「とろっち」さんのページ

総レビュー数: 300レビュー(全て表示) 最終投稿: 2009年10月09日

今や日本で漫画やアニメでドラえもんを全く見ずに育った人なんてほとんどいないのではなかろうか。
ポケットの中には夢があり、机の引き出しの中には未来があって、
のび太のアホさに笑い、のび太のずる賢さに感心し、のび太の優しさに心温まり、
のび太の勇気に心震わせる。
ドラえもんの話に泣き、笑い、ドキドキワクワクしながら読んでいたあの頃。

大人になると幼稚な漫画の代名詞のごとくバカにする人もいて、考え方は人それぞれなので
仕方ないですけど、個人的にはそういう固定観念で見てしまうのはもったいないなと思います。
「子供向け」なんて言うとマイナスのイメージすら感じてしまうかもしれないですが、
これはF先生が「子供にも伝わるように」わかりやすく且つ面白く描いた作品。
今でも「子供向け」のフィルターを外して読み返してみると、内容の秀逸さ、テーマの深さ、
構成の巧みさ、ギャグの面白さ、先見性の確かさ、といったものに脱帽してしまいます。

同じような効果を持つ道具が多数登場してツッコミの材料にされていますが、それも致し方ないかなと。
話自体は全く別の内容でも、以前出した道具をもう一度出せば、「この道具は前も見た」というように
飽きっぽい子供にそっぽを向かれてしまうかもしれないですからね。
現実世界でも違う商品なのに同じような用途のものって幾らでもありますし。

F先生は「異色短編集」等で大人向けの秀逸ブラックな短編を描いていますが、ドラえもんもそれらと
同じレベルの話を子供にも理解できるように易しく説いているだけで、基本的にベースは同じです。
違うところといえば、「ブラックな部分」を控えめにして(でもそれでもかなり含まれていますが)、
子供のために「優しさ」と「教訓」という隠しエッセンスが多めに盛り込まれている点。
話のほとんどが、のび太が悪さをしたときはちゃんと懲らしめられ、逆にのび太がその持ち前の
優しさを以て行動したときにはちゃんとハッピーエンドの展開で終わるように作られています。

ドラえもんが自分の家にも来ないかなーなんて思いながらのび太を羨ましがり、のび太と共に育ち、
気が付けばいつの間にかのび太の年齢を超えてしまい……。
個人差こそあれ、誰もがある一定の年齢になると「ドラえもん」を卒業していきます。
ここでその人にとってのこの漫画の役目はとりあえず終わるのでしょう。
ただ、ドラえもんやのび太と共に感じたドキドキワクワクまでも失くしてしまいたくはないですね。

大人になっても大人になり切れないのも問題ですが、ドラえもんを楽しめるぐらいの
心の余裕と子供心は持っていたいなとつくづく思います。

ナイスレビュー: 3

[投稿:2011-11-28 01:09:01] [修正:2011-11-28 01:10:44] [このレビューのURL]

現在ではゲームが原作の漫画なんて全く珍しくもないですが、児童向け雑誌やゲーム雑誌以外での
本格的なゲーム原作長編漫画は恐らくこれが初めてだったのではないでしょうか。
しかもそのゲームは当時既に国民的ゲームとなりつつあったドラゴンクエスト。
それを、いくらドラクエ誕生に大きく関わっていたとは言え、当時は発行部数が今の倍ぐらいあった
天下の週刊少年ジャンプで連載するという恐るべき計画。
「ドラクエだから人気が出て当然」などという甘いものではなく、「ドラクエだから必ず人気が出なければ
ならない」という猛烈に激しいプレッシャーの下で連載された本作。
結果は…、予想を上回る大成功を収めた作品となりました。

前置きが長くなりましたが、ドラクエの世界観をベースにしつつ、ジャンプらしさをも出すために
「友情、努力、勝利」を全て盛り込んで融合させ、素晴らしい少年漫画として生み出された作品です。
大風呂敷を広げまくり、それを矛盾なく見事に畳み切る、というジャンプらしからぬ稀有な構成力を誇り、
長期作品でありながらも作中で一番の盛り上がりの場面をラスト付近に持ってこれるのが凄いです。
個人的には今まで読んだ中で最も見事な少年漫画の一つじゃないかなと思っています。

今でこそドラクエは大人のプレーヤーの方が多いかもしれないですが、当時のターゲットは
完全に子供なので、この漫画のターゲットも必然的に子供を対象としたものになっています。
余談ですが、後発作品の「ロトの紋章」はこの作品との差異化を図るために対象年齢が少し高め。
作者にとって最も気を遣う点だったであろうオリジナルのモンスター、アイテム、呪文等も、
ドラクエの世界観を崩すことなく作品と調和していて、ゲームに逆輸入されたものもある程の出来栄え。

もちろん残念な点もいくつかあって、原作者が「当初は20巻前後で終わらせる予定だったけど
人気が出すぎて終われなかった」と確か当時のインタビューで語っていたとおり、
テンポの良い前半と比べて後半がかなり間延びしてしまっていることは否めないです。
いくら生き返りの呪文があるゲームとは言え死んだと思っていたキャラがぞろぞろと復活することや、
ジャンプ恒例の急激なパワーインフレなども特に後半で目立つようになってきます。
最後の戦いもジャンプだけに1対1の戦いになりましたけど、ドラクエ(初代を除く)らしく
パーティープレイで戦ってほしかったですね。

登場人物は各々魅力的に描かれていてみんな良い味を出していますが、やっぱりポップとハドラー、
この準主役とも言うべき二人の描き方が抜群に上手いと思います。
特にポップ。 皆さん書いているとおり、この作品はポップに尽きます。
ポップはまさにドラクエの「レベルアップ」の概念を体現するキャラ。
序盤であれだけ頼りなくてイライラさせられた貧弱な魔法使いが、自らの弱さに傷つき、苦しみ、
逃げ出しながらも少しずつ勇気を振り絞って困難に立ち向かい、冒険が進むごとに成長を重ね、
やがて「大魔道士」の称号が似合うほどに頼れる存在となって大魔王にすら啖呵を切る。 素敵すぎ。
他の仲間にコンプレックスを抱きながらも、足手まといにならないように、自分だけ遅れないように、
精一杯背伸びをしながら成長していくポップの頑張りには胸を熱くさせること必至です。


(補足)
何だかんだ長々と書きましたが、この作品の成功は「アバンストラッシュの着想」も大きいと思います。
剣を逆手に持ってスパッと斬り裂く、シンプルながら唯一無二で、多大なインパクトを誇るこの必殺技。
ゲームでの戦闘といえば文字情報のみだった時代に、「勇者の一撃とはこういうものだ」ということを
絵で表現することで漫画化のメリットを強調し、ひいてはそれが作品の大ヒットにつながっていきます。
作中での存在感も秀逸で、師匠の遺した技であり、心の拠り所であり、最後の決め技でもあります。
この技とドラゴンボールのかめはめ波の型は一生忘れることはないと思います。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-11-28 01:03:16] [修正:2011-11-28 01:06:13] [このレビューのURL]

9点 HOTEL

業界もの漫画の先駆け的存在でありながら、未だにこれを超えるような作品は思いつかないです。

「お客様は神様です」や「申し訳ございません」連発などのイメージもありますが決してそんなことはなく、
ホテルマンを聖職者扱いせず、綺麗事だけではない本音の世界が描かれていて非常に興味深いです。
最初っから客を疑ってかかったりとか(まあそれもどうかと思いますが)。

最初の頃はホテルを舞台とした群像劇、途中からは従業員をメインにした業界ものとなっています。
東堂マネージャー、もしくは若手社員の赤川くんも一応の主人公格となっていますが、
二人が出てこないことも多く、それどころかホテルの従業員が話にほとんど絡まないこともあります。
言ってみれば、ホテルに泊まる人、ホテルで働く人、ホテルを一時的に利用するだけの人、
それら全ての人に様々な角度からスポットを当てて見事に描き出した傑作。

人の生死にまつわるような話ではないですし、単にホテルを利用する人とその従業員という構図は
どうしても淡々と落ち着いた内容になってしまいがち。
ただ、100組の宿泊客がいれば100通りの物語があります。 同様に従業員の数だけ物語があります。
宿泊の話はもちろん、ホテルのフロント、クローク、バンケット、照明、営業、設備点検、ドアマン、厨房、
客室係、経理、庭師に至るまで様々な職種の人たちが主役となり、様々な物語を織り成していきます。
確かに派手さはないものの、これほどまでに安定した面白さで多彩な物語を描けるのも巨匠ならでは。

当初は作者が群像劇を意識しすぎたのか、話によって出来不出来の差がかなりあります。
従業員メインの話になってからは、東堂さんの仕事っぷりがほぼ完璧に近いので、同じ社会人として
本当に感心するばかり。 ただその点での面白みには欠けるところがあるかもしれません。
作者もそれよりは、危なっかしいながらもどんどん成長していく赤川くんや、たまに男を見せる
松田さんの方が話作りがしやすかったのかも。
まあ基本的には毎回ハッピーエンドを迎えるために話が上手くいきすぎる感も結構ありますが、
それでも途中からは話にどんどん厚みを増して、手が付けられないほど面白くなってきます。

とりあえず念のため、当たり前ながらこの作品はフィクションです。
あまりのリアリティゆえにまるでこんなホテルが実在するような錯覚に陥ってしまうかもしれません。
業界もの漫画では、その内容の真偽はともかく(素人には判別つかないので)、いかにも本当だと
思わせてくれるような確固たるリアリティを持ったものが個人的には良い作品だと思います。
そういう意味で、やっぱりこの作品を超えるような作品はなかなか出てこないでしょうね。

文庫版表紙での世界の一流ホテルの写真も雰囲気作りに貢献していて素晴らしいです。
一流ホテルでの人間模様と舞台裏を見事に描いた、格調高いながらも庶民的な趣もある傑作。
巨匠の代表作と呼ばれるに相応しい作品です。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-11-22 01:37:16] [修正:2011-11-22 01:42:55] [このレビューのURL]

大人になると知らず知らずのうちに自分の発言や思考、行動を正当化したがる。
まあそれは今までの自分の経験に基づくものでもあり、それはそれでいいと思うのだけど、
その考え方に固執してしまって他の人の意見を排除してしまいがち。

大人とはまた違った角度で物事を見て判断する知世の視点は、
時に斬新で、時にその発想が懐かしく、時に目を背けたくなるようなところをグサッと突いてくる。

知世は手探りで懸命に頑張るお父さんを見て色々なことを感じ取り、教わり、のんびりと成長していく。
「Papa told me」とはよく言ったもので、お父さんは知世にたくさんのことを伝えようとする。
でもそれだけではない。 お父さんはそれ以上に知世の話を真摯に聞く。 一人の人間として。
「所詮は子供の言うことだから」とか「子供は親の言うことを聞いていればいい」なんていう発想は
微塵もない。 子供だって大人と同じように、もしかしたら大人以上に何かを感じ取り、考えているから。
そしてお父さんもまた知世から色々なことを教わり、学んでいる。

世の中には心無い人もいて、でもそういう人たちは自分のことがきっと見えていなくて、
彼らの心無い言動が知世を攻撃する度に、読んでいて何だか申し訳ないなという気持ちで一杯になる。
しかし知世の感受性はそんなものに負けはしない。 いつも強く、逞しく、そして、微笑ましく。
作者の照れ隠しなのか単にこういう芸風なのか、どこかはっきりとせず靄がかかったような空気だけど、
どこまでもテーマはぶれず、優しさと暖かさとが慎ましやかに伝わってくる。
単行本の巻数が一桁の頃なら10点を付けてもいいかもしれない作品。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-11-22 01:32:40] [修正:2011-11-22 01:33:27] [このレビューのURL]

8点 イムリ

あまりにも壮大なスケールのSFファンタジー。

まるで底が見えないほどに重厚な世界観、複雑ながらもしっかりと練り込まれた設定、
少しずつ謎が解き明かされていくと同時にまた新たな謎が浮かび上がる展開。
歴史や慣習はもちろんのこと、社会の支配体制、生態系や食文化に至るまで綿密に作り込まれており、
「作品世界を構築する」という言葉がこれほど当てはまる作品もなかなか無いのでは。

しかしながらこの作品、困った事に、最初に1巻を読んだ時点では何が何だか全くわからないはず。
最初から全体の構成を理解できるような作りには敢えてなっておらず、しかも用語が複雑怪奇で、
さらには作者の独特の絵柄自体が一見さんお断りな感じなので、もうかなり敷居が高くなっています。
用語も、「カーマ」、「イコル」、「イムリ」、「マージ」、「ルーン」、「デュルク」、「デュガロ」……。
全巻に詳細な用語解説や登場人物説明が載っているので、最初のうちは照らし合わせながら
読んでいくことになるでしょう。
おまけにこの作者の作品はその絵柄のために登場人物の顔が似ていてただでさえ区別しづらいのに、
各々の個性が見えにくく(見えないのではなくあくまでも見えにくい)、非常にキャラを覚えにくいです。
1巻すら読み切れずに断念してしまっても全然おかしくありません。

ただ、そこをがんばって乗り越えると、途中からふっと世界観が頭に入ってくるようになってきます。
そうなると不思議なもので、読むたびにどんどん理解できるようになります。
恐らく意図的にそういう構成になっていると思いますが、この辺りが作者の作り手としての凄さ。
もともと作品の全体的なテンポは良いので、慣れれば今度はサクサク読み進めていけます。

支配民族カーマ、奴隷民族イコル、かつてカーマと戦争を繰り広げたルーン星の原住民族イムリ。
同じ「共鳴」という能力を持っていても、全く異なる方向へ進化したカーマとイムリ。
カーマはその力を他者との共鳴、すなわち他者の精神に働きかけ人の心を操る侵犯術として特化させ、
逆にイムリはその力を物質との共鳴、すなわち「星と仲良くする」ために使ってきた。
イムリは物質の力を引き出すことで恐るべき威力を発揮する「イムリの道具」を持ち、
そんなイムリの力を恐れたカーマはイムリを力で押さえつけて支配しようとする。

大まかに言うとこんな物語ですが、「一つの民族が他の民族を征服して支配する」という作品の構造は
主人公の立ち位置とともに最初のうちはカーマ視点で、そのうちにイムリ視点で描かれるようになり、
単純な善悪二元論ではとても量り切れない深さを秘めています。
SFファンタジーなのに確かに泥臭い空気の作品ですが、失われたイムリの術を解き明かしながら
地に落ちたイムリの民が反乱すべく無骨に立ち上がるというストーリーにピッタリな感じ。
とにかく質の高さにかけては申し分のない作品です。 あとはもう好みの問題でしょうね。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-11-16 00:48:20] [修正:2011-11-16 00:53:36] [このレビューのURL]

食べる事が何よりお好きな劉家の若奥様・沈夫人。
退屈に飽かせて今日も奥様はお抱え料理人・李三を相手にお戯れになる。

基本的には一話完結のワンパターン漫画。
空腹もしくは退屈のために不機嫌になった奥様が李三に無理難題を言いつけ、困り果てた李三が
旨い料理を作って奥様を満足させる、というもの。
李三は忠義に厚く、小心者で、困った事があるとこの世の終わりみたいな表情になって嘆き悲しむという
良く言えば純粋、悪く言えば愚鈍な性格。 密かに奥様のファンでもあります。
そしてこの男、困れば困るほど旨い料理を作るという、ある意味本当に困った男。

この奥様は性格が破綻しているかどうかはさて置き、別に根が悪人なわけでも李三が憎いわけでもなく
彼に意地悪を言うのはただ単に自分の食欲(と、ドSな嗜好)を満たしたいだけ。
本気で悩んで窮地に陥っている李三を見るのは楽しくて仕方ないし、そんな状態の李三が作る料理は
さらに旨くなるしで、李三を困らせることは奥様にとって一石二鳥なのです。
もちろんそれだけでは李三がストレスで倒れてしまうので、上手く褒めることも欠かさずに。
単純な李三はそんな企みに全く気付かず、奥様のアメとムチによって天国と地獄を行ったり来たり。
そういうやり取りが非常に巧みに描かれていて楽しめます。

この作品は料理は当然のこと、服や小物、街並み、文化や生活様式に至るまでその描写が凝っていて、
当時の中国の主従関係の雰囲気も伝わってきます。
主である年下の美人奥様に対して横恋慕なんてとんでもなく、ただただ奥様を心からお慕いする李三。
自分に出来ることは美味しい料理を召し上がっていただくことだけ、という気概で努力し続けます。
そんな料理をパクッと食べたときの奥様の笑顔(と李三をいじめているときの笑顔)が何とも素晴らしく、
奥様の苦労、李三の苦労、それぞれが報われる瞬間というのが読者にもわかりやすくて実に良い感じ。

上記のように基本的にはワンパターンなので、まとめ読みにはあまり向いていないかもしれません。
最初は李三に同情しながら読んでいたのですが、なんか話が進むごとに李三の阿呆っぷりにターボが
かかっていくように思えてイラッとして、途中からは奥様目線で読むようになりました。
李三目線と奥様目線、それぞれ違った楽しみ方ができていいですね。
もっとイラッとさせられる玉潔や李大など味がある脇役もいますので、彼らが出てくる話では
奥様が人格者に見えるという錯覚すら味わえます。

この作品が上手く出来ていると思うのは、料理漫画として中華料理のみに的を絞っていること。
例え同じ近世を舞台にしていても、確かに和食や洋食ではこうはいかなかったかもしれないですね。
食材やその調理法の幅広さでは他に類がなく、薬食同源的な発想で、食で体と心を整える中華。
作り手の食べ手に対する意図が作中でも明確に表現され、よくもまあ毎回のテーマごとに
これだけたくさんの料理を紹介できるなと感心してしまいます。
さてその料理ですが、調理工程から完成図の描写に至るまでとても丁寧に描かれていて、
実に興味と食欲をそそります。 とても秀逸な料理漫画。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-11-16 00:44:09] [修正:2011-11-16 00:46:33] [このレビューのURL]

7点 恋の門

羽生生流・純文学コミック。
ある種の異質で不気味な情熱が激しく飛び交い、読者を儚くも奇妙な純愛の世界へと導く作品。

自らの作品を芸術だと信じ、周囲に理解されないことを苦悩する門。
そんな門をコスプレのパートナー、自らの人形として囲う恋乃。
それぞれのプライド、信念、打算、エゴ、虚栄心、焦り、苛立ち、それらが激しくぶつかり合って
ドロドロに絡み合いながら、激しく狂い咲く恋の物語。

個性なんていう言葉で簡単に片づけてもいいんですが、とにかくこの作者は漫画家として
目指している地点、方向性が他の漫画家とは違うように感じられます。
その辺りが合わない人にとっては何やってんだかさっぱりで、読むのも苦痛な作品かもしれません。
作者の他の作品よりはずっと大衆向けで読みやすいですが、それでも濃さと熱さが凄いです。

最初の方は、全く異質で違う世界の人たちの恋愛もの、いやむしろ恋愛ものかどうかも
よくわからない展開が続きます。 感情移入する隙すら見つからないです。
なのに二人が本音と本音でぶつかり合うようになってきてからは、なぜか不思議と
それぞれのキャラの濃さがどこか身近なものに感じられるようになってきます。
他の方のレビューにもありますが、とにかく人物の描き方がすさまじく濃いです。
恋愛の汚い部分を小綺麗に描いている漫画なんて腐るほどあると思いますが、
醜い部分までを激しく赤裸々に描いている漫画なんてそうはないんじゃないかな。

事前に思っていたよりずっと面白く読めた作品でした。
でも終盤のアレがなあ…。
本当にこの手の恋愛話って特段必要ないのにアレな展開になったりしますが、少なくともこの作品では
全く必要な展開とも思えなかったので、そこが本当に残念。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-11-10 00:33:29] [修正:2011-11-10 00:33:29] [このレビューのURL]

ちょっと旅行に行ったり学校でイベントがあったりすると周りで殺人が起こるという不幸な星の下に
生まれた高校生が、ジッチャンの名にかけて犯人を指名し、指名された人がもれなく自白するお話。

推理小説を漫画というジャンルで描き、さらには犯人当てを読者参加企画にするという手法は
当時あまりにも斬新で、数多のフォロワー作品を生み出し、その功績は計り知れません。
有名作だけに批判の声もあり、中でも特に多いのが「こいつら殺人事件に遭遇しすぎ」というもの。
それは超長期連載だけに仕方ないとは思うんですけどね。
事件に巡り会うのも名探偵の証とはよく言ったものですけど、あれだけ目の前で何十人も殺されても、
金田一はもちろん、美幸まで精神障害やPTSDに悩まされることなく平然としているのは凄いですが。

むしろそんなことより他にツッコミどころが満載のこの作品。

金田一は公式に捜査協力を依頼されたわけでもなく、単に警部や警視と個人的に仲が良いだけの
民間人なのですが、捜査に関する情報(もちろん個人情報含む)が事細やかに入ってきます。
これって警察の重大な守秘義務違反じゃないのかなと思うのですが。 本来は懲役刑の対象です。

また、覆面や包帯を顔面に巻いた人物が頻繁に登場するのも気になります。
最初は叙述トリックが使えない漫画ゆえの苦肉の策かなと思って読んでいましたが、あまりにも多すぎ。
しかもこの人たち、結構活発に活動したりして、颯爽と現れてホテルなどに泊まったりもします。
明らかに怪しいです。 殺人に関係なくいろんな意味で。 ホテル側も身分等を確かめずに泊めてたり。

でも一番納得いかないのが、金田一が勝手に捜査し始めて容疑者たちが邪魔くさがったとき、
「この少年は名探偵・金田一耕助の孫なんだよ」「な、なんですとー!?」
いやいや孫だからって関係ないでしょ。 金田一耕助本人が来てそのリアクションならわかりますが。
普通なら「ふーん、お爺ちゃん有名だね。 で?」ってなるレベルの話かと。

確かに探偵ものとしては話が破綻している部分もあるかと思います。
派手な展開を好むことで有名な現在の原作者になってからは、人を殺すためにトリックを
考えるというよりは、トリックを見せたいがために人を殺すようにしか見えなくなってきました。
犯罪芸術家とか怪盗紳士とか訳の分からん者が出てくるようにもなり(コナンに対抗したのか?)、
現実的な感覚とはかけ離れてちょっとカオス気味にもなってきます。

ただ、再読に適していない推理漫画というジャンルながら、特に初期の話は何度読んでも楽しめます。
これはストーリー部分の構成がよく練り込まれていて秀逸ということでしょう。
質が低下してしまった最近では、私なんかは真剣にトリックを推理するというよりも、楽しみ方としては
秀逸なミステリー…ではなく、何人も人を殺すほどドロドロの人間ドラマ、あるいはいつ誰が死ぬのか
(いつものメンバー以外ですが)わからないサスペンス、として読んでいます。
感覚としては年配の人が水戸黄門やら暴れん坊将軍やらを楽しむ感覚に近いのかもしれません。
いつも同じような展開になる、言わばパターンが決まっている作品(悪く言えばマンネリ)ですが、
そのマンネリが楽しめる作品。
一度好きになってしまえば、いつまででも読み続けていられそうです。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-11-10 00:24:23] [修正:2011-11-10 00:27:02] [このレビューのURL]

若い女性の主人公が、男性優位・経験重視の伝統的な陶芸の世界に飛び込み、
経験や苦労を重ねながらも成長していく様を本格的に描いた作品。

古来から焼物大国として栄え、大陸の文化を吸収し独自の文化に昇華させてきた歴史を有する日本。
そんな土への郷愁、窯元の師弟制度、アマとプロの違いと厳しさ、新人や無名陶芸家の辛苦や困窮、
例えば1個300円の湯呑み茶碗を売ることがどれだけ難しいか。
その辺りが綿密な取材に基づく膨大な量の薀蓄とともにしっかりと描かれています。

同じ食べ物でも発泡スチロールの器で食べるのと陶器の器で食べるのとでは感じが全く違いますし、
陶器のジョッキで飲むビールはグラスとはまた違った旨さがあります。
旨い食事と見事な器は切っても切り離せない、言わば「表と裏」の対等な関係。
この作品は萩が舞台なので主に萩焼について触れていますが、備前焼、丹波焼、無名異焼など
代表的な陶器ももちろん登場。 各地の土によってこんなにも性質が違うものなのかと勉強になります。

ただ、私なんてこれを読むまでは陶器と磁器の具体的な違いすらよくわからないど素人だったので、
もうちょっとわかりやすく描いてくれれば良かったかなと思ってしまいました。
不満というほどでもないですが、説明も注釈もあるもののどうも全体的にわかりづらい気がします。
まあ現在の親切丁寧な作りの業界漫画ならもっとわかりやすい構成になっているのでしょうが、
この当時としてはこんなものでしょうか。

あと惜しむらくは展開がちょっと(時々かなり)安っぽいところ。
そもそもこの作品は、萩近辺在住で焼物に没頭していた原作者がある日「夏子の酒」を読んで感動し、
自分でもこんな話を作ってみたいと思ったのがきっかけとのことですが、ジャンルこそ違えど、
やっぱり夏子の酒の二番煎じという評は自分の中で覆せなかったですね。
美咲が独立するまでは話がかなり練り込まれていて面白かったんですが、そこからは料理漫画のように
勝負や対決なんかも多くなり、突拍子もない展開などもたまに出てくるようになってきます。
もっと深い部分まで切り込んで描けたのではないかとも思えますが、陶芸ビギナー層を取り込むために
浅く分かりやすい話に特化したのか、全体的に話の厚みが足りない印象を受けます。
より一層深くて良い作品になり得ただけに非常に惜しい感じ。

とまあ色々書きましたが、少なくとも本作を読んで焼物の世界に興味を持てたのは間違いないです。
これまで食事のときには皿の上のもの(=料理)のみを注目してきましたが、これからは皿自体にも
目を移して楽しむことができるようになったかな、と。
奥が深いなどという言葉では表しきれないほどの伝統を誇る陶芸の世界なだけに、この漫画だけで
語り尽くすのは当然ながら不可能なんですが、入門編としては申し分ない作品だと思います。
萩にも実際に行きたくなりましたね。
ちなみに続編は美咲が青磁を追い求めて世界各地を駆け巡ったりする話。 あんまり萩は出てきません。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-11-05 01:25:18] [修正:2011-11-05 01:51:48] [このレビューのURL]

原作者の作品はいくつか読んだことがあるという程度で、これは未読。 理由はbooさんと同じです。
なので原作との比較はできませんが、ここは漫画レビューサイトということで、あくまでこの漫画を
読んだ感想を書いてみます。

決して割れないガラス、びくともしないドア、どこにも繋がらない電話、無人の校舎、
自殺のあった時刻である午後5時53分で止まってしまった時計。
理解を超えた事態に戸惑う彼らに静かに迫る悪意……。
ストーリーをすごく大まかにまとめると、無人の校舎から出られなくなった仲良し8人の生徒が
自殺したクラスメートの名と顔が自分たちの記憶から消されていることに気付き、この中の1人が実は
死んでいるのではと互いに疑心暗鬼になる中、1人また1人といなくなっていく…、というもの。

クローズド・サークルっぽい舞台や1人ずついなくなる展開から、「そして誰もいなくなった」的な
話っぽくも思えますが、この話のメインは「忘れていたことを思い出す」ということ。
非現実的な世界でそこのルールに則りながら、緊迫した心理戦が繰り広げられていきます。
とともに、「自分たちが巻き込まれたのはなぜか」、「自分たちにも関係があるのでは」という観点から
「その人物がなぜ自殺したのか」という動機の面をも追いかけていくことになります。

この作品、原作はミステリー小説なのかもしれないですが、少なくとも漫画版は違うと思います。
というのも、主人公を含めた登場人物は真実の解明のためにいろいろと推理していくものの、
結局は謎を解いたわけではなく、ただ単に思い出しただけ。
思い出すにしても論理性や何らかのきっかけがあるわけでもなく、思い出した者勝ちという感じ。
その点で、よくあるミステリーのように主人公(=読者)が自らの知恵と推理で謎を解明した、
というようなカタルシスには乏しくなっています。、

原作の長編小説は、恐らくはそのページの多くを登場人物の掘り下げに費やしているのでしょう。
漫画版でもそれなりに多くのページが割かれてはいますが、やはり元のページ数に差がある分
どうしても人物の掘り下げも中途半端なものになってしまっている感があります。
ミステリー部分で物足りなかった点をその辺りで補ってほしかったですね。
作画担当はジュヴナイル的な作品が滅法上手い印象ですが、初期の作品だからかその点もいま一つ。
その分、それぞれの登場人物の追い詰められ方がホラーじみていてなかなか面白く読めましたが、
これは本来の原作の楽しみ方に適合しているのか甚だ疑問。 まあ面白けりゃいいですが。

で、漫画の雰囲気は良いと思うんですが、全体的に出来が良い作品とは言い難いです。
悪い作品ではないんだけどな、という感じ。

最後にちょっと思ったことを一つだけ。
この作品のヒロインには原作者の名前が付いていますが、これが違和感ありまくり。
有栖川とか法月みたいに主人公となって自ら作品を動かしていくのならまだしも、殊に受動的な
ヒロインなので、変な先入観ばかりが頭に残ってしまって作品としてのメリットが感じられないです。
まあこの辺りは原作小説が出た時点で議論し尽くされていると思うのでこのぐらいにしておきます。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-11-05 01:22:16] [修正:2011-11-05 01:22:16] [このレビューのURL]

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