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総レビュー数: 258レビュー(全て表示) 最終投稿: 2007年06月29日

 ディケンズのクリスマスキャロルをモチーフにしたということで、他のバットマンものとはかなり趣が違う。実はジェフ・ローブもハロウィンスペシャルで同様のことをやっているので、アメリカではわりとメジャーな手法ではあるのかもしれない。

 クリスマスキャロルといえば超有名な古典なので、大体の方が大まかなストーリーは知っていると思う。傲慢、冷酷、強欲、愛や慈悲に欠けた男スクルージの前に、過去現在未来の3人の精霊が現れ、改心したスクルージは自分と未来を変えようと決意するのであった…。というあれです。
 私も子どもの頃に読んだことはあって、ただけっこう前のことなので内容は忘れかけていたのだけれども。ノエルを読めば読むほどにああ、こんな話だったな、と思い出していった。要はモチーフというか、基本プロットはほぼクリスマスキャロルそのままってことで。

 読んでいて巧いな!って思ったのは過去の精霊であるキャットウーマンの章。バットマンオリジナルコミックを読んだ人は分かると思うのだけれど、ミラーのDKRがバットマンを変えたというのは決して大げさな言葉じゃなくて。ペンギンが傘で空を飛んでたり、スーパーマンがヘリに吊るされて滝にうたれたりという時代があったわけです。そしてそのオリジナルコミックの中には確かにキャットウーマンとバットマンが仲良く追いかけっこしていた話もあった。マスク以外の服と武器をとりあげ、バットマンを猛獣に追いかけさせるという衝撃の話が。
 「昔は違った。昔のあなたはこうじゃなかった。」…ゴールデンエイジへの郷愁と現在の重苦しいバットマンコミックへの複雑な気持ちを感じさせる、なかなかにぐっとくるお話だった。

 ただ現在と未来の章に関しては、うーむ…。
 ベルメホの、色んなバットマンコミックがあって良いと言う言葉にはもろ手を挙げて賛成するし。クリスマスキャロルを意識してか、バットマンやゴードン、アルフレッドといったキャラクターのイメージがかなり他作品と乖離しちゃってるのも構わない。ただし、そうであるべき確たる理由が感じられればってことで。個人的にはあまりクリスマスキャロルにバットマンをそのまま当てはめる意図を読み取れなかった。ゴッサムという街であっても、ボブやブルースでさえも幸せになりうるのかもしれない。しかし違和感のせいかバットマンのお話としてすっと心に入ってこない。
 
 ベルメホのアートには全く文句のつけようがない。この人のペイントは、写実的でありながらも、陰影のつけ方や光の取り入れ方絶妙で、何とも言えない魅力的な雰囲気を醸し出す。絵が濃いので多少好みは別れるかもしれないけれど、本当に素晴らしい。

 多少疑問に思う点もあるけれども、バットマンの可能性を感じさせる良作だった。値段もアメコミにしては控えめなので興味がある人はぜひ。

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[投稿:2012-03-27 18:59:15] [修正:2012-03-27 18:59:15] [このレビューのURL]

 役者を目指していた主人公が、甘い話に騙され多額の借金を負うことに。彼が高利貸しに紹介されたバイトは死体を運ぶ「運送屋」だった…。

 真鍋昌平といえば「ウシジマくん」の漫画家さん。スマグラーはデビュー作らしいのだけど、映画化を機に新装版が刊行されたということで。
 もちろんデビュー作なので、現在と比べると絵も話も少し粗い部分も正直あって。でも真鍋作品の陰鬱さとそういう粗さの相性は決して悪くはなかった。そしてウシジマくんと根底に流れるものはやはり同じように思える。

 ウシジマくんを読んだ人なら分かると思うのだけれど、この人の作品は本当に陰鬱。拷問シーンのようなエグい場面や人間のどうしようもなさをこれ程までかとぶち込んでくるので、読んでいるとどうしても落ち込まざるをえない。
 エログロナンセンスとかそういう良い意味での悪趣味ではないんだよなぁ。ただただ糞ったれな人生を生きている糞ったれな奴らの姿を見せられて。それが面白いのかというと、正直分からない。でもスマグラーを読んでいて目が離せないのは、確実にその糞ったれな奴らと自分につながる部分があるからだ。下手をすれば自分だってこんな糞ったれな人生に転落しうるというリアリティがあるからだ。だからこそ他の漫画にはない生々しい嫌悪感を感じてしまう。

 香港マフィアや日本のヤクザはいかにも…って感じなんだけどね。極め付きに中国の殺し屋二人組みまで登場しちゃう。ここらへんザ・漫画なのだけど、それでも独特の雰囲気を醸し出していて決してリアリティは失われない。ウシジマくんにも共通する変なバランス感覚は相変らずだなと思ったりして、なかなかおもしろかった。

 真鍋昌平が描く人間は本当にどうしようもないのだけど、どうしようもないだけでは終わっていない。どうしようもないなりにどう生きるのか…この人の人間へのまなざしは決して虚無的ではないし、結末にも作者のそういう部分は表れていたように思う。
 ただそんな物悲しいハッピーエンドもあまりに生々し過ぎる嫌な空気を払拭できたかというとそうではなくて。これを刺激と捉えられる人にはたまらない作品なのかもしれないけれど、あまりに生々し過ぎて個人的には難しかった。ただ同時に作者は刺激とは感じて欲しくないんだろうな、とも思った。悪趣味なだけという作品では絶対ないので興味がある人は一読をおすすめ。

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[投稿:2012-03-10 00:27:57] [修正:2012-03-10 00:28:57] [このレビューのURL]

 フェローズの企画ものを中心に、福島聡との共作やら普通の読みきりやら森薫のここ10年弱ほどの短編が収められています。まあ短編は6割ほどで残りはイラストやらサイン会ペーパーなどの諸々。とは言ってもおまけであろうここらへんにも気合入りまくりなので見応えは相当なもの。裏の第何刷とか書いてる所にイラスト載ってるのはこの人の作品くらいだと思う笑。

 森薫という漫画家さんはそもそもフェティシズム色の強い作家なわけですが、短編ともなると物語性が少なくなる分、森薫のフェティシズムがより抽出された内容になっています。相も変わらず、(悪い意味ではなく)強烈に自身の性癖を押し付けてくるもんだから、こちらも有耶無耶のうちに首肯してしまうというか。こちらが好きって言うまでしつこく「好き?好きでしょ?好きだよね?」と聞かれ続ける感じというか。
 十八番のメイドものはもちろん、水着、眼鏡、バニー、ぶかぶかの制服…などなどそのテーマも多彩。ここらへんは個人の嗜好によって好きなのはかなり変わってくると思う。私が特に好きなのは「昔買った水着」と「見えるようになったこと」あたり。水着と畳にはやられました。後者は森薫の貴重な現代もの。

 またこの作品集を読んでて感じたのは本当に上品だなってことで。これだけ押し付けがましくて強烈なパワーなのに、上品なフェティシズム。これは最近BL系出身の作家にも感じることだけど、森薫は他と隔絶してると思う。もはや気品が漂っちゃってるあたりがすごい。女性ゆえなのかとも思ったけれど、岡本倫あたりを考えてもそれだけではないんだろう。変だけど、やっぱりすごい人だ。

 サイン会ペーパーやらイラストやらも読んでて楽しいです。正直コルセットや暖炉なんか微塵も興味はないんですよ。でもこれだけ愛に溢れてれば、魅力的に見えてきて困ったもの。本当に“好きこそものの上手なれ”を地でいく人だなぁと。またペーパーの後書きネタは爆笑しました。まあぶっちゃけこの作品集も後書きの方が…っていうのは多分嘘。

 ということで森薫の魅力を存分に堪能させてもらいました。森薫好きなら買って損はないです。短編以外もおもしろいので迷ってる方はぜひぜひ。
 後シャーリーの新しい短編が収録されてないってことは2巻が出るってことですよね?期待して良いんですよね森先生? 楽しみに待たせて頂きます!

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[投稿:2012-02-28 23:57:03] [修正:2012-02-29 23:53:39] [このレビューのURL]

6点 WE3

 グラント・モリソンといえば頭がおかしいという話をよく聞く方。宇宙人に誘拐されたとか、自身のコミックの売り上げを上げるためにファンに同じ時刻にオナニーをさせようとするとか、魔術師としてムーアと張り合うとか、色々ネタにされてます。実はアーカム・アサイラムをまだ読んでない私はこれがモリソン初体験。

 WE3はDCのヴァーティゴという作家性の強い作品を中心に扱う大人向けのレーベルから刊行された。
 生物兵器に改造され、さらには廃棄処分にされそうになった三匹の動物達の逃亡劇。彼らの友情、そして悲哀が描かれていく。

 タイトルが似ているのと3匹の動物達の話ということで、どうしても比べたくなるのが手塚治虫のワンダースリーなのだけれども。まあ多分偶然の一致だとは思う。基本的に全然違う話だし。
 ただワンダースリーを読んだ者としては、大森望さんの帯にある“もうひとつのW3”という言葉にはなかなかぐっと来るものがあるなぁ、と。そして読んだことのない人にとっては何のことやらだろうなぁ、と。気になった方はW3の方もおもしろいので読んでみたら良いかと。

 モリソン自身も後書きで語っているように、ストーリー自体はものすごくシンプルで分かりやすい。ただ安易にお涙頂戴に走らないモリソンの演出はすごく好みだった。明らかに感傷的なお話なのに硬派な雰囲気。下手な作家だったらかつての飼い主のエピソードなんか入れそうなものだけど、そういう余計なものは一切ない。
 もしかすると人によってはあっさりすぎると思うかもしれない。でもそこが良いのだ。削ぎ落とされたからこそ生まれるものというのは確実にあって、だからこそWE3の勇気や友情、悲哀というものが心に沁みる。

 結末も良かったなぁ。全体的にWE3に出てくる存在って色々矛盾してると思うわけです。動物達を残酷な生物兵器にしちゃった博士なのに誰よりもその動物達を愛しちゃってるとか。人が死なないために作られた生物兵器が人殺しまくりだとか。イイイヌ、ヒト、タスケル、なんて言いながら人殺しまくりのイヌとか。動物達のほのぼのとした会話に心が動いた次のページではやっぱり人が死にまくりとか。善人と思われる人が間違ったことをしちゃったり。生物兵器を利用してきた人が見せる優しさだったり。
 そんな善悪が混沌としている世界で、3匹が間違いなく勝ち取ったもの。簡潔ながらもそれがラストにはぎゅっと詰まってたように思う。正直ほろっと来ました。

 クワイトリーの緻密なアート、そしてモリソンの大胆な画面構成というのも見応えがあった。導入部の静かな緊迫感や、また弾丸が体を貫く時の3Dを思わせる演出には思わず息を呑む。モリソンが超自画自賛してた程かどうかは知らないが。

 ヒーローものでもないし、ちょっとアメコミを読んでみたいなという方にもおすすめしたい良作です。ただ文法的に漫画により近いのはキック・アスかもしれない。
 けっこうえぐいのに動物愛がしっかり感じられるあたりもおもしろい。3号(ウサギ)のウンコ爆弾には思わず胸がときめきました。やっぱりボッコ隊長といい自分はウサギ派ですね。

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[投稿:2012-02-18 13:22:13] [修正:2012-02-18 13:22:13] [このレビューのURL]

少しSFチックな短編集。話の展開や趣向に良くも悪くも鬼頭莫宏らしさ全開である。鬼頭先生以外でも描けそうな残暑よりこちらの方が私は好きだった。

恐らく作品全体のテーマは「愛の形」だと思う。
ただしそこはこの作者ということで、大概の愛はとんでもなく歪んでしまっている。一話目はその典型だろう。どんな思考回路でこんな愛し方になるんだよ!って発想が興味深かった。でも愛する気持ち自体はまっすぐなので登場人物を憎めないのがまたおもしろい。そしてひどく切ない。
純愛の話もあるにはあるが、鬼頭莫宏というフィルターを通しちゃうとこういうふうになっちゃうのか…

愛を描く漫画ってのは色々ある。良質なラブコメは本当にたくさんある。哲学的な愛の伝道師、幸村誠の作品もいい。
でも殻都市の夢は鬼頭莫宏にしか描けない愛の話だろう。気に入るかは分からないが、ぜひ一度目を通して欲しい。こんなのばかりあっても困るんだけどね。

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[投稿:2011-07-17 00:31:44] [修正:2012-01-22 22:24:38] [このレビューのURL]

以前のレビューでは現実的なサッカー漫画と書いていたけど、今考えると全く現実的ではないなw

この漫画は監督がまだ試合があるにも関わらず「おれの仕事は終わった」なんて言っちゃう位精神力勝負とめちゃくちゃな戦術の熱いサッカーが特徴なのでそういう意味では完成度は低い。
最終的には主人公以外がその引き立て役になってしまったのも残念だったしね。
10人+特別な1人のサッカーはあまり楽しいとはいえない。
ただ個性的なキャラと熱い展開は魅力的。
しかし、何よりもすばらしかったのはW杯編でのその空気感の描写。
監督の「弱き国、日本は金の力でワールドカップに初出場した。世界中からそう言われることになるんだぞ!」このセリフが全て。痺れた。

色々突っ込みたいことはあるんだけど、素直に熱い展開を楽しめる人ならおすすめ。
特にW編は恐らくその当時でしか出せない雰囲気が最高だったのでこれのために読んでみるのもありです。

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[投稿:2007-09-13 23:34:02] [修正:2012-01-22 22:23:45] [このレビューのURL]

6点 谷仮面

もう最高!!!としか言いようがないくらい大好き。
思春期の男の子の愛は最強なんですね、分かります。

あまりにも粗は多すぎるけれどもそんなことはどうでもいいんですよ。
そんな作品。
欠点といえば、やはり絵ですね。
この頃から勢いのある濃い絵は健在だけど、あまりにもスピード感がなさすぎるのが問題。
ただ、完全版での新たに追加された島さんの絵があまりかわいくなかったので良かったのかもしれない。

ハチワンが盛り下がってきたように思えるけど、ヨクサルさんはやはり谷仮面やエアマスターのような何にも考えずに読める物語が向いてる気がする。
将棋が好きなのは分かりますが、次はスポーツものとか青春ものでお願いしたいな。

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[投稿:2011-07-09 17:22:09] [修正:2012-01-22 22:22:59] [このレビューのURL]

ドラマがヒットしたのでほどんどの人が読んだことはなくても何となく設定くらいは知っているでしょう。

恐らく作者の作品の中でも一番登場人物が多い。主人公のヤンクミと白金学園の生徒と教師達、黒田一家の面々、その他もろもろ…。
そんなたくさんのキャラがいるにも関わらずごくせんにはモブキャラや記号的なキャラクターが殆どいない。それだけでも森本梢子の人物描写の細やかさが分かるし、何よりもこいつらが揃って魅力的なんだ!

そんな好感度の高いキャラが織り成すどこか気の抜けたコメディ。おもしろくないわけがない。
基本的には何にも考えずに笑わせてくれる作品。しかしたまにあるシリアスな問題や恋愛、青春ものなどのアクセントがうまく効いているから15巻と比較的長い話がだれずに続いたのだろう。
基本的にワンパなわけだが、ドラエモンとかその手の類型であって、安定感のあるおもしろさがあると思う。

森本梢子の長編は全てドラマ化されてるし、それなりに売れてるはずなのに何故か漫画読みの間ではあまり話を聞かない印象。ドラマが微妙だからかな?
間違いなく力のある作家さんだと思うのだけど。興味はあるけど何となく読んでないなんて人がいたらもったいないのでぜひおすすめします。

*ちなみにいわゆる仁義あるヤクザが登場する作品なので、そんな不謹慎な漫画は認めないなんてまじめな人は読まないように。

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[投稿:2011-08-31 01:52:37] [修正:2012-01-22 22:20:58] [このレビューのURL]

「ごくせん」で有名な森本梢子の警察コメディ。

警察犬並みの嗅覚を持つ新人刑事、花森一子(通称わんこ)がその能力を活かして捜査1課の仲間と共に事件を解決していくというのが大まかなストーリー。

笑える。これに尽きる。
警察、それも殺人事件を扱う捜査1課でコメディやっちゃうなんて不謹慎かもしれないけど笑っちゃうよ。だっておもしろいんだもん。
わんこのあまりの天然っぷりとか刑事らしくないゴスロリファッションはもちろん特筆すべき所だけど、その真価は捜査1課の個性的な面々との絡み。何人もの登場人物が絡み合って笑いをとっていくさまはまさに喜劇のよう。これほど良質な喜劇を読んだのはぶっせん以来な気がする。

もはや森本梢子は西森博之や佐々木倫子に並びうるコメディ作家になったのかもしれない。それほど独自のスタイルは完成しているし、何よりおもしろい。

何にも考えずに読みましょう。こんな作品も読まないと疲れちゃうよね。ちょっとした時間にパラパラめくって楽しめる作品です。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2011-08-31 01:26:30] [修正:2012-01-22 22:20:02] [このレビューのURL]

まさかマルドゥック・スクランブルが今さらコミカライズされるとは! それもうら若い新人女性作家に描かせるとは!…まあ間違いなく別マガ編集部は変態の集まりということで笑。

精神的にも肉体的にも虐げられ、文字通り殻の中にこもり続けていた少女バロット。
バロットは万能型ネズミのウフコックに出会うことで初めて殻を破り、感じ、傷つき、恋をし、戦い、進化する。
マルドゥック・スクランブルはバロットの成長譚だ。

原作小説は日本SF大賞を受賞しており、00年代を代表するSF小説の一つ。
ジャンルとしてはサイバーパンクSFに分類されるのかな。コミカライズということで、攻殻機動隊やBLAME!と比べてしまう人も多いでしょうがご安心を。おもしろい部分が全く違うので。
「レオン」をモデルにしただけあって、保護者に守られつつ成長する少女とその保護者との微妙な関係性が楽しめる作品。ボイルドの「徘徊者」もやはりレオンが着想の元だろうな。

原作はそのハードボイルドさが大きな魅力だったのに対し、大今良時はうまく少女の成長譚に的を絞ってコミカライズしている。
原作の改変もうまい。大筋は残しつつも畜産業者やフェイスマン辺りの説明はスパっとまとめ、独自の変更を加えていく。カジノ編に至った今となってはもはや原作と別物の大今良時版スクランブルとも言えるかもしれない。
バロットの才能やボイルドについてはもうちょい説明した方が分かりやすいとは思う。全てを知覚するバロットとウフコックへの執着以外の感覚を喪失したボイルドの対比なんかも。
絵は独自の色がありつつも、まだまだ粗い。伸びしろは大いに感じるし、オリジナリティと工夫が随所に見られて楽しめます。

畜産業者編までの出来は非常に良かった。しかし原作で傑作と名高いカジノ編はかなり見劣りするのが否めない。ここは漫画化が難しいだろうし、そもそも漫画で見る必要性を感じない話なので…と言えばそれまでだけど。

ベル・ウィングは私のお気に入りなのにこちらは微妙だったなぁ。これじゃルーレットはただのゲームに過ぎないし、ベルは何となくかっこいいだけのおばさんではないか。
原作でのルーレットはまさに”運命の輪”。バロットの「右に、回してください」という台詞は、今まで周りに流されっぱなしだった彼女が運命を自らの手で掴みとると決意したことを示し、その台詞はベルをも「右回りの人生」に回帰させる。だからこそベルは右に回し、バロットは「あの人みたいになりたい」と言うのだ。大今良時は最後だけ抜き出したわけだけど、それでは全く意味が通らないのでどうせなら全面的に作り直した方が良かったと思う。
「左回り」「右回り」と彼女の女としてのあり方を示したバロットとのやり取りは原作屈指の名シーンです。ここだけでも原作を見る価値はあるはず。てか”運命をねじ伏せる”はマルドゥック全体のテーマで、ボイルドとフェイスマンの問答を見る感じでは漫画版でもそれは同様だと感じていたんだけど違うのか?

現在はアシュレイと対決している所。持ち直しを期待します。序盤でのあの虚無的なバロットが最終回でどんな女性になっているのか、楽しみですね。

原作未読の方はもちろん、既読でもまた違った方向性で楽しめる大今良時版マルドゥック・スクランブル、おすすめです。かなり読みやすくなってるので敷居は確実に下がりました。
興味を持ったら原作の方も併せてどうぞ。こちらは傑作。

どちらかと言えばマルドゥック・ヴェロシティの方のコミカライズを見てみたいので、続いてこちらも期待。ついでにイースターのカオス理論に基づいたまだら染めのカラー絵も期待。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-09-08 01:20:49] [修正:2012-01-22 22:18:48] [このレビューのURL]