお話。
テンポの良さと各キャラの絡みが楽しい作品です。
一応は青春恋愛ものなんですが、全くドキドキしません(良い意味で)。

ちょいとだけ気になったのが、友人グループの1人、ササヤンくん。
この作品は登場人物のキャラが立ちすぎていて、しかもみんな違う方向にベクトルが向いているため、
自由にやらせておくとカオス状態になって話の収集がつかなくなってしまいがち。
そこを修正して話をうまく前に進める役割を1人で担っているのがササヤンくんです。
彼は「女性から見た最高の男友達」を体現したキャラ。 男性作家には作れないようなキャラでしょうね。
彼が作品に都合よく動きすぎるっていうのもありますが、何かあまりにも無欲すぎるのか、
読んでいてどうもしっくりこないところがあったりします。
本当に良い奴なんですけどね。 何だか損な役回りでこき使われてるなあ。

あと、後付け設定でどんどん話のスケールを膨らませていくのは避けてほしいですね。
例えば「実は資産家の子供だった」とか等々、少女漫画のインフレとしてよくありがちなやつです。
現在の設定を熟成させていくだけでも十分面白いので、あまりそういう展開にはなってほしくないです。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-01-18 01:50:42] [修正:2011-01-18 01:56:10] [このレビューのURL]

作品の雰囲気良し、テーマ良し、画力良し、3巻できれいにまとめた構成力良し、
という作品でありながら、良作というよりは佳作ぐらいの印象。

話としてはベタの範疇ではありますが、作品としての完成度はなかなか高いと思います。
ただ、長年温めてきた犯罪計画の割には、実際の遂行がかなり偶然と運任せすぎる気がします。
犯人ももうちょっとちゃんと計画練った方がいいんじゃないでしょうか。

前作「RESET」の主人公がストーリーに絡んでくるので、読んでない方は若干とまどうかも。
それ以外のキャラは総じて記号的です。 個性は期待できません。
ただそれは欠点ではなく、短い巻数で話を作者の思い通りに掌握するために
余計な要素を削ぎ落とした故の結果なのでしょう。 狙い通りに機能していると思います。

それだけに読後のインパクトが弱いのが残念です。
オチも弱いですが、オチなしと言うよりは起・承・転・結の転がないように思えます。
起があって承があって、そのまま特段の捻りも意外性も展開もなく予定調和で終わってしまった感じ。
ミステリーではなくアクションものとして読んだ方がしっくりくるかもしれません。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-01-18 01:39:38] [修正:2011-01-18 01:39:38] [このレビューのURL]

サバイバル・ラブ・サスペンス。

この作者の作品全般は以前から自分の中で「大人のしるし」とも言えるような、大人向けのイメージ。
それをこれだけ面白く読めたということは、 自分も大人になったな、という気がします。 当たり前か。

ダメ女に魅せられ、振り回されて、少しずつ(ただし自分の意志で)人生が狂っていく主人公。
そんな彼が下す決断は、共感できる部分とできない部分とのギリギリのところを常にうまく突いてきて、
先の読めないジェットコースター的な展開に目が離せなくなります。
ほのぼのとした暖かみのある絵で、こんなサバサバしたサスペンスをやられてしまったという
ギャップが、良い方に転がっている作品です。

平穏、無難。 それと相反する苦難、波乱。 生きているという実感。
人は皆そういうものを心の奥底で望んでいるのか、とも思えてしまうほどに研ぎ澄まされた愛憎劇。

「君に野心と、本気があるならばな。」

本気のしるし。
 

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-01-13 01:18:10] [修正:2011-01-13 01:19:08] [このレビューのURL]

頑固で不器用な男が、それぞれ全く性格の違う斉藤さん(女)2人と同居することになり、というお話。

この作者の描く女性像は、本当に男性にとって理解し難い存在かもしれないです。
とは言え、自分としては主人公の男性にもなかなか感情移入することができず、
何だか悶々としたまま、それでいて息つく暇もなく全5巻を読み切ってしまいました。

他の方のレビューにもあるとおり、痛く、怖いです。
それは、人として生きていく上で少しずつ積み重ねてきた罪悪感や後ろめたさに光を当てた描き方を
しているからとも言えるわけで、そういうもののタガがある意味外れた最終巻での3人の
怒涛の開き直りっぷりが個人的に好きです。

おまけ漫画でのマルチエンディングが良い味出してます。

連載時に読んでたときはそうでもなかったのですが、久々に読み直してみたらかなり面白かったです。
対象年齢若干高めかもしれません。
あと、これは確かに番外編「ベイビーリーフ」を先に読んだ方がいいです。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-01-13 01:10:03] [修正:2011-01-13 01:11:08] [このレビューのURL]

王道まっしぐら。 良くも悪くも。

無知な素人だけど驚異の潜在能力を持った主人公が、時折その秘めた力を爆発させながら
仲間達と切磋琢磨しつつ強大な敵と戦い、成長していくストーリー。
絵もそこまで上手いとは言えないまでも、かわいらしい中に力強さがあって雰囲気がなかなか良いです。
人気が出るのも納得の出来。

ただいかんせん正統派の王道作品なので、ドロドロに濃い世界観とか、全てをひっくり返すような
大ドンデン返しだとか、一部の人のみを強烈に引き付ける圧倒的なカリスマ性とか、
どこかそういうヒネリを求めている読者には物足りない部分があるかもしれません。

作品の設定自体はこれからいくらでも上手く膨らませそうな可能性を秘めているので、
あとはそれを生かすも殺すも作者の腕次第。
この作者の作品はこれしか読んだことがないですが、話を作るのはかなり上手そうなので、
これからも安心して読めそうです。
一方で、登場人物を動かすのはあまり上手くないのかな、という印象も受けました。
特に弟くんの性格がいま一つブレて読みにくく感じました。

最近かなり多いですね、女性作家のバトルもの。
男性作家の作品のような沸点の高い熱さと比べて、女性作家の作品は人肌に近い温度と言うか、
ほんのり温かい感じがするところがまた違った良さにつながっているのかもしれないですね。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-01-04 01:38:34] [修正:2011-01-04 01:38:34] [このレビューのURL]

10点 潔く柔く

様々な登場人物が織り成すオムニバス形式の群像劇。

それぞれの話はどこかで、誰かでつながっていて、
「人が、人と関わって、ある関係が、動く、変化する、生まれる、無くなる、残る」
そういうのがこれ以上ないほど見事に描かれた、傑作としか言いようがない作品。

とある話では主役だった人が別の話では脇役になり、さらに別の話では憎まれ役になったりもしながら、
いろいろな人がそれぞれの話の主役になり、自分たちの物語を紡いでいく。
一つ一つのエピソードはどれも暗く、重く、地味なものばかり。
みんな弱くて、苦しんで、迷い込んで、立ち止まる。

15歳のときに大切な存在を失い、自分の時間が止まってしまったカンナ。
「冷血人間」と言われながらも、実は熱いものを隠し持つ梶間。
作中の数多くのエピソードすべては、「カンナサイド」と「梶間サイド」のどちらかに大別される。
喪失感と罪悪感に押し潰されてしまったカンナをあくまでも深く話に絡ませる「カンナサイド」と、
どちらかと言うと梶間が脇役的な役割に徹し、彼を取り巻く周囲が魅力的な「梶間サイド」。

どのエピソードも非常に秀逸ではあるものの、それぞれのサイドが互いに全くの無関係とも
思えるままに物語は進んでいく。
しかし終盤、それらが時間も場所も超えて縦横無尽に紡ぎ合い、一つにまとまっていく。
その加速度的な勢いに圧倒される。 凄い。 本当に凄い。

そしてそのつながりがカンナを再生へと導いていく。
人と人とのつながりが。 ゆっくりと静かに流れていった時間が。 魂を揺さぶるような言葉が。
「無事23歳になった?」
カンナは止まってしまっていた物語を紡ぎ始め、再び自らの人生を歩み出す。
自分の弱さと、過去と、正直な心と向き合いながら。 潔く、柔らかく。

最後は何気ない日常の1コマで終わりを迎える。 敢えてその場面で締めることに意味があるのだろう。
彼の今となっては決して報われない思いを、忘れられていく情景に添えて送るのだ。
描ききったすべての登場人物に、作者から感謝の意と愛を込めて。
そこでこの作品はカンナのためだけにあるわけではないということに気付く。

魂の再生と評されたこの物語。
作中で未来は誰の上にもあるのだということを逆説的に提示してくれているのかもしれない。
少なくとも生き残った者はそう信じて生きていくしかない。
みんな前を向いて自分の道を歩いて行く。 代わりなんてない、自分の物語を。 進め、進め、進め!

ナイスレビュー: 4

[投稿:2011-01-04 01:31:57] [修正:2011-01-04 01:32:28] [このレビューのURL]