「とろっち」さんのページ

総レビュー数: 300レビュー(全て表示) 最終投稿: 2009年10月09日

The Flower Of Life. すなわち、「人生における最盛期」であり、「生涯で最良のひととき」。

漫画家を目指す男子高校生が主人公の、いわゆる学園もの。
その学園生活がものすごく瑞々しく描かれているんですが、それが実に楽しそう。
なぜそんなに楽しそうかと言えば、一つには登場人物同士がお互いを気遣い、心配りを忘れず、
空気を読み合うことによって生まれるユートピアのような雰囲気が心地良すぎるから。
ありそうであり得ない理想郷の風景なのかもしれないですが、この作品が現役高校生ではなく
かつて高校生だった人向けに描かれていることを考えれば、何となく納得がいきます。
心の中にある「理想の学校生活」ってこんな感じなのかもしれないですね。

BLばかり描いてる作家だと思って何となく避けていたよしながふみ作品で、最初に読んだのがこれ。
で、「あれ、この人すごくね?」という印象を抱かされ、その後よしなが作品を読み漁ることに。

そのぐらいに作者の上手さを感じる作品でありました。
何気ない日常を良質のエピソードに昇華させて描かれる1巻から3巻まで、
そして、登場人物の性格付けのための単なる設定だと思っていたある事柄を伏線として大胆に活用し、
その他諸々のドラマティックな展開と併せて見事にまとめ切った最終巻。

何て言うか、読後の爽快感がたまらない作品です。
あんなに登場人物たちが泣きじゃくり、思い悩み、ヘコんだりしているのに、
この作品を思い返したとき頭によぎるのは登場人物の笑顔と和やかさなんですよね。
その辺が作者の上手さであり、優しさなのでしょう。
登場人物みんなそれぞれの「フラワー・オブ・ライフ」には、やっぱり笑顔が似合うでしょ、っていう。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-02-28 01:28:26] [修正:2011-02-28 01:29:12] [このレビューのURL]

「料理は勝負!」 「勝つためには容赦しないぜ!」
初期の美味しんぼとかクッキングパパとかとは対極にある料理漫画。
ミスター味っ子ぐらいからバトル形式の料理漫画が増え始めましたが、これはその最たるもの。

「そんなに勝ちたいのか? ケンカを売り歩くのがお前の料理か?」 「そうだ!」
食べた人を喜ばせる料理なんてものには見向きもせず、相手に勝つためだけの料理、もっと言えば
相手を負けさせるためだけの料理なんてものも平気で作ります。
相手の料理をマズく感じさせるための料理だとか、審査員の舌や人格までも破壊する料理だとか。
そんな主人公・ジャンのキャラの濃さが特徴的ですが、彼は悪意の塊のような存在かと思いきや、
素直でかわいいところもあったりして、何だか憎めないキャラだったりします。
ジャンよりもっと憎たらしいキャラが大勢出てくるのもそう感じる一因かもしれません。

ゲテモノ漫画と評されていることに個人的にはちょっとビックリです。
まあそのインパクトは確かに大きいと思いますが、全27巻、3桁に達するであろう登場料理の中で、
ゲテモノと言えるのはほんの一部なのに。
常任の料理監修の人が相当厳しかったらしく、また取材協力として常に多数のホテルや料理店の名が
挙がっていることもあってか、出てくる料理自体は基本的にまともです。
ただジャンの調理方法やその描写の仕方がかなりグロかったり異質だったりするので、
そこで合わない人が出てくるのかもしれません。

まあそんなこんなで料理があまり旨そうに見えません。
もっと正確に表現すると、実際に食べてみれば凄く旨いんでしょうけど、意表を突くような料理が多く、
作り方が複雑・高度すぎて味が想像できないんですね。
だから実食のシーンでも(食欲的に)何かいま一つ盛り上がってこないです。
でもバトルが面白いのでついつい読み進めてしまう、変な料理漫画です。

続編「R」ではジャンが真っ当な料理しか作らなくなってしまっているので、
こちらの方が読んでいて楽しいですね。
ちなみにコミックスおまけページの料理レシピは簡単に作れるものが多くてなかなか良いです。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-02-28 01:24:49] [修正:2011-02-28 01:24:49] [このレビューのURL]

子供の頃、宇宙に憧れ、宇宙飛行士になることや宇宙に行くことを夢見た人ってとても多いと思います。
でも現実の厳しさを知って諦めたり、興味が他の事に移ったりして、その夢を手放す人がほとんど。
そんな中で夢を手放さなかった人だけが夢を掴むことができるんだなあ、というお話。
ただしずっと夢を手放さなかったのは弟の方ですが。

絵は読みやすくて上手く、ギャグや小ネタが満載で、シリアスなところはきっちり締めています。
最初は「度胸星」をハロルド作石っぽく(似てません?)調理し直した作品だと思ってました。
全体のバランスが非常に良く、いろいろな要素が高次元でまとまった作品。

でもやっぱりこの作品が読む人を引き付けるのは、夢に向かう熱いエネルギーを感じること。
自分が主人公と同年代なので余計にそう感じるのかもしれないですが、
大人になってから夢を追いかけるのってものすごいエネルギーを使うんですよね。
さらに、人生を棒に振るという強い不安や焦燥感とも常に戦っていかなければならないです。
でもムッタはそれらに負けそうになりながらも屈せず、突き進んで行きます。 ムッタカッコイイなー。

そしてもう1つ。 何と言ってもポイントは「兄弟愛」。
クサさやいやらしさを全く感じさせず、すごく自然な雰囲気で描写されています。
この兄弟(特に日々人)にとって、宇宙で会うことは「夢」ではなく「約束」だったというのが良いですね。

その他の登場人物もみんな一癖も二癖もあって、魅力的で良いです。
読んでいて上手いと思わせられるのは、そんな魅力的なキャラたちがさらにムッタの魅力に
徐々に引き付けられていく描き方。
やっさんからのメールの場面は心が熱くなりましたよ、本当に。

「宇宙」で「兄弟」。 良い作品だなあと心から思えました。
夢とロマンとハートフルがたっぷり詰まった作品。 今後も読み続けていきたい良作です。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-02-22 01:07:02] [修正:2011-02-22 01:09:47] [このレビューのURL]

「ヘタレなイタリア」が主人公の風刺ギャグ漫画。

国を擬人化する、という発想の時点で既に勝ち。
さらに、かなり綿密で詳細な人物(国の性格)設定のため各々のキャラ(国)がすごく個性豊かになり、
漫画としても風刺ものとしても良くできているなと思います。
例えばウクライナは「ヨーロッパ最大の豊かな穀倉」と「豊富な地下資源」=「巨乳(豊乳)キャラ」で
周囲から狙われている、ベラルーシはロシアの妹だが嫌われ者(独裁国家のため国際的に孤立)で、
ロシアと結婚(国と国とが統合)したがっているけどロシアは嫌がっている(政治・経済的に)、等々。

歴史上の様々な出来事をキャラ同士のエピソードに上手く変換し、わかりやすく見せてくれます。
どこかほのぼのとしていながら、実にシニカルな視点のネタが多いのも好み。
一目でうっすらわかったような気になる世界情勢。 気になるだけですけどね。
もちろんこの作品で国際政治を学ぶのは不可能ですが、雑学程度としてなら十分に楽しめます。

問題は、漫画として純粋に面白いかどうか、ということ。
他の方のレビューにもありますが、構成やオチを楽しむよりはキャラの個性を楽しむ作品と言えますし。
みんな似たような顔しているから登場人物が誰が誰だかわからないのが欠点。 絵も雑すぎ。
あと、さすがに最近はネタ不足気味な感ありです。
良くできている部分と商業レベルに達していないような部分とが混在しているので、評価が難しいです。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-02-22 00:46:34] [修正:2011-02-22 00:53:39] [このレビューのURL]

Don't trust over thirty. そのまま直訳すれば、「30歳以上を信用するな!」

30歳を超えた漫画家が、ふとしたことから自分が年齢的に十分に大人であることに気付いてしまい、
「大人」という言葉が重くのしかかってくる中で、どうにも「大人」になりきれない自分の弱さを
ダメな父親のせいにする…。 そんな私小説的な臭いを感じる表題作で幕を開ける短編集。

大昔は10代半ばで元服して大人の仲間入りをして、いつの間にか成人が20歳になって、
現在では(法律上はさて置き)実際には20歳だとまだ立派な大人として扱われるかは微妙で、
どんどん大人になる年齢が後退していく世の中。
どこまでが子供なのか、どこからが大人なのか。
誰がいつ決めるのか、境目はどこにあるのか。
「今までは大人に向かって言う側だった。 それが、子供に向かって言う側になるだけの話よ」
そんな岐路に立たされた人々が青臭くもがく話、ならまだ良いのですが、そこはやっぱり OVER 30。
そうだったりそうでなかったり、一筋縄ではいかないんですよね。

そういうような青臭い短編がいくつかあって、巻末に来るのは表題作の続編に当たる位置付けの
「SON HAS DIED, FATHER CAN BE BORN」。
この短編は実に良い感じ。
「親なんて所詮、生物学上の親でしかありえない」はずだったのに、あれだけ嫌いだった父親を思い返し
「子供がいることで初めて親になれる」のかもしれないと思い始める主人公。
そしてふと気が付くと「立派な大人」の呪縛は消え去り、肩の荷が軽くなっている。
言葉で書くと何か陳腐なのが残念ですが、この構成も構図もなかなか感慨深いです。
あと短編中にもう一つ別のエピソードがありまして、そっちも好きです。 でもこれは男のエゴかな。

面白いかどうかはさておき、何かが後に残る、ような気がする一冊。
とりあえず何度も読み返したくなります。
30を超えてそんなことで悩むなよ、という方もたくさんいるでしょうが、たまにはこういうのも良いかも。
「良い大人になってね」なんて言葉、AROUND 30 としては耳が痛いなあ。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-02-16 01:06:20] [修正:2011-02-16 01:16:12] [このレビューのURL]

冬目景らしさに満ち溢れた作品。

全体に漂う薄暗くてもやのかかったような特有の雰囲気はこの作者にしか出せないでしょう。
ただ、何か起こりそうだったり、テーマがすごく深そうだったり、よく練られてそうだったりしながら、
結局はそうでもなかったりします。
作者にしては珍しく完結した作品ですが、終わり方については作者の思うとおりに果たしてできたのか。
ちゃんと終わることにエネルギーを注ぐあまり、事前の構想どおり終われたのか甚だ疑問ではあります。

そういう意味でとても作者らしい作品だと思います。
もどかしさ満載と言うか、痒い所に手が届きそうで届かない感じと言うか。
作者の良さだけを知りたいなら他の作品がありますが、良さも悪さも堪能したいならこの作品がお薦め。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-02-16 00:55:51] [修正:2011-02-16 00:59:56] [このレビューのURL]

「天才を描く」曽田正人の作品の中でも、すばるはまた毛色が違う感じ。
この作品は正に、圧倒的なすばるの才能だけで成立しているように思えます。

そもそもすばるというキャラは主人公向きではないんですよね。
人物的にはあまり魅力的とは言い難いです。
だからこそ、踊っているときのすばるの狂気を孕んだ魅力、それが見事なまでに際立ちます。
そしてその天賦の才能を余すところなく描写している作者の卓越した表現力。
絵が上手いとは素直に言い難いですが、これだけの凄みを見せ付けられると、ラフ画のように飛び交う
線の一本一本にも技巧に勝る何か強い力が込められていると思わざるを得ません。

ただ、前作「昴」と今作「MOON」とでは全く違った印象の作品になっているように感じました。

前作でのすばるは、何と言うか、非常に「危うい」存在。
読んでいて、ナイフで鉛筆を極限まで削るような感覚。
削るほどにどんどん尖っていきます。 折れやすさと引き換えに。
いつかどこかで折れそうな研ぎ澄まされた危うさを内に秘め、だからこそすばるはあんなにも輝きます。

対して今作でのすばるは、天才としてのエキセントリックさを前面に押し出してはいますが、
根底にあるのは、すばる自身の「力強さ」。
自分を強く持ち、どこまでも自己を強く表現していて、それが輝きにつながっています。

すばるが自分で語っていたように、「バレエに対する畏れを失ったこと」が印象の差異の一因に
なっているのかもしれません。
前作でのすばるは、孤高。 高みを目指そうとすればするほど孤独になっていく宿命。
今作でのすばるにそれが感じられないのは、ニコというパートナーを手に入れたからか。
それだけではないような気がするんだけどなあ。
願わくば、前作「昴」と今作「MOON」との間の時間も読んでみたいところではあります。
まさかアレックスとのロマンスだけでそれほど変わってしまったわけでもあるまいに。


考えてみると、わざわざタイトルを変更したことにも大きな意味が込められているのでしょう。
他の星よりも一際明るく輝く「昴」から、さらにもっと明るく、もっと妖しく、もっと美しく輝く「月」へ。
複数の星が寄り添うようにして輝く「昴」から、夜空に圧倒的に君臨する「月」へ。
それでも人々を明るく照らす「太陽」にはなり得ないところがすばるらしいのかもしれないですが。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-02-10 00:48:37] [修正:2011-02-10 00:51:08] [このレビューのURL]

青春+微エロを貫き通した作品。

連載時、「いつかきっと何か起こりそうだ」という予感を感じながら読み続け、
ついに何も起こらないまま終わってしまった作品。
でも10巻も続いたんですよね。 同じような期待をしてしまった人が多かったのでしょうか。
一言で言うと、よくわからんマンガ。 そんなレビューありなのか。
まあ後々考えると、こういうおバカな時期って必ず人生の糧にはなりますけどね。 そういうことなのかな。
あ、絵は上手いです。 それだけ。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-02-10 00:44:15] [修正:2011-02-10 00:45:12] [このレビューのURL]

7点 HOTEL

良質のSF短編集。
メインとなる短編が5編、さらに各編の間にそれぞれ2ページのショートSFが計4編入っています。


「HOTEL -SINCE A.D.2079-」
人類が滅亡する間際に作られた塔、通称HOTELが、永い年月を過ごす話。
非常に完成度が高くて読み応えのある壮大な物語ですが、さらにより良いものにしているのが
作中で効果的に挿入される「What A Wonderful World」。
この素晴らしき使い方。 聴きながら読むと感慨も倍増。 さらに胸が熱くなります。
高い画力と見事な構成力で余韻まで計算されて描かれた、この短編集の表題を飾るに相応しい作品。

「PRESENT」
これはマジで巧い。 泣けました。

「全てはマグロのためだった」
個人的にはこれが一番好きですね。
作品のスタート地点を敢えて「HOTEL」と同じ位置に設定して、コメディタッチでグイグイ進みながら
ちゃんと別のところにゴールを用意しています。
しかもそれら全てはマグロのためだったw
オチも綺麗。 お見事。

「Stephanos」
短い中にいろいろと仕掛けを凝らしていますが、結局はBASTARD。

「Diadem」
こっちはちょっと銃夢っぽい作品。
後2編は前3編と明らかに方向性が異なるので、好きな人向け。


本格的なSF作品ではありますが、骨太SFと言うよりは「すこし・不思議」程度の感覚で読めるので、
SFが苦手な方にも読みやすいと思います(少なくとも前3編は)。
あくまで作品全体として評価して7点。 ただし幾つかの短編は傑作と言っても良いほどの出来です。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-02-04 01:02:49] [修正:2011-02-04 01:02:49] [このレビューのURL]

突然の失踪から自殺未遂・路上生活・肉体労働、アルコール中毒・強制入院まで、
波乱万丈の日々を綴った作者の体験記。

絵柄は昔のギャグマンガですが、妙にリアリティがあり、結構すごい内容だと思います。
が、悲壮感を全く感じさせない描き方がまたすごいです。
独特の視点と感性で、辛いはずなのにむしろ楽しそうに感じてしまうのも作者の技量あってこそ。
失踪したいのになかなかできない人はこれで疑似体験できるかもしれません。

とは言え、この作品を読んでみた感想は、期待していたほどでもなかったかな、という印象。
確かに作者の上手さは存分に感じられますが、作品としてそこまで面白いかというと、うーん…。
盛り上がる箇所や見せ場もなく(恐らく意図的に)、起伏のないままのらりくらりと話が進んでいく印象。
あれだけ賞をたくさん受賞して話題になった作品なので、自分の中でかなりハードルが
高くなっていたみたいです。
これから読む人は軽い気持ちで読んでみた方がいいかも。 つまるところ単なる日記です。

敢えて家族にはあまり触れていませんが、残された方はたまったもんじゃないでしょうね。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-02-04 00:57:53] [修正:2011-02-04 00:58:23] [このレビューのURL]