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総レビュー数: 258レビュー(全て表示) 最終投稿: 2007年06月29日

10点 羣青

 本当にすさまじい漫画。読んでいると、いつの間にか息が止まっていることに気付いたり。体の変な所に力が入っていたり。知らないうちに滂沱していたり。読んだ後に30分くらい放心状態で天井眺めていたり。その後眠ろうとしても全然寝付けなかったり。そんな漫画はなかなかない。

 もう内容はと言えば、どろどろでぼろぼろな悲劇。惚れた女の旦那を殺したレズ女と旦那の暴力に耐えかねてレズ女に旦那を殺すよう頼んだめがね女、二人の宛のない逃避行が始まる。
 女二人の逃避行といえばやっぱりテルマ&ルイーズだったり、もしくは人を殺すことに追随する負を描くという意味であれば罪と罰だったり、内容面での新鮮味はそんなにないのだけれども。しかし羣青がすさまじいのは、圧倒的に本物ということだ。

 羣青はすんごく重い。本当にどろどろでぼろぼろで狂おしくて。でも重い話というだけなら、別に珍しくはない。そもそも読み物で何億人死のうと、現実における一人の死とは比べ物にならないわけで。話が重ければ重いほど、舞台が現実であればあるほど、私達はその乖離を痛感させられてきたと思う。
 ただ羣青が他と圧倒的に違ったのは、いつもそこにあったはずの現実と読み物を隔てる厚いフィルターが限界までぶち破られていたことで。羣青において人が死んだら、傷つけられたら、本当にそうであるように感じられた。どこまでもどうしようもない後悔とか、糞みたいな愛とか、底の見えない憎悪とか。二人の感情の濁流というのが直にドカンと来た。

 そう、本当に濁流。漉されていない大量の感情。だからこそ自分と全く縁もないこんな二人にありえないほど感情移入してしまう。移入するというかもう引きずり込まれてしまう。没入にも程があるくらい没入して、気付いたら滂沱しちゃっている。すごすぎる。
 何でこんな作品を描けるのかって考えた時に、そりゃあ中村珍の技量や漫画に対する真摯な姿勢はもちろんあるのだけれども、それでもこれはありえない気がする。それを可能になさしめたのは帯に書かれているように“魂”としか言えないのかなと。完全に一線を踏み越えてしまっていると思う。

 もう何か言葉にすればするほど嘘になっていく感じがして、でも多分それが本物ということだ。絵は癖があるし、ページ数や値段も含めてなかなか買いにくい作品なのだけれど、頭をぶん殴られたような衝撃を味わいたい人は必読。まじで大傑作です。

[完結によせて]
 羣青という作品は、愛や孤独、理解しあうことを描いた作品だった。人と人は決して本当には一つになれないこと。本当の意味で他者を理解することは出来ないこと。もちろんこれらは羣青だけではなく、数多くの作品で描かれてきた普遍的なテーマだ。
 特にSFというジャンルはこれらのテーマを得意としてきたように思う。宇宙人が誰かの頭の中に乗り移ったり、人類が個体の枠組みを超えた一つの生命体となったり…。空想の世界の中では、人がひとりぼっちから解放されることは容易かった。

 羣青の何が特別かというと、驚くほどにこれらのテーマに真正面から立ち向かっているということで。だからこそ羣青を読むと息苦しいし、“愛”という言葉が全く似つかわしくないほどこの作品は泥臭い。

 とにかく執拗に自己と他者の世界のずれが提示されていく。主人公であるメガネさんとレズさんの世界は決して交わることはないし、理解しあうことはない。何度も何度も彼らはぶつかり合い、すれ違い続ける。
 極め付けが、メガネさんとレズさんの兄貴との会話であり、レズさんとレズさんの元彼女さんの母親との関係性だ。レズさんの兄貴も、レズさんの元彼女さんの母親も決して悪い人間ではなくて、むしろ正しくて立派な人間なのだろう。しかし彼らの言葉や態度はどうしようもなく上滑りしていく。カウンセリングだろうが友人のアドバイスだろうが何でも良いのだけれど、理解を示す人間が、ああこいつ何にも分かってないんだなって逆に絶望を加速させてしまうことがあるじゃない。それは正しいとか悪いとかいう問題ではないわけで。中村珍はこの人間同士の世界のずれを執拗に、絶望的に繰り返し描き出していく。本当にたまらない。

 そして二人が辿りついたところが「知り合わなきゃ、絶対幸せだったのに…」であり、さらにもう一つの台詞が連なっていくのだ。

 行き着くところまで行き着いてくれたという実感。作者の蛮勇に心から拍手。この真理に持ってゆきたいがために上中下巻、決して短くはないページ数で濃い物語を綴ってきたんだなぁ。
 中村珍にしか描けない泥にまみれた愛であり、人間賛歌だった。きっつい作品だったけれども、そのきつさ以上のものをもらった漫画だった。こんな業の深い漫画はなかなか読めるもんじゃない。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2012-02-16 02:27:22] [修正:2012-06-24 11:19:50] [このレビューのURL]

コミックで読む文学。コミックでしか読めない文学。初めて読んだ時、こんなアメコミがあるのかと驚いた。
もちろんスピーゲルマンのマウスに代表されるオルタナティブコミックやプレスポップから刊行されているダニエル・クロウズの作品などヒーローもの以外にもアメリカには優れたコミックがたくさんあることは理解している。でもこれ程とはねぇ…。

「わたしはその日、冒険に乗り出したのだ。それはホメロスの『オデュッセイア』のごとく、エピソードごとに、少しずつ父親の本質に近づいていく旅であり、『オデュッセイア』と同じくらい壮大な冒険だった。」
ファン・ホームがどのような物語なのか、端的に説明している本文中の一節だ。

事故なのかそれとも自殺なのか、結局心から理解しあえぬまま亡くなってしまった父親。ある所では通じ合いながらも、すれ違い続けてきた父親。
著者アリソン・ベグダルが自分はレズビアンであると大学の図書館で気付いた時、ゲイであった父親の本質への探求は始まった。

ファン・ホームは7章から構成される。それぞれ異なるテーマに沿って、そして章が進むにつれてより深く父親と自分の真実に迫っていく。第3章では「グレート・ギャツビー」に父親を投影し、第4章では「失われた時を求めて」に著者と父親の姿を重ねる。
このように著者は上の二つやユリシーズを主とした文学を中心に、演劇やTV番組などまで非常に多くの作品と彼ら家族の姿を重ね合わせる。アリソン・ベクダルは文字通り、あらゆる角度から父親を、自分を映し出す。物語が進むごとに、幾重にも父親を囲んでいた壁は少しずつ少しずつ取り除かれていく。そして父親を見つめることはベグダル自身を見つめることでもあった。
ついに第7章で冒険者の旅は結実する。悲劇と喜劇、父親と娘、憎しみと後悔、ゲイとレズビアン…様々な道、交わらないと思っていた道はつながり、これまでも実はずっとつながっていたことが明らかになるのだ。

何といっても最後の1ページが良い。泣いて、感動に震えて、最高の体験だった。何度読んでも素晴らしい。
この作品を私がすごく気に入っているのは、全てが最後の1ページに集約されているのに、それが何であったか言葉には出来ないからなんだよなぁ。ベグダルが大胆な手法で丁寧に、静謐に家族の姿を描き出してきたからこそ最後の1ページは本物になって、かつ既存の言葉を超えた。
そして恐らく言葉を超えたものの表現というのはコミックが目指している所の一つだ。小説よりも絵で語れるコミックにはさして難しくないことに思えるかもしれない。しかしファン・ホームは“絵”とさらに色んな作品から借りた“言葉”、この二つを使って表現を押し上げた。文学だけでも、コミックだけでもたどり着けない所に。

ファン・ホームやアラン・ムーア作品、また高野文子の「黄色い本」なんかを読むとあまりに漫画は文字を嫌いすぎているように感じる。その流れを作ったのは手塚治虫だっただろうか。
色んな方向性があって、文字も、言葉も、一つの可能性なんだな、そう痛感させられる。

一つだけ残念なのはやはり引用される作品の多くを実際に触れたことはないということ。私が既読だったのは「グレート・ギャツビー」、「ライ麦畑で捕まえて」、「アダムス・ファミリー」くらいで、特に「失われた時を求めて」と「ユリシーズ」を読んでいればさらに理解は深まるのだろうなとは思った。
ただ作中でも「自分が『失われた時を求めて』を一生読むことはないと知って人は中年になる」なんて言われているようにそんな人は文学科の学生かよっぽどの文学愛好者くらいのもの。「グレート・ギャツビー」くらいは事前に読んでおいたら良いかもしれない。読んでなくても文脈で十分に分かりはするのだけれども。

しかしもう少し話題になっても良い気がするんだ。アメコミの中でもさらに文学好き向けと、門が狭いのかな。刊行された時期も不運だった。
ということで普段アメコミを読まない方でも、読書好き、文学好きには全力でおすすめ。似たようなことを試みている高野文子の「黄色い本」が好きな人なんかもぜひぜひ。小説含め、今年一番震えた文学だった。

最後に、この傑作を直接出版社に持ち込んでくださった翻訳者の椎名ゆかりさんとその正確な訳には心からお礼を言いたいです。ありがとうございます。
こんな作品を日本で読めたのはちょっとした奇跡。読まないのはもったいない自伝的ノンフィクション・コミックの傑作です。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-11-23 03:08:31] [修正:2011-11-24 00:07:24] [このレビューのURL]

読んでない人は人生を損してる、なんて本気で思う唯一の作品。

とりあえず代表的な作品を一つ挙げろと言われた時に、アメリカ映画ならショーシャンクの空に、アメリカ文学ならグレート・ギャツビーを挙げる人が多いと思う(違ったら申し訳ない)。ではアメリカン・コミックなら?…間違いなくこのWATCHMENだ。

アメコミを変革し、それ以降もアメコミ史上最高傑作の地位は揺るがない。
というかもはやアメコミの中で、なんて枠を飛び越えて漫画や映画、小説などの表現媒体を超えて評価できる限られた作品とすら思えるし、実際そのことは色んな賞や人の感想が証明していて今さら言う必要もないことかもしれない。

「だれが見張りを見張るのか?」

アラン・ムーアが、現実社会にヒーローがいたらどうなるのか?、という単純な疑問を偏執的なほどに膨らませた結果WATCHMENは生まれた。

この作品では一人を除いてヒーローもまた普通の人間に過ぎない。かつては人気だったヒーロー達だが、1977年に制定されたキーン条例によって政府から認められた者以外の自警活動は禁止される。ヒーローのおかげでアメリカはベトナム戦争に勝利した。唯一超常的な力と頭脳を持つDR.マンハッタンはアメリカの軍事力であり他国への抑止力となっている。
ここはムーアが妄想したヒーロー達が実在する世界。冒頭でヒーローの一人、コメディアンが殺される場面からこの物語は始まる。このコスチュームを着たヒーローが変態扱いされる時代に(実際いたとしてもそうなるよ笑)、現役もしくは元ヒーロー達は何を思い、何を見つけ、どこへ至るのか。

理想の漫画とは何だろう?
私は何度読んでも飽きが来ない、おもしろさが薄れない漫画だと思う。WATCHMENはその理想に限りなく近い。私はこの作品がどんなことを描いているかを書くことができない。何をどれほど描いていると言っても、それ自体は正しいかもしれないがそれでこの作品を完全に表すことはできないように思える。惹きつけられる金鉱がたくさんあって、掘り尽くしたと思ってもまだまだ次が待ち構えているとでも言えば分かってもらえるだろうか。
それほど重層的な作品かつ情報量が膨大なので読むたびに新しい発見がある。ダブルミーニングやトリプルミーニングなんて当たり前、背景の壁の落書きや各章の間に挟まれた作中での新聞記事や評論まで世界の構築に一役買っているほどだから読み進めるのにかつてない時間がかかるし、だからこそ読むその時々によって受け取り方や解釈が違ってくることが珍しくない。それほどWATCHMENは魅力的に”揺れて”、最高の読書体験を味あわせてくれる。

WATCHMENは下手な文学が裸足で逃げ出すほどのストーリー性の高さとムーアの革新的(偏執的とも言う)表現技法が相まって傑出した名作に仕上がった。
私はこの作品なら軽く3日語り続けられる自信がある。それは完璧なのに揺るがないことが何一つないという奇跡的なコミックだからだ。例えばロールシャッハを酒の肴に誰かと飲めたらどんなに楽しいことだろう。
ここに色んな部分について私の解釈を書きたいという強い衝動には駆られるもののそんなことをするとすでに長い文が書き終わらなくなるほどになってしまうし、何よりも誰かの考えに縛られてこの作品を読んで欲しくないのでやめておくことにする。

ムーアはWATCHMENでヒーローを徹底的に解体した結果、ヒーローを救いようのないものにしてしまった。
だからこそ浮かび上がってくる「ヒーローとは?」の答え。
グリーンランタン/グリーンアローでハルはこんなことを言う。「正義とは悪とは何なのか。もはや政府でさえ正しいとはいえない時代だ。」
外に答えを求めることができない以上、自分の倫理観や信念に絶対的に従って行動が出来る人間がヒーローと言えるのかもしれない。例えば”たとえ世界が滅んでも俺は妥協しない”という人間なんてね。しかしその結果独裁者みたいなのができかねないとあってはそれはヒーローなのかな? そういう人間こそが世界を変えることが出来るのだろうけど…。

作中に登場するヒーローの一人のロールシャッハという名前はもちろんインクの染みを見せてその解釈を問うあの精神分析に由来する。WATCHMENはまさにこのように、読む人やその人の状況によって作品やその作中ヒーローへの感想解釈が異なってくるコミックだ。
ナウシカのレビューで、ナウシカが終盤でとった行動に対して是非が分からないという方達がいたと思う。そんな人にこそぜひ読んでいただきたい。そのエッセンスを100倍も濃縮した要素がこの作品にはあるし、どんなに小汚くともロールシャッハとナウシカは本質的には同じ人間だから。もしかするとオジマンディアスさえも。

ヒーローとは何なのか?何が正しくて何が悪いのか?世界の、人間の意味とは? 繰り返される疑問符。読むたびに私の脳はびんびんに活性化される。痛いほどに刺激的な読書体験。この作品に飽きる時なんてくるのだろうか。

もう1回言う。読んでない人は人生を損してる。

【追記】
ウォッチメンは異形の文学作品としての傑作であって、例えば少年漫画の王道として傑作であるスラムダンクとは全く趣が異なります。
膨大な情報量と構成を自分の中で消化する、もしくは消化しようとする作業をページを行きつ戻りつしながら楽しむ作品です。読みにくいのは当然なわけで、漫画は軽く読めるから好き、なんて人は絶対相容れないでしょう。少し値の張る作品なのでそこをしっかりと考えてから購入を決めることをおすすめします。映画に否定的な意見が多いのはこの内容を2時間半に詰め込んだことと映画の読み返せず消化する時間を与えてもらえないという特質ゆえだと思う。原作を読んでからだとかなり印象が違います。
ただし同ページの小説を読むよりはるかに時間がかかる、というか時間をかけて読まないとおもしろさが分からないので決して高くはないはずです。私のようにかけがえのない漫画の一つともなればなおさらね。

しかしレビューを読み直すとあまりにもハードルを上げてしまった気がする。その人にとって本当に楽しめる作品ならそんなのは軽く飛び越えていくからまあいいか。あまりに期待しすぎて…なんて言われたら何も言えないですが。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-09-23 03:40:55] [修正:2011-09-25 00:21:25] [このレビューのURL]

これは半端ない。
漫画に関しては日本が1番だと思っているけどこういうのをみるとアメリカの懐の深さを感じざるをえないし、認めざるをえない。
この手のサスペンスでは羊達の沈黙を読んだ時以来の鮮烈な読書体験。

読書体験と言ったのは比喩ではない。このフロム・ヘルは漫画ではなく「グラフィック・ノベル」だ。あくまでノベル。
初めて読んだ時あまりの読みにくさに驚いた。ページもコマ割りも左から右に読んでいかなければならないし、日本と見せ方が違いすぎる。
日本はやはり手塚治虫から抜け出せてないのかとかそういうことも思ったのだけど、本質はそこではなくてやはりこれはノベルなんだなということ。
日本のように絵で魅せることはほとんどなくて、あくまで物語を補完することが目的。映画的、もしくは台詞以外の小説の文を絵が担っていると言っても良いだろう。

フロム・ヘルで描かれているのは19世紀末のロンドンとそこに生きた人々だ。
そこに暗躍した”切り裂きジャック”の狂気と幻想だ。

アラン・ムーアは切り裂きジャックの資料と当時のイギリスの風俗を綿密に調べ上げた。だからこそロンドンとその住人は間違いなく生きている。だからこそ事実と創作した部分は矛盾しない。
アラン・ムーアは実際に19世紀末のロンドンに行ったことなどもちろんなく、この切り裂きジャックは彼の創作だ。しかしこれは限りなく本物に近い域にまで昇華されている。

読者は切り裂きジャックの「解体」を追体験することになる。肉を切り、手に血が滴るのを感じる。その匂いまでも。
ここでもアラン・ムーアは猟奇殺人の資料をあさったそうだ。誇張ではなく、本気で吐きそうになるのを我慢した。徹底した調査による想像は比類なきリアリティをもたらす。

天才が全力を尽くせば、これだけの仕事が出来るのだ。
彼は切り裂きジャックの謎を解くことで19世紀末のイギリス、ひいては世界を描こうとした。そのとんでもない試みがほとんど成功しているあたりが彼のこの作品に対する自信の表れなんだろう。

後に残るものなんて何もない。すごいものを見たい人、頭をぶん殴られるような衝撃を感じたい人にだけおすすめしたい。ただし覚悟はすること。
値段が張るので購入を迷う人もいるだろう。それなりの大きさの図書館ならあると思うので探してみるといいかもしれない。
4章までは非常に読みにくいので我慢。後はジェットコースター式に話は進む。けっこうな長さだが止まらない。読み終えたら後ろの作者による補講(これめちゃくちゃ詳しくて長い)と併せてもう一度読むと分からなかった所の理解もある程度進むと思うのでおすすめ。

地獄はあまりに深く、暗い。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2011-08-25 15:12:33] [修正:2011-08-28 04:09:23] [このレビューのURL]

宮崎駿の漫画史に残るであろう名作ファンタジー。何度も何度も読み返した漫画だが、この作品にはそれだけ深く、多面的な魅力を持っている。

・純粋なファンタジーとしてのおもしろさ
ファンタジーの王道ともいえる世界の謎を解き明かしていく物語。この点でナウシカは他の同ジャンルの漫画のどれよりも傑出している。腐海の意味、人類の成り立ち、謎が新たな謎を呼び、最終的に驚くべき真実にたどり着く。わくわくするしかないでしょう。
魔法的なそういう意味でのファンタジックな世界ではないにしろ世界の仕組みにこれ程興味を惹かれた物語はなかった。うまく構築されているというだけでなく、それが直接宮崎駿の思想を表現するものであることは奇跡的ですらあるように思う。

・独創的な世界観
飛行機、腐海、虫、食べ物、服装など細部に至るまで工夫された宮崎駿の造形物たち。創造力がすごすぎる。精密な絵も相まってナウシカ独特の世界観を創りあげています。美しいものと醜いものが同居するナウシカの世界、気づけば魅力的な物語の中に入り込んでしまう。

・メッセージ性の強さ
映画版のメインテーマだった環境との共生は原作では序盤で軽く触れられるのみに留まる。そもそも映画版での環境が環境の外に人間があるという認識だったのに対し、原作での環境とは私達人間が生命の輪の中に組み込まれたものになっている。腐海やオームの成り立ちも含めた人間の干渉込みでそれもまた環境だよという大きな意味で捉えられている時点で共生という言葉が成立しない。私達もその一部なんだから。
原作でのメインテーマは宮崎駿の思想論・生命論だろうか。連載が長期に渡ったためか途中よく分からない所もあるためラスト付近について考えてみる。

ナウシカは作中の多くの場面で葛藤する。
ナウシカは墓所の主への言葉のように清濁合わせ持つ世界、闇の中に光のある世界を肯定し、墓所の主のような、神聖皇帝のような一つのルールを押し通すようなやり方を否定する。しかしナウシカは彼らを否定するために結局多くの兵士や墓所の主を殺し、自分のルールを押し通してしまう。この矛盾のためにナウシカを嫌う人もいるだろう。しかし考え、葛藤し、矛盾を受け入れながら生きて行く姿勢が大事だと私は思う(ここは銃夢にも共通する所)。
作中でナウシカが唯一の神を否定し、一枚の葉や一匹の虫にも神は宿っているというように多くの価値観を受け入れた生き方が示唆されているのかもしれない。

宮崎駿の生命についての考え方も興味深い。
神聖皇帝は治世の最初は名君だったものの、政治のために利用した神に彼自身が囚われることになる。ただ生きることに意味が見出せなくなり、神によって命に価値を与えられることになってしまうのだ。墓所の主も同様、次世代の清浄さに耐えうる人間のつなぎとしてのみ今の人類に意味を見出している。しかしナウシカはただ生きるというだけで価値があるのだという。例え組み替えられたり、造られた命であっても生きてきたことに意味があり、変化し続けていくのだと。

神や墓所の主のような他者によって自分の命に価値を与えられるのではなく、自分で生きる意味を見出すこと。多くの価値観を受け入れること。言うのは簡単ですが、弱く流されやすい人間にとっては非常に難しいことです。だからこそ強く、全てを受容する優しさを持つナウシカは聖母なのだと思います。

人間の卵をナウシカがどう考えて壊したかということは気になる所。生命と考えてなかったのか、それとも人間が生存するためとはいえ違うものに変質することが生きることと思えなかったのか…。ここらへんは宮崎駿の「生きる」とはどういうことなのかという考えを見れておもしろい。最終的に人間をどう変化させるつもりだったかは明かして欲しかった。音楽と詩を愛するニュータイプの人間の素材に今の人間を使うという感じなのか?…

母神のようなナウシカにはなれずともその生き方に価値を見出すことはできます。最後に少しだけ衣が青くなったジィ達のように少しでも近づくことは出来るはずです。

長くなりましたが、もちろんこれは私の解釈です。読む人によって思う所が異なり、読むたびに新しい発見がある風の谷のナウシカは時の審判に耐え、後に長く残る作品だと思います。
欠点といえば難解、かつマルクス主義や哲学的な知識が散りばめられていて非常に読みにくく、疲れること。また漫画的な演出はいまひとつかもしれない。
紙質とインクの悪さなど違う部分で気になる面もありつつもそれらを補って余りありすぎる魅力がある作品です。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-08-03 02:38:09] [修正:2011-08-04 16:00:02] [このレビューのURL]

あまりにも自分の一部になりすぎて客観的にはとても見れない作品。直接関係ない語りもあるし、非常に長いので不快な方は飛ばしてくだされ。

「原始の生命は濃厚な有機物のスープから生まれた。新しいものは常に混沌から生まれる。」どこかで見て(火の鳥か?)心に残った言葉。まさにディスコミのことのようです。
民俗学・哲学・宗教・オールド玩具などへの愛に満ちた書き込みと世界観、恋愛を上記の要素を絡めてある意味回りくどく表現するストーリーが特徴の個性的すぎる作品。摩訶不思議恋愛漫画とよく紹介されます。

私が読んだのは小学校低学年の頃。この頃姉の本棚に入っていたディスコミやスラムダンク、ジョジョ、るろ剣、赤僕などから私の漫画ライフは始まった。うん、いい漫画ばかり。
そんな良漫画の中に異彩を放つディスコミには強烈な衝撃を受けた。他の漫画と異質も異質で、意味が分からない所もたくさんあったのにとにかく夢中になって読んだ。何しろあまりにも変態的(エロではないよ)なのでイケないものを読んでいるような背徳感というかそういうドキドキがあって、そういう意味でも思い出深い作品です。
今の私を考えるに、漫画の嗜好から服など装飾的なセンスまで色んな所が血肉になっています。良かったのか悪かったのか分からないけれども、ディスコミに出会わなかったら今の自分はないでしょう。小さいうちに出会えたことに感謝。

少し内容紹介。ディスコミは導入編、冥界編、学園編、内宇宙編に分かれている。
導入編…主人公の戸川とその彼氏松笛の紹介も兼ねた2人を中心としたエピソード群。戸川と松笛が付き合うことになったきっかけやその少しアブノーマルな日常が語られる。歓喜天などの密教や神話を絡めた幻想的な話が多い。松笛の不思議さと戸川の松笛の謎を解きたいという気持ちが押し出されて、謎の彼氏Xとでもいえるような仕上がりになっている。こちらは人間じゃないかもしれないくらい謎ですが…。導入編ではまだ絵が荒いものの、独特の美しい絵と話が印象的です。

冥界編…謎の2人組に冥界に落とされた松笛を助けるために戸川も冥界に飛び立つ。冥界編はディスコミの中でもかなり異質で、長期間自分の内面世界と向き合う真摯な話となっている。「なぜ人は人を好きになるのか」、ディスコミ全編でのテーマでもあるこのテーマに冥界編では真っ向から取り組んでおり、独創的だが重い展開が続きます。
自分の内面を追求することは辛く、先の見えない作業ゆえに人は壁にぶち当たる。その時「あきらめをもたらす者」を象徴してか、戦闘シーンも読み応えがあるものに。この結末はとても良かった。名編です。

学園編…前後編に分かれる。冥界編とは打って変わってとにかくコミカル。個性的なギャグが冴え渡っている。前期後期共に何か悩みを持つ男女が松笛と戸川に解決を求めてきて、オカルティックな道具や解釈で彼らを悩みから解放していくという筋立ては共通している。冥界編で分かりにくいと読者に言われたことから学園編では自分が分かる話しか書かないようにしたそうで非常に読みやすい。この学園編、特に11巻はディスコミの中でも屈指の作品群。
前期学園編でのテーマは性的倒錯だろうか。変に思えるかもしれないが、恐らく真面目に取り組んでるので意外に興味深い。後期学園編のげに尊きは彼女のふくらみからは霊感少年少女を鍵としたシリアスなテーマ性を持った作品となっており、絵柄も一変する。Dr.Strangeloveさんと同意だが、特に天使が朝来るは傑作。夢の扉も良かった。

内宇宙編…前半はエロい。とにかくエロい。直接的なエロさはあまりないにも関わらず下手なエロ漫画よりよっぽど。性を通して自分の心と世界を描いている章ですが、危ないネタがいっぱいで真に変態的な話が多いのでここで引いちゃう人も多いかも。そろそろ読者も自分も分からないような話を書いていいかな」ということで、読者が置いてけぼりになりがちな内宇宙編ではあるけれど考えさせられるのは確かです。
後半は前期学園編や導入編が混ざったような話になる。各エピソードの主役が話を盛り上げ、戸川と松笛は脇役といってもいいくらいの位置づけに。けっこう異常な話のはずなのに全く気にならない。もはや倒錯的な恋愛を当然のように肯定し、憧れさえもたせてしまう変態植芝には脱帽です。でも少しは自分の中にそんな面があるはずだよね。

大好きな作品ですが、決して万人向けではないことは断言しておきます。映画で例えるなら、ショーシャンクの空にのように万人が認める名作ではありません。パルプ・フィクションのような中毒性はあるものの好き嫌いが分かれる名作です。
私のレビューで上の方にランクインしてしまいますが、こんな得点をとる作品じゃないだのと他人の評価に文句をつける方が現れないことを祈っています。当然ですが、自分の価値観は必ずしも一般的な価値観ではありません。一元的な見方をしてしまう人には合わないだろうなと思いつつもそんな人にこそディスコミュニケーション(相互不理解)を読み込んでくれたらいいなと思うのです。
この美しいまでの混沌、とにかくご一読あれ。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-07-20 02:18:36] [修正:2011-08-01 15:34:37] [このレビューのURL]

10点 ピンポン

私の中ではスポーツ漫画の比類なき名作として君臨している作品。色んな意味で2つとない作品と断言できる。
ネタバレ成分大なので未読の方は注意するようお願いします。

・主題に則った無駄の無いストーリー
表のテーマはヒーロー。主人公ペコの再生が描かれる。
ドラゴン戦での頭上を鳥が飛んでいくシーンが示すようにヒーローとは他の凡百の者たちの上の空を高く飛んで飛翔し、違う景色を見せてくれる存在。
作中屈指の名シーンであるドラゴンがトイレにこもる場面でドラゴンは自問自答する。誰のために、何のために卓球をするのか、必死に練習して勝ち続けることに意味はあるのか…。ペコはドラゴンを彼の見る景色まで連れて行く。そこでは意味はなくなり、残るのは卓球をすることの純粋な喜びと楽しさだけ。
だからこその「怯える暇などない。怯える必要などないのだ!」「此処はいい。」というドラゴンの満たされた思い。一巻分にも満たない長くはない試合にスラムダンクの山王戦をも越える圧倒的な密度の感情と叫びがつめられている。
裏のテーマはヒーローではない凡人達。
松本大洋は敗北者に優しい。とはいっても努力はいつか報われるなんて見当違いなことを言うわけじゃない。試合に負けて落ち込む孔文革をコーチは諭す。全てを費やした上で挫折したとしても、それでも人生は長く、いつだってスタートラインに立てるのだよと。
ピンポンに凡人はたくさん登場する。アクマや孔文革はもちろん、究極的にはドラゴンさえそうかもしれない。現実的に天才は一握りで、大多数は凡人だろうし私も後者だろう。ピンポンの最後のスマイルとドラゴンの会話からすると松本大洋が本当に書きたかったのは凡庸の救済だったのかもしれない。彼らがみんな居場所を見つけられたのは本当に嬉しかったし、コーチの台詞には私も救われたように思う。

・松本大洋のぶっとんだセンス
擬音といい台詞といいこの人のセンスは荒木飛呂彦並みにぶっとんでる。
字体や擬音の置き方が場面場面で独創的すぎるくらいなのに、雰囲気を表すのに最適なものとしか思えない。実際に見ると分かるが凄すぎる。
アクマ、ピンポン、ペコ、ドラゴン、登場人物の全てに名言があるように思えるくらいこの人の言葉選びと会話は印象的なものが多い。特にドラゴン戦はその全てがもうね…。

・熱く、まるで映画のように洗練された試合
松本大洋の個性的なド迫力の絵と擬音による効果音で描かれる試合はドラマチックでありながらもめちゃくちゃ熱い。そして絶妙なタイミングで挟まれる静の場面。激しく動を描いてきた中でのこの間と雰囲気にはぐっとくる。この人の描く表情は言葉以上に雄弁に語るなあ。

濃密な物語とそれを表現しきる松本大洋の世界観。
完全さと勢いを合わせ持ち、これだけ好みの作風となると文句なしの満点。最高です。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-07-26 00:58:54] [修正:2011-07-27 03:56:21] [このレビューのURL]

10点 SLAM DUNK

実際これを読んでバスケを始めた身からすると10点をつけるしかない。
このサイトの10点の基準である「漫画というメディアを超え魂を揺るがし、人生に影響する作品」というのはあまりにも大げさすぎてあまり参考にしてなかったけど、私の数少ないこれに当てはまる作品。
恐らく一番読み返した作品でもあるはず。

もはや内容について語るのは蛇足にしか思えないくらいだけど、最終回についてだけ。
絵・表現・試合展開・その他全てがこれ以上はないというくらい素晴らしかった山王戦がやはりクライマックスには相応しかった。
これ以上のものが描けないというのならやはりここで終わらせたことは英断だったと思う。
ならば思わせぶりに新キャラを出すなよというのはもっともだけど、評価を下げるには些細なこと。

井上さんは「続きは描きたくなった時に描く」と含みをもたせていましたが、山王戦を超える話ができるという確信がない限りは第二部は描かないだろうなあ。
首を長くして待ってます。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-07-09 16:29:03] [修正:2011-07-09 16:35:27] [このレビューのURL]

9点 百物語

 久々に最近寝る前にこの百物語を読み返していたのだけれども、いやぁ止まらない。とりたててインパクトのあるわけではなくて、ただそこにあって身体の中を通り抜けていく怪奇。あと一話あと一話と思いながら、ついつい眠さに耐えられなくなるまで読み続けてしまった。

 百物語は杉浦日向子が紡いだ九十九の掌編からなる江戸怪奇集。当時の色んな百物語から杉浦日向子が選び抜き、仕立て直したとびっきりの江戸の不思議なお話が行灯の光にのせて語られていく。

 杉浦日向子の作品に総じて感じることだけれども、この人の想定読者って現代に生きる私達ではないのではないかと時に思ったりもする。何というか、言葉等が私達にも理解できるよう翻訳されている一方で、物語の感覚は江戸にあったものそのままなんじゃないかと。そのくらいの江戸への没入感。
 だからこそ、その異質さに戸惑ったりもする。例えば「ゑひもせす」では忠臣蔵の物語に打ちのめされながらも、個人的にはその世界には未だ馴染めていなかったりするわけで。でもこの百物語は一度慣れてしまえば、本当に江戸へとトリップできる。自分の感覚が江戸のそれになってしまったかのように思える。

 江戸の感覚、というのは常に怪奇が隣にあったということだ。死んだ父に出会っても、人魚や天狗を垣間見ても、それらは当然のようにそこに存在する。相当に奇妙な話にも関わらず、本当にあったかのように語られるのではなくて、本当にあったものとして語られる。他愛のないものも、ぞっとしてしまうものも、ひたすら不思議なものも、突如降りかかってくる災いというわけではなく、ただただそういうものとして人々に馴染んでいる。
 そんなこんなしていると、いつの間にか私自身が江戸の怪異を聞かされ、江戸の人々に出会ったような気がしてくる。聞かされた話を今度は自分が他の人に話してやりたくなってくる。多分そんな風にしてこれらの話も語り継がれて来たのだろう。

 特にお気に入りは「絵の女の話」「他人の顔の話」「長持の中の話」あたり。ただ特に印象に残っていない話でも、それはそれとして同じくらい愛すべき話であるように思う。ただそこにあるだけの話だからこそ。

 今さら私が言うまでもないのだけれど、百日紅と並ぶ杉浦日向子の名作なので読んでない方はぜひ。しかし名作という大仰な言葉はこの作品に似合わないな。怪奇が心を揺さぶるのではなくて、ただただ怪奇が寄り添ってくれる。そんな愛すべき怪奇集。

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[投稿:2012-08-18 00:33:21] [修正:2012-09-06 22:17:08] [このレビューのURL]

9点 WOMBS

 白井弓子といえば、天顕祭が同人作品として初めて文化メディア庁芸術祭マンガ部門で奨励賞を受賞したことで有名になりました。天顕祭を読んだ時は、やろうとしていることはすごくおもしろそうなのに漫画としてこなれてないなぁなんて印象を持っていて。独特の絵柄と壮大な作品の構想に、語り口や見せ方が追いついてないというか。もちろんプロの第三者の目線が入らない同人作品ゆえということもあったのだろうけれど。

 そんな白井弓子の商業誌初の連載作品がこのWOMBS(ウームズ)。訳すると、子宮たち、という妊婦SF。

 碧王星という地球とは異なる惑星。漂流した末にたどり着き、星を開拓した第一次移民(ファースト)と第二次移民(セカンド)の間で激しい戦争が繰り広げられている。セカンドは、ニーバスという異生物を子宮に移植することで“飛ぶ”力・転送能力を得た女性だけの転送兵部隊を利用することによって軍事力で優るファーストに対抗しようとするのだった。

 子宮が物語に関わってくるSFやファンタジーというのは決して珍しいわけではなくて。例えばお馴染みの人工子宮もの。もしくはこのWOMBSのように、“無”から“有”を生み出す器官として異世界とのゲートとして利用されるもの。
 ベルセルクのクシャーンやトロールのくだりなんて印象的だろうが、子宮は特に後者の場合、SFやファンタジーにおいてどちらかというと抑圧・利用される象徴であって女性の強さを感じさせるものではなかったように思う。漫画小説問わず、子宮を食い破って化け物が生まれる場面をこれまで数多く見てきた。
 しかし白井弓子は子宮を戦う理由に変える。異生物を子宮の中に移植するというグロテスクな行為…しかし、彼女らは女性であっても、いや女性だからこそ、国や家族のために戦うのだ。
 

 またWOMBSの舞台である軍隊。これまた女性が認められない場所、というか細やかな気配りや優しさ等の女性らしさが排除された組織。
 そんな軍隊において、女性だからこそ戦える転送兵を描くことで、この作品はジェンダーSFの側面まで帯びてくる。日本ほど女性が戦うフィクションの多い国もないだろうけれど、この作品ほど女性が戦う説得力を持つ作品はないだろう。だからこそ圧倒的に感じるのは、女性の強さだ。

 本当に欲張りに感じるくらい盛りだくさんな要素があって。転送兵が異世界の座標にアクセスする所なんて、電脳空間ではないにしても確実にサイバーパンクなわけだし。でもそれらが生まれたのは一つの設定からなんだよなぁ。だからこそ複雑な世界設定も自分の中で確実に消化できるし、その消化する作業が楽しい。
 これは結局、異世界ものを描くのに一番理想的な、世界を語ることが物語を語ることになっているということで。結果、この世界の構造とそこに住む人間が薄皮を剥ぐように少しずつ、しかしとてもクリアに見えてくる。天顕祭に比べると驚くほどに語り口が進化している。

 ということで、大絶賛。SF好きなら読まないと損くらいの作品だと思う(とか言って私も読んだの最近だけれど)。知らない世界と知らない物語を読める喜び。最高にセンス・オブ・ワンダーに満ちた傑作です。

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[投稿:2012-05-19 23:54:58] [修正:2012-05-20 11:10:35] [このレビューのURL]

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