「とろっち」さんのページ

総レビュー数: 300レビュー(全て表示) 最終投稿: 2009年10月09日

「テルマエ・ロマエ」の作者が描く、異文化交流エッセイコミック。

この作者はギャグ漫画である「テルマエ・ロマエ」で一躍有名になりましたが、
元々はこういうコメディ風のエッセイコミックが本領なのでしょうか。
海外生活豊かな作者がこれまでに味わった実体験が、テンポ良く鮮やかに描かれています。

作者の他のエッセイコミックは大家族ネタを中心にしたものが多いようですが、
こちらは食文化の違いや絶品の庶民料理などをネタにしたグルメ?エッセイ。
テーマ的にも(個人的に料理漫画は好きなので)とても面白かったです。
なお、他作品で大暴れする個性的な姑や舅はもちろんこの作品にも登場しますので、
他の作品にも目を通しておくとより一層楽しめること間違いなしです。

ちょっと空いた時間にちょっと手に取ってちょっとクスッとできる、そういうのにお薦めの1冊。

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[投稿:2011-04-18 01:03:41] [修正:2011-04-18 01:03:41] [このレビューのURL]

天才・くらもちふさこが描く群像劇。

全く無関係に思える人々、いくつものエピソードが、実はそれぞれ繋がり、複雑に絡み合った、
オムニバス形式の作品です。 一昔前の映画なんかによくあった手法だと思います。

この作品に特定の主役はいないです。
敢えて言うなら、出てくる人みんなが主役。
ある話では脇役だった人が別の話では主役になり、そこで脇役だった人がまた別の話で、という形式。
ほんの一瞬出てきただけの脇役なのに強烈なインパクトがあったりするのも、作者の技術でしょうね。
セリフ少なめなのに濃厚な心理描写、濃いキャラクターたち。 こういうのが作者の腕の見せ所。

一話一話の質の高さにも驚かされますが、それぞれの話の絡み合い方なんかは
もうこの人にしか描けないだろうなとも思えるほどの凄みを感じさせられます。
人と人とは皆つながっているんだよ、そしてそのつながりにはちゃんと意味があるんだよ、ということ。
パッと見は特段なにもない普通の描写ですが、話と話とがリンクするその瞬間が色鮮やかになるような、
そんな不思議な感覚に支配されます。

この人の作品は、何の変哲もない日常話の中に、とんでもない仕掛けとか技巧を凝らした表現を
これでもかっていうぐらいに入れてくるので、何かもうその描写に圧倒されてしまいます。
天然コケッコーが郷愁を感じさせる中で相反するような技巧に何度も唸らせられるような作品なら、
こちらは物語全体の構成の巧みさと見せ方に何度も溜息をつかせられるような作品。
経験というよりは才能なのかなあ。 天才と謳われる凄さなのでしょう。
あまり気軽に天才なんて言葉を使いたくはないんですが、くらもち氏をそう評する人が多いのも納得。

で、べた褒めなのに8点なのは、作品全体としての話にいま一つまとまりがないと思うから。
映画「マグノリア」みたいに知らないうちにみんなが同じ方向を向いているのならまだしも、
まだこの作品は登場人物みんながそれぞれてんでバラバラな方向を向いているように感じます。
ただのオムニバスよりも、一つの作品としての見せ方に期待を込めて、この点数。

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[投稿:2011-03-31 01:11:07] [修正:2011-03-31 01:14:15] [このレビューのURL]

イラストレーターを夢見て就職したデザイン事務所は実はパチンコ専門で、
ブラック企業かどうかはさておき激務で徹夜になることも多く、社員は個性的で、
忙しすぎて彼氏ともすれ違いが続き、仕事もミスばかりでなかなかうまくいかず、
辞めてやろうと思っていたらもう1人の同期に先に辞められてタイミングを逸し、
かと言って自分が本当にやりたいことが何なのかはっきりしなくて……。

という、言葉だけ聞くとかなり厳しい状況で幕を開けるこの作品。
でも読んでいて悲壮感を全く感じさせず、コミカルでどこかほのぼのとした非常に良い雰囲気。
主人公があまり深く考えずに突っ走るタイプなのもうまく活かされているように感じられます。
そしてダメになりそうなときにさりげなくサポートしてくれる職場の面々も良い感じ。
職場に一人で毛布に包まって泊まるのが幸せだったり、給湯室の流しで頭を洗ったり、
女子力の低下も何のその、へこたれて迷いながらも逞しく生きていきます。

ラブコメ度が強まる後半よりも、恋に仕事に悩む前半の方が確かに面白かったかな。
この辺は好みの問題かもしれませんが。
終わり方もあっさりしているものの上手く全3巻でまとめた印象。
まあ言ってみれば普通の話の範疇ではあるのですが、その普通が普通に面白い作品です。

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[投稿:2011-03-28 01:01:37] [修正:2011-03-28 01:01:37] [このレビューのURL]

映画がとても有名な作品の原作漫画。
自分も映画を機にこの作品の存在を知りました。

なぜ10年間も監禁されたのか。 なぜ殺さずに監禁という手段を選んだのか。
なぜ10年経ったらあっさりと解放したのか。 誰が、何のために。
サイコなのにハードボイルドなサスペンス・アクション。

そこらのサスペンスと一線を画しているのは、全体に漂う何とも言えない奇妙で不気味な感覚。
犯人の行動、目的、考え、そしてこの壮大な復讐ゲーム自体に、常に不可解さや不自然さ、
そして不毛さが意図的に付きまとってきます。
読者は物語解決のカタルシスを求めてどんどん読み進めていかざるを得ない、のですが、
出会った人々、辿り着いた解決への糸口、それら全てが敵の仕掛けたヒントや罠である可能性があり、
全貌が全くつかめません。 そしてそのまま敵の思惑通りに最終対決を迎える、というよく練られた構成。
緊張感が最後まで続きます。

それだけにラストのあっけなさには肩透かしを食らったような気分になってしまいました。
もっと上手く締めていれば。 傑作になり損ねた作品という印象。

そこまで昔の作品でもないはずですが、絵も展開も雰囲気も猛烈に古臭いのが難点。
作画担当の代表作「天牌」を読んだときにはそれほど感じなかったんですけどね。
最近の漫画の絵柄に慣れちゃった人だとキツいかも。
結局のところ、これは映画の方が面白かったなあ、というのが正直な感想です。

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[投稿:2011-03-28 00:53:50] [修正:2011-03-28 00:53:50] [このレビューのURL]

凡人主人公と天才ヒロインによる音大物語。

序盤はその2人が織り成すオーケストラもの。
途中からは他の登場人物にも光が当たり始め、音楽だけでなく恋愛要素も絡んだ
青春群像劇へと変化していきます。
もともと作者はそういう方面を描くのが上手いので(「夢のアトサキ」とか「未来のゆくえ」等)、
この変化は大歓迎。 さらに面白くなってきていると思います。

ただしこの方向転換は本当に作者の事前の予定通りなのか。
人気の出る方向に蛇行運転しているだけにも感じてしまいます。 面白いからいいんですけどね。
脇にスポットを当て過ぎてヒロイン・ひびきの影が薄くなってきているので、今後の挽回に期待。

同ジャンルの先駆者「のだめカンタービレ」は老若男女を引き込みましたが、
こちらはある程度の興味と知識がなければ、もしかするとちょっとだけ敷居が高いかもしれません。
まあ巻中のコラムが親切丁寧で面白いので、その辺もちゃんとフォローしてくれています。

そうすけさんのおっしゃるように、時折登場人物の目が怖いです。 怖すぎです。
急に殺し屋みたいな目になるんで、作品の雰囲気を多少ながら損ねている場面もあるのかも。
作品に緊張感があるのはいいんですけどね、もうちょっと柔らかい感じでもいい気がします。

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[投稿:2011-03-23 00:55:43] [修正:2011-03-23 00:55:43] [このレビューのURL]

江戸時代が終わらずに400年以上ずっと続いている、という設定の作品。
なので作品の舞台は現代の世の中です。 でも江戸時代。

と聞くと魅力的な世界観に思えますが、実際は江戸の部分と現代の部分との境目が曖昧で
あまり定まっておらず、若干読みにくい感じがします。 基本的には江戸っぽいです。
まあ作品自体がゆるーいまったりコメディなので、そういう曖昧さも決してマイナスにはならず、
うまくギャグとして転化できているようにも感じます。
作者も「いいかげんな江戸まんが」って自分で言ってますし。

結局この作品のノリが合うか合わないか、な作品。 あまり男性向けではないかも。

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[投稿:2011-03-23 00:37:52] [修正:2011-03-23 00:37:52] [このレビューのURL]

サバサバしているようでその実かなり甘ったるい王国ファンタジー。

生まれつき美しい赤髪の少女・白雪が、その髪色の珍しさゆえにアホで有名なラジ王子に気に入られ、
何とか隣国・クラリネス王国へ逃げ出し、そこでもいろいろな事が起こり…、というお話。
舞台をクラリネス王国に移してからは赤髪うんぬんはあまり話に関係なくなり、
白雪を取り巻く様々な状況や周囲の思惑等と、それに対処しつつ宮廷薬剤師を目指す白雪の成長、
そしてクラリネスの王子との恋愛模様がメインとして描かれるようになります。

作品としては、会話が回りくどくて若干わかりにくく、全般的にちょっと堅苦しい印象。
また、作中に表れていない部分の世界の構築が細やかになされているか、と言えば
あまりそうは感じられず、要するに、見える範囲しか作っていないようにも思えました。
狭い範囲での王宮物語を続けるにしても、世界の広がりが感じられないとすぐに飽きてしまうので、
せっかく魅力的なキャラと世界観が揃っているだけに、スケールの大きな作品に仕上げてほしいです。

それにしてもこの絵は良いです。 とても良いです。
動きのある描写がいま一つではありますが、絵だけで点をあげたくなる感じ。
作品全体に流れる緩やかで落ち着いた空気との相性も抜群です。
そして心優しきヒロイン・白雪も、凛として芯が強く、決して折れない強い意志を持っていて、
とても魅力的に描かれています。
作品として似たような雰囲気の「Landreaall」なんかが好きな人にはいいかも。
あれよりはもっとずっと少女漫画寄りですけどね。

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[投稿:2011-03-19 00:36:41] [修正:2011-03-19 00:37:10] [このレビューのURL]

バブルの残り香をまだまだ感じる時代の話。
「アジアの嫌われ者」の日本人がいかにして嫌われるに至ったかを鮮やかに描いた作品、
と言ったら自虐的すぎですかね。

今でこそ、政治経済的にもスポーツ・文化的にも「日本はアジアの一員だぜ」みたいな空気が
当たり前ですが、この当時は「欧米に追いつけ追い越せ仲間に入れて」の時代。
アジアの人々を見下す日本人。
現地での開発支援や経済発展援助など知ったこっちゃなく、自分たちが儲かることだけ考える日本人。
「ニッポンが援助したカネを、俺たちニッポンのカイシャが持って帰る。 ODAってのはそういうことだ」

かと思いきや、純粋培養の日本人は現地の人からすれば良いカモだったりして、
黄色いサイフなんて呼ばれる始末。
日本人は日本人同士で、現地滞在ビジネスマンとしてお互いの腹の探り合いにご執心。
漫画として誇張に満ちた作品世界ではあるのでしょうけど、生き馬の目を抜くような掛け合いが
読んでいて何だか妙に気持ち良かったりします。

まあやっぱりこの作品の見せ場は、他の皆様が書いてらっしゃるように
企業戦士としてのサラリーマン魂全開の場面ですね。
本当にああやってメイドインジャパンを少しずつ世界に広めていったんだなあ。 すげーな日本人。
技巧的な終わり方も秀逸。 情緒溢れるシーンにピリ辛のスパイスを振り掛けたような描写なんて、
この作者以外になかなかできる人いないと思いますよ。
どうも映画版と違って漫画版は山本直樹オリジナルの部分が多分に含まれているようで、
シニカルな視点とか、一捻りも二捻りも加えた展開とか、実に良い味出しています。

作者の他作品を読むと、良い意味で一言で表せないようなドロドロした読後感を抱かされるのですが、
この作品は(原作者が他に居るというのもあるのでしょうが)ストレートに面白いと思えました。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-03-16 22:22:46] [修正:2011-03-16 22:23:42] [このレビューのURL]

6点 暁星記

「明け(宵)の明星」「暁の星」と呼ばれる金星。
テラフォーミング(惑星改造)されて生物が住める環境になった未来の金星が舞台の、超骨太SF作品。

金星での独自の生態系と人々の原始的な生活の描写がとにかく秀逸。
それだけでも十分に面白かったのですが、途中から作品世界の裏側が少しずつ見えてくると、
世界観が一気に広がり、本格的なSFの様相を呈してくるという見事な構成。
練りに練られた非常に完成度の高い作品という感じがします。

ただ、昔のゆうきまさみを思わせるコミカルな絵柄は、原始生活を舞台とする骨太SFの本作品には
かなりミスマッチだった気がします。
後半になるとシリアスな展開と共に絵柄の方も締まってきて、まだ読めるようになりますけどね。

終わり方が非常にもったいないと思います。
結末を読者の想像に委ねる、というよりは、駆け足で終わってしまったために
単に十分な説明ができていないだけのように感じられました。
途中までは効果的に使われていた「祖霊」や「ヤドリタケ」も、最後の方は使いこなせずに持て余し、
むしろ作品を乱す存在のようになってしまったのが残念です。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-03-16 22:14:22] [修正:2011-03-16 22:15:23] [このレビューのURL]

The Flower Of Life. すなわち、「人生における最盛期」であり、「生涯で最良のひととき」。

漫画家を目指す男子高校生が主人公の、いわゆる学園もの。
その学園生活がものすごく瑞々しく描かれているんですが、それが実に楽しそう。
なぜそんなに楽しそうかと言えば、一つには登場人物同士がお互いを気遣い、心配りを忘れず、
空気を読み合うことによって生まれるユートピアのような雰囲気が心地良すぎるから。
ありそうであり得ない理想郷の風景なのかもしれないですが、この作品が現役高校生ではなく
かつて高校生だった人向けに描かれていることを考えれば、何となく納得がいきます。
心の中にある「理想の学校生活」ってこんな感じなのかもしれないですね。

BLばかり描いてる作家だと思って何となく避けていたよしながふみ作品で、最初に読んだのがこれ。
で、「あれ、この人すごくね?」という印象を抱かされ、その後よしなが作品を読み漁ることに。

そのぐらいに作者の上手さを感じる作品でありました。
何気ない日常を良質のエピソードに昇華させて描かれる1巻から3巻まで、
そして、登場人物の性格付けのための単なる設定だと思っていたある事柄を伏線として大胆に活用し、
その他諸々のドラマティックな展開と併せて見事にまとめ切った最終巻。

何て言うか、読後の爽快感がたまらない作品です。
あんなに登場人物たちが泣きじゃくり、思い悩み、ヘコんだりしているのに、
この作品を思い返したとき頭によぎるのは登場人物の笑顔と和やかさなんですよね。
その辺が作者の上手さであり、優しさなのでしょう。
登場人物みんなそれぞれの「フラワー・オブ・ライフ」には、やっぱり笑顔が似合うでしょ、っていう。

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[投稿:2011-02-28 01:28:26] [修正:2011-02-28 01:29:12] [このレビューのURL]