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総レビュー数: 258レビュー(全て表示) 最終投稿: 2007年06月29日

「チムア」それは人間と異なる者たち。魔術のような少し不思議な力を使える彼らは心ない人間から嫌われ、迫害されていた。ザーザ村に住むポートもそんなチムアの一人。多くの村の人間から酷い仕打ちを受けるも人間をどうしても嫌いにはなれない。だって人間達の中にも…。

羅川真里茂の3話からなる優しく、そして切ないファンタジー。
・戦士 ジャバ・ウー…ポートの人間の親友との交流のお話。ポートの底抜けの慈愛とジャバ・ウーの優しさを描く。
・夢語り ジョー…脱走し、ポートに匿われることになった敵国の捕虜、ジョーのお話。
・魔法使い ピノ…ジャバ・ウーが派兵先で出会った人間に絶望しているチムア・ピノのお話。

ファンタジーとしてみるとチムアは非常に可愛いけれど、全体的な出来は微妙な所。しかし羅川先生は独特な感性で難しいテーマを書ききっています。
露骨に描かれる人間の汚さ、 醜さ、だからこそ浮かび上がる美しさもあるわけで…少し退屈な序盤をしのげばドラマチックにぐいぐい話に引き込まれました。そして鳥肌が立つようなラストの美しさとほろりとくる切なさ、最高に盛り上げます。
これを見て差別や偏見に思い至らない人はいないでしょう。しかしどうしても色んなものを色眼鏡で見てしまう自分もいます。それでも出来るだけ優しくあろう、そう思わせてくれる漫画です。

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[投稿:2011-08-11 01:05:38] [修正:2011-10-27 17:56:10] [このレビューのURL]

他のスカイハイシリーズと違い、ストーリーはこれ一本なのでスカイハイ読み始めるならこれが一番適してると思うし、このシリーズが一番好き。高橋ツトムの絵が怨霊をすさまじいタッチで描いてて見ていると本当に怖い。ラストは見てて辛いんだけど、とても心に残る。読んだ後の余韻は何ともいえない感じ。

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[投稿:2007-06-27 20:53:57] [修正:2011-10-27 17:55:18] [このレビューのURL]

基本的に少女マンガはほとんどうけつけない自分だけど
この作品は素直に感動できた。
少女マンガにありがちな美少年いっぱい出したり
ボーイズラブっぽい要素がなかったのは大きい。

妖怪ものなのだけど、基本的には主人公である夏目と
名前を返してもらいにきた妖怪との別れが描かれている。
久々に涙腺がゆるんだりと、じーんときた。

どうしようもないことを、悩みながらも受け止め、
思い出としてとどめていく夏目がほんとにいい。
にゃんこ先生とのからみもほのぼのしていいなあと。
とりあえず読んでみて欲しい。
一話完結もの。露神や燕のはなしがお気に入り。
番外編も良かった。

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[投稿:2008-03-02 01:35:42] [修正:2011-10-27 17:54:40] [このレビューのURL]

やはりこの人の独特の雰囲気の絵とギャグは
すばらしくおもしろい。キャラもほんと魅力的。

何といってもこの作者のすごいところは取材と
コメディのバランス。取材しましたっていう雰囲気は
考えて読むとなくもないのだが、ギャグを入れつつも
本来のテーマからは逸脱しておらず、笑わせつつも
考えさせてくれる。接客や店のスタイルについて
描かれた回は納得させられた。絶妙のバランスだと思う。
コメディオンリーの回も、雪祭りとか泥棒が入ってくる
回とかめっちゃおもしろくて良かった。

ただ、ラストがちょっと微妙だった。無理やり終わらせた
感じだったし。まあ終わって欲しくないと思わせる
のがこの作者の漫画全般に言えるのでそのせいもあるかも。

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[投稿:2008-07-08 22:30:57] [修正:2011-10-27 17:54:10] [このレビューのURL]

花田少年史やピアノの森で有名な一色まことの短編集。
一色まことの人間への愛にあふれた「ガキの頃から」シリーズと初期の読み切りを集めた「ばか。」シリーズの2つに分かれる。
帯の「ダメだけど ドジだけど 切なくて 優しくて 人間ってこんなにも愛おしい!」というキャッチコピーに惹かれて購入。大正解だった。

ガキの頃から…帯の言葉通り一色まことの人間への抑えきれない愛が感じられる人間賛歌。この人の作るキャラクターは何でこんなにも飾らないんだろう。平凡だけど、平凡だからこそ本当に愛おしい登場人物の数々。笑って、泣いて、切なくなって、最高だった。
個人的に好きだったのは姉ちん、いつも一緒の2つ。駒子は名編だが、一色作品に珍しく人間の悪意が露骨に出ていて読むのが辛かった。だからこそ最後の幸せにカタルシスが生まれるのだろうけど。

ばか。…初期の読みきりなのでまだ絵も話も荒い。しかし作者独特の人間観察の妙というものが見れて興味深い。
この作品群では「人間って馬鹿だよね。でも馬鹿だからこそ愛おしいよね」という一色まことの根底に流れる考え(と私が勝手に思ってる)がテーマに思える。傑作とはいえないものの気軽に笑って楽しめる作品が揃っている。

どちらかというと花田少年史が好きだった人に薦めたい一色まことの傑作短編集。この値段でこのページ数と質は買いです。ある程度古い作品もあるので時代がかった作品もあるものの、描かれていることは普遍的な人間の心情なので、誰が読んでも楽しめるでしょう。
一色まことの作品の中では日が当たってないように思えて悔しいですが、他の作品の影に埋もれてしまうのはもったいなさすぎる短編集です。
心温まる良作が読みたい人はぜひ読んでみてください。おすすめです

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[投稿:2011-07-24 22:44:15] [修正:2011-10-27 17:53:07] [このレビューのURL]

fellows!掲載の読みきり作品はもちろん、作者の同人時代の作品まで収録された8篇からなる短編集。
内容は優しいほのぼののとした作品から、絵や雰囲気を楽しむ作品、笑える作品、考えさせられる作品まで多岐にわたる。テーマが明確ですっきり読める話が揃っているので短編集としてはかなりいい出来だと思う。デビュー作や同人で描いてたものとは思えないほど精密で美麗な絵なのでそれだけでも見る価値はあるはず。
以下気に入った短編について少し…結局ファンティエッタ以外全部にw

花の森の魔女さん…デビュー作。魔女と噂されるしゃべらないお婆さんと2人の兄妹の交流を描いた優しい雰囲気の作品。この作品では線のタッチが細くて五十嵐さんみたい。

月夜のとらつぐみ…表題作。これと水面の翡翠はそれぞれ鳥を可愛く擬人化したアートとも言える作品に仕上がっている。笠井スイの世界観全開の雰囲気が楽しめた。

仏頂面のバニー…笑ったことを誰も見たことがないと言われるバニーちゃんを親父達があの手この手で笑わそうとするお話。コメディ色が強くてかなり笑わせてもらった。この雰囲気は少しジゼルに受け継がれてる気がする。

Story Teller Story…01と02の二作で、まさかの同人時代の作品。このクオリティで同人とは驚き。
01では優しい嘘をついた男、02では嘘をつかざるをえなかった女性が自身の嘘に耐えられなくなり、嘘をつく相談をしてくれるという「ストーリーテラー」の所へ向かうという内容。他の短編と異なって、ページ数も多くシリアスな話となっている。02の最後には驚いた。まさかそんな話だったとはね。

猫とパンケーキ…妻に先立たれたじいさんとみなしごの女の子の話。誰かより先に死なない人なんていない。「そうこんな温度があった…」再びパンケーキより熱い大切な人を見つけたじいさんが泣かせます。私が一番好きな話で、これが最終話のおかげでいい読後感が残る。

ジゼルから入っても楽しめるし、幻想的な世界観が好きな人にもおすすめ。
今まで読んだ短編集の中でもかなり好みの作品だった。

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[投稿:2011-07-13 22:53:23] [修正:2011-10-27 17:52:24] [このレビューのURL]

ジャズ全盛の1960年代、ジャズを通して繋がる正反対の高校生、薫と正太郎の青春を描く。

まず思ったのは時代背景や絵柄を含めてとにかく古いってこと。しかしこの作品の古さっていうのは恐らくすごく考えて練られたもの。
60年代の固い恋愛観、ビートルズやジャズの大御所に代表される小ネタ、控えめな絵柄、そういう要素が全て純粋で爽やかなキャラクターと素朴な物語を魅力的に見せてくれるのだ。
小玉ユキはこのド直球な青春群像を現代でやってしまうと嘘っぽくなってしまうことを分かっていたんだと思う。この時代でしか、この時代だからこそ成り立つ甘酸っぱさが確実にあるのだから。
素朴な物語を純粋に楽しませてくれるというのは相当力量がないと出来ないし、1960年代を切り取って見せてくれるということを考えてもかなり良い作品。

何といってもジャズの演奏シーンがいい。ここまで音楽してるって作品他にあったかな? まさに音を楽しむという表現が似合う。
私もアポロンを読んでアートブレイキー辺りを聞いたクチなんだけど、色んな音楽を題材とした漫画を読んできたにも関わらず実際にその音楽を聞いてみたのはこれが初めて。クラシックという音楽が限られた枠組みの中で表現を凝らすという素人には分かりにくい凄さだからだろうか。世界を目指して必死、真摯にピアノをやる漫画が多いというのもあるかもしれない。
その点この時代のジャズというのは大衆音楽で、薫達も別にプロを目指しているのではなく単純にやりたいからやっているのだ。すごく身近。また、フリーセッションは私がギターを弾いていて1番楽しいことだし、その楽しさが伝わりやすいものだと思う。だってみんな演奏するのが楽しそうだしジャズが大好きそうだもんね。これは聞きたくなるよ。
しかもこのスタンダードなジャズが片思いにめちゃくちゃ合うんだ。

最近多いぐだぐだなモラトリアムを描く青春ものとは一線を画す作品。異端に見えて王道です。

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[投稿:2011-08-26 14:30:24] [修正:2011-10-27 17:50:56] [このレビューのURL]

ジョーカーのオリジン話ってこれで何回目なのかな?
キリングジョーク以来のジョーカー創生譚。

オリジンが何回も書かれるってのもおかしな話だけどそれもアメコミの特殊性ゆえ。ある意味全部極めてレベルの高い二次創作みたいなもんだもんなぁ。
ただジョーカーに関しては過去の記憶が記憶が錯乱しているということで、やつのジョークの一部と思えばもはや何でもありだね。キリングジョークと比べてはあれだが、これはこれでまた違ったジョーカーのオリジンを楽しませてもらった。

「彼は“人間存在とはあきらかに異なる化け物”だ。」
「私は人間以下の存在を相手にしているというのか?」

バットマンがゴッサム・シティに現れてから10ヶ月、犯罪者はバットマンに脅えて影を潜め、夜には時に子どもの姿さえ見られるようになった。ブルースは彼のやり方に対する手応えと街の平穏に安堵し、久々の安息を感じていた。
しかし謎の男ジャックの出現が全てを一変させる。ジャックによってブルースが今まで築いた成果、そして彼の自信は崩壊する。そして決断を迫られたバットマンは…。

デニス・コーワンの個性的で見事なアートに魅せられつつも、物語は小気味いいテンポで進み、さくさくと読まされる。バットマンの焦燥、ジョーカーの目覚め、2人の綱引きはどちらに転ぶのか。
何といっても台詞回しがいい。上で引用したような精神科医との会話を代表とした印象的な言葉には唸らされる。

少し違和感を感じたのは、ジョーカーがソシオパスとして描かれているところに所以するように思う。
作中で説明されるように、ジョーカーは、ソシオパスは理解不能というのがこの物語の中での認識だ。いわゆる純粋な悪、人ではなく病原体のようなもの。一つの解釈としておもしろいし、それは別に構わない。ただそれでいてこの物語ではジョーカーを掘り下げようとする部分も感じられる。でもそもそも理解不能を掘り下げるっておかしな話じゃないか?

またタイトルにはマッドメンという言葉がある。複数形、マッドメンというなら彼らは同じく狂気の側にいるはずだ。
でも私がこの作品から感じたのは前述したように理性と狂気の両端にバットマンとジョーカーが立って綱引きしている姿。引きずりこまれそうにはなっても同じ側にはいないように感じられる。

個人的にはそういう風に疑問に思った部分もありつつも、わりかしシンプルに楽しめるジョーカー誕生譚。爽快さもあれば、ヒーローゆえの哀愁をも漂う男の物語。
アザレロの「JOKER」とセットでジョーカー好きならおすすめしたい。キリングジョークを先に読んでおいて欲しくはあるのだけど。

ラバーズ&マッドメンの先にキリングジョークの結末があるかもしれないな、なんて想像するのも興味深い。

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[投稿:2011-10-27 00:39:23] [修正:2011-10-27 00:47:59] [このレビューのURL]

奇才・市川春子の第1作。久々にアフタらしい鮮烈な才能を感じた。

アフタヌーンは昔から良い意味で突飛な漫画家が多い。ただ植芝理一、弐瓶勉、木村紺あたりが最近丸くなったなーと感じている。尖ったまま変化するのは難しいし、その是非は読み手次第だから悪いことではないのだろうけど何となく寂しい。
そんな風に感じていた中で登場した鮮烈な奇才、市川春子はかなり楽しみにしている作家さん。

虫と歌はSF風味の4話からなる短編集。人とそれ以外のものとの交流を描く。
どの話もとても「痛い」。少しずつねじれていて、変質的で、痛すぎる。たまらない。
個人的なベストは表題作の虫と歌。すごいよ。痛いよ。

その作風から市川春子は高野文子とよく比べられるし、人によってはパクリだと罵られることもある。実際私も似ているとは思うし、本人も高野文子を尊敬しているそうだ。
ただ、考えてみて欲しいのは高野文子の後を追うというのがどんなに難しいことであるかということ。そもそもどんな作家だって誰かしらから強く影響を受けている。市川春子は表面上ではなく、曲がりなりにも自分のものとして高野文子を取り入れられているように思う。

私が虫と歌の好きな所は、世界を描く熱心さ。
ただその熱心さというのは分かりにくさと表裏一体のものでもある。なぜなら彼女は彼女の世界観を描くことには熱心でもそれを読者に説明することには熱心ではないからだ。だから最初読んだ時はあまりに難解に感じられる。
でもそれはあくまで難しいであって不可能ではない。読み解くのに必要な材料は作中に最低限ではあるにしろ揃っているし、その読み解く作業が楽しいのだ。

分かりにくい、不親切だと作家を非難するのは容易い。そりゃあ作者から読者に歩み寄ってもらうのもいい。でも時には読者の方から作者の世界に近づこうとしたっていいじゃない。そうすることで他の漫画では感じられないものがあるのだから尚更だ。

漫画好きなら高野文子含め、好き嫌いは分かれるにしろ一読を勧めたい作品。その奇才に驚愕する方もいるだろうし、大好きな作品になる方もいるだろう。こんな漫画もあっていい。あって欲しい。

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[投稿:2011-09-13 12:54:51] [修正:2011-10-26 00:16:52] [このレビューのURL]

谷口ジローの私小説的漫画の傑作。犬を飼ったことのある人にとってはたまらない。

彼は妻と二人暮らし。子どもはいない。彼らはタムという年老いた犬を飼っている。
「犬を飼う」はタムの最後の一年を描く物語。日に日に年老い、体が弱っていくタム。彼らはタムのことを考えて色々と尽力してサポートするが、死へ近づくのは止められない。そしてとうとう避けられない日がやってくる。タムとの暮らしは2人に何を残したのか。
「そして…猫を飼う」からの3編はタムの死後、彼らが猫を飼うことになったきっかけ、その後の日常が描かれる。ペットを飼うことで得られるもの、苦労もある一方そのかけがえのない喜びが語られていく。
「約束の地」は前者2つと話が一変、家族がいるもののヒマラヤへどうしても惹きつけられる男の物語。

谷口ジローはバンド・デシネに大きく影響を受けた作家ということはよく言われる。その影響だろうか、一コマあたりが濃く、あまり遊びのコマが見られない。「犬を飼う」ではその緊迫感が話の密度を上げるのに一役買っている。

この犬を飼う、私にとってはたまらない話だった。というのも私が子どもの頃に家でも犬を飼っていて、その最期はどちらかというと何もしてやれなかったような後悔があったから。谷口ジローとその奥さんはまるで自分の親を介護するように、タムの世話をする。その心労のために会話も少なくなったりする。タムは家庭に良かれ悪しかれ影響を及ぼす家族の一員なのだ。
心打たれる名編だが、自分の過去のペットに対してかなり忸怩たる思いになった。でもここまでする覚悟がなければ動物を飼うべきではないのだろう。

で、そんな多少暗い気分を吹き飛ばしてくれたのが「そして…猫を飼う」からの3編。
ここには動物と共に暮らすことの喜びが詰まっている。世話をする苦労を超えるものがある。その中の「三人の日々」はあまり猫は関わってこないのだけど、その記憶をを思い出すときに確実にその傍らに猫達はいると思う。ペットってそんな存在だよね。

「約束の地」は山、何といっても山。神々の山嶺でも存分に見られる、山の迫力、魔力は圧巻だった。写実的に上手い作家なのはもちろんだけど、それだけではこうはいかない。

秀作ぞろいの谷口ジロー作品だが、これもまた良い作品。図書館で借りたものだけど、これは買って手元においていきたい。
そして何だかんだいつかまた動物を飼いたくなったのだった。自分以外の世話も出来るようになったと思えた時に。

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[投稿:2011-10-21 00:22:43] [修正:2011-10-21 00:28:50] [このレビューのURL]