「とろっち」さんのページ

総レビュー数: 300レビュー(全て表示) 最終投稿: 2009年10月09日

新たな解釈を交えた吸血鬼伝説。

吸血鬼の考察としては手垢のついたネタの感もありますが、宗教観、考古学、伝承、科学的知識など
様々な要素を綿密に絡めることで飽きの来ない作りに仕上がっています。

Quo Vadisとは「何処へ行くのか?」という意味。
作品全体のスケールがかなり大きい分、話の進みが遅々としているのか、8巻現在で話がどこに
向かっているのかさっぱりわかりません。 皮肉にもタイトルどおりの展開。
ただベテラン作家ならではの安定感を存分に感じますので、先行き不安にならずに安心して読めます。
まあその分、絵柄や会話に古臭さを感じるのはやむを得ないか。

新谷氏の絵で読んでみたかった気もしますが、このご夫妻は本当に絵柄が似てますね。

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[投稿:2011-04-23 13:37:53] [修正:2011-04-23 13:38:25] [このレビューのURL]

映画がとても有名な作品の原作漫画。
自分も映画を機にこの作品の存在を知りました。

なぜ10年間も監禁されたのか。 なぜ殺さずに監禁という手段を選んだのか。
なぜ10年経ったらあっさりと解放したのか。 誰が、何のために。
サイコなのにハードボイルドなサスペンス・アクション。

そこらのサスペンスと一線を画しているのは、全体に漂う何とも言えない奇妙で不気味な感覚。
犯人の行動、目的、考え、そしてこの壮大な復讐ゲーム自体に、常に不可解さや不自然さ、
そして不毛さが意図的に付きまとってきます。
読者は物語解決のカタルシスを求めてどんどん読み進めていかざるを得ない、のですが、
出会った人々、辿り着いた解決への糸口、それら全てが敵の仕掛けたヒントや罠である可能性があり、
全貌が全くつかめません。 そしてそのまま敵の思惑通りに最終対決を迎える、というよく練られた構成。
緊張感が最後まで続きます。

それだけにラストのあっけなさには肩透かしを食らったような気分になってしまいました。
もっと上手く締めていれば。 傑作になり損ねた作品という印象。

そこまで昔の作品でもないはずですが、絵も展開も雰囲気も猛烈に古臭いのが難点。
作画担当の代表作「天牌」を読んだときにはそれほど感じなかったんですけどね。
最近の漫画の絵柄に慣れちゃった人だとキツいかも。
結局のところ、これは映画の方が面白かったなあ、というのが正直な感想です。

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[投稿:2011-03-28 00:53:50] [修正:2011-03-28 00:53:50] [このレビューのURL]

サバサバしているようでその実かなり甘ったるい王国ファンタジー。

生まれつき美しい赤髪の少女・白雪が、その髪色の珍しさゆえにアホで有名なラジ王子に気に入られ、
何とか隣国・クラリネス王国へ逃げ出し、そこでもいろいろな事が起こり…、というお話。
舞台をクラリネス王国に移してからは赤髪うんぬんはあまり話に関係なくなり、
白雪を取り巻く様々な状況や周囲の思惑等と、それに対処しつつ宮廷薬剤師を目指す白雪の成長、
そしてクラリネスの王子との恋愛模様がメインとして描かれるようになります。

作品としては、会話が回りくどくて若干わかりにくく、全般的にちょっと堅苦しい印象。
また、作中に表れていない部分の世界の構築が細やかになされているか、と言えば
あまりそうは感じられず、要するに、見える範囲しか作っていないようにも思えました。
狭い範囲での王宮物語を続けるにしても、世界の広がりが感じられないとすぐに飽きてしまうので、
せっかく魅力的なキャラと世界観が揃っているだけに、スケールの大きな作品に仕上げてほしいです。

それにしてもこの絵は良いです。 とても良いです。
動きのある描写がいま一つではありますが、絵だけで点をあげたくなる感じ。
作品全体に流れる緩やかで落ち着いた空気との相性も抜群です。
そして心優しきヒロイン・白雪も、凛として芯が強く、決して折れない強い意志を持っていて、
とても魅力的に描かれています。
作品として似たような雰囲気の「Landreaall」なんかが好きな人にはいいかも。
あれよりはもっとずっと少女漫画寄りですけどね。

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[投稿:2011-03-19 00:36:41] [修正:2011-03-19 00:37:10] [このレビューのURL]

6点 暁星記

「明け(宵)の明星」「暁の星」と呼ばれる金星。
テラフォーミング(惑星改造)されて生物が住める環境になった未来の金星が舞台の、超骨太SF作品。

金星での独自の生態系と人々の原始的な生活の描写がとにかく秀逸。
それだけでも十分に面白かったのですが、途中から作品世界の裏側が少しずつ見えてくると、
世界観が一気に広がり、本格的なSFの様相を呈してくるという見事な構成。
練りに練られた非常に完成度の高い作品という感じがします。

ただ、昔のゆうきまさみを思わせるコミカルな絵柄は、原始生活を舞台とする骨太SFの本作品には
かなりミスマッチだった気がします。
後半になるとシリアスな展開と共に絵柄の方も締まってきて、まだ読めるようになりますけどね。

終わり方が非常にもったいないと思います。
結末を読者の想像に委ねる、というよりは、駆け足で終わってしまったために
単に十分な説明ができていないだけのように感じられました。
途中までは効果的に使われていた「祖霊」や「ヤドリタケ」も、最後の方は使いこなせずに持て余し、
むしろ作品を乱す存在のようになってしまったのが残念です。

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[投稿:2011-03-16 22:14:22] [修正:2011-03-16 22:15:23] [このレビューのURL]

「ヘタレなイタリア」が主人公の風刺ギャグ漫画。

国を擬人化する、という発想の時点で既に勝ち。
さらに、かなり綿密で詳細な人物(国の性格)設定のため各々のキャラ(国)がすごく個性豊かになり、
漫画としても風刺ものとしても良くできているなと思います。
例えばウクライナは「ヨーロッパ最大の豊かな穀倉」と「豊富な地下資源」=「巨乳(豊乳)キャラ」で
周囲から狙われている、ベラルーシはロシアの妹だが嫌われ者(独裁国家のため国際的に孤立)で、
ロシアと結婚(国と国とが統合)したがっているけどロシアは嫌がっている(政治・経済的に)、等々。

歴史上の様々な出来事をキャラ同士のエピソードに上手く変換し、わかりやすく見せてくれます。
どこかほのぼのとしていながら、実にシニカルな視点のネタが多いのも好み。
一目でうっすらわかったような気になる世界情勢。 気になるだけですけどね。
もちろんこの作品で国際政治を学ぶのは不可能ですが、雑学程度としてなら十分に楽しめます。

問題は、漫画として純粋に面白いかどうか、ということ。
他の方のレビューにもありますが、構成やオチを楽しむよりはキャラの個性を楽しむ作品と言えますし。
みんな似たような顔しているから登場人物が誰が誰だかわからないのが欠点。 絵も雑すぎ。
あと、さすがに最近はネタ不足気味な感ありです。
良くできている部分と商業レベルに達していないような部分とが混在しているので、評価が難しいです。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-02-22 00:46:34] [修正:2011-02-22 00:53:39] [このレビューのURL]

Don't trust over thirty. そのまま直訳すれば、「30歳以上を信用するな!」

30歳を超えた漫画家が、ふとしたことから自分が年齢的に十分に大人であることに気付いてしまい、
「大人」という言葉が重くのしかかってくる中で、どうにも「大人」になりきれない自分の弱さを
ダメな父親のせいにする…。 そんな私小説的な臭いを感じる表題作で幕を開ける短編集。

大昔は10代半ばで元服して大人の仲間入りをして、いつの間にか成人が20歳になって、
現在では(法律上はさて置き)実際には20歳だとまだ立派な大人として扱われるかは微妙で、
どんどん大人になる年齢が後退していく世の中。
どこまでが子供なのか、どこからが大人なのか。
誰がいつ決めるのか、境目はどこにあるのか。
「今までは大人に向かって言う側だった。 それが、子供に向かって言う側になるだけの話よ」
そんな岐路に立たされた人々が青臭くもがく話、ならまだ良いのですが、そこはやっぱり OVER 30。
そうだったりそうでなかったり、一筋縄ではいかないんですよね。

そういうような青臭い短編がいくつかあって、巻末に来るのは表題作の続編に当たる位置付けの
「SON HAS DIED, FATHER CAN BE BORN」。
この短編は実に良い感じ。
「親なんて所詮、生物学上の親でしかありえない」はずだったのに、あれだけ嫌いだった父親を思い返し
「子供がいることで初めて親になれる」のかもしれないと思い始める主人公。
そしてふと気が付くと「立派な大人」の呪縛は消え去り、肩の荷が軽くなっている。
言葉で書くと何か陳腐なのが残念ですが、この構成も構図もなかなか感慨深いです。
あと短編中にもう一つ別のエピソードがありまして、そっちも好きです。 でもこれは男のエゴかな。

面白いかどうかはさておき、何かが後に残る、ような気がする一冊。
とりあえず何度も読み返したくなります。
30を超えてそんなことで悩むなよ、という方もたくさんいるでしょうが、たまにはこういうのも良いかも。
「良い大人になってね」なんて言葉、AROUND 30 としては耳が痛いなあ。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-02-16 01:06:20] [修正:2011-02-16 01:16:12] [このレビューのURL]

6点 SARU

猿です。

それはハルマンタと呼ばれ、トラロックと呼ばれ、トゥニアクルクと呼ばれ、ドゥナエー、内臓を晒す者、
ハヌマーン、トート、ヘルメス、そして斉天大聖孫悟空と呼ばれる存在。
世界のあらゆる秩序を左右するほどの力を持った存在。
世界を滅ぼす力を持った存在。
恐怖の大王。 アンゴルモア。 黒魔術。 コンキスタドール。

形而上的な存在に対するこの作者の考察と描写力は相変わらず図抜けています。
その迫力におののき、その表現力に感服し、その雰囲気に酔いしれる作品。

一方でストーリー的には詰めが甘い印象も受けました。
壮大なスケール感と引き込まれるような序盤の展開は素晴らしかったんですけどね。
何なんだろう、不完全燃焼な感じです。
2巻できれいに終わらせるために無理矢理まとめすぎたのかもしれません。
もっと長く自由に描けていたら大傑作になっていた可能性ありです。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-01-21 00:51:19] [修正:2011-01-21 00:51:19] [このレビューのURL]

王道まっしぐら。 良くも悪くも。

無知な素人だけど驚異の潜在能力を持った主人公が、時折その秘めた力を爆発させながら
仲間達と切磋琢磨しつつ強大な敵と戦い、成長していくストーリー。
絵もそこまで上手いとは言えないまでも、かわいらしい中に力強さがあって雰囲気がなかなか良いです。
人気が出るのも納得の出来。

ただいかんせん正統派の王道作品なので、ドロドロに濃い世界観とか、全てをひっくり返すような
大ドンデン返しだとか、一部の人のみを強烈に引き付ける圧倒的なカリスマ性とか、
どこかそういうヒネリを求めている読者には物足りない部分があるかもしれません。

作品の設定自体はこれからいくらでも上手く膨らませそうな可能性を秘めているので、
あとはそれを生かすも殺すも作者の腕次第。
この作者の作品はこれしか読んだことがないですが、話を作るのはかなり上手そうなので、
これからも安心して読めそうです。
一方で、登場人物を動かすのはあまり上手くないのかな、という印象も受けました。
特に弟くんの性格がいま一つブレて読みにくく感じました。

最近かなり多いですね、女性作家のバトルもの。
男性作家の作品のような沸点の高い熱さと比べて、女性作家の作品は人肌に近い温度と言うか、
ほんのり温かい感じがするところがまた違った良さにつながっているのかもしれないですね。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-01-04 01:38:34] [修正:2011-01-04 01:38:34] [このレビューのURL]

高校の合格発表。 偶然風に飛ばされてきた受験票。
落とし主は超絶美少女。 運命を感じるような出会い。 だがしかし……。

一見いわゆる普通のラブコメ。
でもこの作品が普通でないところは、ヒロインが男であること。
しかもその秘密?がどこまでバレないか、というドキドキ感を楽しむ間もなく、
スタートしてたった3ページ目でクラス全体にカミングアウトします。 これは予想外。

無邪気で、小悪魔で、見た目も中身も女の子以上にオンナノコらしくて可愛らしいヒロイン?に、
ちょっかいを出され、振り回され、翻弄される純朴な主人公。
っていうかあんな子が男とか卑怯すぎる。 これはヤバい。
自分が主人公の立場だったらいろんな葛藤に押し潰されて発狂寸前になっているかも。
平凡なラブコメなのに、少し視点や発想を変えるだけで、良い意味でこんなに違和感ありまくりの
作品になるんですね。 その違和感を楽しむ作品と言えるかもしれません。

現時点ではかなり面白いと思いますが、ただこの作品、特にお薦めはしないです。
だって明らかに万人向けじゃないから。 その意味も兼ねてこの点数。
惜しむらくはコミックスに登場人物紹介がないこと。 サブキャラがわかりづらいのが難点です。
こういう作品はマンネリに陥りやすいので、これから先なんとかうまく乗り切ってほしいなあ。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-12-21 01:26:28] [修正:2010-12-21 01:36:09] [このレビューのURL]

閉じた街は、同じ一日を繰り返す。 永遠に。

優しくて、おぼろげで、薄暗い中でほのかに輝くような叙情的な物語。
しかし癒しなどでは決してなく、毒や弱さも併せ持っています。
その不思議な世界観がどこか宮沢賢治を連想させる作品。 と言ったら褒めすぎか。

わかりづらい設定、会話のみによる説明の回りくどさ、序盤の低調さ、などから、
最初のうちは作品世界に溶け込むハードルが高めなのが残念。
その分、閉塞した世界の謎が明らかになっていく中盤以降の展開には目を見張るものがあります。

読後感がとても良いです。 ふと夜空を見上げてみたくなる作品の1つ。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2010-12-21 01:19:35] [修正:2010-12-21 01:19:35] [このレビューのURL]