「とろっち」さんのページ

総レビュー数: 300レビュー(全て表示) 最終投稿: 2009年10月09日

「ナイフ」=「十代の自意識」。
ナイフのように剥き出しになった自意識を持て余し、溺れるがごとくに足掻き、彷徨い、
周囲を傷つけ、自らを傷つけながらも、少しずつ成長していく少年少女を描いた作品。

中学生にして早くも「人生のピークを過ぎた」と感じ、自分もかつて持っていた(と自覚している)
「キラキラと光り輝く光源」に本能的に惹かれ、追い求める夏芽。
そんな夏芽の剥き出しの感情が本の外まで飛び出すがごとく、読んでいて激しくぶつかってきます。

正直、三十路のオッサンが読むような漫画ではないかもしれませんが、
この作品の良さや凄さは十分に伝わってきました。
絵だって特段上手くないですし、ストーリー展開も他の少女漫画と変わり映えしないように思えるものの、
作品から伝わってくる空気が違う。 パワーが違う。 生々しさが違う。
夜の山、夏祭り、篝火などという小道具の使い方も上手く、神々しさを高めるのに一役買っています。、
触れれば切れるようなギラギラした危うさをこれほどまでに表現できているのは本当にお見事。

クセがあって異彩を放つ作品のため、万人向けとは必ずしも言い難いですが、
ハマる人はとことんハマるのではないでしょうか。
溺れるような年代を瑞々しく描いた、熱情がほとばしる渾身の作品。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-06-29 01:26:32] [修正:2011-06-29 01:26:32] [このレビューのURL]

5点 とかげ

神を喰らったが故に永遠に死ねない呪いを受けた「とかげ」。
人間としての死を望むために呪いをかけた相手を探し求めるとかげと、それに巻き込まれた忍武、
そしてとかげを国に害する者として消滅させようとする国の特殊機関。

何だか重くて暗そうな話に聞こえますがそんなことはなく、雰囲気もキャラも良くて読みやすく、
不死を謳いながらどこか儚さをも感じさせる不思議な作品。

全3巻でなかなか綺麗にまとまってはいるものの、その分スケールが小さくなってしまった感じ。
1巻を読んだ時点ではかなり面白いと思ったのですけどね。
と言うか途中までは結構面白かったのですが、分かりづらい終盤と放置気味のラストのために
どうも自分の中で勿体無い感じの作品になってしまっています。

絵はちょっと雑な印象もありますが、全体的に色気があってとても上手いと思います。
男臭い雰囲気のSPよりも、若い女性(中身は男性ですが…)をメインに据えたこういう作品の方が
作者の絵柄には合っているような気がしますね。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-06-29 01:22:03] [修正:2011-06-29 01:22:03] [このレビューのURL]

大好きな小説を、絵柄が好みである漫画家が描くとなれば、これはもう読まない訳には到底行くまい。

大筋を簡潔に述べると、酒を求めて夜の京都を巡り歩く「黒髪の乙女」の冒険譚と、彼女に想いを寄せて
ストーカーの如くに後を付け回す「先輩(私)」が珍妙な出来事にばかり巻き込まれる話である。
彼女は歩く。 灼熱の夏の古本市を。不毛な情熱溢れる秋の学園祭を。風邪の神が跋扈する冬の街を。
その度に彼女は意図せざるまま主役となるのだ。 尤も本人はそのことに未だ気づいてはいまいが。
路傍の石であり彼女の後ろ姿の世界的権威である私が、彼女の眼中に入るのはいつの日であろうか。

     ◇

さて、僭越ながら漫画版について説明させて頂きますと、原作のキュートでポップな部分を引き継ぎつつ
なんと全5巻のうちの半分以上がオリジナルエピソードなのです。
華やかで色彩豊かな世界が可愛らしさに溢れ、なんと素晴らしいのでしょう。
原作者も巻末のあとがきに於いて「可愛いことは良いことである」との至言を残しておられます。
まことに喜ばしいことです。

     ◇

付け加えるならば、キュートなポップさを強調しようと力み過ぎて総じて凡庸なラブコメに成り果てており、
原作のもう一つの特徴でもある妖しくも怪しい胡散臭さが再現できていないと言わざるを得ない。
恐らく漫画版は小説版とは違う読者層を狙っているのであろうし、その意味では妥当な出来なのだが、
原作を猛烈に愛して止まない諸賢の方々にはお薦めしかねる。
原作者も巻末コメントで「とりあえず小説読んでくれ」と暗に述べているではないか。

     ◇

けれども漫画版単体として見る分には、十分に合格点を与えられて然るべきだと思われます。
物語も後半に差し掛かってきますとそのような力みも抜けて自然体での面白さをむくむくと発揮し始め、
事務局長やパンツ総番長などはむしろこちらの方がずっと活き活きとしていることでありましょう。
原作と同様に愛すべき人々がこの華やかなる世界で痛快にご活躍する姿をごゆるりとお楽しみ下さい。
そうしてやはり「ビスコを食べれば良いのです!」が大好きなのです。 なむなむ。



すいません悪ノリが過ぎました。 原作ファンの方ごめんなさい。
ちなみに羽海野チカ版よりこちらの黒髪の乙女の方が個人的には良かったり。
まあそんなのどうでもいいですね。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-06-22 15:59:21] [修正:2011-06-22 16:05:34] [このレビューのURL]

「突然神様になってしまった中学生の女の子」のお話。

レビューを書くためにちょっと検索してみたら、この作品は元がアニメらしいのですが、そちらの方は
他の名だたる作品(ジブリとかエヴァとかAKIRAとか)と並んで文化庁の日本のメディア芸術100選に
選ばれるぐらいの名作らしいですね。 ちっとも知らんかった。

で、こちらのコミカライズ作品ですが、結論から言うとそこまで面白いものでもなかったです。

作品の雰囲気は良い感じ。
「千と千尋」にどこか似ていながらも、まったりほのぼのした雰囲気。
主人公ののんびりした性格とも相まって、ゆったりとした空気を味わうことができます。
ただしガチャガチャした性格のキャラも多かったり、全く興味の持てないラブコメパートが
ちょこちょこ挟まってきたりと、せっかくのまったり感があまり活かせていないように感じられました。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-06-22 15:53:49] [修正:2011-06-22 15:53:49] [このレビューのURL]

体操というジャンルを扱った漫画でこの作品を超えるものは今後出てくるのでしょうか。
そのぐらいの完成度と面白さを兼ね備えた、素晴らしき少年漫画。

原作は、自身がオリンピックで10点満点を出した金メダリスト・森末慎二氏。
というか本当に森末さんが考えたのか?と疑うぐらいに面白いです(失礼ながら本当らしいです)。
前半部分は特に対象年齢が若干低めな感じもしますが、それもそのはず。
そもそもの連載目的が、若い人にもっと体操に興味を持ってもらいたいから、とのこと。
体操の人気低下を危惧した森末さんが、そのために青年漫画誌ではなく少年漫画誌に漫画原作企画を
自ら持ち込んだ、と当時インタビューで答えていたように思います。

笑いあり、涙あり、ラブコメ部分はママゴトみたいですが女の子キャラもかわいく、
読めば熱くなり、ドキドキワクワクできる、非常にバランスの取れた作品です。
体操に関しては森末さんが原作だけあって詳しくてわかりやすく、その上リアリティに溢れています。
技とか成功しすぎという声もあると思いますが、実際に10点満点取った人が原作ですし。
何より、不安、緊張、葛藤、苦悩、昂揚、という選手の心理描写がとても丁寧で臨場感たっぷり。
だから練習の場面が面白い。 そして試合の場面はもっと面白い。 これは良いスポーツ漫画。

少年スポーツ漫画だけあって、他の様々な作品の例に漏れず主人公の天才っぷりが半端ないですが、
魅力的なのが先輩たち、通称・三バカのキャラ。
「跳馬の(真の)スペシャリスト」、「ゆかの貴公子」、「つり輪のヘラクレス」。
いやあこの3人は本当に好きだったなあ。 笑えるし泣けます。

全34巻と長丁場な作品ですが途中でダレることもなく、むしろ前半よりもそれ以降の方が面白いです。
アジア大会の盛り上がりが凄い中盤、そして五輪代表選考からシドニー五輪へとつながる後半。
ただ気になったこととしては、この作品のピークはメインであるシドニーオリンピックではなく、
その前の代表選考ではないかと思えてしまいました。
言い換えれば、代表選考が面白すぎてオリンピック本戦が物足りなく感じてしまいました。
あとついてにもう1つ、この作品(特に前半)は少年漫画の王道パターンであるトラブル発生→解決、が
多用されますが、そのトラブル発生が強引すぎて無理やり感がありました。 そこがちょっと残念。

最近は大人向けとも思えるような少年漫画も多いですが、対象年齢が低めに設定されていること自体は
その漫画の評価において決してマイナスではない、そんな好例の作品です。
少なくとも、体操に興味を持ってもらう、という当初の目的に関しては文句の付けようもありません。
体操の魅力を十分に表現した、爽やかで胸熱くなるような少年漫画。
オリンピックの度に読みたくなる作品です。 ちなみに現在では体操のルールも大きく変わってしまって
10点満点ではなくなり、技の最高難度もEではなくFやGまで上がったらしいので、そこを踏まえつつ。

ナイスレビュー: 3

[投稿:2011-06-16 16:13:07] [修正:2011-06-16 16:14:59] [このレビューのURL]

この世に未練を残して死んだ人を成仏させてあげるというコメディ路線の話。

設定がありきたりで、話の展開も最初のうちはどこか既視感があって、要するにとてもベタな感じです。
絵柄もテンポも雰囲気もいかにもな少女漫画。
ただこういう系統の作品だとどうしても「いい話」系の話に偏りがちになってしまうところですが、
ギャグやドタバタも過剰すぎない程度に盛り込んで、恋愛要素も無いように見えて後半はそうでもなく、
少女漫画らしくない話をいかにもな少女漫画として上手くまとめ上げているようにも思えます。

そしてそういうのに油断していると不意にいい話があったりして。
千里ちゃんの花火の話なんかかなり良かった。
軽く読みやすい感じなのでそこまで深みはないですが、思っていたよりずっと楽しめた作品でした。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-06-16 16:06:22] [修正:2011-06-16 16:07:57] [このレビューのURL]

穏やかな世界と、マリィの優しい微笑み。

これは良質のファンタジー。
今までどちらかと言うとまず画力ありきという印象だった作者に、世界観とストーリーが追いついた感じ。
しっかりとした世界が、違和感なく、緻密に、丁寧に、作り上げられています。

ゆったりとした流れを感じさせる上巻と、怒涛の展開を見せる下巻との対比が面白いです。

ラストでの立て続けのどんでん返しは正直予想の範疇ではありましたし、どこまでが真実かも
意図的にある程度ぼやかされて描かれてはいますが、この作品はミステリーなどと違って
謎を解くのが目的ではなく、種明かしも作品を形成する1つの要素にすぎません。
何だか幸せの定義についてもいろいろと考えさせられてしまいます。
人類にとってどちらが幸せだったのか。 個人として何が幸せなのか。
その辺の構成が実に巧みな良作。

最後まで読み終わった後に上下巻の表紙を並べてみるとよくわかります。
作者が最も描きたかったのは、きっとこの光景だったのでしょうね。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-06-12 16:34:19] [修正:2011-06-12 16:34:19] [このレビューのURL]

互いに言葉の通じる様々な野生動物がトーナメントで最強を決める漫画。

作者が相原コージ氏だけにギャグ要素が強いものの、ちゃんとした真剣勝負を描いていますし、
動物に関する薀蓄なんかも細かく挙げられていて興味深いです。
「この動物とこの動物が戦ったらどっちが強いんだろ」なんていう妄想を現実に描いてしまった作品。
作者これ凄く楽しみながら描いているだろうなー。

難点を挙げると、薀蓄を入れたいがために無茶な展開になってしまったり、そもそも勝敗自体
作者の勝たせたい動物を勝たせるために強引とも思える勝負の付け方になってしまっていること。
説得力のある展開と言うよりは作者のさじ加減一つという感じ。

まあそうは言ってもこのおバカな雰囲気がやっぱり楽しいのです。
こういうネタ的な漫画は楽しんだ者勝ちだと思うので。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-06-12 16:31:35] [修正:2011-06-12 16:31:35] [このレビューのURL]

4点 flat

確かに書店で「よつばと!、マイガール、うさぎドロップと来れば次はコレ!」みたいな感じで
プッシュされていたのをよく見かけましたね。
個人的に他の3つはかなり楽しめたのですが、これはダメでした。

自分の中で何がこの作品と合わなかったのか。 他との違いと言えば、他の3つは子供が女の子ですが
これは男の子だからダメなのか。 いやいやいや……。

この作品、主人公の平介がポーカーフェイス気味で抑揚の無い超マイペースキャラなので、
話作りで全体を盛り上げていければ良いのですが、
肝心のストーリー展開がのんびりまったりダラダラしてさらに抑揚も強弱も無く、読んでいて辛い感じ。
秋くんの表情やしぐさのかわいさが作品の唯一の長所になってしまっています。

半音下がったという意味のフラット(♭)ではなく、もはや平坦で起伏がないという意味のフラットにしか
読み取れなかったです。
ノンフィクションではなく漫画作品なのだから、やっぱり展開に山とか谷とかが欲しいところ。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-06-08 16:39:33] [修正:2011-06-08 16:43:22] [このレビューのURL]

自分の中で史上最高のゲーム(の1つ)である同タイトルを見事にコミカライズした作品。

もともとゼルダの伝説というのは、どちらかと言うとストーリーを楽しむというよりは
プレイしている感覚を重視しているゲームではあるのですが、
この漫画はそのストーリー部分が全2巻に凝縮されていて、とても上手くまとまっています。
その分かなり展開が速いです。 まあ掲載誌(小学五年生、六年生)を考えれば、
このぐらいのテンポの方が子供たちも飽きずに読めて良いのかもしれません。

この作者はゼルダの伝説シリーズの漫画版を多く手掛けていて、後の方の作品だと
漫画オリジナルの設定やキャラなども結構(もちろんゲームの世界観を壊さない程度に)出てきますが、
この作品はコミカライズ第1弾ということもあってか、ゲームの内容に忠実に描かれています。
短いながらもゲームの世界観を十分に活かし、ドラマ性を存分に描いた作品。
ダンジョン等の冒険とか謎解きの描写がおざなりなのでそこが残念。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-06-08 16:36:53] [修正:2011-06-08 16:36:53] [このレビューのURL]