「とろっち」さんのページ

総レビュー数: 300レビュー(全て表示) 最終投稿: 2009年10月09日

子供の頃、宇宙に憧れ、宇宙飛行士になることや宇宙に行くことを夢見た人ってとても多いと思います。
でも現実の厳しさを知って諦めたり、興味が他の事に移ったりして、その夢を手放す人がほとんど。
そんな中で夢を手放さなかった人だけが夢を掴むことができるんだなあ、というお話。
ただしずっと夢を手放さなかったのは弟の方ですが。

絵は読みやすくて上手く、ギャグや小ネタが満載で、シリアスなところはきっちり締めています。
最初は「度胸星」をハロルド作石っぽく(似てません?)調理し直した作品だと思ってました。
全体のバランスが非常に良く、いろいろな要素が高次元でまとまった作品。

でもやっぱりこの作品が読む人を引き付けるのは、夢に向かう熱いエネルギーを感じること。
自分が主人公と同年代なので余計にそう感じるのかもしれないですが、
大人になってから夢を追いかけるのってものすごいエネルギーを使うんですよね。
さらに、人生を棒に振るという強い不安や焦燥感とも常に戦っていかなければならないです。
でもムッタはそれらに負けそうになりながらも屈せず、突き進んで行きます。 ムッタカッコイイなー。

そしてもう1つ。 何と言ってもポイントは「兄弟愛」。
クサさやいやらしさを全く感じさせず、すごく自然な雰囲気で描写されています。
この兄弟(特に日々人)にとって、宇宙で会うことは「夢」ではなく「約束」だったというのが良いですね。

その他の登場人物もみんな一癖も二癖もあって、魅力的で良いです。
読んでいて上手いと思わせられるのは、そんな魅力的なキャラたちがさらにムッタの魅力に
徐々に引き付けられていく描き方。
やっさんからのメールの場面は心が熱くなりましたよ、本当に。

「宇宙」で「兄弟」。 良い作品だなあと心から思えました。
夢とロマンとハートフルがたっぷり詰まった作品。 今後も読み続けていきたい良作です。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-02-22 01:07:02] [修正:2011-02-22 01:09:47] [このレビューのURL]

Don't trust over thirty. そのまま直訳すれば、「30歳以上を信用するな!」

30歳を超えた漫画家が、ふとしたことから自分が年齢的に十分に大人であることに気付いてしまい、
「大人」という言葉が重くのしかかってくる中で、どうにも「大人」になりきれない自分の弱さを
ダメな父親のせいにする…。 そんな私小説的な臭いを感じる表題作で幕を開ける短編集。

大昔は10代半ばで元服して大人の仲間入りをして、いつの間にか成人が20歳になって、
現在では(法律上はさて置き)実際には20歳だとまだ立派な大人として扱われるかは微妙で、
どんどん大人になる年齢が後退していく世の中。
どこまでが子供なのか、どこからが大人なのか。
誰がいつ決めるのか、境目はどこにあるのか。
「今までは大人に向かって言う側だった。 それが、子供に向かって言う側になるだけの話よ」
そんな岐路に立たされた人々が青臭くもがく話、ならまだ良いのですが、そこはやっぱり OVER 30。
そうだったりそうでなかったり、一筋縄ではいかないんですよね。

そういうような青臭い短編がいくつかあって、巻末に来るのは表題作の続編に当たる位置付けの
「SON HAS DIED, FATHER CAN BE BORN」。
この短編は実に良い感じ。
「親なんて所詮、生物学上の親でしかありえない」はずだったのに、あれだけ嫌いだった父親を思い返し
「子供がいることで初めて親になれる」のかもしれないと思い始める主人公。
そしてふと気が付くと「立派な大人」の呪縛は消え去り、肩の荷が軽くなっている。
言葉で書くと何か陳腐なのが残念ですが、この構成も構図もなかなか感慨深いです。
あと短編中にもう一つ別のエピソードがありまして、そっちも好きです。 でもこれは男のエゴかな。

面白いかどうかはさておき、何かが後に残る、ような気がする一冊。
とりあえず何度も読み返したくなります。
30を超えてそんなことで悩むなよ、という方もたくさんいるでしょうが、たまにはこういうのも良いかも。
「良い大人になってね」なんて言葉、AROUND 30 としては耳が痛いなあ。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-02-16 01:06:20] [修正:2011-02-16 01:16:12] [このレビューのURL]

冬目景らしさに満ち溢れた作品。

全体に漂う薄暗くてもやのかかったような特有の雰囲気はこの作者にしか出せないでしょう。
ただ、何か起こりそうだったり、テーマがすごく深そうだったり、よく練られてそうだったりしながら、
結局はそうでもなかったりします。
作者にしては珍しく完結した作品ですが、終わり方については作者の思うとおりに果たしてできたのか。
ちゃんと終わることにエネルギーを注ぐあまり、事前の構想どおり終われたのか甚だ疑問ではあります。

そういう意味でとても作者らしい作品だと思います。
もどかしさ満載と言うか、痒い所に手が届きそうで届かない感じと言うか。
作者の良さだけを知りたいなら他の作品がありますが、良さも悪さも堪能したいならこの作品がお薦め。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-02-16 00:55:51] [修正:2011-02-16 00:59:56] [このレビューのURL]

「天才を描く」曽田正人の作品の中でも、すばるはまた毛色が違う感じ。
この作品は正に、圧倒的なすばるの才能だけで成立しているように思えます。

そもそもすばるというキャラは主人公向きではないんですよね。
人物的にはあまり魅力的とは言い難いです。
だからこそ、踊っているときのすばるの狂気を孕んだ魅力、それが見事なまでに際立ちます。
そしてその天賦の才能を余すところなく描写している作者の卓越した表現力。
絵が上手いとは素直に言い難いですが、これだけの凄みを見せ付けられると、ラフ画のように飛び交う
線の一本一本にも技巧に勝る何か強い力が込められていると思わざるを得ません。

ただ、前作「昴」と今作「MOON」とでは全く違った印象の作品になっているように感じました。

前作でのすばるは、何と言うか、非常に「危うい」存在。
読んでいて、ナイフで鉛筆を極限まで削るような感覚。
削るほどにどんどん尖っていきます。 折れやすさと引き換えに。
いつかどこかで折れそうな研ぎ澄まされた危うさを内に秘め、だからこそすばるはあんなにも輝きます。

対して今作でのすばるは、天才としてのエキセントリックさを前面に押し出してはいますが、
根底にあるのは、すばる自身の「力強さ」。
自分を強く持ち、どこまでも自己を強く表現していて、それが輝きにつながっています。

すばるが自分で語っていたように、「バレエに対する畏れを失ったこと」が印象の差異の一因に
なっているのかもしれません。
前作でのすばるは、孤高。 高みを目指そうとすればするほど孤独になっていく宿命。
今作でのすばるにそれが感じられないのは、ニコというパートナーを手に入れたからか。
それだけではないような気がするんだけどなあ。
願わくば、前作「昴」と今作「MOON」との間の時間も読んでみたいところではあります。
まさかアレックスとのロマンスだけでそれほど変わってしまったわけでもあるまいに。


考えてみると、わざわざタイトルを変更したことにも大きな意味が込められているのでしょう。
他の星よりも一際明るく輝く「昴」から、さらにもっと明るく、もっと妖しく、もっと美しく輝く「月」へ。
複数の星が寄り添うようにして輝く「昴」から、夜空に圧倒的に君臨する「月」へ。
それでも人々を明るく照らす「太陽」にはなり得ないところがすばるらしいのかもしれないですが。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-02-10 00:48:37] [修正:2011-02-10 00:51:08] [このレビューのURL]

4点 屍姫

バトルとホラーが良い具合で融合した勢いのある作品、でした。 今は五里霧中。

最初のうちはかなり雰囲気も良く単純明快な割に細部が凝っていて、面白かったですよ。
ただ、ストーリー上の大きな分岐点を越えたあたりから、話は盛り上がっているはずなのに
読んでるこちらはどんどん盛り下がっていく不思議な感覚。
バトル漫画なのに強さの基準がさっぱり分からないのは結構致命傷かと思われます。
登場人物をたくさん増やしながらもうまく制御できていないため、誰が誰やらよく分からないのも残念。

「屍姫」の設定の根幹である、「人間<屍」の強さの原則と、「未練ある女性のみ(=姫)」、というのは
まあそんなもんかと思って読めたのですが、むしろこの作品の一番のポイントとも言える
「女の子たちがわざわざ学校の制服で戦う」意味が全くわからないです。
なんて真面目にツッコミを入れても自分が悲しくなるだけなので止めときます。
でも超ミニスカートでどんなアングルでハイキックをしてもオーバーヘッドキックをしても、
どこまでも頑なに決してパンツを見せない作者の信念は凄い。
気合いを入れる箇所が間違っている気がしますが凄い。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-01-21 00:56:22] [修正:2011-01-21 00:58:01] [このレビューのURL]

6点 SARU

猿です。

それはハルマンタと呼ばれ、トラロックと呼ばれ、トゥニアクルクと呼ばれ、ドゥナエー、内臓を晒す者、
ハヌマーン、トート、ヘルメス、そして斉天大聖孫悟空と呼ばれる存在。
世界のあらゆる秩序を左右するほどの力を持った存在。
世界を滅ぼす力を持った存在。
恐怖の大王。 アンゴルモア。 黒魔術。 コンキスタドール。

形而上的な存在に対するこの作者の考察と描写力は相変わらず図抜けています。
その迫力におののき、その表現力に感服し、その雰囲気に酔いしれる作品。

一方でストーリー的には詰めが甘い印象も受けました。
壮大なスケール感と引き込まれるような序盤の展開は素晴らしかったんですけどね。
何なんだろう、不完全燃焼な感じです。
2巻できれいに終わらせるために無理矢理まとめすぎたのかもしれません。
もっと長く自由に描けていたら大傑作になっていた可能性ありです。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-01-21 00:51:19] [修正:2011-01-21 00:51:19] [このレビューのURL]

サバイバル・ラブ・サスペンス。

この作者の作品全般は以前から自分の中で「大人のしるし」とも言えるような、大人向けのイメージ。
それをこれだけ面白く読めたということは、 自分も大人になったな、という気がします。 当たり前か。

ダメ女に魅せられ、振り回されて、少しずつ(ただし自分の意志で)人生が狂っていく主人公。
そんな彼が下す決断は、共感できる部分とできない部分とのギリギリのところを常にうまく突いてきて、
先の読めないジェットコースター的な展開に目が離せなくなります。
ほのぼのとした暖かみのある絵で、こんなサバサバしたサスペンスをやられてしまったという
ギャップが、良い方に転がっている作品です。

平穏、無難。 それと相反する苦難、波乱。 生きているという実感。
人は皆そういうものを心の奥底で望んでいるのか、とも思えてしまうほどに研ぎ澄まされた愛憎劇。

「君に野心と、本気があるならばな。」

本気のしるし。
 

ナイスレビュー: 1

[投稿:2011-01-13 01:18:10] [修正:2011-01-13 01:19:08] [このレビューのURL]

8点 トリコ

この作品、最初に読んだときには妙な既視感がありました。
よくよく考えてみると、「HUNTER×HUNTERの美食ハンターの話を広げただけじゃん」と思ったり。

その他、バトル重視の展開に走りがちだったり、捕食レベルのインフレが甚だしかったり、
やっぱり品がなかったり、モンスターデザインがお世辞にも格好良いとは言えなかったりもします。

が、それらを補って余りあるほどに楽しい展開も待ち受けています。
そもそも話の目的が「敵を倒す」ことではなく、「人生のフルコースを完成させる」こと。
未知の食材を探しに秘境を訪れたりとか、伝説のスープを作ろうと試行錯誤したりとか、
冒険心、宝探し、そういう欲求をくすぐるようなことがものすごく丁寧に描かれています。
そしてバトル一辺倒にならないための「料理人」小松の存在感。 すごく良いです。

「夢と希望に溢れた世界」なんて今や死語もいい所ですが、この作品にはまだまだそれがありそうです。
読むたびにドキドキワクワク感を与えてくれる、数少ない良質の少年漫画。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-12-28 01:03:19] [修正:2010-12-28 01:25:42] [このレビューのURL]

7点

山岳でのレスキュー漫画。
でも、危なかったけど助かってよかったね、というのとは違います。
むしろ手遅れだったり、救助中に力尽きてしまうことの方が多いかもしれません。

ただし、山って怖いよね、というのがこの作品のテーマではないです。
「悲しい事故が起こるのは山の半分、楽しいことがあるのも山の半分」
悲喜こもごも。 困難があり、それを克服して各々の目標を達成したときの計り知れない喜びもあり。
素人登山家にもプロのクライマーにもその喜びは等しく訪れます。 そして困難も。
結局のところ、山の魅力や怖さと言うよりも、山に関わってしまった人間達のドラマを描いた作品です。

必要なのは、ただ単に進むだけではなく、立ち止まる勇気、退く勇気、助けを求める勇気。

遭難した場合、生きるか死ぬかは紙一重。 たった数センチの差が生死を分けることも珍しくありません。
すべては山のご機嫌次第なのですが、だからと言って誰でも生きるために死力を尽くすのは当たり前。
負傷した痛みと戦い、凍えるような寒さと戦い、夜の暗闇と戦い、孤独と戦い…。
それがわかるからこそ、三歩は助かった人にも助からなかった人にも等しくこう声をかけるのでしょう。
「良く頑張ったね」
 

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-12-17 01:31:56] [修正:2010-12-17 01:53:44] [このレビューのURL]

自分の中の「面白い」という感覚が、世間が欲している「面白い」と一致するならば、
その才能は天才と呼ばれてもおかしくないでしょう。
頭の中にあるその才能を世に広めるには、「面白い」という漠然としたものを明確にし、
アウトプット(プロット、仕様書等)して具体化していく作業が必要になります。

しかし、話はそんなに簡単なものではないです。
今やゲームは日本を代表する一大産業。
大勢の大人が、何ヶ月、何年という長い時間をかけて作る、「商品」としてのゲーム。
他人との、他社との駆け引き、政治力、予算、締切、規制、流行、さまざまな要因が行く手を阻みます。
そしてそれらに振り回されているうちに、何が「面白い」のかわからなくなってしまう…。

「なぜ 作りたいものが作れない 作りたいから作る ただそれだけなのに」
「自分が感動してないモンを売って 他人の気持ちを動かせるほど オレは自信家じゃない」

いや、正直、前作「東京トイボックス」のときよりずっと面白くなっています。
やっていることは同じなんですが、全体の大きな流れ、うねりの中でストーリーが展開され、
世界観が広がり、より一層深みを増した心理描写。
この作品はどちらかというと、「生みの苦しみ」 をクローズアップしているように感じられます。
それぞれが弱さをさらけ出しているからこその、こんなにも人間臭くて魅力的なドラマ。

実際のゲーム業界の裏側という「現実」を描いているのかは正直わかりませんが、
個人的にはそこはどうでもいいと思っています。
読む人に説得力を与え、作品世界に引き込んでくれるような設定描写が巧みだからこそ、
「作品としてのリアリティ」が感じられる、熱い作品です。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2010-10-22 00:36:39] [修正:2010-10-22 00:37:54] [このレビューのURL]